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物価・賃金予想と家計の支出行動―「勤労者短観」を用いた分析―

2016年3月28日
伊藤雄一郎*1
開発壮平*2

要旨

本稿では、「勤労者短観」の個票データを使い、勤労者の物価・賃金に関する予想を把握し、インフレ予想の上昇が消費に及ぼす影響について考察する。分析結果をみると、量的・質的金融緩和(QQE)導入後、賃金上昇を予想する勤労者層に広がりがみられており、賃金予想は全体として緩やかに高まっていることが確認された。また、QQE導入当初は、賃金予想の上昇幅がインフレ予想に比べて小さかったため、実質賃金予想が低下していたが、足もとでは改善がみられている。こうした物価・賃金予想の動向を踏まえて、インフレ予想と消費の関係を分析すると、QQE導入以降、実質金利の低下を通じた消費押上げ効果が、実質賃金予想の低下を通じた消費押下げ効果を上回っていること、すなわち、インフレ予想の上昇が消費の増加に寄与していることが示された。また、賃金予想の形成メカニズムを検証したところ、特に、賃金実感や勤め先の業績見通しの影響が大きいことが分かった。今後、賃金予想がさらに高まっていくためには、勤め先の業績改善への期待が形成されると共に、賃金が実績として上昇していくことが重要と考えられる。

キーワード
インフレ予想、賃金予想、カールソン・パーキン法、サーベイデータ、量的・質的金融緩和、日本
JEL分類番号
D12、D84、D91、E21、E52

本稿の作成過程では、日本銀行の多くのスタッフから有益なコメントを頂戴した。また、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブおよび連合総合生活開発研究所から、「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」の個票データの提供を受けた。記して感謝したい。もちろん、あり得べき誤りは筆者らに属する。また、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail:yuuichirou.itou@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail:souhei.kaihatsu@boj.or.jp

日本銀行から

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