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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2023年3月9、10日開催分)

2023年5月8日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2023年4月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2023年3月9日(14:00から16:06)
 
3月10日(9:00から11:23)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥 達雄 大臣官房総括審議官
  • 内閣府 井上裕之 内閣府審議官
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局政策企画課長 中嶋基晴
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画役 吉村 玄
  • 企画局企画役 武田憲久
  • 企画局企画役 丸尾優士

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(1月17、18日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された長短金利操作の運用方針に従って、10年物国債を対象とする0.5%の利回りでの固定利回り方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。前回会合で拡充した共通担保資金供給オペについては、金利入札方式による貸付期間5年のオペを実施した。これらの金融市場調節のもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移している。前回会合以降のイールドカーブをみると、共通担保資金供給オペ拡充による短中期金利の押し下げ効果のほか、一部投資家による超長期国債の買いもあって、ほぼ全年限にわたって低下している。イールドカーブの形状は、ひと頃に比べれば総じてスムーズになっているものの、引き続き、歪みが観察されている。また、債券市場サーベイにおける市場の機能度判断DIは、マイナス幅が拡大している。この間、国債補完供給については、制度趣旨に即した利用を確保するとともに、金融市場調節の一層の円滑化を図る観点から、10年物国債のカレント3銘柄のうち、レポ市場における需給が長期にわたり著しく引き締まる懸念があると認められる銘柄を対象に、最低品貸料の見直し等の措置を実施した。なお、チーペスト銘柄の指値オペおよびチーペスト銘柄等にかかる国債補完供給の要件緩和措置については、長期国債先物の限月交代を踏まえて、対象銘柄の追加・入れ替えを実施した。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。さらに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から、貸付期間2週間の共通担保資金供給オペを金額に上限を設けず実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.036から-0.007%程度、GCレポレートは-0.111から-0.079%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。

わが国の株価(TOPIX)は、大幅に上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場、円の対ユーロ相場とも、米欧金利の大幅な上昇等を背景に、円安方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、回復ペースが鈍化している。中国では、年明け以降、感染症が急速に抑制されるもとで、経済活動の正常化に向けた動きがみられているものの、先進国では、高インフレや利上げが、引き続き下押し圧力となっている。米国では、良好な雇用環境が続くもとで個人消費は底堅く推移しているものの、鉱工業生産は弱含んでいる。欧州でも、個人消費を中心に、景気が緩やかに減速している。中国以外の新興国・資源国では、ASEANやインドを中心に内需の改善が続いているが、IT関連財の調整局面が続くもとで、輸出は、NIEsを中心に減速している。先行きは、世界的なインフレ圧力が残存し、各国中銀による利上げが続く中、ウクライナ情勢も重石となり、当面、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとみられる。その後は、インフレ圧力が次第に減衰し、中国における経済活動の正常化も進むもとで、徐々に持ち直していくとみられる。先行きの見通しを巡っては、世界的なインフレ圧力のほか、ウクライナ情勢の帰趨や中国経済の動向について、不確実性がきわめて高い。

地域別にみると、米国経済は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いている。個人消費は、物価上昇による下押し圧力が続いているが、これまで積み上がってきた貯蓄や、堅調な労働市場が引き続き下支え要因となるもとで、底堅く推移している。住宅投資は、利上げを受けて減少している。設備投資は、小幅の増加を続けているが、生産は、緩やかに減少しており、製造業の業況感も、幾分悪化している。物価面をみると、PCEデフレーターの前年比は、ピーク時からは鈍化しているが、ウエイトの大きい家賃を中心とするサービス価格の伸び率拡大を受けて、引き続き5%台半ばの高い上昇率となっている。

欧州経済は、ひと頃に比べてエネルギー供給懸念は緩和しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、緩やかに減速している。個人消費は、経済活動再開の影響が一巡し、高インフレやECBによる利上げが続くもとで、緩やかに減速している。輸出や生産は、振れを伴いつつも、全体として横ばい圏内で推移している。設備投資は、基調として改善している。物価面をみると、HICPの前年比は、エネルギー価格のプラス寄与が縮小していることを背景に、ピーク時からは鈍化しているが、引き続き高水準で推移している。

