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地域経済報告 —さくらレポート— (2016年1月)

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2016年1月18日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(15年10月)と比較すると、近畿から、回復テンポが緩やかになっているとして判断を引き下げる報告があった一方で、東海からは、生産の緩やかな増加などを踏まえて判断を引き上げる報告があった。また、残り7地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。

各地域からの報告をみると、8地域で、「緩やかに回復している」、「回復を続けている」等、東海で、「緩やかに拡大している」としている。この背景としては、輸出や生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移していることなどが挙げられている。

表 地域からみた景気情勢
  15/10月判断 前回との比較 16/1月判断
北海道 緩やかに回復している 不変 緩やかに回復している
東北 緩やかに回復している 不変 生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている
北陸 回復を続けている 不変 回復を続けている
関東甲信越 輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている 不変 輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている
東海 輸出や生産に新興国経済の減速の影響などがみられるものの、設備投資が大幅に増加し、住宅投資・個人消費が持ち直していることから、着実に回復を続けている 右上がり 緩やかに拡大している
近畿 輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、回復している 右下がり 輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに回復している
中国 緩やかに回復している 不変 緩やかに回復している
四国 緩やかな回復を続けている 不変 緩やかな回復を続けている
九州・沖縄 緩やかに回復している 不変 緩やかに回復している
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、東北、関東甲信越から、「高水準ながら横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、7地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「高水準ながらも、減少傾向にある」、「緩やかに減少している」等の報告があった。

設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」等、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、東北から、「堅調に推移している」との報告があった。
この間、企業の業況感については、北海道、東海から、「改善している」等、7地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している」等の報告があった。

個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。

百貨店・スーパー販売額をみると、多くの地域から、「堅調に推移している」、「持ち直している」等の報告があった。

乗用車販売は、「前年を下回っている」等の報告があった一方、「概ね横ばい圏内で推移している」、「底堅く推移している」等の報告があった。

家電販売は、「改善の動きに鈍さがみられている」との報告があった一方、「底堅く推移している」、「持ち直している」、「緩やかに回復している」等の報告があった。

旅行関連需要は、「弱めの動きとなっている」との報告があった一方、「国内旅行を中心に底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が引き続き増加している等の報告があった。

住宅投資は、東北から、「高水準で推移している」との報告があったほか、8地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直しつつある」、「持ち直している」等の報告があった。

生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、「弱含んでいる」、「横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。この間、4地域(北海道、北陸、東海、四国)から、「緩やかに持ち直している」、「高水準で推移している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。

主な業種別の動きをみると、輸送機械は、「持ち直してきている」、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械電子部品・デバイス電気機械は、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「弱含んでいる」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。この間、化学は、「高水準で推移している」等の報告があった一方、鉄鋼は、「減産を継続している」等の報告があった。

雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。

雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」、「引き締まっている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 減少している 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している 雇用・所得環境が着実に改善していることを背景に、回復している 緩やかに持ち直している 増勢が緩やかになっている 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している
東北 震災復旧関連工事を主体に、高水準で推移している 堅調に推移している 底堅く推移している 高水準で推移している 弱含んでいる 雇用・所得環境は、改善している
北陸 減少傾向にある 着実に増加している 持ち直している 持ち直している 高水準で推移している 雇用・所得環境は、着実に改善している
関東甲信越 高水準ながら横ばい圏内の動きとなっている 増加している 底堅く推移している 持ち直している 新興国経済の減速に伴う影響に加え、在庫調整の動きもあって、横ばい圏内の動きが続いている 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している
東海 高水準ながらも、減少傾向にある 大幅に増加している 持ち直している 持ち直している 緩やかに増加している 雇用・所得情勢をみると、労働需給が引き締まっているほか、雇用者所得は着実に改善している
近畿 減少に転じている 増加している 一部で改善の動きに鈍さがみられるものの、雇用・所得環境などが改善するもとで、全体としては堅調に推移している 持ち直しつつある このところ横ばい圏内の動きとなっている。この間、在庫はやや高めの水準となっている 雇用情勢をみると、労働需給が改善を続けるもとで、雇用者所得は一段と改善している
中国 緩やかに減少している 緩やかに増加している 底堅く推移している 持ち直している 全体として横ばい圏内の動きとなっている 雇用・所得環境は、着実な改善を続けている
四国 高水準ながら減少傾向に転じている 緩やかに増加している 気温が高めに推移したことから一時的に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかに持ち直している 持ち直しつつある 緩やかに持ち直している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している
九州・沖縄 緩やかに減少している 増加している 一部に弱めの動きがみられるものの、雇用・所得環境や消費者マインドが着実に改善するもとで、全体としては緩やかに持ち直している 持ち直している 海外向けは新興国経済の減速の影響などから半導体関連を中心にやや弱い動きが続いている一方、国内向けは持ち直してきており、全体として横ばい圏内の動きとなっている 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善しており、雇用者所得は振れを伴いつつも緩やかに持ち直している

