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第6回決済システムフォーラムの議事の概要

2003年10月27日
日本銀行

(開催要領)

  1. I.開催日時:2003年10月22日(13:30~15:30)
  2. II.場所:日本銀行本店
  3. III.出席者:別添参照

(議題)

  1. I.災害発生時における業務継続体制
  2. II.BIS支払・決済システム委員会報告書「決済システムにおける中央銀行マネーの役割」
  3. III.各決済システムにおける最近の話題

I.災害発生時における業務継続体制

1.「北米大停電時の経験」(日本銀行ニューヨーク駐在参事・山本謙三)

本年8月14日に米国北東部からカナダにかけて発生した大停電時の状況等について、日本銀行ニューヨーク駐在・山本参事が現地での体験を基に報告した。

 今回の大停電は、日本全土にも匹敵する地域に及び、約5千万人に影響が出るなど、災害の規模でみると相当大きなものであった。一方、停電の被害自体は、社会的にも経済的にも小さなものに止まった。金融面でも、市場金利の高止まりや民間決済システムの一部で資金決済の未了が生じたものの、金融市場全体としては大きな混乱はみられなかった。これは、(1)ニューヨーク連銀による決済システム(Fedwire)の運行継続や流動性供給とともに、(2)一昨年の米国同時多発テロ事件の後に各方面で整備・訓練されてきた業務継続のためのプランが上手く機能したことが大きい。

 米国の大手金融機関では、コンピュータセンタや本部事務サイト、またそれぞれのバックアップサイトについて、非常電源装置の整備が進んでいる。ただ、今回の停電ではビルから退去を指示されたケースもあり、本部事務サイトに自家発電装置が備わっていても、バックアップサイトへの移動を余儀なくされることもある。また、どの時点でバックアップサイトへの切替・移動を決断するかは、重要なポイントである。バックアップサイトへの切替が想定どおり行えるか不安があり、切替の判断が遅れてしまうことのないよう、業務継続計画の整備を進め、日頃から訓練しておくことで、こうした「心理的なバリア」を取り除くことが望まれる。

 災害発生時において、金融市場に携わる者は、(1)決済を完了させること、(2)金融取引を継続させること、の2点に最大の努力を払わなければならない。ニューヨーク連銀では、災害等の発生時に、通常利用しない手段を用いてでも、取引継続、決済完了ができる体制の整備・訓練を民間金融機関に対して求めている。

2.日本銀行からの説明

日本銀行より、最近公表した業務継続体制に関する以下の資料等について説明を行った。

(1)「金融機関における業務継続体制の整備について」

 金融機関においては、自然災害、テロ、コンピュータ・トラブルなどによって重要な業務が中断を余儀なくされることがあり、それらを速やかに再開するために、予め対応計画を策定するなど、業務継続体制を整備しておくことが求められる。わが国金融機関の業務継続体制をみると、多くの先では既に何等かの対応計画を策定しているが、その内容については、個別の業務システムや拠点単位の被災に焦点を当てたものが多いこともあって、米国同時多発テロ事件を契機に、大規模災害にも対応できるよう計画を見直そうとする気運が高まっている。

 本年7月に公表した「金融機関における業務継続体制の整備について」は、このような状況を踏まえ、金融機関が業務継続体制の整備を進めていく上での「サウンド・プラクティス」(健全な実務)を取り纏めたものである。本稿は、決済システム運営主体においても、体制整備の際に参考になるものと考えている。

(2)「災害発生時における日本銀行の業務継続体制の整備状況について」

 日本銀行では、一昨年9月の米国同時多発テロ事件以前から、広域被災に備えた業務継続体制について、内部的に検討を継続してきた。同事件以降、民間金融機関、決済システム運営主体等の市場関係者でも、同様の問題意識が共有されてきており、災害発生時におけるわが国金融システム・金融市場全体の業務継続体制が新たな検討課題として認識されている。この間、取引先金融機関等からは、自社の業務継続計画の実効性を高めるため、災害発生時における日本銀行の業務継続体制の概要を示して欲しいとの要望が寄せられていた経緯がある。こうした状況を踏まえ、日本銀行では、本年7月に自らの業務継続体制について、現時点で整備が進んでいる部分の概要をセキュリティ等の面で支障のない範囲で取り纏め、取引先に示すとともに、一般にも公表することを決定した。

 日本銀行では、今後、わが国金融システム全体の業務継続体制を更に強化する観点から、取引先等との意見交換も行いながら、より実践的な業務継続計画の整備を進め、必要に応じ、整備状況を説明していく方針である。また、日本銀行だけでなく、取引先を始めとする金融機関や決済システム運営主体等の市場関係者においても相互に連携して体制整備を図っていくことが不可欠であると考えている。

(3)「金融市場における業務継続体制」

 金融取引の相互依存性の強まりが再確認された米国同時多発テロ事件の教訓を踏まえ、内外の市場関係者は、個々に自社の業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の強化に努めるとともに、被災時にも金融市場の機能を極力維持するための備えとして、金融市場全体として「市場レベルのBCP」の整備に取り組んでいる。英米では、BCPに関し、幅広い市場関係者が連携・協力する場が設けられ、個々のBCPに関する情報交換や共同訓練を行ったり、被災時に必要な情報の集約・還元や市場慣行の見直しを円滑に行う仕組みの整備が進んでいる。先般の北米大停電に際しても、こうした取り組みの成果が活かされて、ニューヨークの金融市場がほぼ正常な機能を維持するのに寄与した。

 わが国でも、市場参加者の間で、個別の市場毎に「市場レベルのBCP」の検討が始められているほか、市場横断的に議論を行う場として、「金融市場のBCPに関するフォーラム」や、より実務的なワークショップが開催されている(事務局:日本銀行金融市場局)。こうした取り組みが今後更に進み、わが国金融市場の機能や安定性が一層高まることが期待される。

II.BIS支払・決済システム委員会報告書「決済システムにおける中央銀行マネーの役割」

日本銀行信用機構室・青木参事役より、本年8月にBIS支払・決済システム委員会が公表した報告書「決済システムにおける中央銀行マネーの役割」の概要を紹介した。

 中央銀行の提供するマネー(当座預金、銀行券)が果たすべき本来の役割としては、主として「連鎖した巨額の銀行間の市場取引の決済」と「顧客のための銀行間支払を大規模に扱う清算システムが算出した受払差額の決済」とがある。中央銀行マネーがこうしたシステミックなインパクトの大きい決済に使われることで、決済の安全性が確保される。

 今回の報告書は、こうした中央銀行マネーが決済システムにおいて本来果たすべき役割を国際化や規制緩和、金融統合等の環境変化とともに次第に果たせなくなりつつあるのではないか、との差し迫ってはいなくとも各国の中央銀行が広く共有する問題意識からスタートしている。報告書は、決済におけるマネーの利用実態や最近の変化、中央銀行の政策の現状および今後のオプションについて、客観的・記述的に分析し、検討の材料を提供することを主眼としている。中央銀行マネーの使われ方を巡る変化の結果としては、決済の「階層化」(tiering)やコルレス銀行業務の進展等に伴う決済システム類似の「準決済システム」(quasi payment system)生成の可能性の高まり、といった事象が指摘されている。こうした中、報告書では、中央銀行が概念上採りうる政策オプションの例として、中央銀行マネーへのアクセスを許容する対象範囲の変更や、中央銀行が提供する決済サービスの効率向上策などを掲げている。また、オーバーサイトの観点からの問題提起も行っている。

III.各決済システムにおける最近の話題

1.東京銀行協会(戝津全銀センター所長)からの説明

 内国為替制度を運営する東京銀行協会では、第5次全銀システムへの移行に向けて現在、最終段階の作業を進めている。本年3月末に新システムの開発作業が完了したのを受けて、4月以降、(1)基本機能確認、(2)性能確認、(3)総合運用確認、(4)移行確認の4工程からなる総合運転試験を実施してきている。これまでに、日本銀行も含めた形で内国為替制度の全加盟金融機関が参加した試験を12回、任意参加の試験を3回実施したが、良好な試験結果が得られている。10月25日に実施する最終の移行確認試験の後に、全ての試験結果を10月中に取り纏め、問題がないことを確認した上で、11月初めには新システム移行に係る最終的な機関決定(11月17日から新システムの稼働開始予定)を行いたいと考えている。

