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わが国の「都市化率」に関する事実整理と考察

— 地域経済の視点から —

2009年7月
土屋宰貴*1

要旨

 本稿では、人口の地域的な集中度を表す「都市化率」について、わが国における動向を概観するとともに、生産性や財政効率を含む経済厚生との関係を主に地域経済の視点から考察した。

 わが国全体でみた「都市化率」は、1960〜70年代に着実に上昇した後、80年代以降は上昇ペースが大幅に鈍化し、90年代後半以降は横ばい圏内で推移している。こうした長期トレンドは、基本的には、地域間所得格差や少子高齢化の動向によって説明できる。また、「都市化率」の動向を都道府県別にみると、地域間で水準に大きなばらつきが生じている中で、近年では、一部に都市化率の低下もみられる。

 「都市化率」の低さが、非製造業の低生産性や地方財政の圧迫(社会インフラにかかるコスト高)につながる可能性は、一つの論点になり得る。もっとも、こうした生産性等を巡る論点には、情報インフラの活用の度合いや、産業構造など、多くの要素が複雑に絡むため、都市化率だけで論じることはできない。また、各国間の統計の定義の違いを調整した独自の試算結果によると、わが国の「都市化率」は国際的にみて低いとは言い難い。さらには、混雑現象など「都市化率」の上昇に伴うコストもある。このように、「都市化率」は、地域経済について考える際の興味深い切り口であるが、そのインプリケーションは、多面的に捉えておく必要がある。

本稿の作成過程においては、森川正之氏(経済産業省)、塩路悦郎教授(一橋大学)のほか、副島豊氏、宇都宮浄人氏、一上響氏、亀田制作氏、前田栄治氏、門間一夫氏ら多くの日本銀行スタッフから有益なコメントをいただいた。ただし、あり得べき誤りは全て筆者に属する。また、論文の中で示された内容や意見は筆者の個人的見解であり、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1調査統計局経済分析担当 E-mail: saiki.tsuchiya@boj.or.jp

日本銀行から

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