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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年3月17、18日開催分)

2022年5月9日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年4月27、28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年3月17日(14:00から15:52)
 
3月18日( 9:00から11:44)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 小野平八郎 大臣官房総括審議官(17日)
  • 岡本 三成 財務副大臣(18日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(17日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(18日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 木下尊生
  • 政策委員会室企画役補佐 大庭英正
  • 企画局企画役 安藤雅俊
  • 企画局企画役 門川洋一

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(1月17、18日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。この間、2月中旬には、米国金利の動き等を受けて、10年物国債金利の上昇圧力が高まった局面で、10年物国債を対象とする固定利回り方式による国債買入れ(指値オペ)を実施した。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペを実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.03から-0.01%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.09から-0.08%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

米欧株価が長期金利の上昇やウクライナ情勢の悪化を受けて大きく下落するもとで、わが国の株価(TOPIX)も大幅に下落している。長期金利は、米国長期金利の動き等を受けて上昇圧力が高まる場面もみられたが、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米国金利の上昇や、資源価格の上昇などを受けた本邦輸入企業のドル買いの動きなどから、円安方向の動きとなっている。円の対ユーロ相場は、ウクライナ情勢の悪化を受けていったん円高方向の動きとなったが、その後は、欧州金利の上昇を受けて円安方向へと反転している。この間、為替スワップ市場におけるドル調達プレミアム(3か月物)は、ウクライナ情勢の悪化に伴う不確実性の高まりから幾分拡大したが、なお低水準で推移している。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。米欧等の先進国によるロシアへの経済制裁を受けて、同国からの企業の撤退・事業縮小などの動きや、戦闘地域周辺における物流の停滞・遅延など、経済活動への影響がみられ始めているが、これまでのところ、グローバルにみた企業の業況感は改善を続けており、製造業の生産や貿易量も供給制約の影響の緩和もあって増加している。先行きの海外経済は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ウクライナ情勢を巡る地政学的リスクは高まっており、それが世界経済や国際金融資本市場に与える影響を中心に、当面、不確実性が大きい。

地域別に動きをみると、米国経済は、回復している。個人消費は、増加が続いている。雇用者数の増加は続いているが、労働参加率の回復が遅れるもとで、離職率の上昇もあって、労働市場の逼迫感は強まっている。企業部門をみると、業況感の改善と設備投資の増加が続いている。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、財市場での需給逼迫の影響などから、6%程度の高い上昇率となっている。

欧州経済は、回復している。個人消費は、エネルギー価格の高止まりの影響がみられるものの、サービス消費を中心に、基調としては回復を続けている。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資も改善している。物価面では、HICPの前年比は、エネルギー価格を中心にプラス幅をはっきりと拡大し、5%台半ばとなっている。

中国経済は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いている。個人消費は、一部で感染症の影響に伴う下押し圧力が強まっているものの、雇用・所得環境の改善傾向が維持されるもとで、基調としては増加している。固定資産投資は、企業の債務問題等に伴って不動産投資が減速していることなどから、概ね横ばい圏内で推移している。生産は、電力供給問題や供給制約の影響が和らぐもとで、持ち直しつつある。

中国以外の新興国経済は、総じてみれば持ち直している。NIEs・ASEAN経済は、感染症の影響が和らぐもとで、回復している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、地政学的リスクの高まりを受けて低下する局面もみられたが、金融政策正常化の前倒しが強く意識されるもとで、期間を通じてみれば、上昇している。株価は、地政学的リスクの高まりを受けて、欧州を中心に大幅に下落している。原油価格は、先進国によるロシアへの経済制裁などを受けて需給逼迫懸念が高まり、急激に上昇している。為替市場について、新興国通貨をみると、ラ米等の資源国通貨は総じて上昇しているものの、ロシア・ルーブルが急落しているほか、東欧通貨も下落している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。先行きについては、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けている。実質輸出を財別にみると、自動車関連は、世界的な半導体需給の逼迫が続くもとで、1月は感染クラスターの発生に伴う一部の部品工場の稼働停止の影響もあって、大きめに減少した後、2月は小幅の増加に転じたが、昨年夏の減産前の水準はなお取り戻せていない。一方、グローバルなデジタル関連需要の拡大を背景に、情報関連は、高水準で推移しているほか、資本財も、振れを伴いつつ増加している。先行きの輸出や鉱工業生産は、ウクライナ情勢の悪化から海外経済が下押しされる影響を受けるものの、当面、供給制約の影響が徐々に緩和するもとで、緩やかに増加すると予想される。その後も、グローバルなデジタル関連需要等が堅調に拡大するもとで、増加を続けると考えられる。

企業収益や業況感は、全体として改善を続けている。法人企業統計の全産業全規模の経常利益(季節調整値)をみると、昨年10から12月は大きく改善し、既往ピークである2018年4から6月以来の高水準となった。そうしたもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。昨年10から12月のGDPベースの実質設備投資は、機械投資における供給制約の影響が残るもとで、前期比+0.3%の増加となった。先行きの設備投資は、供給制約の影響が徐々に緩和していくもとで、高水準の企業収益や緩和的な金融環境に支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、増加している。

個人消費は、感染症の再拡大によるサービス消費を中心とした下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、昨年末にかけてはっきりと持ち直したものの、1月は、オミクロン株の流行とそれに伴う公衆衛生上の措置の導入から、大きく減少している。耐久財消費は、家電等を中心に増加している一方、非耐久財消費は、外出抑制の動きを背景に再び減少している。サービス消費は、外食や国内旅行を中心に、昨年末にかけて持ち直してきたが、1月以降は弱い動きとなっている。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、足もとにかけての個人消費動向を窺うと、外食や国内旅行等のサービス消費は、1月後半から2月前半にかけて昨年9から10月頃の水準まで減少したが、その後は幾分持ち直している模様である。一方、財消費は、食料品を中心とした巣ごもり消費もあって、比較的堅調に推移しているとみられる。先行きの個人消費は、感染状況が徐々に改善し、感染抑制と経済活動の両立も次第に進んでいくもとで、エネルギーや食料品の価格上昇の影響を受けつつも、ペントアップ需要の顕在化や政府の経済対策による後押しもあって、再び持ち直していくとみられる。

住宅投資は、横ばい圏内の動きとなっている。新設住宅着工戸数は、住宅ローン減税制度の見直し前後の振れを伴いつつも、横ばい圏内で推移している。先行きの住宅投資は、住宅価格の上昇が重石となるものの、ペントアップ需要や緩和的な金融環境に支えられて、横ばい圏内で推移すると見込まれる。

雇用・所得環境をみると、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。労働力調査の就業者数は、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。一人当たり名目賃金は、緩やかに増加しているが、感染症拡大前の水準を依然下回っている。春季労使交渉における集中回答結果をみると、企業収益の改善を背景に、製造業を中心に、ベースアップを含め前年を上回る賃上げ率を提示する先が多くなっている。先行きの雇用者所得は、感染症などの影響の緩和に伴い景気が改善するもとで、緩やかな増加を続け、水準も明確に切り上がっていくとみられる。

物価面について、商品市況は、ウクライナ情勢を受けた供給懸念の強まりなどを背景に、大幅に上昇している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台半ばとなっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、0%台半ばとなっている。この間、予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。短期のインフレ予想指標は、家計、エコノミスト、市場参加者において、原油価格等の上昇の影響などから、はっきりと上昇している。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がCP市場を中心にみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP市場では、良好な発行環境となっている。社債市場では、足もとでは、市場のボラティリティの上昇を受けて、一部で起債延期などの動きがみられるが、総じて良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ0%台前半、1割台前半となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい業種や中小企業を中心に、なお厳しさが残っているが、経済の持ち直しに伴い全体としては改善が続いている。

この間、マネタリーベースは、ひと頃に比べ減速しつつも、足もとではなお前年比7%台半ばのプラスとなっている。マネーストックの前年比も、なお3%台半ばのプラスを維持している。

