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経済・物価情勢の展望(2018年1月)
基本的見解 1

2018年1月23日
日本銀行

概要

  • わが国経済は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、きわめて緩和的な金融環境と政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、景気の拡大が続き、2018年度までの期間を中心に、潜在成長率を上回る成長を維持するとみられる。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引き上げの影響もあって、成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれる2
  • 消費者物価(除く生鮮食品)は、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、エネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きが続いている。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇するとみられる。この結果、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。
  • 従来の見通しと比べると、成長率、物価ともに、概ね不変である。
  • リスクバランスをみると、経済については概ね上下にバランスしているが、物価については下振れリスクの方が大きい。物価面では、マクロ的な需給ギャップが改善を続け、中長期的な予想物価上昇率も次第に上昇するとみられるもとで、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要がある。
  • 金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。

1.わが国の経済・物価の現状

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が改善するなかで、増加傾向を続けている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっている。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、1%程度となっている。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移している。

2.わが国の経済・物価の中心的な見通し

(1)経済の中心的な見通し

先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。2018年度までの期間を展望すると、国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。すなわち、設備投資は、緩和的な金融環境や成長期待の高まり、オリンピック関連投資の本格化、人手不足に対応した省力化投資の増加などから、増加を続けると予想される。個人消費も、雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向をたどるとみられる。公共投資は、既往の経済対策による押し上げ効果が緩やかに減衰するものの、オリンピック関連需要などもあって高めの水準を維持すると考えられる。この間、海外経済は、先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国経済の回復もしっかりとしたものになっていくとみられることから、緩やかな成長を続けると予想している。こうした海外経済の成長を背景として、輸出も、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。

2019年度については、内需の減速から成長ペースは鈍化するものの、外需に支えられて、景気拡大が続くと予想される。すなわち、景気拡大局面の長期化による資本ストックの積み上がりやオリンピック関連需要の一巡などから、設備投資が減速すると見込まれる。また、家計支出も、下期には消費税率引き上げの影響から減少に転じると予想される3。もっとも、海外経済の成長を背景とした輸出の増加が景気を下支えするとみられる。

以上のもとで、わが国経済は、2018年度までの期間を中心に、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられる4。今回の成長率の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。

こうした見通しの背景となる金融環境についてみると、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、短期・長期の実質金利は見通し期間を通じてマイナス圏で推移すると予想される5。また、金融機関の積極的な貸出スタンスや社債・CPの良好な発行環境が維持され、企業や家計の活動を金融面から支えると考えられる。このようにきわめて緩和的な金融環境が維持されると予想される。

この間、潜在成長率については、政府による規制・制度改革などの成長戦略の推進や、そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり、企業による生産性向上に向けた取り組みなどが続くもとで、見通し期間を通じて緩やかな上昇傾向をたどるとみられる。それに伴い、自然利子率も上昇し、金融緩和の効果を高めると考えられる。

(2)物価の中心的な見通し

前回展望レポート以降、消費者物価の前年比はプラス幅を拡大しているが、エネルギー価格の影響を除くと小幅のプラスにとどまっており、なお弱めの動きが続いている。

この背景としては、携帯電話通信料の値下げといった一時的要因もあるが、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っていることが影響している。企業は、人手不足に見合った賃金上昇をパート等にとどめる一方で、省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収しようとしている。このように、労働需給の着実な引き締まりや高水準の企業収益に比べ、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重なものにとどまっている。もっとも、パート時給がはっきりとした上昇基調を続けているほか、既往の為替円安による仕入価格の上昇などもあって、企業のコスト面からみた価格上昇圧力は着実に高まっている。

先行きの物価を展望すると、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。

今回の物価の見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い6

消費者物価の前年比が2%に向けて上昇率を高めていくメカニズムについて、物価上昇率を規定する主たる要因に基づいて整理すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、労働需給の着実な引き締まりや資本稼働率の上昇を背景に、着実にプラス幅を拡大している。先行きについても、わが国経済が緩やかな拡大を続けるもとで、マクロ的な需給ギャップは2018年度にかけてプラス幅をさらに拡大し、2019年度も比較的大幅なプラスで推移するとみられる。

