このページの本文へ移動

地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 非製造業を中心とした労働生産性向上に向けた取り組み

  • 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2017年12月1日
日本銀行

【要旨】

人手不足感が強まり、長時間労働の是正も求められているもとで、わが国経済の成長力を維持・強化していくためには、女性・高齢者の活躍推進などにより労働供給を増やすとともに、労働生産性を高めていくことが重要である。また、労働生産性は、賃金・物価動向を考えるうえでも重要である。

こうした問題意識のもと、日本銀行では、本支店・事務所でのヒアリング調査等をもとに、企業の労働生産性向上に向けた取り組みについて、経済や労働市場に占める割合が高い非製造業を中心に取りまとめた。ポイントは以下のとおりである。

  • 企業の労働生産性向上に向けた取り組みは、全体として積極化している。その背景には、人手不足感の強まりに伴い賃金上昇圧力が高まりつつある一方、販売価格への転嫁が難しいことがある。また、インターネット系新興企業との競合激化など、様々な環境変化に直面するもとで、労働生産性向上を通じた収益力の強化に取り組む必要性が高まっていることも挙げられる。ただし、中小企業を中心に、需要の先細り懸念等から、労働生産性向上のための先行投資に消極的な先も依然少なくない。
  • 中身をみると、省力化投資やビジネス・プロセスの見直しを中心に、幅広い業種で多種多様な取り組みが確認された。このうち省力化投資については、(1)AI、IoTなどの技術革新に伴う、省力化のフロンティアの広がり、(2)相対的に遅れていた中小企業への裾野の広がりの2点が、また、ビジネス・プロセスの見直しについては、(1)付加価値額の増大に結びつきにくい業務を縮小・廃止する動き、(2)従業員の働き方の見直しを通じて長時間労働の是正と業績向上の両立を目指す動き、(3)現場の経験に加え、ビッグデータ等も活用することで、より高次元の効率化を目指す動きの3点が、このところの大きな変化である。
  • 先行きも、労働生産性向上の余地自体は大きいとの声が少なくないことから、積極的な取り組みが続き、成長率を下支えする効果が期待される。ただし、中小企業を中心に、さらなる労働生産性向上にはIT人材不足が制約となる、といった声も少なくない点には留意を要する。
  • 物価情勢との関係では、労働生産性向上を実現している先では、人件費上昇分の吸収を通じて当面の値上げ圧力を抑える方向に働いている、との声が多い。一方、運輸業や飲食業等のうち、労働生産性の向上余地が乏しいとする一部の先では、コスト上昇を販売価格に転嫁し始めている。また、値上げに対する理解が徐々に進んでいるとか、同業他社が値上げすれば追随したい、とする先もみられる。こうした動きがさらに広がっていくかどうかも含め、今後も、労働生産性向上を巡る動きをフォローしていきたい。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局地域経済調査課

森本
Tel:03-3277-1357