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全国銀行の平成10年度決算

1999年 7月28日
日本銀行考査局

日本銀行から

 以下には、概況および目次を掲載しています。全文(本文、図表)は、こちら (ron9907d.pdf 233KB) から入手できます。

概況(図表1)

(図表1)10年度決算の概要

  • 図

 全国銀行1の10年度決算をみると、業務純益は3.8兆円と9年度(5.1兆円)を下回ったが、金融機関の基本的な収益力に相当するコア業務純益2は4.8兆円と9年度(4.7兆円)を幾分上回り、比較的高水準を維持した。一方、経常および当期利益は、既往ピークの不良債権処理(13.5兆円)を主因に、ともに過去最大の赤字額(各々7.2兆円、4.5兆円)となった。

 この間、自己資本比率は、都銀、長信、信託等に対する公的資本の増強などから、国際統一基準行の平均でみると前年度を大幅に上回った(10/3月末9.55%→11/3月末11.46%<連結、加重平均>)。なお、個別財務諸表への税効果会計の適用開始により多額の繰延税金資産を計上(8.9兆円)している。

 10年度の決算の特徴点を踏まえた今後の銀行の課題等について予め総括すると次のとおりである。

(1)不良債権の処理

 不良債権処理が最大の経営課題となった10年度は、住専向け債権の処理が行われた7年度や、自己査定結果に基づく償却・引当が開始された9年度をも上回る既往ピークの償却・引当等が行われた。10年度における不良債権処理は、景気の低迷や担保価格の下落傾向が続く下で、いわゆる集中検査・考査の実施や金融監督庁の金融検査マニュアル3の作成等を受け自己査定の精度向上が図られたこと、さらには金融再生委員会の「償却引当の考え方」の公表4もあって不良債権に対する引当率が大幅に上昇したこと、が特徴といえる。

 このように、従来に比べると償却・引当の面では相応に手当が進んだとみられるが、先行き債務者の財務内容がどのように変化し、追加的な処理がどの程度発生してくるのかに関しては、景気動向の帰趨とも絡み、引続き留意が必要である。また、引当済み不良債権の担保処分等による回収あるいは不良債権の流動化など、不良債権のバランスシートからの最終的な切離しに向けては、なお課題も残されており、今後の展開が注目される。

 なお、10年度決算では、従来は必ずしも整合的な取扱いとなっていなかった(a)自己査定、(b)会計処理、(c)ディスクロージャー、の三者を相互に連関させるなど不良債権の開示の面で工夫を凝らす動きがみられた。情報開示の分野では、今後とも創意工夫を行いながら不良債権の実態をより的確に示していくことが重要と考えられる。

(2)税効果会計

 11/3月末の全銀の資本勘定(単体)をみると、公的資本の増強などから33.7兆円と9年度末(23.0兆円)を約10兆円上回り、資本基盤が強化された。

 しかし、資本勘定の約3割に相当する部分は個別財務諸表への税効果会計適用開始に伴う繰延税金資産の計上(8.9兆円)によるものである。繰延税金資産は、税務上損金とならない費用を計上した場合や、繰越欠損金が発生した場合に、先行き税金の減額が見込める額が資産として計上されるものであり、この結果として資本勘定の増加に寄与する。しかしながら、実際に繰延税金資産に見合った税金の減額効果を得るには、将来十分な課税所得をあげることが不可欠である。このように、繰延税金資産については将来の予想に基づく不確実性があることから、そうした予想の合理性を十分に検討した上で適切に計上することが望まれる。

(3)収益力向上に向けた経営努力

 従来、わが国の金融機関の収益は、国内における資金利益に大きく依存し、かつ資金利益の増減は基本的に貸出の規模に左右される構図にあった。公的資本の増強を受けた金融機関が策定・公表した「経営の健全化のための計画」にも示されたように、先行きの収益増強は、量的拡大よりも利鞘改善に求められているが、10年度の全銀の収益動向をみる限り、貸出金利鞘の改善が小幅に止まっている。今後、収益力の抜本的な強化を図るには、(a)信用リスクに見合った貸出スプレッドの確保、(b)競争力のある分野への経営資源の集中、(c)アウトソーシングやデリバリーチャネル5の見直しを活用した新たな収益源の確保や経費の圧縮、等が必要と考えられる。

 もとより、公的資本に支えられた状態から早期に脱するためにも、金融機関にとっては収益力の強化が急務である。収益力の向上を実現していくためには、当然のことながら、それに伴うリスクを十分にコントロールしていくことが不可欠の前提となる。金融機関においては、何よりもリスクプロファイルの十分な把握に努めるとともに、リスク管理体制の高度化を推進していくことが望まれる。

  1. 全国銀行(以下「全銀」)とは、都市銀行9行(以下「都銀」)、長期信用銀行3行(以下「長信」)、信託銀行7行(5/10月以降に業務を開始した信託銀行および外銀信託を除く。以下「信託」)、全国地方銀行協会加盟の地方銀行64行(以下「地銀」)、第二地方銀行協会加盟の地方銀行61行(以下「地銀II」)を対象とする。ただし、本稿の計数に関しては、経営破綻が明らかとなった日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、国民銀行、東京相和銀行、幸福銀行、10年度中に預金保険法上の措置が取られたなみはや銀行、みどり銀行を除いて算出している。
  2. 金融機関の基本的な収益力をみるには債券5勘定尻、信託勘定における償却、一般貸倒引当金純繰入の各影響を除いてみるのが適当と考えられるため、本稿では、基本的な収益力の指標となる概念として、以下の定義により算出されるコア業務純益を利用している。

    コア業務純益 = 業務純益−債券5勘定尻+(信託勘定償却額−特別留保金取崩額)+一般貸倒引当金純繰入額
    債券5勘定尻 = 国債等債券売却益+国債等債券償還益−国債等債券売却損−国債等債券償還損−国債等債券償却
  3. 金融監督庁金融検査マニュアル検討会「最終とりまとめ」(11年4月8日)。以下「金融検査マニュアル」という。
  4. 金融再生委員会では、公的資本の増強を受ける国際統一基準行を対象に「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」(11年1月25日)を公表した(以下、「償却引当の考え方」と呼ぶ)。これによると、(a)担保・保証で保全されていない破綻懸念先債権は70%を目安に(ただし、各行において債権の回収可能性等を勘案して個別に適正に引当を行った場合にはこれによることができる)、(b)担保・保証で保全されていない要管理先債権は15%を目安に、(c)その他の要注意先債権はその平均残存期間を勘案して算出された適正な貸倒実績率等に基づき、それぞれ引当を行うものとする、としている。
  5. デリバリーチャネルとは、金融商品、金融サービスを顧客に提供するための手段のこと。従来は支店網が圧倒的に大きなデリバリーチャネルであったが、技術革新によりこれを代替する可能性を持つチャネルが多数出現している(ATMを利用した小型店舗、テレホンバンキング、インターネットバンキング等)。

目次

  • 1.概況
  • 2.損益の動向
    • (1)コア業務純益
    • (2)債券5勘定尻
    • (3)経常利益・当期利益
    • (4)利益処分
  • 3.不良債権
    • (1)不良債権処理の累計額
    • (2)自己査定結果
    • (3)債務者区分別の引当状況
    • (4)今後の不良債権処理の展望
    • (5)不良債権開示の進展
  • 4.経営体力
    • (1)資本・含み資産
    • (2)自己資本比率
  • 5.連結決算
  • 6.収益力強化に向けた展望
    • (1)収益性の評価
    • (2)収益力の強化に向けて
  • BOX1不良債権処理の経緯
  • BOX2自己査定を踏まえた償却・引当
  • BOX3公表不良債権の概念の相違点
  • BOX4税効果会計の現状
  • BOX5連結財務諸表における子会社および関連会社の範囲の拡大