第2に、中長期的な予想物価上昇率は、2015年夏以降、弱含みの局面が続いていたが、最近は横ばい圏内で推移している。先行きについては、上昇傾向をたどり、2%程度に向けて次第に収斂していくとみられる。この理由としては、(1)「適合的な期待形成」7の面では、マクロ的な需給ギャップが改善していくなかで、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化し、現実の物価上昇率も着実に伸びを高めると考えられること、(2)「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことが挙げられる。

第3に、輸入物価についてみると、2016年春以降の原油価格の持ち直しは、消費者物価のエネルギー価格の押し上げ要因として作用してきたが、その影響は緩やかに減衰すると予想される。一方、為替相場が輸入物価を通じて消費者物価にもたらす影響については、2016年秋以降の為替相場の円安方向への動きが、当面は、価格上昇圧力を高める方向に作用すると考えられる。

3.経済・物価の上振れ要因・下振れ要因

(1)経済の上振れ・下振れ要因

上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、以下の3点がある。

第1に、海外経済の動向である。具体的には、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが考えられる。

第2に、企業や家計の中長期的な成長期待は、少子高齢化など中長期的な課題への取組みや労働市場をはじめとする規制・制度改革の動向に加え、企業のイノベーション、雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。

第3に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下する場合、人々の将来不安の強まりやそれに伴う長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。

(2)物価の上振れ・下振れ要因

以上の要因のほか、物価の上振れ、下振れをもたらす固有の要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。予想物価上昇率は、先行き上昇傾向をたどるとみているが、企業の賃金・価格設定スタンスが積極化してくるまでに時間がかかり、物価が弱めの推移を続ける場合には、予想物価上昇率の高まりが遅れるリスクがある。

第2に、マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度が低い品目があることが挙げられる。公共料金や一部のサービス価格、家賃などは依然鈍い動きを続けており、先行きも消費者物価上昇率の高まりを抑制する可能性がある。また、差別化の難しい財・サービスの価格についても、流通形態の変化や規制緩和等によって競争環境が一段と厳しくなる場合には、消費者物価上昇率の高まりを抑制する可能性がある。

第3に、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向およびその輸入物価や国内価格への波及の状況は、上振れ・下振れ双方の要因となる。

4.金融政策運営

以上の経済・物価情勢について、「物価安定の目標」のもとで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する8

まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、消費者物価の前年比は、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっている点は注意深く点検していく必要があるが、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていると考えられる。これは、(1)マクロ的な需給ギャップが着実に改善していくなかで、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、(2)中長期的な予想物価上昇率は、このところ横ばい圏内で推移しており、先行き、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、着実に上昇すると考えられること、が背景である。

次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、経済の見通しについては、リスクは概ね上下にバランスしている。物価の見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きい。より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、これまでのところ、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていない。また、低金利環境が続くもとで、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがあるが、現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、そのリスクは大きくないと判断している。

金融政策運営については、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。

以上


  1. 1月22日、23日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。 本文に戻る
  2. 消費税率については、2019年10月に10%に引き上げられる(軽減税率については、酒類と外食を除く飲食料品および新聞に適用される)ことを前提としている。 本文に戻る
  3. 2019年10月の消費税率の引き上げは、駆け込み需要とその反動、および実質所得の減少効果の2つの経路を通じて成長率に影響を及ぼすが、2019年度の成長率の下押し幅は、2014年度の前回増税時と比べると、小幅なものにとどまるとみられる。ただし、消費増税のインパクトは、その時々の所得環境や物価動向にも左右されるなど不確実性が大きい点に留意する必要がある。 本文に戻る
  4. わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、「0%台後半」と計算される。ただし、潜在成長率は、推計手法や今後蓄積されていくデータにも左右される性格のものであるため、相当の幅をもってみる必要がある。 本文に戻る
  5. 各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、見通しを作成している。具体的には、長短金利について、市場金利をもとにしつつ、展望レポートと市場参加者との物価見通しの違いを加味し、想定している。 本文に戻る
  6. 2019年10月に予定される消費税率の引き上げが物価に与える影響について、税率引き上げが軽減税率適用品目以外の課税品目にフル転嫁されると仮定して機械的に計算すると、2019年10月以降の消費者物価前年比(除く生鮮食品)は+1.0%ポイント押し上げられる(2019年度でみれば、影響はその半分の+0.5%ポイントとなる)。 本文に戻る
  7. 中長期的な予想物価上昇率は、中央銀行の物価安定目標に収斂していく「フォワードルッキングな期待形成」と、現実の物価上昇率の影響を受ける「適合的な期待形成」の2つの要素によって形成されると考えられる。詳細は、「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」(2016年9月)参照。 本文に戻る
  8. 「物価安定の目標」のもとでの2つの「柱」による点検については、日本銀行「金融政策運営の枠組みのもとでの「物価安定の目標」について」(2013年1月22日)参照。 本文に戻る