2.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

国際金融資本市場について、委員は、米欧の金融緩和縮小の動きが続くもとで、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も加わり、不安定な動きがみられるほか、原油などの資源価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要であるとの見方を共有した。一人の委員は、ウクライナ情勢を受けた資源・穀物価格の上昇により、インフレ率が高まれば、各国の中央銀行による金融緩和の縮小がこれまで以上に意識され、投資家のリスク回避姿勢が一段と強まる可能性があると述べた。別の一人の委員は、米国金利の上昇を受けた新興国の資本流出や通貨安、それに対する中央銀行の防衛的な利上げにより、国際金融資本市場が不安定化する可能性には注意が必要であるとコメントした。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの認識で一致した。一人の委員は、2月のグローバルPMIは、製造業・非製造業ともに50を上回るなど、世界経済の回復基調は総じて維持されているとの見方を示した。別の一人の委員は、海外の多くの国では、感染再拡大が頻発する中でも、ウィズコロナを前提とした経済回復が進展していると述べた。更に、この委員は、世界的なインフレ率の上昇が足もとまで続いていることは、感染症対策として講じてきた拡張的な財政・金融政策を背景に、需要の拡大の勢いが衰えていないことを示唆していると述べた。海外経済の先行きについて、委員は、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、総じてみれば回復を続けるとの見方で一致した。そのうえで、委員は、ウクライナ情勢を巡る地政学的リスクは高まっており、それが世界経済や国際金融資本市場に与える影響を中心に、当面、不確実性が大きいとの認識を共有した。具体的なリスク要因として、委員は、ウクライナ情勢が資源価格や供給制約に与える影響、それらを受けたインフレ動向と各国中央銀行による政策対応、国際金融資本市場の不安定化に伴う企業や家計のマインドの悪化などを指摘した。複数の委員は、ロシア関連の貿易活動の停滞は、ロシア産天然ガスへの依存度の高い欧州経済だけでなく、グローバルな供給制約を通じて、世界経済に幅広く影響を与えるリスクがあるとの見解を示した。一人の委員は、ロシア経済が世界経済全体に占める割合は小さいが、ロシアのウクライナ侵攻は、資源・食料品価格への影響を通じて、その割合以上の経済的なインパクトをもたらす可能性があると述べた。複数の委員は、FRBを始めとする各国中央銀行の金融政策対応により、世界経済の回復基調が損なわれないかたちで、インフレ率が適正な水準に低下していくかどうかに注目していると述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、直近の雇用統計は、非農業部門の雇用者数がしっかりとした増加を続けるなど、米国経済の堅調さを裏付ける内容だったとの見方を示した。別の一人の委員は、オミクロン株による感染拡大が落ち着きつつある中、生産や個人消費は回復しているとの見方を示した。他方、複数の委員は、ガソリン価格の高騰などを背景に、消費者マインドが悪化しつつある点には注意が必要であると述べた。

欧州経済について、委員は、回復しているとの認識で一致した。欧州経済の先行きを巡るリスクについて、一人の委員は、感染症の再拡大とウクライナ情勢の悪化により、急速なインフレと景気後退が同時進行するスタグフレーションに陥る可能性が高まらないか注意を要するとの考えを述べた。別の一人の委員は、欧州は、ロシアとの経済的な関係が深いため、貿易や投資を通じた実体経済面での下押しの影響が懸念されると述べた。

中国経済について、委員は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いているとの見方を共有した。何人かの委員は、「ゼロコロナ政策」と呼ばれる厳格な公衆衛生上の措置や、最近の規制強化による不動産・インフラ投資の弱含みなどから、中国経済の成長ペースが鈍化していると述べた。この点に関連して、何人かの委員は、電子情報産業の集積地等において導入された都市封鎖がサプライチェーン等に与える影響には、とくに注意する必要があるとの見解を示した。

中国以外の新興国経済について、委員は、総じてみれば持ち直しているとの認識を共有した。複数の委員は、新規感染者数がこのところ増加しているが、感染症との共生が徐々に図られるもとで、新興国経済の持ち直しは維持されているとの見方を示した。一人の委員は、エネルギー・食料品価格の高騰等が新興国経済に与える影響は、先進国以上に大きいとみられるため、今後の動向に留意すべきであると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直しているとの認識で一致した。複数の委員は、昨年10から12月の実質GDP成長率は、はっきりとしたプラス成長となったが、本年入り後は、オミクロン株の感染拡大が、個人消費を中心に景気の下押し圧力となっているとの見解を示した。別の複数の委員は、感染再拡大の影響を受けつつも、企業収益の改善を起点とした前向きの循環メカニズムは引き続き働いているとの見方を示した。

景気の先行きについて、委員は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとの見解で一致した。一人の委員は、輸入原材料価格の高騰等による企業や家計のマインド悪化には注意が必要だが、わが国経済は、感染症の影響が和らぐもとで、サービス消費を中心に持ち直していくとの見通しを示した。別の一人の委員は、最近の資源価格上昇による交易利得の悪化は、内需の下押し要因となり得るが、今次局面は、感染症の影響による落ち込みからの回復過程にあるほか、いわゆる「強制貯蓄」の存在が、家計の実質所得減少のバッファーとして作用することも期待されるため、内需の耐性は2008年頃の資源価格上昇局面よりも高いとの見方を示した。この間、ある委員は、感染症の影響により、企業規模・業種間の業況格差が拡大しているが、その背後にある個人の消費行動の変化はある程度構造的であるため、こうした格差は感染症収束後も完全には解消しない可能性が高いと述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けているとの認識を共有した。一人の委員は、本年入り後、オミクロン株の流行により、感染や濃厚接触を理由に出勤できない労働者が急増したことが、一部で生産活動の制約となったと述べた。先行きの輸出や生産について、委員は、ウクライナ情勢の悪化から海外経済が下押しされる影響を受けるものの、当面予想される供給制約の影響の緩和やグローバルなデジタル関連需要等の堅調な拡大を背景に、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。

企業収益や業況感について、委員は、全体として改善を続けているとの見解で一致した。一人の委員は、企業収益の改善は、海外経済の回復を背景に、製造業が牽引役となっていると述べた。別の一人の委員は、景気ウォッチャー調査の現状判断が、ウクライナ情勢への懸念などから、1月に続き2月も低迷したことは気掛かりであると指摘した。ある委員は、為替円安が家計や企業のマインドに与える影響は、同時に資源価格の上昇を伴うかどうかといった外部環境によっても異なる可能性があるため、今後の動向を注視していく必要があると述べた。

設備投資について、委員は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。先行きの設備投資について、委員は、供給制約の影響が徐々に緩和していくもとで、高水準の企業収益や緩和的な金融環境に支えられて、増加傾向が明確になっていくとの見解を共有した。複数の委員は、「企業行動に関するアンケート調査」の設備投資計画はしっかりしており、企業の設備投資意欲は維持されているとの見方を示した。ただし、これらの委員は、同アンケートの調査時点が1月であり、ウクライナ情勢の影響が十分に織り込まれていない点には留意が必要であると付け加えた。

個人消費について、委員は、感染症の再拡大によるサービス消費を中心とした下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服しているとの認識で一致した。何人かの委員は、感染再拡大を受けた行動制限の長期化や消費者マインドの悪化により、飲食・宿泊等のサービス消費に対する下押し圧力が再び強まっていると述べた。先行きの個人消費について、委員は、感染状況が徐々に改善し、感染抑制と経済活動の両立も次第に進んでいくもとで、エネルギーや食料品の価格上昇の影響を受けつつも、ペントアップ需要の顕在化や政府の経済対策による後押しもあって、再び持ち直していくとの見方を共有した。複数の委員は、3月下旬に予定されているまん延防止等重点措置の解除以降、個人消費は再び回復していくとの見通しを示した。

雇用・所得環境について、委員は、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっているとの見解で一致した。何人かの委員は、3月16日に集中回答日を迎えた春季労使交渉の状況について、好調な企業業績を反映して、大手企業の賃上げにも明るい動きが出始めているとの見方を示した。先行きの雇用者所得について、委員は、感染症などの影響の緩和に伴い景気が改善するもとで、緩やかな増加を続け、水準も明確に切り上がっていくとの見方を共有した。一人の委員は、最近の企業からの聞き取り調査などを踏まえると、企業の価格設定スタンスは全体として前傾化しているように窺われ、こうした価格面の前向きな動きが賃金の上昇に繋がっていくかどうかに注目していると述べた。別の一人の委員は、政府による賃上げ優遇税制等も活用しつつ、消費者物価の上昇を賃金の上昇に繋げていくことが重要であるとの見解を示した。ある委員は、女性や高齢者による労働供給の更なる増加が難しい中、経済の回復とともに労働市場の需給が引き締まっていけば、中間層の賃金が上昇しやすい環境になっていくとの見方を示した。一方、別のある委員は、「企業行動に関するアンケート調査」では、企業の成長期待に上方修正がみられず、先行き、賃上げが持続するかどうか、不透明感があると述べた。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台半ばとなっているとの認識で一致した。一人の委員は、企業物価が歴史的な伸びを続ける中、消費者物価についても基調的な上昇圧力が徐々に高まってきているように窺われると述べた。別の一人の委員も、企業が原材料コストの上昇を小売価格に転嫁する動きが拡がっているように見受けられると指摘した。この委員は、その背景として、同業他社の値上げやエネルギー価格等の上昇といった消費者に理解されやすい事象が増えているため、企業が、以前よりも値上げに対する消費者の納得感を得られるだろうと考えていることが影響しているのではないかと述べた。これに対し、複数の委員は、エネルギー関連や食料品等で値上げが確認されるものの、企業物価の上昇に比べれば、小売価格への転嫁は現時点で限定的であるとの見方を示した。このうちの一人の委員は、その背景として、内需の回復が十分ではなく、企業にとって製品価格へのコスト転嫁が難しいマクロ経済状況が依然として続いていることを指摘した。この間、予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。一人の委員は、インフレ予想は、家計、企業、エコノミスト、市場参加者のいずれの指標をみても、このところ上昇していると述べた。

物価の先行きについて、委員は、消費者物価の前年比は、当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大するとの見方で一致した。また、委員は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくとの認識も共有した。複数の委員は、消費者物価の前年比は、原油価格の動向や政府の対応次第ではあるが、エネルギー価格の上昇を主因に、4月以降、はっきりとプラス幅を拡大し、当面、2%程度の伸びとなる可能性があるとの見方を示した。そのうえで、このうちの一人の委員は、2022年度の物価上昇はコストプッシュ型になると予想されるため、その後には相応の反動が生じる可能性があると述べた。別の複数の委員も、家計の予算制約や企業の競争環境なども踏まえると、足もとの輸入原材料価格の高騰が、消費者物価の持続的な上昇に繋がる可能性は低いとの見方を示した。このうちの一人の委員は、消費者物価の持続的な上昇には、賃上げによる家計の購買力の引き上げが必要であると付け加えた。もう一人の委員は、賃金と物価の持続的な上昇には、就業者の7割が働く中小企業を含めた企業の生産性向上が欠かせず、人的資本投資等によるイノベーション力の強化や、スタートアップ育成等による新陳代謝の活発化と企業の構造改革を支援する地域金融機関の取り組みが重要であるとの見方を示した。ある委員は、わが国に根付いているとみられる値上げに否定的な同調圧力が薄れ、値上げ許容度の改善が拡がっていくかに注目していると述べた。この点について、別のある委員は、1970年代の世界的なインフレ局面において、日本の消費者物価の上昇率は、主要先進国の中で最も高かった事実を指摘したうえで、わが国企業にみられる同調圧力は、ひとたび値上げの動きが生じれば、次々と連鎖的に拡がっていく可能性を示唆しているとの見方を示した。この間、一人の委員は、企業の価格設定行動や予想インフレ率に変化がみられるものの、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、2023年度末に「物価安定の目標」を達成するのは難しいと述べた。

経済・物価見通しのリスク要因として、委員は、変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に、引き続き注意が必要であるとの認識で一致した。一人の委員は、感染再拡大により、対面型サービス部門が再び下押し圧力を受けるリスクには、注意が必要であると述べた。別の一人の委員は、感染症の収束がみられなければ、個人消費は今後も感染動向の波に応じて一進一退の動きを繰り返す可能性があり、ペントアップ需要の顕在化のタイミングも後ずれするリスクがあるとの見方を示した。ある委員は、わが国の経済主体は依然として感染症対応に注力しており、今後もこうした状況が続けば、家計や企業の「強制貯蓄」が退蔵され、わが国経済の活力が一段と失われるリスクがあると述べた。この間、一人の委員は、海外における感染再拡大により、サプライチェーン障害を通じて、わが国の輸出・生産に悪影響が波及するリスクにも、注意が必要であると指摘した。この点に関し、ある委員は、中国での感染拡大とそれに伴う都市封鎖が、わが国企業の生産活動に対する供給制約を更に強める場合には、輸出に相応の下押し圧力が加わると述べた。

