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水害が実体経済に与える影響に関する定量分析

2022年4月25日
芦沢拓郎*1
須藤直*2
山本弘樹*3

要旨

近年、気候変動の大規模化に伴う自然災害の発生が、経済活動に与える影響に注目が集まっている。自然災害は、企業や家計が保有する資産や公的なインフラストラクチャーに被害を与えるが(直接効果)、その結果、生産要素の投入量の変化などを通じて、その後の経済活動にも二次的な影響を与える(間接効果)。もっとも、間接効果の計測については、多くの実証分析の積み重ねがあるものの、規模や持続性だけではなく、符号についてさえもコンセンサスが確立されていない。本稿では、県民経済計算と水害統計を用いて、過去、わが国において発生した水害が、実体経済に与えた間接効果を推計した。本稿の主な分析結果は、次の3点である。第1に、水害発生は、発生地点が所在する都道府県のGDPに対して押し下げに作用するが、その影響は発生年の翌年以降には統計的な有意性が失われるなど、長期間は持続しない可能性がある。第2に、水害発生は、産業間で異なる影響を与える。産業別GDP別に間接効果をみると、製造業や卸売・小売業などの業種では、水害被害が主として押し下げの影響を及ぼす一方、建設業では主として正の影響を及ぼしていることが確認される。第3に、水害発生の間接効果の大きさは、被害が生じる資産・施設・設備ごとに異なる。家計や事業所の被害と比べて、道路等の公共土木施設の被害や電力設備等の公益事業等の被害は、相対的に大きくGDPを押し下げる傾向があり、これは、水害被害の波及効果における公的インフラストラクチャーの重要性を示唆していると考えられる。

JEL分類番号
C21, C23, O44, Q54
キーワード
気候変動、自然災害、物理的リスク、水害

本稿の分析に際しては、国土交通省水管理・国土保全局河川計画課より水害統計を提供頂いた。また、本稿の作成に当たり、国土交通省、澤田康幸氏、清水千弘氏、中島上智氏、武藤祥郎氏、吉田二郎氏のほか、鈴木公一郎氏、中村康治氏、西崎健司氏、松村浩平氏、武藤一郎氏をはじめとする多くの日本銀行スタッフから有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは筆者らに帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行金融機構局 E-mail : takurou.ashizawa@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融機構局 E-mail : nao.sudou@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融機構局 E-mail : hiroki.yamamoto@boj.or.jp

日本銀行から

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