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上場企業のキャッシュフロー動向と支出行動(2007年)

2007年12月12日
日本銀行調査統計局

要旨

1.景気が緩やかな拡大を続けるもとで、企業収益は増加傾向をたどってきている。そうした中、上場企業では、負債の圧縮にほぼ目処をつけたこともあって、前向きの動きを示すようになっているが、この点を2006年度にかけてのキャッシュフローの動向から確認すると、以下の特徴が挙げられる。すなわち、(1)運転資金や税金支払いの増加から、営業キャッシュフローの伸びが、利益の伸び対比緩やかとなったこと、(2)設備投資に加えて投融資(M&A)資金も増加したため、フリーキャッシュフロー(=営業キャッシュフロー−投資キャッシュフロー)の縮小ペースがやや速まったこと、(3)製造業を中心に、配当や自社株買いといった株主還元支出がさらに増加したこと、(4)返済基調が続いていた有利子負債が、キャッシュフロー計算書の利用可能な1999年度以来、初めて調達方向に転じたこと、である。

2.こうした2006年度までのキャッシュフローの動きを大まかな業種別にみると、(1)製造業・加工業種では、設備投資や株主還元が引き続き増加し、有利子負債の増加幅が拡大した。また、(2)製造業・素材業種でも、運転資金が高水準となる中で、業績回復の序盤に抑制気味となっていた設備投資や株主還元が伸びを高め、有利子負債が増加に転じた。この間、(3)非製造業では、設備投資が緩やかな増加を続ける中、運転資金や投融資が大きく増加し、有利子負債が増加に転じた。非製造業の有利子負債の増加には、一部通信関連の投融資に伴う資金調達の影響も大きいが、これを除いても、返済基調には歯止めが掛かった姿である。

3.上場企業の中期経営計画における売上げ・収益目標をみると、数年前に打ち出した前回の計画と比べ、高めの成長目標を掲げている企業が多い。そうした目標を達成するための基本戦略としては、コストダウンを掲げる企業数は、前回計画に比べ若干減少している一方で、事業の成長・拡大を意識する企業が増えているのが特徴である。

4.このため、中期経営計画で示されているキャッシュフローの使途についても、有利子負債の削減を掲げる企業が大きく減少する一方、様々な分野に支出を積極化させていくといった攻めの姿勢の強まりがうかがわれる。とりわけ、海外事業展開については、非製造業でも意識を高めるなど、業種的な拡がりを伴いつつ、取り組み姿勢がさらに前向きになっている。その上で、設備投資、M&A、株主還元などを同時並行的に積極化しようしている。これらは、上場企業においては、やや長い目でみれば、株主を強く意識しつつ、グローバル経済のエネルギーを取り込みながら企業価値の増大を図る動きが、拡がっていく可能性を示すものと考えられる。

5.ただ、こうした上場企業における前向きな動きが拡がりつつあるとは言え、そのモメンタムは今のところやや力強さを欠いており、一部ではあるが、株式持ち合い増加といった経営安定化にウエイトを多少傾ける動きもみられる。また、近年ようやく活発化し始めたM&Aの成果はなお未知数であるほか、収益の源泉とみられている海外経済の動向も当面不確実性が高い。今後は、これらの点にも留意しながら、企業行動がどのように展開し、わが国経済の持続的な成長につながっていくかどうか、注意深くみていく必要がある。

日本銀行から

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