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労働の再分配ショックと経済変動

1998年10月
藤田茂

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(概要)を掲載しています。

概要

本稿では、90年代における日本経済の低迷長期化の背景を、Lilian(1982)の部門間シフト仮説(sectoral shift hypothesis)の観点から検証している。求人の業種別シェアを、HPフィルターにより、恒久的要素と一時的要素に分解すると、90年代には(1)多くの業種で恒久的要素の変動ウエイトが増大していること、及び(2)恒久的要素の業種間での乖離が拡大していること、が確認できる。

90年代にみられるこのような労働需要の業種間乖離の拡大は、労働の部門間再配分という時間浪費的(time-consuming)な過程の中で、失業率の上昇、生産の低迷をもたらした可能性がある。求人の業種別シェアの変動のうち、恒久的要素を用いて作成した労働再配分ショックの推移をみると、90年代前半に過去に例を見ない労働再配分ショックがあった可能性が示唆される。この労働再配分ショックと、失業率及び実質GDPの3変数で構造VARモデルを構築した上で、インパルス応答、分散分解をみると、労働再配分ショックは、失業率、実質GDPに対して高い指標性、特に中長期的な指標性を有しているとの結果が得られた。

また、90年代の失業率の上昇、実質GDP成長率の低迷の背景を、歴史的要因分解 (historical decomposition)により考察すると、(1)90年代前半の失業率の上昇や実質GDPの落ち込みにおいては、再配分ショックが大きな役割を果している、(2)90年代後半期の失業率の上昇に対しては、再配分ショックよりも、むしろ実質GDPの落ち込みが大きな役割を果している、等の結果が得られた。これらの結果は、90年代前半の景気の落ち込みに対しては、経済のマクロ的な側面よりも、生産要素の再配分という構造調整圧力が、97年以降のそれには、逆に、経済のマクロ的側面が支配的な役割を果しているということを示唆している。