中国経済は、減速した状態から持ち直しつつある。個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、持ち直しつつある。輸出は、一部のIT関連財や先進国における消費財の在庫調整の影響を受けて、減少している。固定資産投資は、インフラ投資が堅調に推移しているものの、不動産投資が減少を続けていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。こうしたもとで、生産は、経済活動の正常化に向けた動きを受けて、持ち直しつつある。

中国以外の新興国・資源国経済は、内需の緩やかな改善が続いているものの、IT関連財を中心に輸出が減速しており、総じてみれば改善ペースが鈍化している。NIEs経済は、IT関連財を中心に輸出が減速する中、内需の改善ペースが鈍化している。ASEAN経済は、輸出が減速しているものの、インフレ率の伸びが鈍化するもとで、内需の改善が続いており、総じてみれば回復している。

海外の金融市場をみると、米欧の長期金利は、経済・物価指標の市場予想対比での上振れ等を受けて、大幅に上昇している。先進国の株価は、金利上昇が重石となる中、米国では横ばい圏内で推移したが、欧州では、エネルギー不足に対する懸念の後退が続いていること等から、上昇した。新興国通貨は、米国金利が上昇し、ドルが選好されるもとで、全般として下落した。原油価格は、振れを伴いつつも、期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きについては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

輸出や生産は、海外経済の回復ペース鈍化の影響を受けつつも、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、車載向け半導体の世界的な需給逼迫が徐々に緩和しているが、大雪や一部メーカーの輸出比率引き下げの影響などを背景に、大きめに減少した。資本財は、半導体等製造装置で反動減が続いているが、全体としてみれば、高水準の受注残に支えられて、高めの水準で推移している。情報関連は、スマートフォンやパソコン向けの半導体等電子部品での調整圧力が継続しているが、自動車関連の需要堅調もあって、ひと頃と比べて低めの水準で横ばい圏内の動きとなっている。先行きの輸出や生産は、海外経済減速の影響を受けつつも、供給制約の緩和と自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、当面、横ばい圏内で推移するとみられるが、その後は、海外経済が持ち直すもとで、再び増加すると予想される。

企業収益は、全体として高水準で推移している。法人企業統計の全産業全規模の経常利益(季節調整値)をみると、昨年10から12月は、前期からは小幅の減益となったが、水準は引き続き高めとなっている。そうしたもとで、設備投資は、緩やかに増加している。GDPベースの実質設備投資は、昨年7から9月まで2四半期連続ではっきりと増加した後、10から12月は、大型案件の反動もあって、前期比-0.5%の小幅の減少となった。先行きの設備投資は、企業収益が全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加を続けると予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)は、振れを均してみれば、増加している。また、建築着工(民間非居住用)の工事費予定額も、振れを伴いつつも、増加している。

個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、全国旅行支援による押し上げもあって、昨年10から12月に緩やかに増加した後、1月の10から12月対比は、概ね横ばいとなっている。形態別にみると、耐久財消費は、供給制約の緩和などを背景に持ち直している。非耐久財消費は、物価上昇の影響から飲食料品や衣料品に弱めの動きがみられるもとで、減少している。サービス消費は、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに増加している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データに基づくと、2月以降の個人消費は、物価高の影響を引き続き受けつつも、感染状況の落ち着きにも支えられ、緩やかな増加基調を維持しているとみられる。ただし、一部小売店からは、低価格帯商品への需要シフトに加え、購買点数の減少も指摘されるなど、家計の生活防衛意識が高まっている可能性を危惧する声も増加している。個人消費関連のマインド指標をみると、消費者態度指数は、雇用環境の改善などを背景に幾分改善しているが、水準としては、物価上昇が意識されるもとで、暮らし向きの判断を中心になお低水準にある。先行きの個人消費は、物価高の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぎ、名目所得も徐々に改善していくもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられて、緩やかな増加を続けると予想される。

雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、正規雇用は、やや長い目でみて、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかな増加傾向を辿っている。非正規雇用は、対面型サービス業や医療・福祉を中心に緩やかに増加している。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。所定内給与は緩やかな増加を続けているほか、足もとの特別給与は、一部企業における物価上昇を受けた一時金の支給もあって、大幅に増加している。また、各種のアンケート調査等では、本年の春季労使交渉における賃金改定幅は、近年の平均的な水準をかなり上回るとの見方が多くなっている。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の改善に伴って増加を続けると考えられる。実質ベースでは、物価上昇率が低下し、名目所得も改善していくもとで、次第に前年比マイナス幅が縮小していくとみられる。

物価面について、商品市況は、商品ごとにばらつきを伴いながら、総じてみれば、下落している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況の動向や為替相場の動きを反映して、上昇ペースが鈍化している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、4%程度となっている。予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果に加え、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響も減衰していくことから、23年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、経済活動の持ち直しや原材料コストの上昇を受けた運転資金需要の高まりから、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、発行スプレッドの拡大は一服しており、総じて良好な発行環境となっているが、発行年限を短期化するなどの動きがみられる。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、いずれも3%台半ばとなっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済活動の持ち直しに伴い、中小企業も含めて改善傾向が続いている。

この間、マネタリーベースは、コロナオペの残高が減少した一方、長期国債買入れが増加したことから、前年比マイナス幅は縮小している。マネーストックの前年比は、2%台後半のプラスとなっている。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢

国際金融資本市場について、委員は、米国の物価上昇率の鈍化や欧州のエネルギー供給問題を巡る懸念の後退などを背景に、一旦は市場センチメントに改善の動きがみられたものの、その後、米欧の経済・物価指標の上振れなどを受けて、金融引き締めの長期化が意識され、市場センチメントが再び慎重化しているとの見方を共有した。一人の委員は、米欧における金利上昇が一部投資家の運用成績等に影響を与えはじめており、市場の動向を丁寧にモニタリングすることが肝要であると述べた。何人かの委員は、米欧のインフレが高止まり、中央銀行の利上げが長期化した場合に、金融市場や金融システムに及ぼす影響については注意が必要であるとの見方を示した。

海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識で一致した。多くの委員は、中国において経済活動の正常化が進展しているものの、引き続き、先進国を中心に減速しているとの認識を示した。先行きについて、委員は、グローバルなインフレ圧力が残存し、各国中銀による利上げが続く中、ウクライナ情勢も重石となって、当面、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、減速していくとの見方で一致した。一人の委員は、世界的に、サービス需要は相対的に堅調を維持しているとみられる一方、財需要は、金利上昇の影響等から減速しつつあり、特にIT関連財の需要減速が顕著になっていると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いているとの認識を共有した。多くの委員は、利上げの継続にもかかわらず、労働需給は依然として逼迫しており、FRBの今後の政策対応や、その実体経済や金融市場等への影響についてよくみていく必要があるとの認識を示した。一人の委員は、賃金上昇を背景としたインフレは、コストプッシュによるインフレと比較して、持続性が高いと考えられるため、その抑制は容易ではないとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、ひと頃に比べてエネルギー供給懸念は緩和しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、緩やかに減速しているとの見方を共有した。複数の委員は、最終消費財の価格上昇や賃金上昇率の高さから、欧州での物価上昇圧力はなお強いとの認識を示した。一人の委員は、歴史的な暖冬やガス調達先の多様化等により経済環境が改善しており、リセッションは回避できる可能性が高まっているとの認識を示した。別の一人の委員は、ウクライナ情勢の経済的な影響について、既に十分に認識されているため、状況が大きく変化しない限りは、追加的な影響は限定的ではないかと述べた。

中国経済について、委員は、減速した状態から持ち直しつつあるとの認識で一致した。複数の委員は、当面は、経済活動の正常化に伴う回復が期待されるものの、不動産市場の低迷などにより経済活動が下押しされており、先行きについてはきわめて不透明感が強いとの見方を示した。一人の委員は、若年層の高失業率の長期化や、地政学的リスクを受けた対中投資の減少等により、経済の低迷が長引く可能性もあると述べた。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、内需の緩やかな改善が続いているものの、IT関連財を中心に輸出が減速しており、総じてみれば改善ペースが鈍化しているとの認識を共有した。ある委員は、高金利が続くもとで、債務負担の増加にも留意が必要であるとの認識を示した。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。複数の委員は、企業の投資意欲は高いほか、個人消費も回復基調にあるとの見方を示した。

