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気候関連金融リスクにかかるトップダウン型シナリオ分析―シナリオの時間軸と産業間波及の考慮―

2023年10月13日
日本銀行金融機構局
安部展弘*1
川澄祐介*2
高野優太郎*3
仲智美*4
平形尚久*5
松村浩平*6
宗像晃*7

要旨

気候関連金融リスクにかかるシナリオ分析の活用が、各法域で進んでいる。本稿では、わが国銀行の移行リスクについて、トップダウン型のシナリオ分析を試みた。シナリオ分析では、30年程度といった長期シナリオが用いられることが多いが、本稿では、短期(5年間)のシナリオを採用したうえで、炭素価格の上昇への企業の対応度について、スムーズに対応するケースと対応が遅れるケースの2つを想定した。さらに、多部門動学的一般均衡モデルを用いて、産業間の相互連関を考慮した。

本稿の主要な結果は2点ある。第1に、企業の対応度の想定の違いは信用コスト率に相応の違いをもたらすとの試算結果となった。この点は、企業の炭素価格の上昇への対応度を考慮することの重要性を示唆している。第2に、炭素価格の上昇は、直接的に影響を受ける重要セクターだけでなく、産業間の相互連関を通じて間接的にそれ以外のセクターにも波及し、信用コスト率が上昇する試算結果となった。これは、重要セクターに対するエクスポージャーが小さい地域金融機関でも、移行リスクに注視する必要があることを示唆している。

  • 本稿の執筆に当たっては、奥田達志氏、高口博英氏、須藤直氏、竹山梓氏、中村康治氏、西崎健司氏、橋本龍一郎氏、正木一博氏の各氏および日本銀行のスタッフから有益な助言やコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。残された誤りは全て筆者に帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者に属するものであり、日本銀行および金融機構局の公式見解を示すものではない。
  1. *1日本銀行金融機構局 E-mail : nobuhiro.abe@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融機構局(現・総務人事局) E-mail : yuusuke.kawasumi@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融機構局 E-mail : yuutarou.takano@boj.or.jp
  4. *4日本銀行金融機構局(現・情報サービス局) E-mail : tomomi.naka@boj.or.jp
  5. *5日本銀行金融機構局 E-mail : naohisa.hirakata@boj.or.jp
  6. *6日本銀行金融機構局(現・イングランド銀行)
  7. *7日本銀行金融機構局 E-mail : kou.munakata@boj.or.jp

日本銀行から

本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp