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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年7月20、21日開催分)

2022年9月28日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年9月21、22日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年7月20日(14:00から15:45)
 
7月21日( 9:00から11:57)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )(注)
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
  • (注)片岡委員は、電話会議により出席。
4.政府からの出席者:
  • 財務省 奥  達雄 大臣官房総括審議官(20日)
  • 大家 敏志 財務副大臣(21日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(20日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(21日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 理事 清水誠一
  • 企画局長 中村康治
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 藤田研二
  • 調査統計局長 大谷 聡
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 千田英継
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 政策委員会室企画役 大庭英正
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 吉村 玄
  • 企画局企画役 長田充弘

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(6月16、17日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。また、前回会合で決定された連続指値オペの運営方針に従って、10年物国債を対象とする固定利回り(0.25%)方式による国債買入れ(指値オペ)を毎営業日実施した。このほか、チーペスト銘柄を対象とする指値オペを毎営業日実施した。合わせて、レポ市場における国債需給が過度に引き締まることを抑制し、市場の安定を確保する観点から、チーペスト銘柄等にかかる国債補完供給の要件緩和措置を実施した。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

前回会合で決定された資産買入れ方針に従って、ETFやJ-REIT、CP・社債等の買入れを実施した。また、企業等の資金繰り支援のための措置として、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.047から-0.007%程度で推移している。GCレポレートは、-0.233から-0.087%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、幾分上昇した。

わが国の株価(TOPIX)は、米国株価の上昇を眺めた買戻しの動きなどにより、前回会合時点から上昇した。長期金利(10年物国債金利)は、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、日米間の金融政策の方向性の違いや本邦輸入企業のドル買いの動きなどを背景に、円安方向の動きとなっている。円の対ユーロ相場は、ロシアからのエネルギー供給問題などもあってユーロ圏経済の減速懸念が高まるもとで、円高方向の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復している。米国や欧州で経済活動の再開が続いているほか、中国でロックダウン等の措置が緩和され、中国以外の新興国・資源国経済でも、経済活動の再開が本格化している。ただし、世界的なインフレ圧力が続くもとで、先進国中央銀行の利上げが世界経済への下押し圧力として作用しつつあるほか、ウクライナ情勢の影響の長期化も、ユーロ圏を中心に、経済への下押し圧力となっている。先行きの海外経済は、ウクライナ情勢などによる減速圧力を受けつつも、感染症の影響が和らいでいくもとで、総じてみれば緩やかな成長を続けるとみられる。ただし、ウクライナ情勢の帰趨や世界的なインフレ圧力、先進国中央銀行の利上げペース加速の影響、中国での感染動向を中心に、当面、不確実性は大きい。

地域別にみると、米国経済は、回復している。個人消費は、積み上がってきた貯蓄の取り崩しを伴いつつ、財からサービスへのシフトがみられるもとで、増加が続いている。住宅投資は、FRBによる利上げを受けて減速の兆しがみられるが、引き続き高水準で推移している。雇用者数の増加は続いているが、労働参加率の回復が緩やかなペースにとどまるもとで、求人率や離職率の高止まりもあって、労働市場の逼迫感は続いている。企業部門をみると、業況感の改善と設備投資の増加が続いている。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、需給逼迫の影響などから、6%台前半の高い上昇率となっている。

欧州経済は、基調としては回復している。個人消費は、エネルギー価格の上昇による減速圧力を受けつつも、経済活動の再開が続くもとで、サービス消費を中心に基調としては回復している。企業部門をみると、業況感は全体としては改善を続け、設備投資も基調としては増加しているが、製造業の新規受注を示す指標では弱さがみられている。物価面をみると、HICPの前年比は、エネルギー価格の上昇などから、8%台半ばの高い上昇率となっている。

中国経済は、感染拡大に伴う厳格な公衆衛生上の措置の影響が和らぐもとで、下押しされた状態から持ち直しつつある。個人消費は、移動制限などの影響が緩和する中で、大きく落ち込んだ水準から持ち直しつつある。企業部門をみると、企業活動や物流が徐々に正常化するもとで、輸出や生産は持ち直している。固定資産投資は、インフラ投資による下支えもあって、基調としては持ち直している。

中国以外の新興国・資源国経済は、ウクライナ情勢の影響により下押しされる国・地域もみられるが、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、中国向け輸出に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば輸出の増加が続く中、経済活動の再開が進展するもとで内需の改善も続いており、回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、先進国中央銀行の利上げペースが加速する中、先行きの経済減速懸念の高まりなどから、大きく低下している。株価は、金利の低下が下支えするもとで、上昇した。原油価格は、経済減速懸念もあって、下落した。為替市場について、新興国・資源国通貨をみると、資源価格が全般的に下落する中で、資源国通貨を中心に下落した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、持ち直している。先行きについては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。

輸出は、基調としては増加を続けているが、供給制約の影響を受けており、鉱工業生産は、その影響から下押し圧力が強い状態にある。実質輸出を財別にみると、情報関連は、半導体への需要は堅調とみられるが、足もとでは、中国向けの出荷がロックダウンの影響で抑制されたことの影響がみられる。自動車関連は、世界的な半導体需給の逼迫に、中国のロックダウンに伴う部品調達難の影響も加わり、水準を切り下げている。一方、資本財は、中国向けは減少しているが、世界的な機械投資の堅調さに加え、デジタル関連需要の拡大を受けた半導体製造装置への旺盛な需要に支えられて、高水準で推移している。先行きの輸出や鉱工業生産は、目先は、半導体不足や中国でのロックダウンに伴う物流網の混乱などの影響が残るもとで、供給面から制約されやすい状態が続く可能性が高い。その後は、供給制約の緩和が見込まれる自動車関連や、グローバルな需要が拡大しているデジタル関連を中心に、増加していくとみられる。

企業収益は、全体として高水準で推移している。業況感は、横ばいとなっている。短観の業況判断DI(全産業全規模)は、3月に小幅悪化したあと、6月は小幅改善した。業種別にみると、製造業は、幅広い業種で原材料コスト上昇の影響がみられたほか、中国でのロックダウンに伴う供給制約もあって、2四半期連続で悪化した。他方、非製造業は、一部で原材料コスト上昇の影響もみられたものの、感染症の影響緩和を受けて、対個人サービスや宿泊・飲食サービス、運輸・郵便などがはっきりと改善し、全体としても改善した。

設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。先行きの設備投資は、企業収益が資源価格上昇の影響から下押しされつつも全体として高水準を維持するもとで、緩和的な金融環境や供給制約の緩和を背景に、増加傾向が明確になっていくと予想される。先行指標をみると、機械受注(船舶・電力を除く民需)が、振れを伴いつつも増加しているほか、建築着工(民間非居住用)の工事費予定額も、振れを均してみれば増加している。6月短観の設備投資計画(ソフトウェア・研究開発を含み土地投資を除くベース、金融機関を含む全産業全規模)をみると、2021年度は、資本財の供給制約や感染症の影響などから前年比+0.9%の小幅増にとどまったが、2022年度計画は同+13.5%と、はっきりとした増加となっている。

個人消費は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に緩やかに増加している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、4から5月の1から3月対比は、サービス消費を中心に+2.3%の増加となっている。形態別にみると、サービス消費は、感染症の影響が和らぐもとで、外食や国内旅行を中心に増加している。非耐久財消費は、食料品や日用品などの巣ごもり需要の減退などから弱めの動きとなったあと、足もとでは、衣料品や身の回り品が増加するなど、堅調に推移している。一方、耐久財消費は、供給制約による下押しの影響から、低めの水準で推移している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての動向を窺うと、財消費は、中国のロックダウンに伴う供給制約の影響が一部で緩和に向かい始めたもとで、改善しているとみられる。サービス消費も、増加傾向を続けている模様である。この間、個人消費関連のマインド指標をみると、物価上昇の影響もあって、幾分悪化している。先行きの個人消費は、エネルギーや食料品を中心とした物価上昇の影響を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が次第に進み、雇用環境も改善していくもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられてペントアップ需要の顕在化が進むことから、増加を続けると予想される。

雇用・所得環境をみると、一部で弱めの動きもみられるが、全体として緩やかに改善している。労働力調査の就業者数をみると、非正規雇用は対面型サービス業を中心に依然低めの水準にあるが、正規雇用は人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に緩やかに増加している。6月短観の雇用人員判断DIをみると、「不足」超幅の拡大傾向が続いている。一人当たり名目賃金は、経済活動全体の持ち直しを反映して、所定内給与を中心に緩やかに増加している。先行きの雇用者所得は、名目ベースでは、景気の改善に伴って増加していくと考えられる。ただし、実質ベースでは、当面、物価上昇を反映してマイナスで推移する可能性が高い。

物価面について、商品市況は、ウクライナ情勢などを背景に引き続き高水準であるが、足もとではグローバルな景気減速懸念などを受けて、下落している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、1%台前半となっている。この間、予想物価上昇率は上昇している。短期的なインフレ予想は、総じてはっきりと上昇している。中長期的なインフレ予想も、緩やかに上昇している。6月短観における企業の予想インフレ率は、物価全般、販売価格のいずれについても、1年後、3年後、5年後が全て上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場でも、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ1%台半ば、9%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、一部に厳しさが残っているものの、経済の持ち直しに伴い中小企業も含めて改善傾向が続いている。

この間、マネタリーベースは、ひと頃に比べ減速し、足もとでは前年比4%程度のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台前半のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、高水準の貸出残高や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、ウクライナ情勢の影響を受けた引当などがみられたものの、総じてみれば低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

地域銀行と信用金庫の収益も、高水準の新型コロナ関連融資残高などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、引き続き規制水準を十分に上回っている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の4指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症の影響による企業等の運転資金需要の高まりに金融機関が応えた結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。企業収益の回復とともに債務返済が進み、金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、引き続き注視する必要がある。

2.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融市場について、委員は、世界的なインフレ率の高止まりを受けて、米欧を中心に金融緩和の縮小ペースが加速するもとで、世界経済の減速懸念も強まっており、市場センチメントは慎重化した状態が続いているとの見方を共有した。一人の委員は、市場では、世界経済のテーマとして、インフレだけでなくインフレ抑制に伴う景気後退についても注目されるようになっていると指摘した。別の一人の委員は、世界経済の減速懸念もあって、足もとの資源・穀物価格は下落していると指摘した。

海外経済について、委員は、一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復しているとの見方で一致した。ある委員は、供給制約の解消に時間がかかっているものの、コロナ禍で積み上がった貯蓄に支えられた旺盛な民間需要が依然として維持されているとの見解を示した。何人かの委員は、ウクライナ情勢の長期化や世界的なインフレ高進、主要国中央銀行の利上げが世界経済の下押し圧力になっていると指摘した。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、物価高が実質所得を押し下げるもとでも、個人消費は財からサービスへのシフトを伴いつつ高水準を維持していると述べた。他方、別の一人の委員は、金利上昇を背景に住宅市場に減速感がみられ始めていると指摘した。多くの委員は、FRBの利上げペースの加速により、想定以上に経済が減速する可能性についても、意識しておく必要があると述べた。

欧州経済について、委員は、基調としては回復しているとの見方を共有した。多くの委員は、ウクライナ情勢の長期化に伴うエネルギー価格の上昇や供給制約の影響がみられているとの認識を示した。このうちの複数の委員は、ロシア産エネルギーからの脱却を進める国において、更なる経済活動の制約や混乱が生じることがないか注意する必要があると指摘した。

中国経済について、委員は、下押しされた状態から持ち直しつつあるとの認識で一致した。何人かの委員は、上海のロックダウンが終了し、経済活動の再開が進展しているものの、ゼロコロナ政策が維持されるもとで、一部地域で再び感染が拡大していることが懸念されると述べた。複数の委員は、ゼロコロナ政策の帰趨に加え、不動産市場の調整や雇用情勢の悪化などにも注意する必要があると指摘した。

