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日本銀行当座預金決済の「RTGS化」について

第2部 日本銀行当座預金決済の「RTGS化」

1.日銀当預決済の現状

(1)利用先数

 現在707先が日本銀行に当座預金(以下「当預」)口座を開設している。このうち、当預取引を「日本銀行金融ネットワークシステム」(以下「日銀ネット」)を利用して行う「オンライン取引先」が423先、当預取引を書面ベースで行う「非オンライン取引先」が284先となっている。

日銀当座預金取引先数
  都銀 地銀 信託 長信 外銀 地銀II 信金 系統金融機関 短資 証券 証券金融 その他 合計
96年10月末 10 64 31 3 92 65 357 5 7 61 3 9 707

(出所:日本銀行)

(2)何に利用されているか

 日銀当預口座は、「準備預金制度に関する法律」で指定された金融機関が法律に基づく「準備預金」を日銀への預け金の形で保有する口座として使われているほか、次のような各種の決済に利用されている(以下、簡単化のため「日銀当座預金取引先」のことを「取引先」と記した)。

  1. イ.取引先間の資金取引の決済
     取引先間における短期資金(コール取引など)の貸借が決済されている。
  2. ロ.取引先間の国債売買の代金決済
     取引先間で売買された国債の代金決済が行われている。国債については、証券の決済も日銀で行われており、94年からこれとのDVP決済が実現している。
  3. ハ.民間決済システムの受払い尻の決済
     下記の<参考>に掲げたように、「全銀システム」や「手形交換制度」、「外為円決済制度」といった民間決済システムで算出された各取引先の受払い尻が日銀当預で決済されている。
  4. ニ.付記電文付振替
     付記電文付振替とは、例えば、A銀行がB銀行に日銀当座預金を振替え、そのお金をB銀行にあるC保険会社の口座に入金させたいと考えた場合に用いる仕組み。「最終の受取人がC保険会社である」ということがB銀行に分かる形で、A銀行からB銀行への日銀当預の振替が行われる。特約を結んだオンライン取引先が1件3億円以上の振替に限って利用できる扱い。
  5. ホ.政府や日本銀行との間の資金受払い
     取引先は、国債の利子を国から受取ったり、納税者が銀行窓口で支払った税金を政府に納めるほか、日本銀行との間で金融調節に伴う資金決済を行う。これらの受払いは、各取引先の日銀当預への入金やそこからの引落としによって行われている。
  6. ヘ.紙幣や硬貨の出入れ
     取引先が日銀当預に紙幣(日本銀行券)や硬貨(貨幣)で入金するとか、逆に引出す場合にも日銀当預の受払いが生じている。
<参考> 民間決済システムと日銀当座預金との関係

 商店でお客が買い物をした場合、何とおりかの支払い方法がある。まず、(1)紙幣や硬貨を渡すことが考えられる。また、(2)カードや「振込み」という手段もあるし、場合によっては、(3)小切手で支払うかもしれない。このうち、(1)のように紙幣や硬貨を使うと、その買い物に関する決済はその場で完全に終了する。ところが、(2)や(3)では、代金相当額が取引銀行における商店の口座に入金され、商店がそのお金を自由に使える状態になるまで、決済は完了していない。商店の口座にお金が入るためには、お客の取引銀行と、商店の取引銀行との間でお金を移動させる必要がある。

 銀行間におけるこうしたお金の移動を、お客が買い物をするたびに行っていたのでは、手間ひまがかかって大変である。そこで銀行間のお金のやりとりを集約し、各銀行の受払い尻(=総受取額と総支払額との差額)を計算する仕組みが作られている。これが「全銀システム」(カードや振込による支払が整理される)や「手形交換制度」(小切手や手形による支払が整理される)である。これらとは別に、「外為円決済制度」という仕組みも存在する。これは、円・ドル売買といった外為取引などに関わる、銀行間の円の受払い尻を算出するメカニズムである。

 「全銀システム」や「手形交換制度」、「外為円決済制度」における日々の処理件数・金額は下表のとおりである。これらの制度はいずれも民間部門によって運営されており、「民間決済システム」と呼ばれる。民間決済システムによって算出された各銀行の受払い尻は、実際にお金を移動させて決済する必要がある。こうしたお金の移動を行い、決済を完了させているのが「日銀当座預金」というインフラである。

