このページの本文へ移動

地域経済報告 —さくらレポート— (2009年7月)*

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2009年7月6日
日本銀行

全文の目次

  • I.地域からみた景気情勢
  • II.地域の視点
    • 最近の個人消費動向の特徴点と消費関連企業の対応
  • <参考1>地域別金融経済概況
  • <参考2>地域別主要指標

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局・地域経済担当

Tel.03-3277-2119

I. 地域からみた景気情勢

 各地域の取りまとめ店の報告によると、足もとの景気は、悪化ペースが鈍化しており、下げ止まりつつあるものの、引き続き厳しい状況にある。

 すなわち、公共投資は、増加している。また、在庫調整の進捗等を背景に、輸出、生産は、低水準ながら持ち直しに転じつつある。一方、設備投資は、企業収益の大幅な悪化等から、大幅に減少している。また、雇用・所得環境が厳しさを増すなかで、個人消費は弱い地合いが続いている。住宅投資も減少している。

 こうしたなか、地域別総括判断をみると、前回との対比では、全地域で悪化ペースの鈍化が報告されている。もっとも、北海道が「低迷」、東北、北陸、近畿が「厳しい状況」としているほか、関東甲信越、九州・沖縄でも「大幅に悪化したあと」等を付言し、引き続き厳しい状況にあることを強調している。

表 地域からみた景気情勢
  09/4月判断 前回との比較 09/7月判断
北海道 厳しさを増しており、低迷している 右上がり 低迷している
東北 大幅に悪化しており、厳しさを増している 右上がり 厳しい状況が続いているが、下げ止まりつつある
北陸 大幅に悪化している 右上がり 依然として厳しい状況にあるが、下げ止まりの兆しがみられている
関東甲信越 大幅に悪化している 右上がり 大幅に悪化したあと、下げ止まりつつある
東海 急速に下降している 右上がり 輸出と生産の持ち直し等から、下げ止まりつつある
近畿 大幅に悪化しており、厳しい状況にある 右上がり なお厳しい状況にあるが、下げ止まりつつある
中国 悪化している 右上がり 下げ止まりつつある
四国 悪化している 右上がり 悪化を続けているが、一部に下げ止まりの兆しがみられる
九州・沖縄 大幅に悪化している 右上がり 大幅に悪化したあと、下げ止まりつつある
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

 個人消費は、厳しい雇用・所得環境のもとで、各地域で弱い地合いが続いている。

 個別の動きをみると、家電販売(薄型テレビ等)、乗用車販売(ハイブリッド車等)について、一部に政策効果がみられているものの、大型小売店の売上については、衣料品や宝飾品を中心に、弱い動きが続いている。また、旅行・レジャーについても、新型インフルエンザの影響もあって、国内、海外とも弱い動きとなっている。

 前回報告との比較では、一部に政策効果はみられるものの、ほとんどの地域で弱い地合いに変化はないと判断された。

 設備投資は、企業収益が大幅に悪化していること等から、多くの地域で大幅な減少が続いている。

 業種別にみると、製造業では輸送機械、電気機械、一般機械等で、非製造業では卸・小売業等を中心に減少している。

 前回報告との比較では、北海道、東海、近畿で減少幅が拡大した一方、その他の地域は前回と同じ判断となった。

 生産は、依然低水準ながら、地域差は残るものの、持ち直しに転じつつある。

 業種別の動きをみると、地域ごとにばらつきはあるものの、一般機械は、設備投資の減少等を背景に、一段と生産水準を引下げている。一方、輸送機械(自動車、同部品)、化学(エチレン、塩ビ等)、電子部品・デバイス(携帯、液晶部品等)は、海外での在庫調整進捗等に伴い輸出が持ち直しに転じつつあること等から、減産緩和ないしは持ち直しの動きがみられている。

 前回報告との比較では、前回は関東甲信越のみが「一部に下げ止まりの兆しがみられる」としていたが、今回は北海道、北陸、近畿で「下げ止まっている」ないしは「下げ止まりつつある」と判断されたほか、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄では、「持ち直している」ないしは「持ち直しに転じつつある」と判断された。

