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地域経済報告 —さくらレポート— (2014年10月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2014年10月20日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(14年7月)と比較すると、東北から、回復テンポが緩やかになっているとして判断を引き下げる報告があったものの、残り8地域では、景気の改善度合いに関する基調的な判断に変化はないとしている。

各地域からの報告をみると、東北を含め全地域で、基調的には、「回復を続けている」、「緩やかに回復している」等としている。この背景として、生産面において一部に弱めの動きがみられるものの、国内需要が堅調に推移し、雇用・所得環境が着実に改善していることが挙げられている。この間、個人消費については、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は、ばらつきを伴いつつも全体として和らいできている等の報告があった。

表 地域からみた景気情勢
  14/7月判断 前回との比較 14/10月判断
北海道 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が一部にみられているが、基調的には緩やかに回復している 不変 基調的には緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動は、和らいできている
東北 消費税率引き上げの影響による反動がみられるものの、基調的には回復を続けている 右下がり 消費税率引き上げの影響による反動がみられるものの、基調的には緩やかに回復している
北陸 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している
関東甲信越 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている
東海 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては回復を続けている 不変 基調としては回復を続けており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、幾分ばらつきを伴いつつ全体として和らいできている
近畿 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している
中国 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているものの、基調としては緩やかに回復している 不変 生産面で幾分増勢の鈍化がみられるものの、基調としては緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は全体として和らぎつつある
四国 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている
九州・沖縄 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減がみられているものの、基調的には緩やかに回復している 不変 基調的には緩やかに回復している。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減は、徐々に和らいできている
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、4地域(東北、関東甲信越、東海、近畿)から、「増加している」等の報告があった。また、5地域(北海道、北陸、中国、四国、九州・沖縄)からは、「高水準で推移している」等の報告があった。

設備投資は、北海道、東海から、「一段と増加している」、4地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿)から、「増加している」等、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「底堅く推移している」、「製造業・非製造業とも横ばい圏内で推移している」等の報告があった。

個人消費は、雇用・所得環境が改善していること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「基調として緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「基調的に底堅く推移している」等の報告があった。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響については、複数の地域から、ばらつきを伴いつつも、「全体として和らいできている」等の報告があった。

大型小売店販売額をみると、多くの地域から、「足もと前年を上回っており、駆け込み需要の反動の影響は和らいできている」、「基調的には堅調に推移している」等の報告があった。

乗用車販売は、「駆け込み需要の反動がみられている」、「駆け込み需要の反動減の影響が残るものの、新型車を中心に底堅く推移している」等の報告があった。

家電販売は、「駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には持ち直しの動きが続いている」、「前年比マイナス幅は縮小傾向にある」等の報告があった。

旅行関連需要は、多くの地域から、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、複数の地域から、外国人観光客が増加している等の報告があった。

住宅投資は、5地域(東北、北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響がみられるものの、「下げ止まりつつある」、「基調的には底堅く推移している」等の報告があった。一方、4地域(北海道、関東甲信越、近畿、中国)から、「駆け込み需要の反動減が続いている」、「弱めの動きとなっている」等の報告があった。

生産(鉱工業生産)は、3地域(北海道、北陸、四国)から、「増加している」、「緩やかに持ち直している」等の報告があったほか、3地域(東海、近畿、九州・沖縄)から、「横ばい圏内で推移している」等の報告があった。一方、中国から、「増勢が幾分鈍化しているものの、緩やかな増加基調にある」との報告があったほか、耐久消費財等において、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減などの影響がやや長引くもとで、東北、関東甲信越から、「足もとでは弱めの動きとなっている」等の報告があった。

主な業種別の基調的な動きをみると、電子部品・デバイスは、「増加している」等の報告があったほか、はん用・生産用・業務用機械については、「高水準の生産が続いている」等の報告があった。輸送機械では、「基調としては横ばい圏内の動きとなっている」との報告があった一方、「駆け込み需要の反動から減少している」等の報告があった。電気機械情報通信機械金属製品でも、「駆け込み需要の反動の影響等がみられることなどから、このところ弱めの動きとなっている」等の報告があった。この間、鉄鋼化学は、「横ばい圏内となっている」等の報告があった。

雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。

雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 高水準で推移している 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、一段と増加している 雇用・所得環境等の改善を背景に、回復している 減少している 国内外の堅調な需要を背景に、増加している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は着実に改善している。雇用者所得は回復している
東北 震災復旧関連工事を主体に、増加している 増加している 総じて底堅く推移しているが、耐久消費財では反動減からの持ち直しのペースが緩やかとなっている 引き続き駆け込み需要の反動がみられているが、災害公営住宅の建設等から高水準で推移している 駆け込み需要の反動等から、足もとでは弱めの動きとなっている 雇用・所得環境は、改善している
北陸 高水準で推移している 製造業を中心に増加している 基調として緩やかに持ち直している 駆け込み需要の反動がみられるものの、下げ止まりつつある 緩やかに増加している 雇用・所得環境は、改善している
関東甲信越 増加している 増加している 基調的に底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響は、ばらつきを伴いつつも全体として和らいできている 駆け込み需要の反動減が続いている 足もと弱めの動きとなっている 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も緩やかに増加している
東海 増加している 一段と増加している 雇用・所得環境が改善する中で基調としては持ち直しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も、幾分ばらつきを伴いつつ全体として和らいできている 基調としては底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も徐々に和らぎつつある 高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている 雇用・所得情勢は、改善している
近畿 増加している 増加している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響も徐々に和らぎつつあり、雇用・所得環境などが改善するもとで、基調としては堅調に推移しているとみられる 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動が引き続きみられている中で、弱めの動きとなっている 駆け込み需要の反動や天候要因などから一部に弱めの動きがみられるものの、高めの水準を維持しており、基調としては堅調に推移している 雇用情勢をみると、労働需給は改善の動きが強まっている。こうしたもとで、賃金も前年を上回るなど、雇用者所得は改善している
中国 高水準で横ばい圏内の動きとなっている 持ち直している 基調としては底堅く推移しており、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動も和らいでいる 弱含んでいる 増勢が幾分鈍化しているものの、緩やかな増加基調にある 雇用情勢は、着実に改善している。雇用者所得は、着実に持ち直している
四国 高水準で推移している 持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には緩やかに持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などがみられているが、基調的には底堅く推移している 緩やかに持ち直している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している
九州・沖縄 高水準で推移している 着実に持ち直している 天候不順による影響がみられるものの、消費者マインドに加えて雇用・所得環境の改善もあって、基調としては持ち直しつつある。この間、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減は、徐々に和らいできている 横ばい圏内で推移している 全体としては横ばい圏内で推移している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善しており、雇用者所得も緩やかに持ち直している

II.地域の視点

各地域における観光振興に向けた取り組みと地域経済への影響
— 成長産業としての期待の高まりと観光需要の創出・獲得等に向けた取り組み —

1.各地域の観光需要の動向

各地域における最近の観光需要の動向をみると、大方を占める国内観光客が堅調に推移する中で、外国人観光客が大幅な増加を続けているため、全体としては緩やかながら着実に増加している。すなわち、国内観光客は、ガソリン価格の上昇、ETC割引率の縮小、天候不順等に伴い、夏場にかけて幾分弱めの動きとなったとの声も聞かれているが、基調としては、景気回復や雇用・所得環境の改善等から、堅調に推移しているとの声が多い。この間、消費税率引き上げに伴う影響は特段うかがわれないとの声が相応に聞かれている。また、外国人観光客は、為替円安、ビザ発給要件の緩和に加え、アジアにおける中間所得者層の拡大、交通インフラの整備・拡充(空港発着枠拡大、定期便就航・LCC増便、港湾整備等)等を背景に大幅な増加が続いており、観光客全体に占める割合も徐々に高まっているとの声が少なくない。

もっとも、そうした中にあって、東日本大震災で被害を受けた地域の一部や、他の地域との差別化が進んでいない観光地等では、依然として厳しい状況が続いているとの声が聞かれており、地域によって観光需要の獲得に差が生じている面が見受けられる。

2.最近の観光需要の特徴等

国内観光客は、アクティブシニアの需要が引き続き旺盛なうえ、雇用・所得環境の改善等から、このところファミリー層や若年層の観光需要も回復傾向にあるとの声が多い。また、一部地域では、企業業績の改善等を背景に法人需要が増加しているとの指摘も聞かれる。こうしたもとで、名所旧跡見物等の従来型観光に加え、地元の自然や伝統文化・産業等を体験したり、スポーツやアニメ関連のイベント等への参加を目的とする体験型・交流型観光を志向する観光客が増加しているとの声が多く聞かれている。この間、観光客の消費行動に関しては、シニア層を中心に価格が高めであっても良質なサービスを求める傾向が強まっているとの声が少なくない一方、交通費等を抑制し、その分、飲食、アクティビティなど旅行の主目的への支出を重視するメリハリ消費が広がっているとの声も聞かれている。