景気の先行きについて、委員は、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとの見方を共有した。また、その後の景気展開について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方を共有した。ある委員は、海外経済の減速により大企業の業績にはばらつきがみられているが、供給制約の緩和等に加え、経済活動の再開を受けたサービス消費やインバウンド消費の増加、価格転嫁や賃上げモメンタムの高まり等により、わが国経済は潜在成長率を超える成長が続くとの見解を示した。別のある委員は、海外経済の減速懸念は根強いものの、インバウンド需要の本格回復や製造業の生産拠点の国内回帰による民間設備投資の拡大が見込まれることもあり、景気の持ち直し基調は基本的に維持されるとの見方を示した。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。ある委員は、輸出は足もとやや弱い動きであり、中国の春節の時期のずれなどの要因も影響しているとみられるものの、海外経済の動向とともに注意が必要との認識を示した。複数の委員は、中国経済の回復がわが国の輸出に及ぼす影響についての見解を述べ、サービス部門中心の回復では輸出誘発力は小さいため、わが国の資本財輸出の先行きにとっては中国の生産活動がどこまで回復するかが重要であると指摘した。また、一人の委員は、自動車向け半導体等の供給制約も、わが国の輸出や生産の伸び悩みに影響していると述べた。

設備投資について、委員は、企業収益が全体として高水準で推移するもとで、緩やかに増加しているとの認識を共有した。一人の委員は、低水準の実質金利や高水準の企業収益のもとで、製造業を中心に投資意欲は底堅いと述べた。また、別の一人の委員は、企業行動に関するアンケート調査をみると、企業の長期の経済成長率見通しが高まっている点は前向きな動きとして注目されると述べたうえで、経済成長率の見通しが高まるもとで、企業の設備投資は引き続き堅調であると考えられると付け加えた。ある委員は、脱炭素化投資やデジタル投資も設備投資を下支えするとの見方を示した。

個人消費について、委員は、物価上昇の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに増加しているとの見方で一致した。ある委員は、個人消費は、全体としては回復基調にあるが、それには各種の消費刺激策の効果も影響しているため、物価上昇の影響を含めて、回復の持続力を注視したいと述べた。また、何人かの委員は、物価高による影響が想定以上に大きくならないか注意を要するとの認識を示した。このうち一人の委員は、足もとの消費を下支えしているペントアップ需要はいずれ一巡することを踏まえると、企業の収益改善と賃金上昇の好循環が、先行きの消費動向の鍵となるとの見方を示した。別の一人の委員は、今後賃上げの動きが広がり、消費マインドの改善につながっていくことを期待していると述べた。一人の委員は、資源・原材料価格の上昇の影響から当面は物価高が続くとみており、特にエネルギー価格は生活費の中で大きなウエイトを占めるため、消費マインドへの影響を注視したいと述べた。

雇用・所得環境について、委員は、全体として緩やかに改善しているとの見方で一致した。多くの委員は、今年の春季労使交渉における賃上げの動きは、大企業だけではなく中小企業にも広がっているとみられると指摘した。一人の委員は、労働需給の逼迫を背景に、一部の企業の賃上げが、その競合相手や周辺地域の企業の賃上げにもつながっていくといった動きもみられてきていると述べた。また、複数の委員は、前向きな企業の賃金設定行動がみられているだけに、中小企業を含め、高めの賃上げが実現する可能性が高まっているとの見解を示した。複数の委員は、先行き、これまで労働供給の増加を支えてきた女性や高齢者の労働参加の増加ペースは鈍化していくと見込まれており、これが、労働市場の需給の引き締まりやそれに伴う賃金上昇圧力につながる可能性もあるとの見方を示した。他方、何人かの委員は、地方の中小企業では賃上げそのものが難しいという声も聞かれていると述べたうえで、労使交渉の結果だけでなく、その後の賃上げの広がりと持続性について見極めていく必要があるという認識を示した。この間、ある委員は、持続的な賃上げの実現には、従業員のエンゲージメントを高めるような職務に応じた賃金カーブへの改革や、コア事業を強化するポートフォリオ改革、労働の高付加価値化や高生産性事業への労働力のシフトが重要であるとの見方を示した。この委員は、中小企業の賃上げ率向上には、適正な価格転嫁と持続的な付加価値向上が重要であると付け加えた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、4%程度となっているとの評価で一致した。ある委員は、2月の東京都区部の消費者物価は、予想通り、プラス幅がしっかりと縮小したと述べた。予想物価上昇率について、委員は、上昇しているとの見方で一致した。