 雇用・所得環境をみると、引き続き悪化傾向をたどっている。

 雇用情勢については、雇用調整の動きが続き、有効求人倍率は低下している。雇用者所得は、所定外給与や特別給与の減少等から減少を続けている。

 前回報告との比較では、雇用情勢については、近畿、九州・沖縄では悪化ペースが加速した。雇用者所得は、近畿、中国、四国、九州・沖縄で減少ペースが加速した。

需要項目等

表 需要項目等
  個人消費 設備投資 生産 雇用・所得
北海道 厳しい状況が続いている 大幅に減少している 下げ止まりつつある 雇用情勢は、厳しい状況が続いている。雇用者所得は、企業収益の悪化を背景に、所定外労働時間の抑制など企業の人件費抑制スタンスが根強く、厳しい状況が続いている
東北 一部に政策効果がみられるものの、全体では弱い状況が続いている 企業収益の悪化などから、大幅に減少している 在庫調整の進展を受けて、減産を緩和する動きが広がっている 雇用情勢をみると、厳しい状況が続いている。雇用者所得も減少が続いている
北陸 全体としては弱い動きが続いているが、一部に政策効果から持ち直しの動きがみられている 大幅に減少している 在庫調整の進展等から、下げ止まっている 雇用情勢をみると、常用雇用者の前年割れが続き、有効求人倍率も求人数の減少から、低下傾向をたどっているが、低下幅は幾分縮小している。雇用者所得は、所定外給与や常用労働者数の減少などから前年を下回っている
関東甲信越 雇用・所得環境が厳しさを増すなかで、弱い地合いが続いている 大幅に減少している 大幅に減少したあと、内外の在庫調整の進捗等から、持ち直しに転じつつある 雇用情勢は、悪化している。雇用者所得は、企業収益の悪化等を映じて弱めの動きとなっている
東海 弱まっている 大幅に減少している 低水準ながら持ち直している 雇用・所得環境は、厳しさを増している。雇用者所得は、常用労働者数が減少しているほか、賃金も所定外給与を中心に減少していることから、全体として減少している
近畿 弱い動きが続いている 企業収益が大幅に悪化するもとで、減少している 下げ止まりつつある。この間、在庫は減少を続けている 雇用情勢をみると、有効求人倍率が低下を続ける中で、雇用者数は弱含んでいる。雇用者所得は、減少している
中国 弱めの動きが続いている 大幅に減少している 在庫調整の進捗に伴い、足もとやや持ち直している 雇用情勢は、厳しい状況が続いているが、有効求人倍率の低下幅は足もと縮小している。雇用者所得は、企業業績の悪化を映じ、弱めとなっている
四国 一部に追加経済対策の効果がみられるものの、全体としては低調に推移している 大幅に減少している 依然低水準で推移しているものの、在庫調整の進捗等を受け、減産緩和の動きが広がっている 雇用情勢は、悪化している。雇用者所得は、夏季賞与削減の動きが広範にみられるなど、厳しさを増している
九州・沖縄 弱まっている 減少している 大幅に落ち込んだあと、持ち直しに転じつつある 雇用情勢は、さらに厳しさを増している。雇用者所得は、さらに厳しさを増している

II.地域の視点

最近の個人消費動向の特徴点と消費関連企業の対応

 最近の個人消費動向をみると、昨年秋以降、雇用・所得環境が厳しさを増す中、弱い地合いが続いている。5月には、近畿を中心に、新型インフルエンザの影響がみられたが、足もとでは小康を得ているほか、政府の経済危機対策が、自動車販売や家電販売等において一定の需要下支え効果を発揮している。

 この間の消費行動については、節約志向・低価格志向が強まっているが、単純に消費マインドが冷え切っている訳ではなく、少ない予算で効率的に満足を得ようとする傾向がみられる。具体的には、(1)部分的節約志向(消費の基本的行動パターンは変えず、頻度の抑制や部分的にダウングレードする)や、(2)選択的節約志向(自らこだわりがある商品・サービスへの支出は可能な限り維持しつつ、その他の商品等への支出は徹底的に節約する)、(3)徹底した事前リサーチ(購入に先立つ事前リサーチ<例えば商品・店舗間比較>を入念に行う)といった行動が、各地域で指摘されている。

 この結果、個人消費の弱さの影響は、選択的支出品目(贅沢品)、基礎的支出品目(生活必需品)を問わず顕現化しており、同じ財・サービスの中で、商品間や企業間の格差が広がっている。また、元々価格設定が低めの商品・企業や、政府の経済危機対策関連の財・サービスでは、需要が増加する傾向もみられる。

 この間の消費関連企業による需要喚起策をみると、(1)価格戦略の見直し(原材料価格の低下や海外生産の拡大に伴う仕入れコスト減少を背景とした値下げ、セット販売等による各種割引拡大、プライベートブランド<PB>商品の新規導入・拡充等)のほか、(2)商品・サービス戦略の見直し(消費者の嗜好に合わせた商品内容やメニューの充実、既存顧客の需要の掘り起こしや新規顧客層の開拓等)や、(3)販売チャネル戦略の見直し等、主たる顧客層や取扱商品の価格帯の違いに応じ、異なる方向性が打ち出されている。

 こうした消費関連企業の取組みの成否については、現時点では必ずしも明らかではないが、中長期的な視点に立って取組みを進めてきた先──例えばPB商品拡大等の低価格戦略を推進してきた先や徹底したローコスト経営を追求してきた先等──を中心に、相応の効果が出ているとの声が聞かれている。一方、他社との競争激化等により、低価格戦略が必ずしも売上増加に繋がらず、経営面で苦しい状況に陥っている先もみられている。

 先行きについては、政府の経済危機対策の効果等から徐々に持ち直すことを期待する声も聞かれるが、夏季賞与の大幅減額見込み等、雇用・所得環境の悪化傾向が続くことが予想される中、個人消費は当分の間、弱い地合いが続くとみる先が多い。