決済と決済システムを理解するためのキーポイント《基礎編》テーマ9.決済の安定
- この章のキーワード:
- 「安全性」、「効率性」、「信用リスク」、「流動性リスク」、「システミック・リスク」、「日中ファイナリティ」、「中央銀行の役割」
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2つの目標――安全性と効率性
決済や決済システムを改善するという時、そこには「安全性」と「効率性」という2つの目標があります。この2つはしばしば、トレード・オフ(あちらが高まれば、こちらが低まる)の関係にあると言われます。
私的動機と公共目的
どのような立場で「安全性」と「効率性」を論じるのか、即ち、個別の銀行にとってなのか、社会全体という観点からかによって区別して考える必要があります。
個別の銀行が関心を持つ安全性とは、よその銀行の決済不能によって自分が損をしないように備えるということです。しかし、「自宅の雨漏りは自分で直すけれども、大雨で川が氾濫しないように自費で堤防を作ろうとはしない」ことと似て、個別の銀行は、通常、社会全体の安全性の向上(すなわち、「システミック・リスク」を小さくすること)のために率先して自ら費用を払おうとはしません。そこで世の中にお金を供給し、銀行間決済の場となっている中央銀行は、システミック・リスクの削減という公共目的に基づいて、自ら安全で効率的な決済サービスを提供しようとします。それと同時に、中央銀行は、自分が直接運営していない決済システムについても、自発的にシステミック・リスクを削減するよう働きかけていく責務を負っています。
決済システムの構成要素とリスク対策
具体的な対策を行う際には、「決済システム」がどのような要素によって構成されているのかを考え、それぞれについてどのような対策が考えられるかをリストアップしていくことになります。
「決済システム」の構成要素には、(1)システムの「運営者」、(2)コンピュータなどシステムの「設備」、(3)システムを利用する銀行等の「参加者」、および(4)運営者と参加者の共通の「ルール・ブック」があります。
ルール・ブックの中身
「ルール・ブック」は、その内容について法的有効性が確保されている必要があります。「ルール・ブック」に書かれているべき内容で、最も重要なものは、信用リスク対策と流動性リスク対策です。これらのリスクの分散がどのように図られて、決済システムに内包されているシステミック・リスク対策がどのように行われているかが大切だということです。