物価の先行きについて、委員は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果に加え、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響も減衰していくことから、23年度半ばにかけてプラス幅を縮小していくとの見方で一致した。また、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果の反動もあって、再びプラス幅を緩やかに拡大していくという認識も共有した。複数の委員は、一旦プラス幅を縮小した物価が再び2%に向けて伸びを高めるためには、粘着性の高いサービス価格の持続的な上昇が重要となるとの見方を示した。一人の委員は、そうしたサービス価格の持続的な上昇には、賃金の一段の上昇が不可欠であると付け加えた。何人かの委員は、現在は、物価と賃金の好循環が実現するかどうかを注視している局面であるが、先行き物価が想定以上に上昇していくリスクについて、十分に注意を払っていく必要があるとの認識を示した。この点に関し、一人の委員は、企業の価格転嫁の動きが続いていることや、サービスの価格も次第に上昇ペースを高めてきており、持家の帰属家賃を除くサービスの価格は、前年比1%台後半まで上昇している点に注目していると述べた。ある委員は、昨年来の海外発の大幅な価格ショックが、物価に対するノルムを転換させる可能性があり、コストプッシュ圧力の減衰後も企業の前向きな価格・賃金設定行動が続き、想定よりも高い物価上昇が持続することも考えられると述べた。また、何人かの委員は、先行き、コストプッシュ圧力が減衰していく中で、需給ギャップの改善が遅れたり、価格転嫁および賃上げの動きが広がりや持続性を欠いた場合には、再び物価が上がりにくい状況に戻る可能性もあるとの見方を示した。一人の委員は、物価形成の基本メカニズムに立ち返るとともに、幅広い材料を活用し、物価動向に関する分析を深めていくことが重要であるとの認識を示した。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高いとの認識で一致した。そのうえで、委員は、金融・為替市場の動向や、そのわが国経済・物価への影響を十分注視する必要があるとの見方を共有した。ある委員は、中国における経済活動の正常化の急速な進展は、世界経済に好影響を与えるとみられる一方、資源価格などの押し上げ要因となる可能性もあるとの見方を示した。何人かの委員は、企業の価格転嫁の動きが継続する中で、国際商品市況の想定以上の上昇等がみられた場合には、コストプッシュ圧力の減衰が後ずれする可能性があると述べた。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの見方で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しているという認識を共有した。これらの点に関し、ある委員は、金利のボラティリティの高まりから社債発行がしづらいという意見も一部に聞かれるが、金融環境は総じて緩和的な状態が継続しているとの見方を示した。別のある委員は、変動金利型貸出のベースレートとなる短期金利は落ち着いているほか、固定金利型貸出や社債発行のベースレートとして相応のウエイトを占める国債金利も短中期ゾーンでは上昇が抑制されていると指摘した。また、社債市場について、ある委員は、発行の閑散期にあるため、確定的な評価をするには時期尚早であるが、国債市場の機能度低下の影響は引き続き残っているほか、発行年限の短期化や銀行貸出へのシフトも観察されており、引き続き注視していく必要があると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、経済・物価情勢を踏まえると、現行の金融緩和を継続することにより、賃金の上昇を伴う形で「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成することが重要であるとの見解で一致した。複数の委員は、「物価安定の目標」の実現に向けて良い兆しがみられるなど、環境は変化しつつあるとの見方を示した。この点に関し、一人の委員は、2%の「物価安定の目標」と整合的な物価と賃金の好循環が始まったと考えるにはまだ距離があると述べた。複数の委員は、イールドカーブの歪みなどの副作用もあるだけに、効果と副作用とのバランスの検証も含め、市場の機能度を予断なく見極めていく必要があるが、現在は大規模緩和を粘り強く続けていくべき局面であるとの見解を示した。一人の委員は、持続的な賃金上昇に必要な供給サイドの改革が進み、物価と賃金の好循環への期待が確信に変わるよう、粘り強く金融緩和を継続し、企業の改革の動きを支える必要があると述べた。別の一人の委員は、足もとの物価高を受けて緩和の見直しを求める意見も聞かれるが、物価に関するノルムの転換という積年の課題の解決の重要性を踏まえると、政策転換が遅れるリスクよりも、拙速な政策転換によって目標達成の機会を逃すリスクの方を重視すべきであると述べた。ある委員は、金融政策の修正は、金融市場や幅広い経済主体に影響を与えるものであることから、慎重に検討・議論する必要があると述べた。別のある委員は、長期にわたる低金利環境からの出口局面では、資金運用・調達の環境変化に対して、企業や家計、金融機関の備えが十分かどうか、慎重に確認する必要があるとの見解を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針に沿って、長期金利はゼロ%程度で推移しているとの認識を共有した。何人かの委員は、現在は、市場機能改善のために講じてきた様々な措置の効果を見極める段階であると述べた。複数の委員は、イールドカーブの形状をみると、歪みは引き続き観察されているものの、共通担保資金供給オペや国債補完供給の運用面の工夫などもあって、ひと頃に比べれば総じてスムーズとなっているとの認識を示した。また、ある委員は、一部のカレント銘柄を含むイールドカーブの歪みに言及し、市場機能に配慮した調節運営の重要性を指摘したうえで、今後、利回りが円滑に形成されていくかどうかを含め、市場の動向については注視していく必要があるとの見解を示した。一人の委員は、イールドカーブ・コントロールの運用見直しの市場機能への効果を見極めるにはまだ時間が必要であるが、消費者物価上昇率が実際に低下し、それを受けて市場の金利見通しが落ち着いてくれば、イールドカーブの歪みも是正されていくとの見方を示した。そのうえで、多くの委員は、イールドカーブの長期ゾーンにおいて市場機能が低下した状態が続いているほか、社債市場では、発行スプレッドの拡大は一服しているものの、国債市場の機能度の低下の影響は残っており、引き続き注視が必要であるとの認識を共有した。複数の委員は、ベースレートである国債金利に歪みがみられると、社債の発行時や購入時における利回りの目線が定まりにくくなると指摘した。この点について、ある委員は、イールドカーブの歪みは十分に是正されたとは言い難いものの、現時点では、企業金融面への影響は限定的であるとの見方を示した。この間、一人の委員は、今後のマーケットの状況、経済、物価や賃金の動向を、謙虚かつ真摯にみていき、必要な場合には、社債市場やスワップ市場を含めた市場機能の改善を図り、金融緩和の効果が実体経済に持続的・効果的に伝わるようにすることが必要であると述べた。

