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わが国の生産性を巡る論点

〜 2000年以降の生産性動向をどのように評価するか 〜

2009年12月
亀田制作*1

要旨

 本稿では、わが国の生産性について、(1)近年の動向とその背景、(2)概念上の論点、(3)計測上の論点に分けて整理した。それぞれのポイントは以下のとおり。

  1. (1)既存の実証研究の多くは、わが国の生産性上昇率が2000年以降に高まったことを指摘している。しかし、この間の景気変動の大きな振幅、とりわけ08年後半以降にみられた景気の急激な落ち込みを踏まえると、景気循環要因を除いてもなお生産性が加速したかどうかについては、データの蓄積を待って再評価することが適当である。生産性上昇の背景については、IT化やグローバル化の影響、企業リストラなど、論者によって見方が分かれている。また、近年の生産性上昇については、海外への所得流出等により、国内の経済主体がその「果実」を実感しにくい面が強かったことを指摘できる。
  2. (2)マクロレベルにおいて実質ベースの生産性は、一国の経済成長との関係上、極めて重要な概念である。一方、個々の産業・企業を横断的に評価する場合には、狭義の実質ベース生産性(名目ベース生産性を自らの生産物価格で実質化した指標)だけを判断基準とすることは、必ずしも適当ではない。マクロ所得形成や経済厚生に対する貢献度を測るという観点に立てば、各産業・企業の「名目ベース生産性を一般物価水準で実質化した指標」や、産業別の需要構造の違いなども踏まえた多角的な評価がなされるべきである。
  3. (3)TFP、あるいはその算出に必要な資本ストックの計測には、多くの困難が伴う。また、非製造業あるいはサービス分野の生産性に関しても、計測誤差の問題は大きい。こうした分野では、計測手法の精緻化や基礎統計の整備が望まれるが、その一方で実務的には、計測誤差が相対的に小さいと考えられる労働生産性や名目ベース生産性(厳密にはそれを一般物価水準で実質化した指標)も合わせてみることが適当と考えられる。

キーワード:
労働生産性、TFP、経済成長、景気循環、計測誤差

 本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局による第三回コンファレンス「2000年代のわが国生産性動向 — 計測・背景・含意 —」(2009年11月26、27日開催)の導入セッションにおける報告論文である。

 本稿中の事実整理と実証研究サーベイ部分は、調査統計局・経済分析担当スタッフ(齋藤雅士、小川佳也、長田充弘、高川泉)と共同で行ったリサーチに基づいている。また、本稿の作成に当たっては、塩路悦郎先生(一橋大学)、福田慎一先生(東京大学)、宮川努先生(学習院大学)、森川正之氏(経済産業研究所)並びに、一上響、粕谷宗久、川本卓司、関根敏隆、中村康治、肥後雅博、笛木琢冶、福永一郎、前田栄治、西村清彦、門間一夫をはじめとする日本銀行の各氏から有益なコメントを頂いた。この場を借りて感謝したい。もっとも、残された誤りは全て筆者に帰する。本稿中の意見・解釈に当たる部分は筆者個人のものであり、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を表すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局(E-mail: seisaku.kameda@boj.or.jp)

日本銀行から

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