民間決済システムの取扱件数、金額 1営業日平均、千件(枚)、兆円
  全銀システム 手形交換
(東京手形交換所)
外為円決済制度
  取扱件数 取扱金額 交換枚数 交換金額 交換件数 交換金額
96/9月 4,255 9.8 490 6.0 38 35.3
95年 3,757 8.3 439 5.5 35 30.8
94年 3,540 7.7 462 9.1 29 26.9

(出所:内国為替制度は全国銀行協会連合会。その他は東京銀行協会)

(3)決済金額

 以上を主な内容とする日銀当預決済の規模は、1営業日平均約158兆円に達している(96年9月)。次の表のとおり、決済金額は日銀ネットが稼働した88年に比べるとほぼ倍増しているが、足許のごく数年においては大きく変化していない。

1営業日あたりの日銀当預決済(受払)金額 片道ベース *、兆円、( )内は前年比%
88年 90年 92年 93年 94年 95年 96年9月
81
(+18.1)
149
(+25.2)
145
(+5.1)
160
(+10.3)
165
(+3.1)
164
(-0.6)
158
(-3.7)

(出所:日本銀行)

  • 片道ベースとは、例えば、A銀行からB銀行に10億円が振替えられたとき、これを「10億円」と把握すること(「A銀行の支払10億円、B銀行の受取10億円の計20億円」と把握するのが「往復ベース」)。

 日銀当預における158兆円の決済額を内容別にみたのが次の表である。全体の93%を占める「振替等(147兆円)」の大まかな内訳は、1.コール取引の決済=約120兆円、2.国債売買代金の決済=約20兆円、3.付記電文付振替=約5兆円、となっており、コール取引の決済が占める割合がきわめて大きい。この間、民間決済システムの受払い尻の決済は 約7兆円。また、政府との間の受払いや現金の入金・引出しは、いずれも「その他」に含まれ、両方で約3兆円となっている。

日銀当預決済(受払)金額の内訳 1営業日平均、兆円、( )内は構成比 %
  当預受払            
           
振替等 民間決済
システム尻
      その他
     
手形交換 全銀システム 外為円決済
96年9月 157.9
(100.0)
147.1
(93.2)
7.4
(4.7)
3.8
(2.4)
0.8
(0.5)
2.7
(1.7)
3.4
(2.2)
95年 164.0
(100.0)
153.6
(93.6)
7.2
(4.4)
3.7
(2.2)
0.8
(0.5)
2.7
(1.7)
3.3
(2.0)
94年 164.8
(100.0)
154.1
(93.5)
7.5
(4.5)
3.8
(2.3)
0.9
(0.6)
2.7
(1.7)
3.2
(2.0)

(出所:日本銀行)

(4)どのように決済されているか

 日銀は当預決済のサービスを、通常朝9時から夕方5時まで提供している。当預決済のタイミングについては、大きく分けて2つの選択肢が用意されている。ひとつは「即時処理(=RTGS)」、もうひとつは「時点処理(=時点ネット決済)」である。

 取引先が日銀に当預振替などを依頼する際、「即時処理」を指定すると、その依頼は日銀に受付けられ次第、残高の範囲内(赤残は認められない)で直ちに実行される。他方、「時点処理」を指定すると、その依頼は日銀によってホールドされ、取引先が指定した時点(午前9時、午後1時、3時、5時の4つのオプションがある)になって初めて実行される。その際、当該時点における各取引先の受払い尻(=総受取額と総支払額との差額)が計算され、この金額だけが当預口座に入金されたり引落とされたりする扱いとなっている。次の表は、時点別にどのようなものが決済されているかを示している。

「時点」別にみた日銀当預決済の主な内容
  • 「朝金時点」(午前9時)……コール取引の決済
  • 「交換尻時点」(午後1時)……手形交換尻の決済、コール取引の決済、東京金融先物取引所円資金決済
  • 「3時時点」(午後3時)……外為円決済制度の決済、国債DVPの決済
  • 「為決時点」(午後5時)……全銀システムの決済