参考

2017から2019年度の政策委員の大勢見通し

――対前年度比、%。なお、 内は政策委員見通しの中央値。

表 2017から2019年度の政策委員の大勢見通し
実質GDP 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
消費税率引き上げの影響を除くケース
2017年度 +1.8から+2.0
+1.9
+0.7から+1.0
+0.8
10月時点の見通し +1.7から+2.0
+1.9
+0.7から+1.0
+0.8
2018年度 +1.3から+1.5
+1.4
+1.3から+1.6
+1.4
10月時点の見通し +1.2から+1.4
+1.4
+1.1から+1.6
+1.4
2019年度 +0.7から+0.9
+0.7
+2.0から+2.5
+2.3
+1.5から+2.0
+1.8
10月時点の見通し +0.7から+0.8
+0.7
+2.0から+2.5
+2.3
+1.5から+2.0
+1.8
  1. (注1)「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。
  2. (注2)各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、上記の見通しを作成している。具体的には、長短金利について、市場金利をもとにしつつ、展望レポートと市場参加者との物価見通しの違いを加味して、想定している。
  3. (注3)消費税率については、2019年10月に10%に引き上げられること(軽減税率については酒類と外食を除く飲食料品および新聞に適用されること)を前提としているが、各政策委員は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いた消費者物価の見通し計数を作成している。消費税率引き上げの直接的な影響を含む2019年度の消費者物価の見通しは、税率引き上げが課税品目にフル転嫁されることを前提に、物価の押し上げ寄与を機械的に計算したうえで(+0.5%ポイント)、これを政策委員の見通し計数に足し上げたものである。

政策委員の経済・物価見通しとリスク評価

(1)実質GDP

実質GDP(前年比)の実績値。2012年度 0.8%、2013年度 2.6%、2014年度 -0.3%、2015年度 1.4%、2016年度 1.2%。実質GDP(前年比)の見通し。2017年度 1.8%:●3、1.9%:●4、2.0%:●1▼1、中央値:1.9%。2018年度 1.3%:●2、1.4%:●3▼1、1.5%:△1●1、1.8%:●1、中央値:1.4%。2019年度 0.6%:▼1、0.7%:●4▼1、0.8%:▼1、0.9%:●2、中央値:0.7%。

(2)消費者物価指数(除く生鮮食品)

消費者物価指数(除く生鮮食品)(前年比)の実績値。2012年度:-0.2%、2013年度:0.8%、2014年度:0.8%、2015年度:-0.1%、2016年度:-0.2%。消費者物価指数(除く生鮮食品)(前年比)の見通し。2017年度 0.7%:●2、0.8%:●5、1.0%:●1、1.2%:▼1、中央値:0.8%。2018年度 0.8%:●1、1.3%:▼1、1.4%:●3、1.5%:●2、1.6%:●1▼1、中央値:1.4%。2019年度 1.0%:▼1、1.5%:▼1、1.7%:▼2、1.8%:●1▼1、1.9%:▼1、2.0%:●1▼1、中央値:1.8%。

  1. (注1)実線は実績値、点線は政策委員見通しの中央値を示す。
  2. (注2)、△、▼は、各政策委員が最も蓋然性が高いと考える見通しの数値を示すとともに、その形状で各政策委員が考えるリスクバランスを示している。は「リスクは概ね上下にバランスしている」、△は「上振れリスクが大きい」、▼は「下振れリスクが大きい」と各政策委員が考えていることを示している。
  3. (注3)消費者物価指数(除く生鮮食品)は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベース。