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わが国におけるフルタイム労働者の異質性と賃金上昇
-ミクロデータによる実証分析-

English

2023年6月19日
黒住卓司*1
杉岡優*2
伊達大樹*3
中澤崇*4

要旨

本稿では、わが国におけるフルタイム労働者の賃金上昇率の変動要因について、『賃金構造基本統計調査』等のミクロデータを用いて労働者間の賃金構造の異質性を勘案して分析する。具体的には、まず、労働者と所属企業の様々な属性をもとに推定した有限混合モデルを用いて、フルタイム労働者を賃金構造の異なる2つのクラスに区分する。これら2つのクラスは、先行研究で指摘されてきた、長期雇用慣行のもと企業内で労働配置が行われ年功序列型の給与体系を持つ「内部労働市場」と、主に、企業間をまたいで雇用が移動し、市場の需給によって賃金が決定される「外部労働市場」に相当することが確認された。次に、各フルタイム労働者の賃金上昇率への経済要因からの影響を検証する。フルタイム労働者の内部労働市場では、近年は業種・企業規模別の労働需給やマクロの需給ギャップからの影響がみられず、潜在成長率の上昇による押し上げ効果が確認された。一方、フルタイム労働者の外部労働市場と労働市場全体では、近年においても需給指標の改善による押し上げ効果が確認された。

JEL 分類番号
E24、J30、J40

キーワード
フルタイム労働者、賃金構造の異質性、内部/外部労働市場

本稿は、2022年11月25日開催の日本銀行の「コロナ禍における物価動向を巡る諸問題」に関するワークショップ・第3回「わが国の賃金形成メカニズム」(模様は、日本銀行企画局・調査統計局(2022)を参照)の第2セッションで報告された内容をもとにしている。本稿の作成にあたり、指定討論者の渡辺努氏のほか、青木浩介氏、川口大司氏、神林龍氏、近藤絢子氏、塩路悦朗氏、代田豊一郎氏、新谷元嗣氏、中島上智氏、星岳雄氏、山本勲氏、同ワークショップや30th SNDE Annual Symposiumの参加者、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、厚生労働省から『賃金構造基本統計調査』の、総務省から『事業所統計調査』『事業所名簿整備調査』『事業所・企業統計調査』『経済センサス-基礎調査』の調査票情報の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局(現・長崎支店) E-mail : takushi.kurozumi@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : yuu.sugioka@boj.or.jp
  3. *3日本銀行企画局(現・金融機構局) E-mail : daiki.date@boj.or.jp
  4. *4日本銀行企画局 E-mail : takashi.nakazawa@boj.or.jp

日本銀行から

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