 日銀本店における当預決済額の内訳を「即時処理」、「時点処理」の別でみたのが次の表である。資金効率の面についての取引先の考慮から、1日138兆円の決済の99.9%について「時点処理」が選択されている。本年9月の実績でみると、時点別には、午後1時を指定したものが最も多く104兆円(当預決済全体の76%)、次いで3時指定27兆円(同20%)、5時指定6兆円(同4%)、午前9時指定0.6兆円(同0.4%)の順となっている。

日銀当預決済の「即時処理」・「時点処理」別内訳 96年9月実績、1営業日平均、日銀本店分、片道ベース、構成比 %、( )内は決済額 兆円
即時処理 時点処理        
午前9時 午後1時 午後3時 午後5時
0.1 99.9 0.4 75.7 19.6 4.3
(0.1) (137.6) (0.6) (104.2) (26.9) (5.9)

(出所:日本銀行)

 ここで「仮残高」というものについて触れておこう。さきにみたとおり、取引先は日銀に対する決済の依頼を、殆どの場合、処理時点を指定して行っている。処理時点が指定されているから、日銀に決済を依頼した段階では当預残高は動かない。しかし、「時点を指定して依頼済みの支払や、他の取引先が時点において支払ってくる金額が、当該時点で差引き計算されると当預残高が幾らとなるか」は、残高不足を生じさせない(または所要の準備預金額を確保する)といった資金繰りをつけていくうえで不可欠の情報である。こうした、現時点において予想される先々の時点の残高を「仮残高」と呼ぶ。言い換えると、「仮残高」は、その日の終わりの時点を対象に算出した場合、「この取引先が依頼した支払が直ちに実行され、また他の取引先が日銀に依頼したこの取引先向けの支払も直ちに実行されたとした場合、この取引先の当預残高は、いま幾らとなっているか」を示すこととなる。従って、これは、日銀当預決済が全てRTGSで行われた場合にどの程度の残高不足が生ずるかを予想する手がかりとなるもの、と位置づけることが出来る。次のグラフは、決済金額が比較的大きい期末日(96年9月30日)の当預決済において、30分ごとに、そうした「仮残高」がマイナス(日中赤残)となっている取引先の赤残額を足し上げたものであり、ピーク時に全体で約26兆円の赤残が発生している様子がみてとれる。

  • 日中赤残合計額の推移(96年9月30日)のグラフ。詳細は本文のとおり。

2.現状の問題点と「RTGS化」の必要性

(1)日銀当預決済の問題点

 決済リスクの観点からみると、「時点処理」に大きく依存した現行の日銀当預決済には、いくつかの問題点があると言わざるを得ない。そうした問題点はいずれも「時点決済」に固有のもので、すでに第1部で説明したものであるが、改めて整理すると次のとおりである。

  1. イ.システミック・リスクが大きい
    その「時点」における受払い尻のみが入金されたり引落とされる「時点ネット決済」の場合、残高不足が発生した場合それがどの支払指図に対応しているか判然としない。生じている現象は、「支払超の銀行の支払うべき額を全部あわせると、受取超の銀行の受取額合計に一致する」ということだけである。このため「時点決済」は、大前提として「全ての支払超の銀行が全額を支払える」ことを必要としている。言い換えると、日銀当預決済においては、受払い尻を支払えない銀行が1行でも現れると、その時点の決済が全て停止してしまう可能性を有しているということである。このように、現在の日銀当預決済は、近年の環境変化をも踏まえると、システミック・リスク—— ある銀行の決済不能が他の銀行の決済不能をもたらす危険性 ——が極めて大きい仕組みとなっていると言わざるを得ない。
  2. ロ.決済に関する銀行間の信用リスクが管理されていない
    A銀行が「午後1時におけるB銀行への支払」を日銀に依頼すると、この情報は入金の予告としてB銀行に伝えられるが、B銀行は通常これを「確実に受取れるもの」と考え、それを前提に午後1時の他行への支払を日銀に依頼したりする。この場合A銀行からの入金が予定通りに行われないと、B銀行の他行への支払資金に穴が空いてしまうことになる。このことは、ある意味で、B銀行がA銀行に与信を行っていることに等しいが、現状これは、銀行によって与信と認識されたり管理されたりしていないようである。しかし、こうした現象は自己責任に基づく信用リスク管理を徹底するとの観点からは、少なからぬ問題をはらんでいる状態と言わねばならない。
  3. ハ.国際的な決済スキームへの対応が困難
    世界各国の中央銀行がシステミック・リスク削減を目指し、自らの決済システムにRTGSを採用してきた結果、近年では、民間の国際的決済スキームが「各国中央銀行における決済がRTGSで行われること」を前提に構築されるようになっている。具体的には、外為取引の決済リスク削減を目的とした多通貨決済メカニズムがその例であるが、日銀当預決済の殆ど全てが時点決済されている状況を改めないかぎり、日本円がこうしたイノベーションから取り残されることとなろう。

(2)「RTGS化」の必要性

 現在の日銀当預決済における、このような決済リスク面の問題を解決していくには、「時点処理」をなくし「即時処理」のみが行われる環境を整備していくこと—— 「RTGS化」 —— が必要と考えられる。

 日銀当預における現状の問題点のうち、まず「システミック・リスクが大きい」点については、「RTGS化」することにより、たとえひとつの銀行がある時点で支払不能に陥っても、それが当該時点における全ての決済を直ちに停止させてしまう事態は生じなくなるから、システミック・リスクは大幅に削減されることとなる。

 また「決済に関する銀行間の信用リスクが管理されていない」という問題については、「RTGS化」すると、決済に関する与信が支払銀行と受取銀行との間にそもそも生じなくなる。生じ得る与信として、支払銀行が決済(受取銀行への支払)のための流動性を第三の銀行からの貸出に依存する場合があり得るが、こうした貸出は「時点決済」の下における与信と異なり、誰が誰に対しいくら与信するのかが明確となる。このためその信用リスクは、貸出など一般の与信取引における信用リスクと同様の厳格さで管理されるものと考えられる。

 さらに、「RTGS化」を行うことにより、「国際的な決済スキームへの対応が困難」との問題点が解決されるほか、中央銀行の当預決済に係るリスクの大きさを理由に日本円のビジネスを敬遠するような動きに対処できることになると考えられる。

 「RTGS化」が早期に実現すべき重要な決済リスク削減策であることは既に述べたとおりであるが、このほど打ち出されたいわゆる「日本版ビッグバン」構想が2001年を目標としていることに照らせば、遅くともそれまでに「RTGS化」を達成しておくことが、決済システムの安定維持に不可欠である。こうした考え方から日本銀行は、西暦2000年中を目標に日銀当預決済の「RTGS化」を実現すべく努力していくこととした。

3.「RTGS化」された日銀当預決済の枠組み

 日銀当預決済の「RTGS化」は、日銀当預取引先、民間決済システム運営者や日本銀行自身の決済事務に大きな変化をもたらすものであると同時に、金融・資本市場における取引・決済慣行にも影響が及ぶ作業である。このため日本銀行は、「RTGS化」実現の目標である西暦2000年に向けて、取引先金融機関や民間決済システム運営者の方々から意見・提案をいただきながら、必要な検討や決定を行っていきたいと考えているが、出発点において想定している枠組みは概略次のとおりである。

(1)「時点処理」の廃止

 システミック・リスク削減の見地から、市中取引にかかる当預決済につき「時点処理」を廃止し、「即時処理」のみを利用可能とする。

(2)民間決済システムの受払い尻の決済方法

 今日「時点処理」されているもののうち、まず民間決済システムの受払い尻については次のように決済することとする。これは10ページで説明した、米国におけるCHIPSの受払い尻が中央銀行で決済される方法と基本的に同様である。

  1. イ. 日銀に当該システムの「受皿口座」(例:手形交換尻決済口座)が開設される。
  2. ロ. 当該システムが定めた締切り時刻までに全ての「負け先」(差引き支払超の銀行)が「負け額」(差引き支払額)を上記「受皿口座」に払い込む。
  3. ハ. 締切り時刻が到来すると「受皿口座」に「負け額」の総額が払込まれていることが確認される(支払不能の「負け先」があった場合には当該システムの緊急時対策が発動)。
  4. ニ. 「受皿口座」から、全ての「勝ち先」(差引き受取超の銀行)の当預口座に「勝ち額」(差引き受取額)が払出される。