中国以外の新興国・資源国経済について、委員は、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、資源輸出国は堅調であるほか、NIEs・ASEANも回復が期待されるとの見解を示した。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。多くの委員は、企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい対面型サービス業の中小企業も含めて改善傾向にあり、コロナオペの残高も着実に減少するなど、感染症の企業金融への影響は和らいできているとの見方を示した。このうち一人の委員は、現状、企業の運転資金を中心とした資金繰りに大きな問題は生じておらず、倒産件数も低位で推移していると指摘した。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、資源価格上昇の影響などを受けつつも、感染症の影響が和らぐもとで、持ち直しているとの見方を共有した。何人かの委員は、感染症からの回復過程にあるもとで、資源価格の高止まりによる海外への所得流出や供給制約といった下押し圧力を受けていると指摘した。このうち一人の委員は、昨年来の半導体不足に中国のロックダウンの影響も加わって、供給制約による下押し圧力は予想以上に長引いており、その影響は、輸出のみならず、設備投資や耐久財消費にも拡がっていると指摘した。これらの委員を含め、何人かの委員は、こうした下押し圧力のもとでも、概ね4月の「経済・物価情勢の展望」で示したシナリオに沿って、消費を中心に持ち直しているとの認識を示した。

輸出や生産について、委員は、輸出は基調としては増加を続けているが、供給制約の影響を受けており、鉱工業生産は、その影響から下押し圧力が強い状態にあるとの認識で一致した。何人かの委員は、半導体不足などによる供給制約の影響は、自動車をはじめ幅広いセクターに及んでいるとの見方を示した。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。何人かの委員は、6月短観からも、企業の設備投資スタンスの積極化が窺われると述べた。このうち一人の委員は、この点について、企業の将来の売上増加への期待が高まっている可能性があると指摘した。

個人消費について、委員は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に緩やかに増加しているとの見方で一致した。一人の委員は、感染抑制と経済活動の両立が進展するもとで、飲食・宿泊等を中心にペントアップ需要が回復を支えていると述べた。そのうえで、この委員は、食料やエネルギーなどの生活必需品の物価上昇は、消費者マインドを悪化させている点も合わせて言及した。

物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギーや食料品の価格上昇を主因に、2%程度となっているとの見方で一致した。ある委員は、物価の基調的な変動を示す各種指標は、緩やかな上昇を続けていると述べた。何人かの委員は、企業による値上げの動きに拡がりがみられると指摘した。このうち一人の委員は、値上げに対する企業の従来の意識に変化が生じている可能性があるとの見方を示した。

予想物価上昇率について、委員は、上昇しているとの見方で一致した。ある委員は、6月短観における企業の中長期の予想インフレ率に関する回答の分布をみると、0%近傍への集中度が大きく低下し、プラス領域の厚みが増しており、形状が変化していると指摘した。

2.経済・物価情勢の展望

2022年7月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、見通し期間の中盤にかけては、ウクライナ情勢等を受けた資源価格上昇による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復していくとの見方で一致した。何人かの委員は、感染症と供給制約の影響が緩和するもとで、当面は、ペントアップ需要に支えられた景気の回復が続くとの見方を示した。見通し期間の中盤以降については、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。一人の委員は、来年度以降、ペントアップ需要が一巡するものの、その頃には、所得から支出への前向きの循環が強まってくる姿が想定されると述べた。

海外経済の先行きについて、委員は、見通し期間の中盤にかけて、ウクライナ情勢などによる減速圧力を受けつつも、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。その後についても、委員は、緩やかな成長を続けるとの見方を共有した。

わが国の輸出や生産について、委員は、供給制約の影響の緩和もあって、自動車関連やデジタル関連を中心に増加していくとの見方で一致した。

設備投資について、委員は、緩和的な金融環境による下支えに加え、供給制約の緩和もあって、増加傾向が明確になっていくとの見方で一致した。一人の委員は、コロナ禍により先送りされていた投資の実行も期待されると述べた。委員は、見通し期間の中盤以降も、人手不足対応の機械投資やデジタル関連投資、成長分野・脱炭素化関連の研究開発投資を含めて、増加を続けるとの見方を共有した。

個人消費について、委員は、物価上昇に伴う実質所得面からの下押し圧力を受けつつも、感染抑制と消費活動の両立が進むもとで、行動制限下で積み上がってきた貯蓄にも支えられたペントアップ需要の顕在化を主因に、増加を続けるとの見方で一致した。ペントアップ需要に関し、一人の委員は、イベント関連消費を中心に回復を続けるとみられるものの、物価上昇の影響やコロナ禍を経た行動様式の変容により、行動自粛下で積み上がった貯蓄の多くを直ちに取り崩すような消費行動は期待しにくいとの見方を示した。見通し期間の中盤以降の個人消費について、委員は、ペントアップ需要の顕在化ペースを鈍化させつつも、着実な増加を続けるとの見方を共有した。

雇用者所得について、委員は、対面型サービス部門の回復に伴う非正規雇用の増加に加え、労働需給の改善を反映した賃金上昇率の高まりを背景に、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。ある委員は、春季労使交渉の妥結状況をみると、今年度の賃上げ率は中小企業も含め前年度を上回ったほか、大手企業を対象とする夏季賞与アンケート調査でも10%を超える増加となるなど、家計所得の増加が見込まれると指摘した。この点に関し、この委員は、輸入原材料価格の高騰に起因する生活必需品の価格上昇と構造的な人手不足の影響から、賃金上昇圧力が高まっていると述べた。別のある委員は、企業の期待成長率の上昇と予想インフレ率の上昇も、賃金上昇余地を高めている可能性があるとの考えを示した。

以上の中心的な成長率の見通しについて、4月の展望レポート時点と比べると、委員は、2022年度は、海外経済の減速や供給制約の強まりの影響などから下振れている一方、その後は、その反動もあって幾分上振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、本年末にかけて、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により上昇率を高めたあと、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくとの見方で一致した。何人かの委員は、消費者物価上昇の原因は、主として輸入原材料価格の上昇であると述べたうえで、来年度以降は、資源価格が上がり続けない限り、消費者物価の上昇率は低下していくという見通しを示した。

変動の大きいエネルギーを除いた消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比について、委員は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、プラス幅を緩やかに拡大していくとの見方を共有した。そのうえで、複数の委員は、現段階では、見通し期間内に2%に達することは見込みがたいと述べた。

こうした物価見通しの背景にある要因について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、現在、小幅のマイナスとなっているが、先行きは、潜在成長率を上回る成長経路を辿るもとで、2022年度後半頃にはプラスに転じ、その後もプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、中長期的な予想物価上昇率は、短期と比べるとペースは緩やかながら上昇しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、適合的予想形成の強いわが国では、現実の物価上昇率の高まりは、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇をもたらし、企業の価格・賃金設定行動や労使間の賃金交渉の変化を通じて、賃金の上昇を伴う形で、物価の持続的な上昇につながっていくとの見方を共有した。この点に関し、ある委員は、より広範かつ持続的な物価上昇のためには、経済成長に伴う持続的な賃金上昇がきわめて重要であると述べた。そのうえで、この委員は、持続的な賃上げと付加価値向上が重要な経営課題となりつつあり、人的資本への投資や所得増加を目指す転職の活発化、スタートアップの成長などが相俟って、賃金と物価の好循環が働くことが期待されるとの見解を示した。また、別の一人の委員は、中長期の予想物価上昇率の上昇、企業の期待成長率の改善、企業の人手不足感の強まりという3つの変化により、持続的に物価が上昇していく可能性が高まっていると指摘し、これらの変化が、企業のビジネスモデルの転換を促し、賃金と物価の前向きの循環を通じて、物価に関するノルムの変化をもたらす可能性が従来よりも高まっているのではないかと述べた。

以上の中心的な物価の見通しについて、4月の展望レポート時点と比べると、委員は、輸入物価の上昇やその価格転嫁の影響から、足もとを中心に上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの前提となっている金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、金融環境は緩和的な状態が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。複数の委員は、足もと、実質金利の低下などを背景に、金融緩和効果が強まっている可能性があるとの見方を示した。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について議論を行った。

まず、経済のリスク要因として、委員は、内外における感染症が個人消費や企業の輸出・生産活動に及ぼす影響に注意が必要であるとの見方で一致した。委員は、わが国においては、高齢者を中心に感染症への警戒感が根強く残る場合、ペントアップ需要による押し上げ圧力が想定よりも弱まり、個人消費が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。複数の委員は、足もと感染が再拡大していることを指摘し、サービス消費等が再び下押しされる可能性があるとの見方を示した。別の一人の委員は、これまでのところ重症者数等は抑制されているうえ、政府も行動制限を課さない方針を表明しており、個人消費の増加基調は維持されるのではないかと述べた。他方で、委員は、感染症への警戒感が大きく後退すれば、行動制限下で積み上がってきた貯蓄の取り崩しが想定以上に進み、個人消費が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。また、委員は、グローバルに半導体不足が続くもとで、内外で感染症が再拡大した場合、サプライチェーン障害などを通じて、供給制約の長期化・拡大につながり、わが国の輸出・生産が下振れるとともに、財消費や設備投資にも悪影響が波及するリスクがあるとの認識を共有した。何人かの委員は、中国で感染再拡大の兆しがみられる点にとくに注意が必要であるとの見方を示した。

また、委員は、ウクライナ情勢の展開やそのもとでの資源・穀物価格の動向にも注意が必要であるとの認識で一致した。すなわち、委員は、ウクライナ情勢の帰趨次第では、ユーロ圏を中心に海外経済が下押しされる可能性があるほか、資源・穀物価格の上昇・高止まりが長期化するリスクもあるとの見方を共有した。そのうえで、委員は、供給要因による資源・穀物価格の上昇は、わが国のような資源輸入国では、輸入コストの増加を通じた経済への下押しの影響が大きくなるため、資源・穀物価格の高止まりによる交易条件の悪化が長期化すれば、賃金の上昇が物価の上昇に追い付かず、経済が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。他方で、委員は、資源・穀物価格が大きく下落すれば、経済が上振れる可能性もあるとの見方で一致した。

更に、委員は、海外の経済・物価情勢と国際金融資本市場の動向についても留意が必要であるとの見方で一致した。具体的には、委員は、先進国を中心にインフレの高進が続くもとで、各国中央銀行の利上げペースは加速しており、国際金融資本市場では、インフレの抑制と経済成長の維持が両立するかが懸念されているとの認識を共有した。そのうえで、委員は、資産価格の調整や為替市場の変動、新興国からの資本流出を通じて、グローバルな金融環境が一段とタイト化し、ひいては海外経済が下振れるリスクがあるとの見方を共有した。この点に関し、多くの委員は、米国経済について、FRBがインフレ抑制のための利上げを進めるもとで、厳しい景気後退を回避して軟着陸できるかが注目される、と述べた。ある委員は、米国におけるインフレの牽引役が、供給制約の強かった財の価格から賃金の影響を受けやすいサービスの価格へとシフトする中、インフレの高止まりが長期化し、一段と強力な金融引締めが必要となる可能性があるとの見方を示した。また、一人の委員は、ユーロ圏で、利上げに伴って欧州周縁国の債務問題が再燃しないかという点にも注意が必要との見解を示した。新興国についても、何人かの委員は、先進国の利上げ加速に伴う通貨下落や資本流出、インフレ高進の経済的・社会的影響といったリスクに注意が必要であると述べた。委員は、こうしたリスクを念頭に置いて、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があるとの認識で一致した。

また、やや長い目でみたリスク要因として、委員は、企業や家計の中長期的な成長期待についても留意が必要であるとの見方で一致した。委員は、ポストコロナやデジタル化、脱炭素化に向けた動きは、わが国の経済構造や人々の働き方を変化させるとみられるほか、地政学的リスクの高まりを背景に、これまで世界経済の成長を支えてきたグローバル化の潮流に変化が生じる可能性があり、そうした変化への家計や企業の対応次第では、中長期的な成長期待や潜在成長率、マクロ的な需給ギャップなどに上下双方向に影響が及ぶリスクがあるとの見方を共有した。ある委員は、様々な要因により不確実性が高い中でも、企業が環境変化への対応や成長のための投資を進める判断をしていることは、心強い動きであるとの評価を述べた。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも影響が及ぶとの見方を共有した。そのうえで、委員は、物価固有のリスク要因についても議論を行った。

まず、委員は、企業の価格・賃金設定行動を巡っては上下双方向に不確実性が高いとの見方で一致した。委員は、原材料コストの上昇圧力や企業の予想物価上昇率の動向次第では、価格転嫁が想定以上に加速し、物価が上振れるリスクがある一方、わが国では、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が根強く残っている点を踏まえると、賃上げの動きが強まらず、物価も下振れるリスクがあるとの見方を共有した。ある委員は、値上げの動きの拡がりなどの変化が、適合的予想形成を通じて人々の物価観を変えていく可能性があると指摘した。他方で、別の一人の委員は、足もとの物価上昇が人々の物価観の変化につながっていくかは現時点では見極めづらく、輸入価格上昇の寄与が剥落した後は、物価上昇率が伸び悩む可能性も十分にあると述べた。

もう一つの物価固有のリスク要因として、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及は、上振れ・下振れ双方に作用し得るとの認識で一致した。とくに、委員は、ウクライナ情勢の展開等を巡る不確実性の高さを反映して、国際商品市況の変動が大きくなっているほか、世界的なインフレ率の高まりや為替市場における急激な変動がみられており、これらがわが国の物価に及ぼす影響については十分注意してみていく必要があるとの見方を共有した。ある委員は、世界経済の減速が世界的にインフレ率と長期金利の低下をもたらすことにより、為替の円安圧力が和らぐ可能性があると述べた。別の一人の委員は、世界経済へのショックが生じた場合、現在の円安局面から円高局面に転じる可能性もあるとの見方を示した。

リスクバランスについて、委員は、経済の見通しについては、当面は下振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしているとの見方で一致した。また、物価の見通しについて、委員は、当面は上振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。

委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見解で一致した。何人かの委員は、今後、実質無利子・無担保融資の返済が本格化するもとで、中小・零細企業の廃業や倒産が増えたり、地域金融機関の与信費用が増える可能性がある点には留意が必要であるとの見方を示した。そのうえで、委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化した場合、金融仲介が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動などに起因して金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの認識を共有した。この点に関し、ある委員は、将来どこかの時点で金融緩和の副作用が顕在化し、金融システムに影響するリスクについては、引き続き十分な注意を払っていく必要があると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

感染症への対応について、委員は、当面、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるという方針で一致した。10月以降のコロナオペの取扱いについては、委員は、今後の感染症の状況や、そのもとでの中小企業等の資金繰りの動向を慎重に見極めたうえで、次回の9月会合で判断することが適当であるとの見方を共有した。複数の委員は、感染症の企業金融への影響は和らいできているとみられ、コロナオペの残高も着実に減少していると述べた。ある委員は、コロナオペは、所期の効果を発揮し、役割を終えつつあるとみられるが、感染症が拡大する中でもあり、今回会合での決定は見送るべきであると付け加えた。多くの委員は、足もとの感染再拡大がきわめて急速であることに言及し、これが中小企業等の資金繰りに及ぼす影響を慎重に見極めることが必要との認識を示した。

次に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論した。委員は、わが国経済は、感染症からの回復過程にある中で、資源高による海外への所得流出という下押し圧力を受けており、大規模な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当との認識を共有した。ある委員は、サービス価格など物価の基調を規定する部分が上昇し、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えることが視野に入っていないもとでは、現状の金融緩和を継続することが当然であるとの認識を示した。何人かの委員は、「物価安定の目標」を持続的・安定的に実現していく観点から、賃金上昇が重要であるとの認識を示したうえで、現在の金融緩和を継続していくことが適当であると述べた。ある委員は、需給ギャップは2年以上マイナスであり、需要拡大と持続的な賃金上昇を後押しする現在の金融緩和を粘り強く継続すべきであると付け加えた。複数の委員は、賃金動向を、その分布の変化を含め、統計などを用いて的確に把握する必要があるとの考えを示した。この間、ある委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があると述べた。

金融政策運営に関する対外的な情報発信について、複数の委員は、足もとの実際の物価上昇率や今年度の見通しが2%を超えることになるが、2%の「物価安定の目標」は持続的・安定的に実現することが必要であり、物価の基調を見極め、それに基づいて政策運営することが適切であるという考え方を、従来以上に丁寧に説明していく必要があると述べた。このうち一人の委員は、様々な物価関連指標を用いた説明はどうしても技術的で分かりにくい面があると指摘したうえで、日本銀行が目指しているのは、賃金と物価の好循環であり、それが人々の暮らし向きの改善につながること、そして現段階ではそうした目的の実現までにはなお距離があり、金融緩和を継続して経済活動をサポートする必要があること、などの基本的な考え方を分かりやすく発信していくことが重要であるとの考えを示した。ある委員は、これまでの金融緩和の効果を丹念に説明していく必要があるとの考えを示し、大規模金融緩和は、雇用の増加や時間当たりの実質賃金の上昇、非賃金面での待遇の改善を実現し、一人当たり実質成長率を高めてきたと指摘した。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。複数の委員は、イールドカーブ・コントロールのもとで名目金利が低位に維持される中、最近の予想物価上昇率の高まりにより、実質金利の低下を通じた金融緩和効果が強まっており、これは、企業の設備投資スタンスの積極化等にもつながっているとみられるとの考えを示した。ある委員は、現在のイールドカーブ・コントロールを修正することは、長期金利の上振れ等を通じて経済に下押し圧力となり、「物価安定の目標」の持続的・安定的な達成をより困難なものとするため適当ではないとの見解を示した。この委員は、ひと頃、海外中央銀行の利上げを受けて日本銀行もイールドカーブ・コントロールを早期に修正するのではないか、との観測がみられたが、足もとそうした観測は後退していると付け加えた。一人の委員は、金利上昇圧力を抑制するための最近の国債買入れの増加が、国債市場の機能度に与える影響を注視する必要があると述べた。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

  1. 「(1)次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
    短期金利:
    日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    長期金利:
    10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. (2)上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営方針について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • G20では、ロシアのウクライナ侵略が、食料・エネルギーの供給不安を招き、インフレを悪化させていることなどを議論した。
  • 政府としては、物価高に対して、これまで昨年11月の経済対策、過去最大の当初予算、今年4月の総合緊急対策、そして補正予算と切れ目なく対策を講じてきている。補正予算で確保した予備費の機動的な活用をはじめ、物価・景気両面の状況に応じた迅速かつ総合的な対策に取り組んでいく。
  • 日本銀行には、政府と連携し、ウクライナ情勢や感染症の影響も踏まえ、「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向け、適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の先行きは持ち直していくことが期待される。ただし、ウクライナ情勢の長期化や中国における経済活動の抑制の影響などが懸念される中で、原材料価格の上昇や供給面での制約、金融資本市場の変動等による下振れリスクに十分注意する必要がある。
  • 政府は、昨年の経済対策や、4月の総合緊急対策を迅速かつ着実に執行していく。今後も、「物価・賃金・生活総合対策本部」において、予備費の機動的な活用など、迅速かつ総合的な対応に切れ目なく取り組む。
  • 物価上昇が続く中において、賃上げの流れが、よりしっかりとした、そして継続的なものとなるよう、総合的な取り組みを進める。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と連携し、経済・物価・金融情勢を十分に踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

  1. 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

    1. (1)日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
    2. (2)10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
  2. 上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債について、金額を無制限とする固定利回り(0.25%)方式での買入れを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施すること。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、7月22日に公表することとされた。

7.議事要旨の承認

議事要旨(2022年6月16、17日開催分)が全員一致で承認され、7月26日に公表することとされた。

8.金融政策決定会合の開催予定日の承認

2023年の金融政策決定会合の開催予定日が全員一致で承認され、会合終了後、公表することとされた。

以上


  • (注) 「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」 本文に戻る

別紙

2022年7月21日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)
      1. [1]次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。
        短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
      2. [2]連続指値オペの運用

        上記の金融市場調節方針を実現するため、10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。

    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  2. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。 本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。 本文に戻る