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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2023年1月17、18日開催分)

2023年3月15日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2023年3月9、10日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2023年1月17日(14:00から16:31)
 
1月18日( 9:00から11:33)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄( 副総裁 )
  • 安達誠司 (審議委員)
  • 中村豊明 ( 審議委員 )
  • 野口 旭 ( 審議委員 )
  • 中川順子 ( 審議委員 )
  • 高田 創 ( 審議委員 )
  • 田村直樹 ( 審議委員 )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥 達雄 大臣官房総括審議官(17日)
  • 井上貴博 財務副大臣(18日)
  • 内閣府 井上裕之 内閣府審議官(17日)
  • 藤丸 敏 内閣府副大臣(18日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 理事 清水誠一
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局審議役 上條俊昭(17日14:56から16:31)
  • 企画局政策企画課長 中嶋基晴
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 企画局企画調整課長 大竹弘樹(17日14:56から16:31)
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 吉村 玄
  • 企画局企画役 安藤雅俊

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(12月19、20日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された長短金利操作の運用方針に従って、10年物国債を対象とする0.5%の利回りでの固定利回り方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。また、各年限において、機動的に、買入れ額のさらなる増額や2年物、5年物、20年物国債を対象とする指値オペを実施したほか、固定金利方式による貸付期間2年の共通担保資金供給オペを実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移している。前回会合以降のイールドカーブの形状をみると、歪みが縮小に向かう局面もみられたものの、足もと、一部で逆イールドが強まるなど、引き続き、歪みが観察されている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを運営した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。さらに、より幅広い資金繰りニーズに応える観点から、貸付期間2週間の共通担保資金供給オペを金額に上限を設けず実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは-0.071から-0.014%程度、GCレポレートは-0.099から-0.086%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分低下した。

わが国の株価(TOPIX)は、小幅に下落した。長期金利(10年物国債金利)は、前回会合で拡大が決定された長期金利の変動幅の範囲内で上昇したが、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。この間、イールドカーブは、中期から長期にかけてのゾーンが上昇した。為替相場をみると、円の対ドル相場は、日米金利差の縮小などを背景に、円高方向の動きとなった。円の対ユーロ相場も、円高方向の動きとなった。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、回復ペースが鈍化している。中国では、全国的に感染が広がるもとで、個人消費を中心に下押し圧力の強い状況が続いている。中国以外の国・地域では、供給制約の緩和が続いており、自動車や資本財を中心に、生産活動を下支えしている。もっとも、先進国では、引き続き、高インフレや利上げ、ウクライナ情勢の影響が下押し圧力となっており、全体としてみれば減速の動きが続いている。このほか、世界的なIT関連財の生産は、在庫調整の影響を受けて、弱めの動きとなっている。先行きは、供給制約の影響は和らいでいくものの、様々な下押し圧力を受けて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速していくとみられる。先行きの見通しを巡っては、世界的なインフレ圧力のほか、ウクライナ情勢の帰趨や中国における感染症の影響について、不確実性が大きい。

地域別にみると、米国経済は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いている。個人消費は、物価上昇による下押し圧力が続いているが、これまで積み上がってきた貯蓄や、堅調な労働市場が引き続き下支え要因となるもとで、値引き販売などの影響も受けて底堅く推移している。住宅投資は、利上げを受けて減少している。設備投資は、小幅の増加を続けているが、生産は、全体としてみると横ばい圏内で推移しており、製造業の業況感には、幾分悪化の動きもみられる。物価面をみると、PCEデフレーターの前年比は、ピーク時からは鈍化しているが、ウエイトの大きい家賃を中心とするサービス価格の伸び率拡大を受けて、引き続き5%台半ばの高い上昇率となっている。

欧州経済は、緩やかに回復しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられる。個人消費は、経済活動再開の影響が一巡し、インフレの高進やECBによる利上げが続くもとで、減速の動きがみられる。輸出や生産は、振れを伴いつつも、全体として横ばい圏内で推移している。設備投資は、基調として改善している。物価面をみると、HICPの前年比は、食料品・エネルギー価格の上昇などから、10%近傍の非常に高い水準で推移している。

中国経済は、感染拡大の影響を受けて、減速している。個人消費は、感染拡大に伴う下押し圧力を受けて、減少している。輸出は、一部のIT関連財や先進国における消費財の在庫調整の影響のほか、感染拡大に伴う生産面の影響もあって、減少している。固定資産投資は、インフラ投資が堅調に推移しているものの、不動産投資が減少を続けていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。こうしたもとで、生産は、内需の鈍化に加え、企業活動や物流面の影響もあって、減速している。