(3)国債DVPの扱い

 金融機関の間の国債取引は、多くの場合、国債DVP —— 「証券の受渡し」(日銀ネット国債系における移転登録・口座振替で行われる)と「資金の受払い」(日銀当預の振替で行われる)を1件ずつヒモづけし、取引当事者が証券や資金を取りはぐれないようにしたシステム—— で決済されている。国債DVPは、RTGSである「即時処理」と予約入力による「時点処理」の双方が利用可能な作り(量的には「時点処理」の利用が圧倒的)となっているが、日銀当預決済の「RTGS化」に伴い、後者の取扱いをどうするかが問題となる。

 この点、「時点処理」は廃止し、国債DVPは「即時処理」に一本化することも考えられなくはない。しかし、国債は極めて頻繁に取引される証券であり、例えば当日、国債売買がA証券→B銀行→C銀行→D証券…と連鎖して決済されることが少なくない。こうしたものを「即時処理」だけで1件ごとに決済しようとすると、「買った国債がまだ入ってこないので、売却先に引渡せない」といった一種の「すくみ」が多発し、全体として国債取引の決済が円滑に行われなくなる可能性がある。もちろん、国債について必要な玉を随時に調達できるようなレポ(現金担保付貸借)市場が存在すれば別であるが、わが国においてそのような市場は未だ存在しないのが実情である。このため、全体のRTGS決済の流れを妨げないような工夫をしたうえで、一部に「時点処理」DVPを残置する可能性やその他の対応方法の余地も含め具体的なスキームがどのようなものとなるか検討していく必要がある。

(4)日銀による日中流動性供与の問題

 当預決済が「RTGS化」された場合における最も大きな問題は、各時点における受払差額のみを決済資金として確保しておけばよい「時点ネット決済」と異なり、支払い1件1件を、支払額に見合う金額を当預口座に確保した上で実行しなくてはならないことから、決済のために日中に必要となる流動性が増大することである。20ページで見た「仮残高」のグラフは、銀行が「RTGS化」後も現在と同じタイミングで日銀に決済の依頼を行ったとした場合、日中ピーク時で30兆円近い日中赤残が発生することを示している。全ての当預取引先の当預残高を合わせても3兆円程度であることから、取引先間の融通でこれだけの残高不足をカバーすることは、ほぼ不可能と言ってよい。

 しかしながら、「RTGS化」実現までの間には市場関係者の様々な工夫により、潜在的な残高不足の額が相当に圧縮されることが望ましい。例えば、現状オーバーナイト取引に偏重しているとも言われるコール取引につき、1本ごとの期間を長くする(もとより金利環境次第の面はあるが、仮に平均期間が2日であったとして、これが4日になればコールの決済額は半減する計算)など、いろいろな対応があり得よう。また、現在、潜在的な残高不足の最大の要因であるコール取引の決済について、金融機関の間では「バイラテラル・ネッティング」—— コール取引の相手との間で、当日の返済額と新規実行額とを差引計算し、その差額のみを受払いすること—— を行うことが考えられる。

 ただ、金融機関におけるこうした努力にもかかわらず、「RTGS化」された日銀当預における残高不足が完全には解消されない事態もあり得ないではない。そのような状況の下では、各銀行は互いに別の銀行からの入金を待って支払を行おうとし、その結果、当預決済が全く行われないまま1日の終わりを迎えるような事態も生じかねないが、これでは「RTGS化」の意味がなくなってしまう。日本銀行としては、当預決済を「RTGS化」した場合にこのような事態が生ずる、と判断されれば、RTGSの仕組みを機能させ決済リスク削減を実現するため、当預取引先に対し日中流動性という「決済の潤滑油」を供与する用意がある。

 仮に日本銀行が日中流動性を供与するとした場合、そのフレームワークは次のようなものとなろう。

  1. イ.現行適格担保の日中当座貸越という形式をとる。
  2. ロ.「RTGS化」された日銀当預決済を円滑に進めるためのファシリティーであることから、希望する全ての当預取引先を対象とする。
  3. ハ.日銀が与信管理を適切に行う見地から、日中流動性供与の限度額を取引先ごとに設定する。
  4. ニ.日銀が供与する日中流動性については、課金を行わない方向で検討。
  5. ホ.供与された日中流動性は当日における日銀ネット当預系の稼働時間内に全額返済されるものとする。万が一返済されなかった場合には、相当のペナルティー金利を付す。また、こうした事態を繰り返す先に対しては別途何らかの対策を講じることもある。