一方、外国人観光客は、近年、様々な面で広がりを伴いつつ増加している。例えば、入込客数の増加が目立つ地域は、首都圏に加え、関西、中部、北海道、九州・沖縄でも挙げられており、旅行形態も、引き続き団体旅行が中心ながら、リピーターによる個人旅行も徐々に増えているとの声が多い。また、従来の欧米や中国、韓国からの観光客に加え、ビザ発給要件の緩和等を背景に東南アジアからの旅行者が急増しているとの声が多く聞かれている。このほか、旅行目的の面では、名所旧跡見物や免税店等でのショッピングに加え、体験型・交流型観光への広がりがみられるとの指摘が聞かれる。

3.観光需要の創出・獲得等に向けた取り組み

多くの地域の観光関連企業では、このように変化・多様化する観光客のニーズの更なる取り込みに向け、体験型・交流型観光の新たなメニュー・サービスの提供や推進に取り組んだり、個人旅行需要の増加を念頭に置く形で観光・宿泊施設を増改築する動きなどが広がっている。加えて、外国人対応スタッフの採用や複数言語での情報発信強化等の多言語対応、通信・決済インフラ(Wi-Fi、クレジットカードでの決済対応等)の整備・拡充といった外国人観光客を意識した企業レベルの取り組みが、近年、一段と広範化しているとの声が多い。このほか、従来は競合関係にあった企業同士が連携したり、地域金融機関が交流人口の増加による地域活性化を目的に観光振興に乗り出す事例もみられる。

この間、地方公共団体や地元経済団体等では、政府の観光立国実現の方針等を踏まえ、観光を地域の成長産業と位置付け、取り組みを強化する動きが広がっているとの声が多く聞かれる。具体的には、従来から注力している国内外での積極的な誘客活動・情報発信や外国人観光客の受け入れに向けた環境整備に加え、新たな需要を掘り起こす観点から、スポーツやポップカルチャー等に着目したイベント等を企業と連携しながら開催したり、国際会議や学会等のMICE誘致を積極化する事例が多くみられる。また、観光客の回遊や相互送客を促す目的で地域内や地域間での連携を進める動きも広まっている。

4.観光需要増加を起点とした企業収益、設備投資、雇用・所得等への波及

観光需要の増加に伴う波及効果は、多くの地域で着実に広がっている。まず、企業業績の面では、宿泊関連業者は稼働率の上昇に宿泊単価の引き上げも相俟って収益が改善しているとか、小売業者等でも免税品や地場産品・土産物の売上が増加しているなどの声が多く聞かれる。中でも免税品は、“Made in Japan”に対するニーズが強い外国人観光客が積極的に購入する姿勢を示しているため、店舗全体の売上を下支えしている事例もみられる。
また、設備投資の面では、収益が改善する中で更なる需要の獲得を図るべく、通信・交通インフラの整備、宿泊・商業施設の増改築、免税制度改正に対応したシステム更新、土産品の生産能力増強等に踏み切る企業が広がっている。このほか、観光需要の拡大を商機と捉え、新たなニーズが生じているビジネスへの参入を図る動きも徐々にみられている。
さらに、雇用・所得面では、観光需要の増加に伴い人手不足が一段と強まっており、新規採用の拡大に加え、女性や外国人の積極活用、従業員に対する処遇改善、人材育成の強化等に努める事例が数多くみられる。

こうした一方で、観光客のニーズを十分に取り込めていない地域や企業では、苦戦が続いているとの指摘が聞かれており、波及効果も限定的となっている。

5.先行きの展望と課題

観光需要の先行きについては、国内の人口減少等を背景に伸び悩みを懸念する声も一部にはあるが、総じてみれば、政府による観光立国実現に向けた取り組み、新幹線や高速道路等インフラの整備進捗、東京五輪の開催等を通じ、当面は着実に拡大していくとの見方が多い。こうした中で、多くの地域では、観光関連産業の一段の成長・発展を通じた地域活性化への期待が一段と高まっている。その実現に向けては、(1)地域一体での観光振興に向けた取り組みの継続・強化、(2)地域間・企業間連携の一段の促進、(3)各種インフラ(道路、駐車場、空港、港湾、二次交通、決済手段等)の更なる整備、(4)人手不足解消に向けた工夫等が重要であるとの声が聞かれている。

日本銀行から

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照会先

調査統計局地域経済調査課

Tel : 03-3277-1357