中国以外の新興国・資源国経済は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、輸出は弱めの動きが続いているものの、経済活動の再開が進展するもとで内需の改善が続いており、総じてみれば回復している。

海外の金融市場をみると、米欧の長期金利は、経済・物価指標等を受けて振れを伴いつつも、期間を通じてみれば、概ね横ばいとなった。先進国の株価は、欧州では今冬のエネルギー不足に対する懸念の後退等を背景に大幅に上昇し、米国でも上昇した。新興国通貨は、中国政府のゼロコロナ政策の緩和や、非鉄金属等の価格上昇を背景に上昇した。原油価格は、期間を通じてみれば、上昇した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直している。先行きについては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

輸出や生産は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加している。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、車載向け半導体の世界的な需給逼迫が総じてみれば徐々に緩和するもとで、緩やかに増加している。資本財は、半導体製造装置等の受注に一服感がみられるものの、高水準の受注残に支えられて、増加している。一方、情報関連は、自動車関連の需要は堅調であるものの、スマートフォンやパソコン向けの半導体等電子部品で調整圧力が強まっており、全体として弱めの動きとなっている。先行きの輸出や生産は、海外経済減速の影響を受けつつも、供給制約の緩和と自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、増加基調を辿るとみられる。

企業収益は全体として高水準で推移している。業況感は横ばいとなっている。設備投資は、緩やかに増加している。機械投資の一致指標である資本財総供給は、供給制約の影響が和らぐもとで、振れを伴いつつも、デジタル・省力化関連等に牽引されて増加している。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、Eコマースの拡大を背景とした物流施設の増加に加え、都市再開発案件の進捗などから緩やかに増加している。先行きの設備投資は、企業収益が全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境などを背景に、増加を続けると予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)および建築着工(民間非居住用)の工事費予定額は、いずれも、振れを伴いつつも、増加している。

個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、昨年7から9月に感染再拡大の影響を受けつつも概ね横ばいを維持したあと、10から11月の7から9月対比は、感染抑制と消費活動の両立が進展するもとで、全国旅行支援による押し上げもあって、サービス消費を中心に増加している。形態別にみると、耐久財消費は、天候要因などによる振れを伴いつつも、供給制約の緩和を主因に緩やかに持ち直している。非耐久財消費は、衣料品などを中心に増加している。サービス消費は、全国旅行支援による下支えもあって、増加している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、昨年12月以降の個人消費動向を窺うと、物価上昇が続いているほか、新規感染者数も増加傾向を辿っているものの、緩やかな増加基調にあるとみられる。ただし、企業からは、割安な商品へのシフトや低価格帯の業態への顧客流出といった家計の生活防衛的な動きが徐々に強まっているとの見方が引き続き聞かれているほか、先行き実質所得低下の影響が強まることを懸念する向きもみられている。個人消費関連のマインド指標をみると、消費者態度指数は、雇用環境の改善などを背景に、昨年12月は4か月ぶりに小幅の反発となったが、物価上昇が意識されるもとで、暮らし向きの判断を中心に低水準にある。先行きの個人消費は、物価上昇に伴う実質所得面からの下押し圧力を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が一段と進むもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられてペントアップ需要の顕在化が進むことから、増加を続けると予想される。

雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかな増加傾向を辿っている。非正規雇用は、均してみれば、対面型サービス業や医療・福祉を中心に緩やかな増加傾向を辿っている。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の改善に伴って増加を続けると考えられる。ただし、実質ベースでは、物価上昇を反映して当面の前年比はマイナスで推移するとみられる。

物価面について、商品市況は、総じてみれば、世界的な景気減速懸念が重石となるもとで、ひと頃に比べ大きく切り下げた水準で横ばい圏内の動きとなっている。国内企業物価の3か月前比は、既往の国際商品市況の動向や為替相場の動きを反映して、高めの伸びを続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台後半となっている。予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなったあと、そうした影響の減衰に加え、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、経済活動の持ち直しや原材料コストの上昇を受けた運転資金需要の高まりから、緩やかに増加している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、発行スプレッドは拡大しているが、総じて良好な発行環境となっている。ただし、年末年始は季節的に社債発行が少ないこともあって、前回会合以降の起債環境の状況を判断するには、もう少し時間を要すると考えられる。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。前回会合以降の各種貸出金利の推移をみると、住宅ローンでは、大半を占める変動金利型については、適用金利に変化は生じていない。固定金利型については、昨年を通じて徐々に金利が引き上げられてきたが、前回会合以降、一部の金融機関において、国債金利の動向を踏まえて引き上げる動きがみられる。企業向け貸出では、約半分を占める変動金利型については、適用金利に変化は生じていない。固定金利型については、今後、新規の適用金利が引き上げられる可能性はあるが、現時点では影響は限定的であると考えられる。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ3%程度、4%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い中小企業も含めて改善傾向が続いている。