別のリスク要因として、委員は、ウクライナ情勢が、国際金融資本市場や資源価格、海外経済の動向等を通じて、わが国の経済・物価に及ぼす影響についてもきわめて不確実性が高いとの見方を共有した。一人の委員は、ウクライナ情勢の悪化を受けて、エネルギー価格等が一段と上昇すれば、企業収益や家計所得の圧迫を通じて、わが国経済の回復に大きな悪影響を及ぼす可能性があると述べた。別の一人の委員は、ウクライナ情勢の悪化等により、中小企業を中心に賃上げや設備投資の判断が慎重化するリスクには注意が必要との見方を示した。ある委員は、ロシア等に対する経済制裁を受けて、現地に投資してきた本邦企業の活動は既に制約を受けているが、物流や資金決済が滞ることによる影響が発現するには時間がかかることから、今後、更に経済活動に対する制限や負荷が増える可能性がある点には注意が必要であると述べた。この間、物価面のリスクとして、一人の委員は、ウクライナ情勢を受けて、資源価格は大幅に上昇しているが、近い将来、FRBによるバランスシートの縮小開始などを契機に、資源価格は反落する可能性もあるため、2022年度後半以降は、むしろ物価の下振れリスクを警戒すべきであるとの見解を示した。

2.金融面の動向

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。何人かの委員は、ウクライナ情勢を受けて、市場のボラティリティが高まる中、エクイティファイナンスや社債市場の一部において、資金調達を延期する動きがみられたほか、ドル調達コストが幾分上昇する局面も一時的にみられたと指摘した。もっとも、このうちの一人の委員は、CP市場では、資源高により高まっている運転資金需要のファイナンスが円滑に行われるなど、全体として、緩和的な外部資金の調達環境が維持されていると述べた。もう一人の委員も、CP・社債の発行環境は総じて良好であり、現時点で、企業等の資金繰りや金融システムに特段の問題は生じていないとの見解を示した。この間、一人の委員は、最近の米国の長期金利上昇等により、大手行の市場部門の収益が下押しされる中で、今後は、長引く感染症や供給制約の影響から、与信関係費用も増加するリスクがあることには注意が必要であると述べた。更に、この委員は、かつては保守的な運用を行っていた年金基金等も、長引く低金利環境下で債券から株式などの高リスク資産に投資先を移している点を指摘したうえで、ウクライナ情勢や欧米の金利上昇の影響により、リスク性資産価格の大幅な調整が起こる場合には、年金基金等にも大きな影響が及ぶ惧れがあると述べた。

3.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の感染症への対応について、委員は、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。一人の委員は、足もとで市場のボラティリティが高まる中、社債市場では起債延期といった動きも一部でみられるが、CP・社債の発行環境は総じて良好な状態を維持しているため、特別プログラムにおける大企業向けの対応であるCP・社債等買入れの増額措置は、期限どおり、3月末をもって終了することで問題ないと述べた。

更に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論した。一人の委員は、感染症の影響に加え、ロシアによるウクライナ侵攻により先行き不透明感が高まる中、現在の金融緩和を継続し、経済・物価の動向を注視していく必要があると述べた。別の一人の委員は、金融政策運営にあたっては、資源価格や為替相場の変動そのものではなく、あくまでもそれらが経済・物価に及ぼす影響を考える必要があると強調した。複数の委員は、わが国では、米国や英国とは異なり、賃金と物価のスパイラル的な上昇を伴って、インフレ率が2%の「物価安定の目標」を継続的に上回っていくような状況にはなく、金融緩和の継続によって、感染症からの回復を支えていくことが重要であると述べた。ある委員は、ウクライナ情勢を受けたエネルギー価格等の上昇は、消費者物価を押し上げる一方、内需を下押しすると指摘したうえで、そうした状況では、現状の金融緩和を粘り強く継続することで、労働需給を改善させ、賃金上昇をより強く後押しする必要があるとの見解を示した。別のある委員は、資源価格等の上昇により、短期的には、わが国のインフレ率が2%を超える可能性もあるが、今後、経済・物価への下押し圧力が強まれば、デフレが再来するリスクすらあると述べた。そのうえで、この委員は、物価の基調が安定的・持続的に「物価安定の目標」に到達するまで金融緩和を継続し、企業収益から賃上げ、設備投資増加への好循環の動きを後押しすることが適当であり、「物価安定の目標」の達成が危ぶまれる場合には、躊躇なく機動的に対応すべきであると付け加えた。一人の委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があると指摘した。他方、別の一人の委員は、わが国経済は、資源価格の上昇により、下押し圧力を受けるとしても、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、景気回復は続き、基調的な物価上昇率も高まっていくと予想されるため、追加緩和が必要な局面にはないとの見方を示した。この間、ある委員は、最近の経済・物価情勢を巡る環境変化を踏まえ、様々な可能性を想定しつつ、金融政策上の対応について考えておくことが重要であると述べた。