また、委員は、2%の「物価安定の目標」についてコメントした。何人かの委員は、2%の「物価安定の目標」を堅持することがきわめて重要であると述べた。このうち一人の委員は、「物価安定の目標」の達成には、2%の目標の達成にコミットすることによって、予想物価上昇率を目標にアンカーすることが重要であると付け加えた。また、もう一人の委員は、目標についての議論を始めると、「物価安定の目標」の実現の可能性が増しているにもかかわらず、金融政策運営に関する無用な憶測を招く惧れがあるとの懸念を示した。この委員は、同様に、政府と日本銀行の共同声明についても改定の必要性はないと付け加えた。ある委員は、わが国経済にとっては、経済成長とともに賃金も増加する経済・賃金構造への改革や労働市場改革が重要であり、その実現に時間がかかっているからといって物価目標を引き下げて金融緩和を見直すと、必要な改革が先送りになるリスクがあると述べた。また、ある委員は、物価上昇率ではなく賃金上昇率を目標にすべきという意見が聞かれることがあると指摘したうえで、実質賃金は、中長期的には、金融政策ではコントロールできない労働生産性の伸びによって決定されるため、金融政策の目標とするのは難しいのではないか、との見解を示した。この点に関連して、ある委員は、賃金上昇率と物価上昇率がそれぞれプラスで安定的に保たれれば、その伸び率は高い水準でも良いのかという問題提起を行った。これに対し、複数の委員は、一般に物価上昇率が高いと、その変動も大きくなるというのが歴史的な経験であると指摘したうえで、物価の変動を意識せずに企業や人々が経済行動を行えるような安定的な基盤を提供するという物価安定の理念を踏まえると、賃金上昇率と物価上昇率が安定的に保たれれば伸び率が高くても良い、ということにはならないのではないか、との見方を示した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。

「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

短期金利:
日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

(2)(1)に関し、長短金利操作の運用として、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。また、(1)の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。」

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。また、委員は、CP等の残高が感染症拡大前の水準(約2兆円)に戻ることを踏まえ、CP等は、約2兆円の残高を維持すること、社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していくこと、ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めること、が適当であるとの認識も共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。なお、何人かの委員は、新型コロナウイルス感染症について、新規感染者数の減少傾向が続くもとで、政府が5月に感染症法上の位置付けを5類感染症に移行することを決定した点を指摘した。そのうえで、これらの委員は、感染症への警戒感も和らいできている中、感染症に紐づけた政策運営スタンスの記述については、現時点では維持するとしても、先行き、見直しを検討することが適当であるとの認識を示した。また、一人の委員は、物価を巡る不確実性との関連という論点もあると付け加えた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 黒田総裁は2013年、雨宮副総裁・若田部副総裁は2018年のご就任以来、物価の安定を通じた日本経済の健全な発展に向け、尽力してこられた。在任期間中のこうしたご努力に改めて深く敬意を表する。
  • 令和5年度予算は、防衛力の抜本的な強化、こども・子育て支援の強化など、現下の重要課題に一定の道筋を付けるもので、一日も早い成立に向け尽力する。
  • 総合経済対策および令和4年度第2次補正予算の執行を加速し、賃上げに向けた取組みを強化するとともに、足もとの物価動向に速やかに対応すべく、エネルギー・食料品価格の影響緩和について、新たな対応策を取りまとめていきたいと考えている。
  • 日本銀行には、政府との連携の下、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、このところ、一部に弱さがみられるものの、緩やかに持ち直している。ただし、世界的な金融引き締め等が続く中、海外景気の下振れがわが国の景気を下押しするリスクとなっている。
  • 2月の東京都区部の消費者物価指数が1月より1%ポイント上昇幅が縮小するなど、総合経済対策・補正予算の効果が現れている。
  • 他方、これまでの原材料価格の上昇や円安の影響による食料品を中心とした値上げが続いており、総合経済対策・補正予算の執行をさらに加速し、賃上げに向けた取組みを強化するとともに、足もとの物価動向に速やかに対応すべく、エネルギー・食料品価格の影響緩和について、必要な追加策を検討していく。
  • 日本銀行には、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する。
  • 総裁・両副総裁におかれては、2013年および2018年のご就任以来、わが国経済のデフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けて、大変なご尽力をしてこられた。このことに改めて、敬意を表し、謝辞を申し上げたいと思う。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 1.に関し、長短金利操作の運用として、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。また、1.の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2023年1月17、18日開催分)が全員一致で承認され、3月15日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2023年3月10日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]長短金利操作の運用

        長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等は、約2兆円の残高を維持する。社債等は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
  2. わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。海外経済は、回復ペースが鈍化している。そうした影響を受けつつも、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響の緩和に支えられて、横ばい圏内の動きとなっている。企業収益が全体として高水準で推移するもとで、設備投資は緩やかに増加している。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。個人消費は、物価上昇の影響を受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、緩やかに増加している。住宅投資は弱めの動きとなっている。公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、4%程度となっている。また、予想物価上昇率は上昇している。
  3. 先行きのわが国経済を展望すると、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、新型コロナウイルス感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果に加え、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響も減衰していくことから、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果の反動もあって、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。
  4. リスク要因をみると、引き続き、海外の経済・物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、わが国経済を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

以上