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東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局
第9回共催コンファレンス:「ウィズコロナ・ポストコロナの日本経済」の模様

2022年1月28日
日本銀行調査統計局

要旨

東京大学金融教育研究センターと日本銀行調査統計局は、2021年11月29日、「ウィズコロナ・ポストコロナの日本経済」と題するコンファレンスをオンライン形式(日本銀行本店より配信)で共同開催した。そこでは、新型コロナウイルス感染症拡大がわが国経済に与えた影響について、活発な議論が展開された。

まず、基調講演では、コロナという災害を経済学的に適切に計測する視点から、人的被害と経済的被害のトレードオフ、ショックの性質や産業・タスク別(接触/非接触)の影響、計測の適時性に関連してオルタナティブデータの活用や伝統統計の課題など、多岐にわたる議論と問題提起が行われた。続く導入セッションでは、感染症拡大前の経済成長・生産性動向の事実整理を踏まえたうえで、各セッションの報告論文の導入として、感染症拡大下で再認識された日本経済の構造的な課題についての指摘がなされた。次に、第1セッションでは、感染症拡大の雇用や家計行動への影響について、粒度の高いデータや独自のアンケート調査に基づく実証研究が報告された。感染症拡大の雇用への影響は、非正規雇用や子育て中の女性等で特に大きかったことが示され、こうした影響が一時的かどうか、などが議論された。また、この間のリモートワークの拡大が人々の価値観(ジェンダー規範)や働き方に変化を及ぼしうるかについても、活発な議論が展開された。第2セッションでは、各種の企業支援策が企業行動に与えた影響について、コロナ前から財務等が脆弱な企業ほど支援策を活用した傾向が強い実証結果などが報告され、政策効果と中長期的な資源配分への影響の両面から議論が行われた。第3セッションでは、様々なオルタナティブデータを用いて、リモートワークの拡大等によるオフィス出社率の減少状況や、オンライン消費の拡大とその持続性を捉える試みが報告された。

これらを踏まえたうえで、全体の総括討議が行われ、(1)感染症拡大によるわが国経済の変化、(2)感染症の影響も踏まえた、今後の望ましい政策運営が議論された。第一の論点について、リモートワークやオンライン消費等でのデジタル技術の活用進展が、感染症拡大という制約下の一時的な事象なのか、わが国経済の生産性を持続的に高めうる変化なのかについて議論が展開された。この点に関連し、感染拡大下でのわが国の企業・社会の環境変化への適応力の低さなどが指摘され、感染症拡大によって従来からわが国経済が抱えている課題が改めて明らかになったとの声も多く聞かれた。

第二の論点については、感染症下での迅速な政策発動を評価する一方、今後は各種支援策の円滑な縮小などを通じて、民間部門の公的部門への依存体質を強め過ぎないことが重要、との見解が示された。そのうえで、わが国の成長力を高めていくには、事業再生や部門間の円滑な資源移動の促進、評価制度の見直しも含めた働き方の改革、デジタル人材の育成、地域間格差への対応などを進めていくことが必要と指摘された。この点に関し、公的部門には、デジタル化や気候変動対応といった重要な課題について、中長期的な指針を策定すると共にルール作りを主導し、企業の前向きの支出を促していくことが求められる、との意見も出された。

  • 本稿で示されたコンファレンス内での報告・発言内容は発言者個人に属しており、必ずしも日本銀行、あるいは調査統計局の見解を示すものではない。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局経済調査課経済分析グループ

E-mail : post.rsd18@boj.or.jp