II.地域の視点

各地域における企業の雇用・賃金設定スタンス

1.企業の雇用・賃金設定スタンスの総括評価

各地域における企業の雇用面の状況をみると、人手不足感が一段と高まる中で、企業規模や業種を問わず、多くの先で積極的な採用活動を展開しているが、依然として必要な人材の確保が難しいとの声が数多く聞かれている。
こうした状況のもとで、賃金設定面では、正規社員に対して、人材確保の観点に加え、最近の収益の改善や同業他社の動向等を踏まえ、近年、都市部の企業を中心に、定昇や賞与増額を実施する先が増加している。さらに、ベースアップ等により給与水準を引き上げる動きも着実に広がっており、来年度に向けて、昨春の伸び率を上回る引き上げの方針を示す先がみられる。また、派遣・パート等の非正規社員に対しても、人材の確保や最低賃金への対応を図るべく、時給を引き上げる先が広範に見受けられる。そうした一方で、地方の中小企業を中心に、給与の増額に慎重な先も依然として相応にみられており、その中にはベースアップによる給与水準の引き上げは難しいとする先が少なくない。

2.企業の雇用スタンスと人材確保の現状

雇用面では、製造業で、新興国経済の減速に伴う影響を受け、非正規社員を削減する動きなどがごく一部に生じているが、多くの先では、業容の拡大や人手不足の解消等を図る目的で、積極的な採用スタンスを継続している。しかしながら、必要とする人材は、一部の企業を除けば確保が難しい状況が続いており、特に労働力人口の減少が著しい地方圏では人手不足が深刻化している。
足もとの状況を雇用形態別にみると、正規社員については、多くの先で今春入社予定の新卒者の採用数を増やす方針を打ち出す中で、内定者の確保が計画未達となっている先が少なくないうえ、即戦力と位置付ける中途採用も、企業が求める人材の獲得は困難との声が聞かれている。さらに、非正規社員についても、多くの企業で採用に注力しているが、必要な人員の手当てが進んでいない状況が続いている。また、業種別には、小売、飲食・宿泊、医療・介護、運輸等で不足感の更なる強まりを指摘する声が多く、一部には新規出店の抑制や営業時間の短縮など事業運営面で支障が生じている先がみられる。
こうした状況に対応すべく、多くの先では、人材の確保や所要人員の削減に向けて、様々な施策に引き続き粘り強く取り組んでいる。

3.企業の賃金設定スタンス

(1)企業の賃金設定スタンスの現状と背景

以上の労働需給環境のもとでの企業の賃金設定スタンスをうかがうと、業種や企業規模、職種を問わず、都市部の企業を中心に、何らかの方法で給与の増額を図る動きに広がりがみられている。そうした一方で、地方の中小企業を中心に、給与の増額に慎重な姿勢を堅持している先も依然として相応にみられており、その中には、ベースアップなど定例給与の改定による給与水準の引き上げは難しいとする先が少なくない。