2.証券保管振替機構(水野企画部長)からの説明

 証券保管振替機構では、ペーパーレス、DVP、STP等の実現を目指して各種の具体的制度作りに取り組んでいる。まず、本年3月末に短期社債振替システムが稼働を開始し、電子CPの発行・振替・償還の全プロセスのペーパーレス化、DVP化が実現した。今後、同振替システムが活発に利用されるよう努力して行きたい。一般債については既に制度要項を取り纏め、2005年後半の振替システム実現を目標に準備を進めており、投資信託受益証券についても現在、制度要綱作りを急いでいるところである。また、本年9月に法制審による要綱が取り纏められた株券の完全ペーパーレス化は、来年にも法制化される見込みで、法律施行後5年以内(2009年まで)の実現が予定されている。この株券の廃止にあたっては株主や発行体など幅広い層に周知して、国民的コンセンサスを得ることが大切であると考えている。また、円滑な移行のためにも、ペーパーレス化に先立ち保管振替制度への株券の預託を一層進めたいと考えている。

 このほか、株式等の一般振替(取引所取引以外の決済)のDVP化を来年5月を目途に実現するため、現在システム面のテスト等を実施している。また、STP化に向けた動きとして、国債や一般債等を対象とした決済照合システムの拡充等に取り組んでいる。

3.CLS東京事務所(諸節代表)からの説明

 CLS(Continuous Linked Settlement)システムは、外国為替売買に伴う2通貨の決済をPVP(Payment versus Payment)で行う仕組みの一つである。昨年9月の本格営業開始から約1年が経過した。参加先数や決済件数・金額は増加しており、当初39行であった参加先数が現在54行まで増加しているほか、全通貨合計の1営業日平均の決済件数・金額は10万件、1兆ドルに達している。本年9月からは、新たに4通貨(スウェーデン・クローナ、ノルウェー・クローネ、デンマーク・クローネ、シンガポール・ドル)が決済対象に加わり、CLS取扱通貨は全部で11通貨となった。また、今後、取扱通貨や業務を更に拡大することを予定している。なお、本年3月25日には、システム障害等でCLSシステムに持ち込まれた取引の一部が未決済のまま翌営業日以降に持ち越される事態が発生したが、CLSでは、その後再発防止のための対応策を講じている。

以上


別添

第6回決済システムフォーラム出席者(敬称略)

  • 青木 嘉孝 全国信用協同組合連合会(SANCS運営)決済企画部長
  • 荒井 三郎 東京銀行協会 CDセンター所長
  • 粟野 紀夫 債券決済ネットワーク 業務部長
  • 石田 久也 三井住友銀行(全国銀行協会事務委員会委員長行)事務統括部決済事業グループ長
  • 一柳 幹男 信金中央金庫(しんきんネットキャッシュサービス運営)決済業務部長
  • 加辺 昭彦 農林中央金庫(全国農協貯金ネットサービス運営)市場業務管理部長
  • 清田 辰巳 東京証券取引所 決済管理部長
  • 戝津 耕造 東京銀行協会 全銀センター所長
  • 佐方  裕 東京銀行協会 外国為替円決済制度管理室長
  • 曽我 一彦 UFJ銀行(全国銀行協会市場委員会委員長行)決済業務部次長
  • 冨田 信篤 第二地方銀行協会(SCS運営)業務部次長
  • 長谷川芳完 全国地方銀行協会(ACS運営)業務部長
  • 細沼 義博 東京三菱銀行(全国銀行協会会長行)決済事業部次長
  • 水野  潮 証券保管振替機構 企画部長

(座長)

  • 三谷 隆博 日本銀行理事
  • 森  光彦 労働金庫連合会(ROCS運営)決済業務部長
  • 森康 UFJ信託銀行(信託協会<SOCS運営>会長行)事務企画部主任調査役
  • 諸節  潔 CLS 東京事務所代表
  • 矢部  伸 東京銀行協会 東京手形交換所長
  • 山本 眞樹 東京金融先物取引所 業務部長
  • 和田 耕志 東京銀行協会 事務システム部長

(事務局)

日本銀行信用機構室