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地域経済報告 —さくらレポート— (2007年4月)*

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2007年4月19日
日本銀行

全文の目次

  • I.地域からみた景気情勢
  • II.地域の視点
    • 1.各地域からみた最近の雇用・賃金情勢について
    • 2.近年の東京における高額消費市場の特徴——海外ブランドや外資系ホテルの動向を中心に
  • <参考1>地域別金融経済概況
  • <参考2>地域別主要指標

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局・地域経済担当

Tel.03-3277-1357

I.地域からみた景気情勢

 各地域の取りまとめ店の報告によると、足もとの景気は、すべての地域において拡大または回復方向の動きが続いており、地域差はあるものの、全体として緩やかに拡大している。

 すなわち、輸出は増加を続けており、設備投資もすべての地域で引き続き増加傾向にあるほか、企業の業況感も多くの地域で良好な水準にあるなど、企業部門は好調さを維持している。また、家計部門についても、個人消費は、天候不順や震災による影響が一部にみられるものの、雇用・所得環境が改善傾向をたどるもとで、底堅く推移しているほか、住宅投資も、地域によりばらつきはみられるが総じて高めの水準にある。このように、内外需の増加が続く中で、生産も増加基調にある。

 こうした中、総括判断において、「拡大」としている関東甲信越、東海、近畿と、「回復」方向にあるその他の地域との間で、依然、地域差がみられている。

 なお、1月の支店長会議時と比べると、すべての地域で、拡大または回復方向での総括判断を据え置いている。

表 地域からみた景気情勢
  07/1月判断 判断の変化 07/4月判断
北海道 緩やかに持ち直している 不変 緩やかに持ち直している
東北 緩やかな回復を続けている 不変 緩やかな回復を続けている
北陸 着実に回復している 不変 回復を続けている
関東甲信越 緩やかに拡大している 不変 緩やかに拡大している
東海 拡大している 不変 拡大している
近畿 拡大を続けている 不変 拡大を続けている
中国 全体として回復を続けている 不変 全体として回復を続けている
四国 緩やかながら持ち直しの動きが続いている 不変 緩やかながら持ち直しの動きが続いている
九州・沖縄 回復を続けている 不変 回復を続けている

 個人消費は、関東甲信越、東海、近畿で緩やかな「増加」あるいは「回復」と判断しているほか、その他の地域でも、「底堅く推移」、「持ち直し」あるいは「横ばい圏内」と判断している。

 主な指標をみると、大型小売店の売上については、飲食料品や身の回り品を中心に増加している、との報告がみられる一方で、一部の地域からは、天候不順による春物衣料の不振や、震災の影響による売上の減少といった報告もみられている。家電販売は、ほとんどの地域で、デジタル家電や高付加価値の白物家電を中心に引き続き好調に推移している。乗用車販売は、すべての地域で引き続き弱い動きとなっている。この間、観光については、幾つかの地域から、イベント効果もあって入込客数が前年を上回っている、との報告や、旅行取扱高も堅調に推移している、との報告がみられた。

 前回報告との比較では、すべての地域で判断を据え置いている。

 設備投資は、高水準の企業収益を背景に、すべての地域で、引き続き増加傾向にあり、製造業における能力増強投資を中心に増加している、との報告が目立った。

 前回報告との比較では、すべての地域で判断を据え置いている。

 生産は、ほとんどの地域で、「増加」と判断している。この間、北海道、四国は緩やかな「持ち直し」あるいは「回復」と判断している。

 業種別の特徴をみると、加工業種のうち、電子部品・デバイスについては、携帯電話・パソコン向けでは受注鈍化や生産調整の動きがみられる一方で、デジタル家電・ゲーム機・自動車向けの好調が報告されている等、用途によって動きの違いが目立ってきている。また、一般機械は増加基調を維持しているほか、輸送機械も足もと一時的に増勢は鈍化しているものの、高水準の生産を続けている。素材業種のうち、鉄鋼については、自動車・船舶向け需要の好調等を背景に高水準の生産が続いている地域が多いほか、化学や紙・パルプも高操業を維持している一方、窯業・土石については、公共投資の減少を主因に低操業が続いているなど、引き続き業種間のばらつきがみられる。

 前回報告との比較では、すべての地域で判断を据え置いている。

 雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、ほとんどの地域で「改善を続けている」と判断している。もっとも、東海の「有効求人倍率が高水準で推移」から、北海道の「横ばい圏内で推移」まで、地域差は依然大きい。

 所得面は、ほとんどの地域で、緩やかな「増加」あるいは「改善」と判断しており、東北も「前年比マイナス幅は縮小傾向」としている。一方で、北海道については、企業の人件費抑制姿勢が続いていることもあって「弱めの動き」となっている。

 前回報告との比較では、雇用情勢はすべての地域で判断を据え置いているが、所得面については北海道が判断をやや下方修正した。

需要項目等

表 需要項目等
  個人消費 設備投資 生産 雇用・所得
北海道 横ばい圏内の動きが続いている 底堅く推移している 緩やかに持ち直している 雇用情勢は、横ばい圏内で推移している。雇用者所得は、弱めの動きとなっている
東北 区々の動きの中で総じて底堅く推移している 製造業を中心に高水準の計画を維持している 増加している 雇用情勢は、改善傾向にある。雇用者所得は、全体として低調に推移しているものの、前年比マイナス幅は縮小傾向にある
北陸 全体として持ち直しの動きが続いている 製造業を中心に高水準の前年を上回って増加を続けている 引き続き増加している 雇用情勢をみると、引き続き改善している。雇用者所得は、緩やかに増加している
関東甲信越 緩やかな増加基調にある 着実に増加している 増加基調にある 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、緩やかな増加を続けている
東海 基調として緩やかに回復している 増加を続けている 総じてみれば増加基調をたどっている 雇用情勢をみると、有効求人倍率が高水準で推移しており、常用労働者数も増加している。雇用者所得は、改善している
近畿 全体として緩やかに増加している 増加している 増加基調にある 雇用情勢は、改善を続けている。雇用者所得は、緩やかに増加している
中国 概ね底堅く推移している 増加している 増加基調にある 雇用情勢をみると、有効求人倍率はやや低下しているものの、引き続き高めの水準を保っている。雇用者所得は、振れを伴いつつも緩やかな増加傾向にある
四国 全体として底堅く推移している 製造業を中心に増加している 緩やかに回復している 雇用情勢は、緩やかな改善の動きを続けている。雇用者所得は、全体として緩やかに回復しつつある
九州・沖縄 底堅く推移している 高水準で推移している 緩やかな増加基調をたどっている 雇用情勢は、緩やかに改善している。雇用者所得は、緩やかな増加基調にある

II.地域の視点

1.各地域からみた最近の雇用・賃金情勢について

 最近の雇用情勢をみると、地域差は依然として大きいが、ほとんどの地域で引き続き改善している。すなわち、大都市圏を中心に、多くの地域で労働需給が引き締まり傾向にあり、企業の人手不足感が高まっている一方、北海道など一部の地域では、雇用情勢は引き続き厳しい。

 雇用面では、企業は、新卒および中途での採用を積極化している。こうした状況下、一部の中堅・中小企業では、大企業の採用積極化の影響を受け、人材確保が難しくなっており、人手不足がより深刻化している。この間、労働需給が逼迫している地域の企業では、雇用過剰感がある他の地域での採用を活発化させており、地域間の労働移動が拡大しつつある。
 また、企業は、採用のみではなく、社員の繋留にも注力している。定年を迎える団塊の世代については、労働力の確保に加え、技術伝承を円滑に行う観点から、再雇用等を進めており、労働者サイドも再雇用等に応じる向きが多い。このほか、非正規社員の中から、優秀な人材を正社員に登用する動きを積極化させるなど、企業は様々な手段を使って、社員の繋留に努めている。

 賃金面の動向についてみると、足もとの業績が好調な先でも、先行きの収益の不確実性等を理由に、引き続き、所定内給与の引き上げ等の賃金改善ではなく、賞与での収益還元を志向する先が多い。もっとも、一部には、社員の士気向上や人材繋留等を企図して賃金改善に踏み切る先もみられ始めている。
 この間、パート・アルバイトの賃金については、企業の求人意欲が根強い中で、求職者の正社員志向の高まりもあって、多くの地域で非正規労働力の確保が困難化していることから、上昇傾向にある。

 先行きについては、企業の採用意欲が根強い中で、労働需給の引き締まり傾向が続くものとみられ、賃金引き上げの動きも徐々に広がっていくと予想される。もっとも、団塊世代の退職・再雇用に伴う賃金の引き下げや、賃金の低い新卒社員の増加などから、今後、一人当たり平均でみた賃金の伸び率が大きく高まっていく姿は想定しにくいと思われる。

2.近年の東京における高額消費市場の特徴
——海外ブランドや外資系ホテルの動向を中心に

 個人消費が底堅く推移する中、このところ、高額な財・サービスに対する消費の好調さを指摘する声が多く聞かれている。なかでも、海外ブランドや外資系ホテルについては、ここ数年来、東京への進出が相次いでいるうえ、総じて好業績をあげている。

 こうした動きの背景を窺うと、(1)高額所得者の増加や消費者行動の変化等による高額消費需要の高まり、(2)訪日外国人の増加等に伴うビジネス・チャンスの拡大、(3)地価・賃料相場の下落や規制緩和等に伴う進出コストの低下等、需要サイドの構造的な変化や、グローバル経済との結び付きが強まる中で高額消費市場としての東京の魅力が高まっている点を指摘する先が多い。

 このような海外ブランドや外資系ホテルの動きは、国内企業の事業戦略にも影響を与えている。例えば、老舗高級ホテルでは、外資系ホテルへの対抗もあって大規模な改装に踏み切っているほか、国内ブランドにおいても、海外ブランドとの差別化を図りつつ需要の取り込みに注力している。また、高額消費に関する都心部の集積効果の高まりも踏まえ、出店を積極化する高級レストラン等もみられる。このように、外資参入とそれに触発された国内勢の両者の動きが相乗効果を発揮しつつ、高額消費ニーズの増加に応えるとともに新たな需要を喚起している好循環が、近年の東京における高額消費市場の特徴といえよう。

 東京の高額消費市場は、需要サイドの構造変化や内外企業による様々な高額財・サービスの供給等を背景に、今後も拡大することが見込まれる。もっとも、ごく最近の動きをみると、海外ブランドでは、ユーロ高に伴う値上げの影響もあって、ここにきて売上が伸び悩んでいるとの声も聞かれる。また、高額消費における選択肢の広がり等を背景に、消費者の「選別の眼」も厳しさを増している。このため、高額消費市場においても、ニーズの取り込みに向けた戦略の巧拙が、今後の各社の成長を大きく左右する局面に差しかかりつつあると考えられる。