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ベンチャーキャピタルとスタートアップ企業のイノベーション―特許データによるビッグデータ解析―

2021年3月12日
日本銀行金融市場局
鷲見和昭

要旨

わが国企業は、少子高齢化の進展に伴い、労働力人口が減少に転じる中、デジタル分野をはじめとするイノベーションの強化が求められている。とりわけ革新的な技術の担い手であるスタートアップ企業に対する期待は高く、近年、特許審査にかかる期間の短縮化や既存企業とスタートアップ企業が連携して行うオープンイノベーションに対する税制優遇の導入等が図られている。スタートアップ企業が持続的な研究開発を行うには、成長資金の提供主体としてベンチャーキャピタルが重要な役割を担っているとされる。他方、これまでデータ制約もあって、わが国では、スタートアップ企業によるイノベーションを包括的に整理した事例は限定的であるほか、ベンチャーキャピタルが投資先企業のイノベーションに与える影響を分析した先行研究はみられない。本稿では、イノベーションの代理指標として特許出願件数に着目して上記の2点を整理した上で、今後の課題を考察する。

まず、スタートアップ企業の特許出願動向をみると、企業毎に相応のばらつきがみられるものの、約4割の先が特許出願を行っており、既存企業の出願割合を大きく上回っているとみられる。次に、ベンチャーキャピタルによる資金提供がイノベーションに与える影響を推計すると、6割近くのケースで比較対象企業に比べ、投資先の特許出願件数が有意に増加したことが示唆される。分析結果は、個々のケースによるため幅を持ってみる必要があるが、こうした成功事例ではベンチャーキャピタルによる資金提供や知財管理を含む経営支援が特許出願件数の増加に繋がった可能性がある。今後の課題としては、(1)機関投資家によるベンチャーキャピタルへの投資拡大、(2)新興企業の持続的成長に資する上場機会の拡大、(3)知財戦略の浸透および専門人材の確保・育成が挙げられる。

  • 本稿の作成にあたり、日本銀行スタッフより、有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。本稿のあり得べき誤りは筆者個人に帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融市場局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

金融市場局総務課市場分析グループ

Tel : 03-3277-2917