このようなスタンスについて、まず、正規社員への対応をみると、定例給与の水準を規定するベースアップに関しては、今春の方針は、労使交渉が本格化していない現時点では、未だ固まっていない先が大半ではあるが、そうした中で、収益の改善を見込む企業を中心に、昨春の伸び率を上回る引き上げを示唆する先もみられる。こうした姿勢を示す理由としては、収益の改善に加え、(イ)人材の獲得・繋留、(ロ)政府等からの要請、(ハ)同業他社の賃上げ実施への対応等も指摘されており、企業が必要に迫られる形で実施している面も見受けられる。
また、賞与に関しては、夏季は支給率を前年よりも引き上げる先が多くみられたほか、冬季も支給額を前年実績に上乗せするとした先が大企業を中心に少なくない。さらに、新興企業や中小企業では、ベースアップの考え方を採り入れていない先が多く、近年の収益改善を受け、賞与等の一時金で従業員に利益を還元する動きも相応にみられている。

この間、非正規社員に対しても、小売や飲食・宿泊など多くの業種で時給を引き上げる動きが続いている。これは、(イ)非正規社員も、正規社員同様に人手不足が深刻化する中で、人材の確保に向けて処遇改善の必要性が高まっていること、(ロ)最低賃金の引き上げへの対応が求められていること、が主たる要因となっている。また、こうした賃金面での対応に加え、福利厚生の充実や非正規社員の正規社員化等により人材の確保を図る動きもみられる。

(2)定例給与の引き上げに慎重な姿勢となる理由

このように給与増額の動きは広がっているが、地方の中小企業を中心に、賞与の増額や非正規社員の時給引き上げにはある程度前向きに対応するとしても、定例給与の改定による正規社員の給与水準の引き上げに対して、慎重なスタンスを取る先が依然として少なくない。その要因としては、先行きに対する漠然とした不安を挙げる先が多く、同業他社の動きを見極めたいとする先も相応に見受けられる。さらに、こうした要因に加え、定例給与の引き上げに慎重な姿勢を崩さない根本的な要因として、主に以下の点も指摘されている。

イ.低い期待成長率
  • 中長期的な国内市場の縮小が想定される中で、事業の安定的な成長が展望し難い環境のもとでは、固定費の増加に繋がる形での給与水準の引き上げには慎重にならざるを得ないとの声が多く聞かれている。
ロ.現状の収益動向に対する厳しい認識
  • 近年の収益改善は、為替差益等の一時的な要因や海外部門の寄与が大きく、国内事業自体は楽観視できない状況が続いているため、現状の利益水準を前提に国内の従業員の給与水準を引き上げることは難しいとの指摘が聞かれる。このほか、中小企業を中心に、収益は改善傾向ながら、利益水準が依然として低い状況では賃上げは困難との声も聞かれている。
ハ.事業強化に向けた対応を優先
  • 収益の改善を踏まえ、競争力の強化に向け、従業員の賃上げよりも、これまで抑制してきた設備の更新投資や新規投資、新規事業の立ち上げ、M&A等を優先しているとの声が聞かれている。

4.先行きの展望と課題

多くの企業では、先行きも現状の積極的な雇用スタンスを継続する方針にあるため、当面、労働需給が逼迫した状況は解消されない可能性が高い。それにも拘らず、来年度の給与増額に向けた企業の動きは、現時点では勢いを増す状況とはなっていない。こうした中で、持続的に賃上げが実施されていくためには、(イ)生産性の向上や新技術・商品の開発等により、企業が自らの成長力を高めていくこと、(ロ)企業間の取引価格の適正化や消費者のデフレマインドの払拭等を通じ、企業が人件費等コスト増加分の製商品・サービス価格への転嫁を進め、収益体質の強化を図ること、(ハ)給与水準の引き上げと各種制度が整合的となるよう手当てされていくこと、などが必要との指摘が聞かれる。

日本銀行から

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照会先

調査統計局地域経済調査課

Tel : 03-3277-1357