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企業リストラの現状と展望について

2000年 2月 3日
高橋良子※1

日本銀行から

 本稿における意見等は、全て執筆者の個人的な見解によるものであり、日本銀行および調査統計局の公式見解ではない。

  • ※1日本銀行調査統計局経済調査課(E-mail:ryouko.takahashi@boj.or.jp)

 以下には、冒頭部分(問題意識と要旨)を掲載しています。全文(本文、図表)は、こちら (ron0002a.pdf 214KB) から入手できます。なお、本稿は日本銀行調査月報 2月号に掲載する予定です。

問題意識と要旨

 昨年中、企業のリストラ計画が多数発表され、株価など資本市場にも大きな影響を及ぼした。99年度におけるこうした企業行動は、様々な意味で、日本企業の経営方針の変革を伴ったものであり、産業界全体に広がる構造改革の動きとして注目される。企業のリストラは、短期的には、雇用や設備投資の抑制等、デフレ圧力となるが、中長期的には、経営資源の再配分を通じた生産性の向上や期待成長率の上昇等、プラス効果が期待できる。このように、足元のリストラの動きは、プラス、マイナスの両面で、日本経済に大きな影響を与えるものであり、その中身を考察することは、マクロ経済を展望する上でも重要なことであろう。

 そこで本稿では、(1) 企業にリストラを促している背景について、これまでにない要因が作用している点を指摘した上で、(2) 資本効率、バランスシートの健全性の両面から業種毎のポジションを概観しつつ、現在進められているリストラのパターンを類型化する。(3) さらに、リストラの進捗状況について一定の現状評価を行った上で、今後の方向性について検討を行う。

 予め本稿のポイントを要約すると以下のとおりである。

  1.  現在進められている企業リストラの背景には、企業、産業の中期的な収益力・競争力劣化への危機感に加え、「物言わぬ株主」と「メイン・バンク制」をベースとした従来の企業経営の枠組みから、資本市場での評価を重視する方向への、コーポレート・ガバナンスの変化があると考えられる。また、連結会計制度への移行や持株会社制度の導入など、一連の法・会計制度の変更も影響を及ぼしているとみられる。さらに、やや長い眼でみると、情報通信技術の急速な進歩が、既存の企業組織の枠組みを変化させるといった力が働き始めた可能性もある。
  2.  こうした中で、現在企業に求められているものは、単なる固定費削減といった従来型のリストラ(=減量経営)ではなく、経営資源の再配分まで踏み込んだ本来の意味でのRestructuring (=事業再構築)である。
  3.  財務の健全性、資本効率といった面から業種毎の現状を概観すると、製造業では、一般的に国際競争力が高い資本財・部品業種に比べ、重厚長大型の素材産業はもとより、これまで日本のリーディング産業とされてきた総合電機、自動車などのセット・メーカーも優位なポジションにはない。一方、リストラが遅れ、バブルの後遺症も大きい伝統的な非製造業は、厳しい状況におかれている。
  4.  現在の企業リストラ・構造改革を業種別に類型化すると、不動産、建設、流通といった非製造業では、「固定費削減による高コスト体質からの脱却」、「不良債権売却などによるバブル処理」といった従来型のリストラが、しばしば債権者主導の下で進められている。これに対し、製造業においては、総合型セット・メーカーを中心とする事業ポートフォリオの再構築と、素材産業を中心とする業界再編型Restructuringが、2つの大きな流れをなしている。
  5.  今後の日本経済を展望する上では、全体として、いつ企業が、コストの削減や事業の撤退を中心とするRestructuringの第1段階から、戦略的・競争優位分野への集中的資源投入を優先するRestructuringの第2段階へと軸足を移していくかが重要となる。現在の動きをみると、第1段階のRestructuringが中心であるが、戦略部門での先行投資や他社との事業統合等、第2段階のRestructuringに着手する企業も出始めている。また、情報技術(IT)を活用した事業の効率化や新規事業の開拓を目指す企業が増えており、IT関連分野の技術革新は、ハイテク産業のみならず、様々な産業や企業の期待成長率に影響を与え始めており、第2段階のRestructuringを促進する要因になりつつある。これらの点に鑑みると、製造業を中心に現在企業が取り組んでいるRestructuringは、およそ2〜3年先には本格的に効果を発揮してくるものと考えられる。
  6.  日本企業にとって、リストラ・構造改革を進めるうえで一つのネックとなるのが、雇用調整である。最近、製造業を中心とする事業再構築や企業間の事業統合において、分社化や子会社売却の動きが活発であるが、これは、雇用調整に制約がある下で、個々の「ヒト」ではなく「会社」を単位に資源の再配置を行う動きと捉えることができる。
  7.  また、リストラ・構造改革の進展に伴い、間接部門の外注が増える一方で、企業自らが余剰のリソースで外注委託ビジネスを始めるなど、アウトソーシングに絡んだサービス業務が拡大している。アウトソーシングは、リストラ・構造改革が創出する新規需要であると同時に、将来的に、企業の情報化関連投資が本格化する過程において拡大が見込まれる分野としても注目される。