また、委員は、金融市場調節との関連で、最近のわが国でみられる長期金利の上昇圧力への対応について議論した。複数の委員は、今後、米国で予想される利上げの加速に伴い、わが国の長期金利に対する上昇圧力も高まる可能性はあるが、金融政策面からの景気刺激効果を維持する観点から、指値オペを含めた各種の対応により、そうした上昇圧力を抑制し、金融市場調節方針を実現することが重要であると述べた。このうちの一人の委員は、足もとでは、予想物価上昇率が上昇しているため、名目金利の上昇を抑え、実質金利を一段と引き下げることで、設備投資等の刺激効果は強まることが期待できるとの見方を示した。

委員は、物価の基調判断にかかる対外的な情報発信についても議論を行った。一人の委員は、日本銀行が目指しているのは、エネルギー価格の上昇等による一時的な物価上昇ではなく、2%の「物価安定の目標」の持続的かつ安定的な実現であると述べた。そのうえで、この委員を含む何人かの委員は、当面、消費者物価の前年比が、エネルギー価格の上昇を主因に、2%程度になる可能性がある中、展望レポートにおける示し方を含め、物価の基調に関する評価や見通しの説明を工夫していく必要があるとの見解を示した。この間、ある委員は、物価の基調判断において、生鮮食品やエネルギーなど、価格の振れやすい品目を除くことは重要だが、国民生活との関連の深い生鮮食品やエネルギーを除いた計数だけで物価情勢や金融政策スタンスの説明を行うと、広く国民の理解を得ることは難しくなる惧れがあるとの留意点を指摘した。そのうえで、この委員は、企業収益や賃金の上昇を伴いながら、物価が基調として上昇する好循環が実現しているかどうか、といった観点から説明を行うことが重要であると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、また、同年4月以降は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していくこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、2020年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として実施してきた措置について、委員は、引き続き、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針で一致した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

4.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • ロシアのウクライナ侵略には、G7を始めとする国際社会と緊密に連携して対応している。ウクライナ情勢等が日本経済に与える影響については、状況が刻々と変化する中、引き続き注視する必要があるが、影響の大きいエネルギー価格については、政府として「原油価格高騰に対する緊急対策」を取りまとめ、各種対策を講じている。
  • 令和3年度補正予算と一体で編成する令和4年度予算は、感染症対策に万全を期すとともに、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現を図るための予算としており、早期成立に向けて尽力している。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、ウクライナ情勢や感染症の影響を踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 先般公表した2021年10から12月期GDPの2次速報では、実質GDPの水準が概ね感染症拡大前の水準を回復した。他方で、ウクライナ情勢等を受けた原材料価格の高騰や今後の感染症の動向、世界的な供給制約等による景気の下振れリスクには十分注意する必要がある。
  • こうしたリスクに対して、政府は、国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えるべく、燃料油価格激変緩和事業の大幅な拡充・強化を含む緊急対策や、感染症対策として用意した重層的な生活支援策などを迅速に実行する。
  • 日本銀行には、引き続き、政府と緊密に連携し、経済・物価・金融情勢を十分に踏まえ、適切な金融政策運営を期待する。

5.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。同年4月以降は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

6.議事要旨の承認

議事要旨(2022年1月17、18日開催分)が全員一致で承認され、3月24日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」本文に戻る

別紙

2022年3月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      • 短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。同年4月以降は、感染症拡大前と同程度のペースで買入れを行い、買入れ残高を感染症拡大前の水準(CP等:約2兆円、社債等:約3兆円)へと徐々に戻していく。
  2. わが国の景気は、新型コロナウイルス感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。ただし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油などの資源価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要である。そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けている。また、企業収益や業況感は全体として改善を続けている。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。雇用・所得環境をみると、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。個人消費は、感染症の再拡大によるサービス消費を中心とした下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服している。住宅投資は横ばい圏内の動きとなっている。公共投資は高水準ながら弱めの動きとなっている。わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、0%台半ばとなっている。また、予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。
  3. 先行きのわが国経済を展望すると、新型コロナウイルス感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、資源価格上昇の影響を受けつつも回復していくとみられる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想される。この間、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくと考えられる。
  4. リスク要因としては、引き続き変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要である。また、ウクライナ情勢が、国際金融資本市場や資源価格、海外経済の動向等を通じて、わが国の経済・物価に及ぼす影響についてもきわめて不確実性が高い。
  5. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る