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金融政策と所得・消費のばらつき ―日本のデータを用いた検証―

2017年8月1日
乾真之*1
須藤直*2
山田知明*3

要旨

近年、金融政策が家計間の所得・消費のばらつきに与える影響について、注目が集まっている。本稿では、家計調査の個票データを用いて、1981年から2008年までの所得・消費のばらつきの時系列を構築したうえで、金融政策ショックがこれらの変数に対して及ぼす影響を推計し、波及経路を検証した。その結果、金融政策ショックとばらつきとの間に強固な関係性は検出できず、関係性が低いか、低下しているとの結論が得られた。具体的には、勤労者世帯間の所得のばらつきに限れば、2000年代に入るまで、金融緩和ショックは、所得のばらつきを有意に拡大することが確認されたものの、推計期間を直近まで伸ばした場合や全世帯間のばらつきを分析対象とした場合には、こうした有意性は確認できなかった。また、所得の反応が有意である時期であっても、消費のばらつきへの波及は限定的であった。動学的確率的一般均衡モデルを用いた理論分析や金融資産に関する個票データなどを用いて、ばらつきの反応とその変化の背景を検証すると、労働市場の柔軟性の高まりが中心的な役割を果たしている可能性があるとの結論が得られた。一方で、家計の保有する金融資産の分布が所得・消費のばらつきの反応に及ぼす影響は、限定的であるとの結果が得られた。

JEL分類番号:E3、E4、E5

キーワード:金融政策、所得のばらつき、消費のばらつき

本稿は、日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.17-E-3「Effects of Monetary Policy Shocks on Inequality in Japan」の日本語訳版である。本稿の作成に当たり、L. Gambacorta氏、一上響氏、黒住卓司氏、G. La Cava氏、清谷春樹氏、斎藤雅士氏、鈴木通雄氏、上田晃三氏、吉羽要直氏、国際決済銀行(BIS)、日本銀行、仏社会科学高等研究院のセミナー出席者、日本銀行/BISの多くのスタッフから有益なコメントを頂戴した。L. Krippner氏、上野陽一氏からは、潜在金利のデータ提供を受けた。また、総務省統計局から、「家計調査」の個票データの提供を、金融広報中央委員会から、「家計の金融行動に関する世論調査」の個票データの提供を受けた。須藤は、Central Bank Research Fellow-shipプログラムでBIS滞在時、本プロジェクトの一部を完成させた。山田は、科学研究費補助金基盤研究 [(C)17K03632]の助成を受けている。記して感謝したい。もちろん、あり得べき誤りは筆者らに属する。本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : masayuki.inui@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : nao.sudou@boj.or.jp
  3. *3明治大学商学部 E-mail : tyamada@meiji.ac.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
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