この間、マネタリーベースは、コロナオペの残高が減少したことから、前年比マイナスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行や地域銀行の収益は、海外金利上昇を背景とした有価証券関係損益の悪化がみられるものの、貸出残高の増加を背景とした資金利益の増加や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用金庫の収益は、有価証券関係損益の悪化に加え、資金利益の減少などから、前年に比べて減少している。いずれの業態でも、信用コストは、総じて低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

前回会合における決定の影響について、貸出の形態・期間構造や前回会合以降の貸出金利の動向を踏まえると、当面、金融機関の資金利益への影響は限定的とみられる。有価証券評価損益については、円債のデュレーションが長めである地域銀行や信用金庫では、大手行に比べ悪化しているとみられる。もっとも、いずれの業態でも、全体として十分な自己資本を有しており、金融仲介機能に問題が生じるとはみていない。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の3指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、金融機関の企業金融支援や企業の厚めの資金確保の結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。ただし、金融機関与信が実体経済活動から大きく乖離することがないか、引き続き注視する必要がある。

2.貸出増加支援資金供給の延長

1.執行部からの説明

貸出増加支援資金供給の利用残高は、緩やかな増加を続けており、本資金供給は、引き続き、金融環境を緩和的なものとすることに貢献している。引き続き、金融機関による貸出増加に向けた取り組みを促す観点から、「貸出支援基金運営基本要領」の一部改正等を行い、本資金供給を1年間延長することが適当と考えられる。

2.委員会の検討・採決

採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

3.気候変動対応オペにおける系統スキームの導入

1.執行部からの説明

民間における気候変動対応を幅広く支援するため、日本銀行の非取引先金融機関が、各々の系統中央機関を通じて気候変動対応オペを利用できる枠組み(系統スキーム)を導入することとし、「系統中央機関の会員である金融機関による気候変動対応を支援するための資金供給オペレーションの利用に関する特則」を制定することとしたい。

2.委員会の検討・採決

採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

4.共通担保資金供給オペの拡充

1.執行部からの説明

より弾力的な資金供給を行うことを通じ、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点から、共通担保資金供給オペを拡充することとしたい。具体的には、(1)金利入札方式について、貸付期間を「1年以内」から「10年以内」に見直す、(2)固定金利方式について、貸付利率を「0%」から「年限ごとの国債の市場実勢相場を踏まえ、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点から、貸付けのつど決定する利率」で実施できるように見直すため、「共通担保資金供給オペレーション基本要領」の一部改正等を行うこととしたい。

2.委員会の検討・採決

委員は、共通担保資金供給オペを拡充することにより、本オペを利用した金融機関が裁定行動を行うことを通じて、現物国債の需給に直接的な影響を与えることなく、現物市場以外の市場も含めて、長めの金利の低下を促すことができるとの見方を共有した。また、委員は、国債買入れと本オペを有効に組み合わせながら金融市場調節を行っていくことが適当であるとの認識を共有した。複数の委員は、本オペの実施状況については、決定会合においても丁寧に確認していく必要があると述べた。

採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

5.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融資本市場について、委員は、米欧中央銀行による金融引き締めを巡る不確実性や世界経済の減速が意識されるもとで、市場センチメントは慎重化した状態が続いているとの見方を共有した。

海外経済について、委員は、回復ペースが鈍化しているとの認識で一致した。複数の委員は、全体として景気減速傾向が強まっているが、これまでのところ海外経済は底堅いとの認識を示した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、個人消費に底堅さもみられるが、物価上昇や、FRBによる利上げの継続を受けて、減速傾向が続いているとの認識を共有した。多くの委員は、米国の物価上昇率の伸びは鈍化しているものの、労働市場の逼迫が続く中で、賃金上昇率やサービス価格の上昇率は高止まりしており、高インフレの抑制には相応の時間を要する可能性が高いとの認識を示した。何人かの委員は、利上げの効果により、米国経済の減速を示すデータが出てきており、ハードランディングを回避できる可能性が高まっているとの見方を示した。

欧州経済について、委員は、緩やかに回復しているものの、ウクライナ情勢の影響が続くもとで、減速の動きがみられるとの見方を共有した。何人かの委員は、ECBが大幅な利上げを継続する中で、景気の減速が続く可能性が高いとの見方を示した。一方、複数の委員は、懸念されていたエネルギー供給不安が後退しており、経済持ち直しへの期待も生じていると指摘した。

中国経済について、委員は、感染拡大の影響を受けて、減速しているとの認識で一致した。複数の委員は、中国では、感染者数の増加や不動産市場の低迷などにより経済活動が下押しされており、きわめて不透明感が強いとの見方を示した。このうち一人の委員は、若年層の高失業率の長期化や、地政学的リスクを受けた対中投資の減少等により、経済の低迷が長引く可能性もあると述べた。一方、何人かの委員は、ゼロコロナ政策の転換を受けて、感染の落ち着きとともに経済再開が本格化すれば、経済活動が上振れる可能性もあるとの見方を示した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、一部に弱さがみられるが、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。ある委員は、世界的なインフレ、財政状況や政治情勢の悪化、それらを受けた資本流出などへの懸念は変わらないが、これまでのところ、こうしたリスクは大きく顕在化せず、比較的安定した状況にあると述べた。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの見方で一致した。また、委員は、企業の資金調達コストはきわめて低い水準で推移しており、外部資金の調達環境も総じて良好な状態にあるという認識を共有した。この点に関し、ある委員は、金融環境の評価にあたっては、前回会合で決定したイールドカーブ・コントロールの運用見直しが調達コスト等に及ぼす影響について、引き続き見極めていく必要があると述べた。そのうえで、この委員は、現時点では、貸出における変動金利型・固定金利型の割合など、調達構造を含めた全体像を踏まえると、全体として緩和した状態を維持していると評価できるとの見方を示した。また、複数の委員は、起債が少ない時期であり、データは限定的であるが、企業からのヒアリングでは、投資家の先行き警戒感が発行条件に及ぼす影響を指摘する声が聞かれる一方で、調達環境は総じて良好であり、先行き、起債環境が改善する可能性がある、といった見方も聞かれていると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源高の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで、持ち直しているとの見方を共有した。何人かの委員は、サービス需要の回復と企業部門の前向きの循環がドライバーとなり、内需主導のもとで、持ち直しを続けているとの見方を示した。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響が和らぐもとで、基調として増加しているとの認識で一致した。ただし、一人の委員は、依然として一部に半導体不足が続いているほか、海外経済の減速傾向はより強まっており、輸出や生産はやや足踏みしているとの見方を示した。

設備投資について、委員は、企業収益が全体として高水準で推移しているもとで、緩やかに増加しているとの認識を共有した。複数の委員は、人手不足に対応したDXの推進や製造業における生産拠点の国内回帰の強まりなどもあり、設備投資への意欲は底堅いとの認識を示した。複数の委員は、緩和的な金融環境が、実質金利の低下を通じて設備投資を後押ししていると述べた。

個人消費について、委員は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しているとの見方で一致した。サービス需要について、複数の委員は、全国旅行支援や水際対策の緩和などの政府の施策もあって、はっきりと増加していると述べた。一人の委員は、感染第8波のもとでもサービス需要は堅調さを維持しているとの見方を示した。

雇用・所得環境について、委員は、全体として緩やかに改善しているとの見方で一致した。何人かの委員は、人手不足が深刻化するもとで、賃上げに積極的な姿勢を示す企業が増加しているとの認識を示した。一方、複数の委員は、大企業を中心に賃上げの気運は高まっているものの、業況が厳しい先などでは賃上げに慎重な姿勢もみられていると指摘した。一人の委員は、過年度の物価上昇に対して一時的な手当てで対応する企業もみられることから、賃金の持続的な上昇には時間がかかるため、マクロ経済政策の支えが必要であると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、3%台後半となっているとの評価で一致した。ある委員は、2%の「物価安定の目標」の実現には、ディマンド・プル型の物価上昇への変化が必要であり、一般サービスの物価上昇率の動向を注視していると述べた。別のある委員は、財だけではなく、サービス価格も次第に上昇ペースを高めてきていると述べたうえで、原材料価格の上昇を理由とする値上げに加え、光熱費の上昇などを理由とした値上げもみられてきていると指摘した。予想物価上昇率について、委員は、上昇しているとの見方で一致した。

2.経済・物価情勢の展望

2023年1月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、見通し期間の中盤にかけては、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復していくとの見方で一致した。見通し期間の中盤以降については、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが経済全体で徐々に強まっていく中で、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。ある委員は、企業では、価格転嫁とともに賃上げにも前向きな姿勢がみられており、このことは、企業業績の底上げを通じた経済と物価の前向きな好循環につながる可能性があると述べた。

海外経済の先行きについて、委員は、見通し期間の中盤にかけて、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ減速したあと、持ち直していくとの見方を共有した。ただし、一人の委員は、企業経営者の間で、海外経済の先行きに対する警戒感が高まっている様子が窺われる点には注意が必要であると述べた。

わが国の輸出や生産について、委員は、海外経済減速の影響を受けつつも、供給制約の影響が和らぐもとで、自動車や資本財における高水準の受注残に支えられて、増加基調を続けるとの見方で一致した。また、委員は、サービス輸出であるインバウンド需要も、入国制限の緩和等を受けて、増加していくとの見方を共有した。ある委員は、感染症拡大前に入国者数の3割程度を占めていた中国人観光客について、見通し期間の後半には回復していくとみていると述べた。

設備投資について、委員は、企業収益が全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境などを背景に、人手不足対応やデジタル関連の投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資、サプライチェーンの強靱化に向けた投資を含めて、増加を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、世界経済の先行きを巡る不確実性が、設備投資の実施を後ずれさせる可能性もあると述べた。

個人消費について、委員は、物価上昇に伴う実質所得面からの下押し圧力を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が一段と進むもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化を主因に、増加を続けるとの見方で一致した。また、委員は、政府によるガソリン・電気・都市ガス代の負担緩和策や全国旅行支援も、個人消費を下支えするとの認識を共有した。見通し期間の中盤以降の個人消費について、委員は、ペントアップ需要の顕在化ペースを鈍化させつつも、着実な増加を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、ペントアップ需要が一巡してくるほか、物価高などの家計の負担増が消費の回復ペースを抑制する可能性もあると指摘した。

雇用者所得について、委員は、正規雇用に加え、対面型サービス部門の回復に伴って非正規雇用の増加も明確化していくほか、労働需給の引き締まりや物価上昇を反映して賃金上昇率も高まることから、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。ある委員は、人手不足の深刻化から賃上げのモメンタムが高まっているとの認識を示したうえで、持続的な賃金上昇の実現には、仕事に応じた賃金カーブへの変革が必要であり、今春の労使交渉では、給与・人事制度改革への取り組みにも注目していると述べた。複数の委員は、海外経済の先行き不透明感などが、今春の労使交渉にマイナスの影響を及ぼす可能性もあると指摘した。

こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、昨年10月の展望レポート時点と比べると、2022年度と2023年度は、政府の経済対策が押し上げ方向に寄与するものの、海外経済の下振れなどから、幾分下振れ、2024年度は、経済対策の効果の反動により幾分下振れるとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなったあと、そうした影響の減衰に加え、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。その後について、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果の反動もあって、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとの見方を共有した。ある委員は、2%の「物価安定の目標」を達成するためには、名目賃金の上昇を受けてサービス価格を中心とする基調的物価が十分に上昇することが必要であると述べた。大方の委員は、年度ベースでみると、来年度以降の消費者物価の前年比は2%を下回る可能性が高いとの見方を示した。ある委員は、国内経済が底堅く推移するもとで、既往の原材料価格上昇がタイムラグを伴って転嫁されるため、消費者物価への上昇圧力はなお残ると述べた。別のある委員は、短観の1年後の販売価格の見通しが物価全般の見通しを上回っていることは、企業の価格設定行動の積極化を示していると指摘した。そのうえで、この委員は、企業の価格転嫁の動きは現在進行形であり、物価上昇のモメンタムが続いていることなどを踏まえると、比較的高めの物価上昇率が続く公算が大きいとの見方を示した。これに対し、一人の委員は、国際商品市況や為替市場の動向等を勘案すると、価格転嫁の動きは本年後半にはピークアウトしていくと見込まれると述べた。別の一人の委員は、輸入物価の前年比のプラス幅は明確に縮小しており、物価上昇の起点であるコスト・プッシュ圧力は減衰し始めていると述べたうえで、今後、政府の電気・都市ガス代の負担緩和策の効果が加わることも踏まえると、消費者物価の前年比のプラス幅は、はっきりと縮小していく見込みであると指摘した。

こうしたエネルギー価格の変動の直接的な影響を受けない消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比について、多くの委員は、2022年度に2%程度となったあと、2023年度は1%台後半、2024年度は1%台半ばとなるとの見方を示した。

以上のような物価見通しの背景にある要因について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、現在、ごく小幅のマイナスとなっているが、先行きは、わが国経済が潜在成長率を上回る成長経路を辿るもとで、2022年度後半頃にはプラスに転じ、その後もプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率は、短期と比べるとペースは緩やかながら上昇しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、適合的予想形成の強いわが国では、現実の物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらし、企業の価格・賃金設定行動や労使間の賃金交渉の変化を通じて、賃金の上昇を伴うかたちで、物価の持続的な上昇につながっていくとの見方を共有した。ある委員は、価格転嫁の進捗は、新製品開発効果による企業収益の改善や、賃上げと投資の積極化にもつながっており、それが従業員のエンゲージメントの向上やイノベーション創出を通じて、さらなる収益改善・賃上げをもたらす、というかたちで好循環が回り始めつつあるため、そうした構造変化の把握が重要になっていると述べた。

こうした議論を経て、委員は、中心的な物価の見通しは、昨年10月の展望レポート時点と比べると、2022年度と2023年度は、経済対策がエネルギー価格を押し下げる一方、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響などもあって、概ね不変、2024年度は、経済対策による押し下げの反動から幾分上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの前提となっている金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、金融環境は緩和的な状態が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。

まず、経済のリスク要因として、委員は、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向について留意が必要であるとの見方で一致した。ある委員は、海外経済の動向等についての不確実性が高いもとで、わが国経済の持ち直しのペースは鈍化する可能性があると述べた。委員は、米国などの物価上昇率はひと頃に比べれば低下しているものの、依然として世界的にインフレ圧力が続くもとで、各国中央銀行は利上げを継続しており、国際金融資本市場では、インフレの抑制と経済成長の維持が両立できるかが懸念されているとの認識を共有した。この点に関し、何人かの委員は、米国の労働市場が依然タイトなことや、消費者物価のコア指数が高止まりしている点を指摘し、高インフレが長引くリスクや、その後の経済が大きく減速するリスクがあると述べた。このうち一人の委員は、金融引き締めの効果はラグを伴うため、これまでの利上げの累積的な影響に注意する必要があると付け加えた。委員は、利上げがなお続くもと、資産価格の調整や為替市場の変動、新興国からの資本流出を通じて、グローバルな金融環境が一段とタイト化し、ひいては海外経済が下振れるリスクがあるとの見方を共有した。こうしたもとで、委員は、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの認識で一致した。

また、委員は、ウクライナ情勢の展開やそのもとでの資源・穀物価格の動向にも注意が必要であるとの認識で一致した。すなわち、委員は、ウクライナ情勢の帰趨次第では、ユーロ圏を中心に海外経済が一段と下押しされる可能性があるほか、資源・穀物価格は、昨年半ば頃をピークに総じて下落しているが、ウクライナ情勢の展開等によっては、再び上昇するリスクがあるとの見方を共有した。一人の委員は、中国で生産活動が本格的に回復する場合には、資源価格に上昇圧力が加わる可能性があると指摘した。委員は、供給要因による資源・穀物価格の上昇は、資源・穀物の輸入国であるわが国にとって、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きく、資源・穀物価格の上昇による交易条件の悪化に伴う企業や家計の支出行動の慎重化を通じて、設備投資や個人消費が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。他方で、委員は、資源・穀物価格が下落基調を強めれば、経済が上振れる可能性もあるとの見方で一致した。

さらに、委員は、内外における感染症が個人消費や企業の輸出・生産活動に及ぼす影響にも注意が必要であるとの見方で一致した。委員は、わが国では、昨年秋以降、感染が再び拡大しているものの、これまでのところ、サービス消費を中心としたペントアップ需要に支えられるかたちで、個人消費は緩やかに増加しており、感染抑制と消費活動の両立は着実に進展しているものの、今後の感染症の動向次第では、ペントアップ需要による押し上げ圧力が想定よりも弱まるリスクがあるとの認識を共有した。他方で、委員は、感染症への警戒感が大きく後退すれば、行動制限下で積み上がってきた貯蓄の取り崩しが想定以上に進み、個人消費が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。また、委員は、一部でなお供給制約が残るもとで、内外で感染症が再拡大した場合、サプライチェーン障害などを通じて、供給制約が再び強まり、わが国の輸出・生産が下振れるとともに、財消費や設備投資にも悪影響が波及するリスクがあるとの認識を共有した。

また、やや長い目でみたリスク要因として、委員は、企業や家計の中長期的な成長期待についても留意が必要であるとの見方で一致した。委員は、ポストコロナやデジタル化、脱炭素化に向けた動きは、わが国の経済構造や人々の働き方を変化させるとみられるほか、地政学的リスクの高まりを背景に、これまで世界経済の成長を支えてきたグローバル化の潮流に変化が生じる可能性があり、そうした変化への企業や家計の対応次第では、中長期的な成長期待や潜在成長率、マクロ的な需給ギャップなどに上下双方向に影響が及ぶリスクがあるとの見方を共有した。一人の委員は、企業の持続的成長には、エネルギー価格上昇に対する耐性の強化も必要であり、そうした取り組みの具体化にも注目していると述べた。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶとの見方を共有した。そのうえで、委員は、物価固有のリスク要因についても議論を行った。

まず、委員は、企業の価格・賃金設定行動を巡っては上下双方向に不確実性が高いとの見方で一致した。すなわち、委員は、原材料コストの上昇圧力や企業の予想物価上昇率の動向次第では、価格転嫁が想定以上に加速し、物価が上振れるリスクや、労使間の賃金交渉を通じて、賃金に物価動向を反映させる動きが広がっていくことで、賃金と物価が想定以上に上昇するリスクがあるとの認識で一致した。一方で、委員は、わが国では、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残るもとで、賃上げの動きが想定ほどは強まらず、物価も下振れるリスクもあるとの見方についても共有した。一人の委員は、昨年来の海外発の大幅な価格ショックが、物価に対するノルムを変化させるとともに、その影響が先行き数年にわたって残存する可能性もあると述べた。一方、別の一人の委員は、足もとノルムが変化しているようにもみえるが、これが大幅な輸入物価上昇の一巡後も持続するかは不確実性が高いと指摘した。

もう一つの物価固有のリスク要因として、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方に作用し得るとの認識で一致した。委員は、ウクライナ情勢の展開等を巡る不確実性の高さを反映して、国際商品市況の変動が大きくなっているほか、世界的なインフレ率の高止まりや為替市場における急激な変動がみられており、これらがわが国の物価に及ぼす影響については十分注意してみていく必要があるとの見方を共有した。この間、一人の委員は、企業による地政学的リスクを考慮したサプライチェーン再構築の動きも物価の上昇圧力となり得るとの見方を示した。

リスクバランスについて、委員は、経済の見通しについては、2022年度と2023年度は下振れリスクの方が大きいが、2024年度は概ね上下にバランスしているとの見方で一致した。また、物価の見通しについては、上振れリスクの方が大きいとの見方で一致した。

委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見解で一致した。先行きについて、委員は、グローバルな金融環境のタイト化の影響などには注意が必要であるが、内外の実体経済や国際金融資本市場が調整する状況を想定しても、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有しているとの見方を共有した。ある委員は、国際金融資本市場において、例えば、ノンバンクセクターの高レバレッジが巻き戻されるリスクなどには警戒が必要であると述べた。委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化した場合、金融仲介が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動などに起因して金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの認識を共有した。

6.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

先行きの金融政策運営の基本的な考え方について、委員は、経済・物価情勢を踏まえると、イールドカーブ・コントロールの運用も含め、現行の金融緩和を継続することにより、賃金の上昇を伴うかたちで「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成することが重要であるとの見解で一致した。ある委員は、現時点では、「物価安定の目標」の実現にはなお距離があると述べたうえで、現在の金融緩和を継続することにより、経済をしっかりと支え、企業が賃上げしやすい環境を実現することが重要であるとの見解を示した。別のある委員は、持続的な賃金上昇が見込めるまで、企業の変革努力を後押しするため、債券市場の機能度にも留意しつつ、イールドカーブ全体を抑制することが必要であると付け加えた。この間、一人の委員は、いずれかのタイミングでは検証を行い、効果と副作用のバランスを判断することが必要であるが、現時点では、金融緩和の継続が適当であるとの認識を示した。また、別の一人の委員は、先行きは多様な選択肢を念頭に置きながら政策運営を行うことが適当であるが、現在は海外経済が減速に向かう局面にあり、出口を急ぐことは適当でないとの考えを示した。そのうえで、この委員は、低金利の長期継続を前提とした資金運用・調達が続いてきただけに、将来の出口局面では、金利上昇に伴うリスクの所在や市場参加者の備えの確認が必要になると考えられるとの見方を示した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針に沿って、長期金利はゼロ%程度で推移しているとの認識を共有した。ただし、多くの委員は、イールドカーブの歪みは、現時点では必ずしも解消されていないと指摘した。このうち一人の委員は、市場が落ち着き、市場機能が回復するにはやや時間がかかる可能性があるとの見方を示した。こうした点について、何人かの委員は、国債買入れの増額や共通担保資金供給オペの拡充等により、イールドカーブ全体にわたって金利上昇を抑制することが適当であるとの意見を述べた。一人の委員は、共通担保資金供給オペの拡充は、現在の大規模な国債買入れとともに、安定的なイールドカーブの形成に役立つ仕組みであるとの認識を示した。複数の委員は、拡充した共通担保資金供給オペも活用しながら、機動的な市場調節運営を続けることで、市場機能が改善していくことを期待していると述べた。ある委員は、市場機能の改善にも配意しつつ、適切なオペ運営に努めるとともに、イールドカーブの形状、流動性など市場機能の状況、社債市場の状況などを謙虚かつ丁寧にフォローしていくことが重要であると述べた。多くの委員は、イールドカーブ・コントロールの運用見直しが市場機能に及ぼす影響については、いましばらく時間をかけて見極める必要があるとの認識を共有した。一人の委員は、市場ではイールドカーブ・コントロールの運用のさらなる見直しを予想する向きもあるが、時間を置かずに再び運用を見直すと、かえって先行きの政策運営に関する不透明感を高める可能性があると述べた。別の一人の委員は、市場機能の動向を見極めたうえで、必要になれば、イールドカーブ・コントロールの運用について改めて議論すればよいのではないかと付け加えた。

委員は、金融政策運営に関する対外的な情報発信についても議論を行った。何人かの委員は、エネルギー価格抑制策などの特殊要因が働くため、当面、表面上の物価指数の動きが大きくなりやすいと指摘したうえで、物価指数の動きだけではなく、物価の基調を形成するメカニズムやその持続性を分析・評価するとともに、対外的に分かりやすく説明していくことが重要であると述べた。ある委員は、金融緩和の継続が必要であること、日本銀行の金融緩和姿勢は変わらないこと、また、賃金の上昇はこれからなので、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成には時間がかかることを丁寧に説明していくべきであると付け加えた。また、何人かの委員は、前回会合におけるイールドカーブ・コントロールの運用見直しについて、これまでの情報発信と整合的ではないのではないか、実質的な利上げではないかといった指摘が聞かれるなど、なお見直しの意図が十分浸透していないのではないかと述べた。この点に関し、何人かの委員は、前回会合で決定した運用見直しは、あくまでも金融市場の機能改善を通じて金融緩和をより持続可能とするための措置であり、経済・物価情勢を踏まえると、現行のイールドカーブ・コントロールを継続していく必要があることを改めて丁寧に説明していくべきであるとの認識を示した。ある委員は、変動幅拡大の結果として長期金利が上昇すれば、その限りで金融緩和の効果が低下する側面があるのは事実であるが、昨年を通じて、インフレ予想が上昇し、実質金利が低下しているため、金融緩和の効果は大きくなっており、変動幅拡大に伴うマイナスの効果は以前より軽減されていると述べた。そのうえで、この委員は、このように金融緩和の効果と副作用を比較衡量して政策を判断している点についても、引き続き丁寧に説明していく必要があると付け加えた。別のある委員は、前回会合では長期金利の変動幅の拡大と併せて国債買入れの増額を決定して金融緩和姿勢を維持したことについても、引き続き情報発信していくべきであると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解で一致した。

「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

短期金利:
日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利:
10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

(2)(1)に関し、長短金利操作の運用として、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。また、(1)の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。」

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めること、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

7.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 令和5年度予算について、通常国会への提出に向けて作業を進めているが、防衛力の抜本強化やこども政策、GXの推進など、わが国が直面する内外の重要課題の解決に道筋をつけ、未来を切り開くための予算としている。
  • 経済・財政運営に万全を期すべく、本予算の一日も早い成立に向けて取り組む。
  • 日本銀行には、政府との連携の下、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて、適切に金融政策運営が行われることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国の景気は、緩やかに持ち直している。ただし、世界的な金融引き締め等が続く中、海外景気の下振れがわが国の景気を下押しするリスクとなっている。また、物価上昇、供給面の制約、金融資本市場の変動等の影響や中国における感染動向に十分注意する必要がある。
  • 政府としては、景気の下振れリスクにも十分対応し、日本経済を民需主導の持続可能な成長経路に乗せていくため、総合経済対策および令和4年度第2次補正予算を迅速かつ着実に実行する。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて、適切な金融政策運営を期待する。

8.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 1.に関し、長短金利操作の運用として、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について金額を無制限とする0.5%の利回りでの固定利回り方式の国債買入れ(指値オペ)を、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。また、1.の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員、高田委員、田村委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。議長から、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

9.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、1月19日に公表することとされた。

10.議事要旨の承認

議事要旨(2022年12月19、20日開催分)が全員一致で承認され、1月23日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2023年1月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(全員一致)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]長短金利操作の運用

        長期金利の変動幅を「±0.5%程度」とし、10年物国債金利について0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。上記の金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すため、大規模な国債買入れを継続するとともに、各年限において、機動的に、買入れ額の増額や指値オペを実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。ただし、社債等の買入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする。
  2. 日本銀行は、(1)「貸出増加を支援するための資金供給」の貸付実行期限を1年間延長すること、(2)「気候変動対応オペ」の対象先を拡大し、新たに、系統会員金融機関を含めること、(3)「共通担保資金供給オペ」を拡充すること、を決定した(いずれも全員一致)。
  3. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

以上