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脱炭素社会への移行過程におけるわが国経済の課題:論点整理

2022年4月15日
日本銀行調査統計局
倉知善行*1
森島元*2
河田皓史*3
柴田亮*4
文谷和磨*5
茂木仁*6

要旨

気候変動問題への取り組みがグローバルに進むなか、わが国も2050年のカーボンニュートラル目標の下、2030年度に向けて、安定的な経済成長と両立する形でCO2排出量の大幅削減を目指すことを表明している。本稿では、脱炭素社会への移行過程においてわが国経済が直面する課題について、省エネルギー化や脱炭素化に関する事実整理、エネルギー価格に関する仮想シナリオ分析、産業界の取り組みを紹介しつつ、主要な論点を提示する。

GDP当たりのCO2排出量でみたわが国の脱炭素化の進展度合いは、1990年代初頭までは世界トップクラスであったが、その後は低成長下での省エネの停滞や東日本大震災後のエネルギー源の脱炭素化の遅れから、欧州先進国に追い越されている。こうした現状からも、脱炭素社会への秩序だった移行が容易な課題ではないことが改めて分かる。

とりわけわが国では、(1)再生可能エネルギーの普及過程での導入コストや既存の化石燃料の調達コストの動向次第で、移行期の経済成長に大きな影響が及び得る。その一方で、(2)脱炭素に向けた取り組みや新規投資は、技術革新や企業の支出性向の上昇、新たなグローバル市場の開拓等を通じ、わが国経済の生産性や成長率の改善につながる潜在的な可能性がある。(2)のプラス面の実現には、異なる部門間の円滑な資本・労働移動など、社会全体として構造変化への対応力を高めていくことも重要である。また、これらの取り組みにはかなり長い時間を要する可能性が高いことから、公的部門には、企業等による前向きの動きを息長くサポートしていくことが求められる。

  • 本稿の執筆に当たっては、青木浩介氏、亀田制作氏、窪田智之氏、須藤直氏、永沼早央梨氏、長野哲平氏、中村康治氏、福永一郎氏、武藤一郎氏、八木智之氏の各氏および日本銀行のスタッフから有益な助言やコメントを頂いた。記して感謝の意を表したい。ただし、残された誤りは全て筆者に帰する。なお、本稿の内容と意見は筆者に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。
  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : yoshiyuki.kurachi@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : hajime.morishima@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : hiroshi.kawata@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局(現・名古屋支店)
  5. *5日本銀行調査統計局
  6. *6日本銀行調査統計局

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局経済調査課景気動向グループ

Tel : 03-3279-1111(代表)