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国際経済環境の変化と日本経済
―論点整理―

English

2024年2月1日
法眼吉彦*1
伊藤洋二郎*2
金井健司*3
來住直哉*4

要旨

グローバル化の進展がわが国経済・物価に与えた影響について、この四半世紀を振り返ると、その特徴は以下の5つにまとめられる。第一に、わが国貿易部門の生産性は、米欧と比べると、安価な輸入品の活用等による生産プロセスの効率性改善により伸びてきた面が相対的に大きい。第二に、海外との競争激化などから、わが国貿易部門の競争力が海外対比で低下したことは、わが国の交易条件の悪化や実質実効為替レートの円安化の一因になったとみられる。第三に、雇用・賃金面では、製造業から非製造業に雇用のシフトが生じたのと同時に、貿易部門と非貿易部門の賃金格差が拡大した。第四に、グローバル化の進展は、過去25年間の大半の期間において、日本の消費者物価を継続的に下押しする要因として働いてきた。第五に、海外との競争激化もあって、価格マークアップが縮小する中で、わが国企業は、賃金マークダウンの拡大により収益を確保してきた。

先行きについては、グローバル化が後退するリスクや、地政学リスクの高まりの影響を巡る議論が活発化している。こうした要因がわが国の経済・物価に与える影響については、上記で整理した5つの特徴が、どのように変容するか(あるいはしないか)を丁寧に見極めながら、知見を深めていく必要がある。

JEL 分類番号
F10、F20、F30、F40、F60、F61、F62
キーワード
グローバル化、生産性、FDI、交易条件、為替、労働市場、賃金、インフレ、価格マークアップ、賃金マークダウン

本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局による第10回共催コンファレンス「国際経済環境の変化と日本経済」(2023年11月13日開催)における導入論文を加筆・修正したものである。コンファレンスでは、伊藤元重氏、植田健一氏、小川英治氏、加納隆氏、河野龍太郎氏、小林慶一郎氏、作間逸雄氏、渡辺努氏より有益なコメントを頂いた。また、本稿の作成にあたっては、日本銀行スタッフから有益なコメントを頂いたほか、本稿の作成において加来和佳子氏に助力を頂いた。また、経済産業省「企業活動基本調査」の調査票情報の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : yoshihiko.hougen@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : youjirou.itou@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : kenji.kanai@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 E-mail : naoya.kishi@boj.or.jp

日本銀行から

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