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金融システムレポート(2021年10月号)

2021年10月21日
日本銀行

  • 「ハイライト」は、今回号の主要な分析を簡潔にまとめたものです。

2021年10月号の問題意識

今回のレポート(2021年10月号)では、新型コロナウイルス感染症が国内の信用リスクに及ぼす影響を点検する際、資金繰りに加えて、債務返済の重要性が徐々に高まってくることを意識しつつ、感染症拡大の影響が企業収益に及ぼす影響について、企業間のばらつきを精緻化したうえで分析を行っている。また、有価証券投資および外貨資金調達にかかるリスクを点検する際、国際金融市場での調整が、わが国金融機関の直面する有価証券投資・調達環境に与える波及効果について、個々の金融機関とノンバンク部門の有価証券ポートフォリオの重複度や資金調達プロファイルの違いがもたらす含意も踏まえて、分析している。

マクロ・ストレステストでは、分析から明らかになった実体経済面と金融市場面のリスク認識を映じた3種類のダウンサイド・シナリオのもとで、金融機関と金融システムの頑健性を検証している。

要旨

金融システムの安定性に関する現状評価

新型コロナウイルス感染症が引き続き国内外の経済・金融面に大きな影響を及ぼしているが、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

政府・日本銀行は、海外当局と緊密に連携しつつ、大規模な財政・金融政策や規制・監督面の柔軟な対応を迅速に講じ、経済活動の下支えと金融市場の機能維持を図っている。感染症の影響が大きい企業の資金繰りに厳しさがみられるが、金融機関の経営体力が総じて充実しているもとで、政策対応が効果を発揮し、金融仲介機能は円滑に発揮されている。金融市場では、全体として良好なリスクセンチメントが維持されるなかで、株式市場や新興国への資金流入が続いている。

先行きのリスクと留意点

マクロ・ストレステストなどを用いた検証結果によると、先行き、感染症の再拡大や米国長期金利上昇に伴う国際金融市場と新興国経済の調整などの状況を想定しても、わが国の金融システムは、相応の頑健性を備えている。もっとも、仮に、国際金融市場が大幅かつ急速に調整する場合には、金融機関の経営体力が低下して金融仲介機能の円滑な発揮が妨げられ、実体経済の一段の下押し圧力として作用するリスクがある。こうした観点から、特に注意すべきリスクは次の3点である。

第一は、国内外の景気回復の遅れなどに伴う信用コストの増加である。感染症拡大が企業の資金繰りや債務返済能力に与える影響をシミュレーションしたところ、先行きの景気が回復基調を辿る場合には、企業の財務基盤が総じて強固なもとで、各種の企業金融支援策が強力な効果を発揮していることから、国内貸出の信用リスクは全体として抑制される。もっとも、感染症の影響は業種間・企業間で大きく異なっており、景気回復が遅れる場合には、その影響が大きい企業への貸出や、以前から脆弱性が蓄積していた貸出の信用力に悪影響が及ぶリスクがある。この観点から、感染症拡大以前から貸出が増えていた不動産業を巡る動向や、レバレッジを大幅に高めた大口与信先の収益動向なども注視していく必要がある。

海外貸出の信用リスクも、海外経済が総じて回復するもとで、全体として抑制されている。もっとも、感染症の影響が大きいとみられる一部ポートフォリオに劣化がみられる。また、今後、脱炭素に向けた世界的取り組みの影響が強まってくる可能性のあるエネルギー関連や先行きの需要に大きな不確実性がある空運関連の与信も、慎重にみていく必要がある。

第二は、金融市場の大幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化である。わが国の金融機関は、国内の低金利環境が長期化するもとで、高めのリターンを求めて、内外クレジット商品や投資信託などへの投資を積極化してきた。こうしたなか、グローバルな金融システムでは、投資ファンドなどのノンバンクが金融仲介活動に占めるプレゼンスが高まっている。近年、わが国の金融機関は、時価変動の相関でみた有価証券ポートフォリオの投資ファンドとの重複度が高まっており、ストレス時に直面する市場性リスクが、自身の投資行動だけでなく、ノンバンクの動向によって増幅される可能性が強まっているとみられる。今回の分析では、この重複度が高い金融機関ほど、国際金融市場におけるショックに強く影響される傾向が確認されている。

第三は、外貨資金市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化である。わが国の金融機関が趨勢的に外貨資産を拡大するもと、2020年3月の市場急変など、調達手段の大きな代替を迫られるストレス事象も発生している。外貨調達手段や調達レートの決定要因の分析によれば、調達環境は、金利や投資ファンドの償還率などのグローバルな市場の変動要因に大きな影響を受けるだけではなく、調達先の分散度合いなど金融機関の調達プロファイルにも左右される。先行きの国際金融市場の調整リスクも念頭に、今後も外貨の調達基盤と資金繰り管理について留意する必要がある。

なお、感染症の影響が収束したあとも、低金利環境と構造要因が、金融機関収益への下押し圧力として作用し続けると考えられる。そうしたもとで、金融仲介機能が停滞方向に向かうリスクや、逆に、利回り追求行動などに起因し、金融システム面の脆弱性が高まる可能性がある点に、引き続き留意していく必要がある。

金融機関の課題

金融機関にとって当面の重要課題は、感染症の帰趨やそれが内外経済に与える影響の大きさについて、不確実性が大きいもとで、経営体力とリスクテイクのバランスを確保し、金融仲介機能を円滑に発揮していくことである。そうした観点からは、上記3つのリスク管理の強化、貸出先企業の経営の持続可能性を踏まえた支援、先行きの不確実性を勘案した資本政策が重要である。

わが国では、人口減少や高齢化が進むなかで、デジタル・トランスフォーメーション(DX)や気候変動など、経済や社会を取り巻く環境が大きく変化しつつある。こうしたもとで、金融機関には、財務の健全性を維持しつつ、持続可能な社会の実現に向け、付加価値の高い金融サービスを提供していくことが期待される。

日本銀行は、以上の点を踏まえて、政府や海外金融当局等と引き続き緊密に連携しつつ、金融システムの安定確保と金融仲介機能の円滑な発揮に取り組んでいく。中長期の視点からも、金融制度の整備や気候関連金融リスク、DX対応などを含め、金融機関の取り組みを積極的に支援していく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2021年9月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
なお、マクロ・ストレステストにおける各シナリオの経済・金融変数については、シナリオ別データ [XLSX 28KB]をご覧ください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp