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政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2022年1月17、18日開催分)

2022年3月24日
日本銀行

本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2022年3月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

開催要領

1.開催日時:
2022年1月17日(14:00から15:55)
 
1月18日( 9:00から11:39)
2.場所:
日本銀行本店
3.出席委員:
議長 黒田東彦 (総裁)
  • 雨宮正佳 (副総裁)
  • 若田部昌澄(  副総裁  )
  • 鈴木人司 (審議委員)
  • 片岡剛士 (  審議委員  )
  • 安達誠司 (  審議委員  )
  • 中村豊明 (  審議委員  )
  • 野口 旭 (  審議委員  )
  • 中川順子 (  審議委員  )
4.政府からの出席者:
  • 財務省 小野平八郎 大臣官房総括審議官(17日)
  • 大家 敏志 財務副大臣(18日)
  • 内閣府 井上 裕之 内閣府審議官(17日)
  • 黄川田仁志 内閣府副大臣(18日)
(執行部からの報告者)
  • 理事 内田眞一
  • 理事 山田泰弘
  • 理事 清水季子
  • 理事 貝塚正彰
  • 企画局長 清水誠一
  • 企画局審議役 福田英司(17日14:51から15:55)
  • 企画局政策企画課長 川本卓司
  • 金融機構局長 正木一博
  • 金融市場局長 大谷 聡
  • 調査統計局長 亀田制作
  • 調査統計局経済調査課長 長野哲平
  • 国際局長 廣島鉄也
(事務局)
  • 政策委員会室長 中島健至
  • 政策委員会室企画役 本田 尚
  • 政策委員会室企画役補佐 大庭英正
  • 企画局企画調整課長 中嶋基晴(17日14:51から15:55)
  • 企画局企画役 一瀬善孝
  • 企画局企画役 長江真一郎
  • 企画局企画役 安藤雅俊

1.金融経済情勢に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(12月16、17日)で決定された短期政策金利(-0.1%)および長期金利操作目標(注)に従って、国債買入れを行った。そのもとで、10年物国債金利はゼロ%程度で推移し、日本国債のイールドカーブは金融市場調節方針と整合的な形状となっている。

企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持の観点から、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」のもとで、CP・社債等の買入れや、新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を実施したほか、国債買入れやドルオペなどにより潤沢かつ弾力的な資金供給を行った。また、それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとで、ETFおよびJ-REITの買入れを運営した。

民間における気候変動対応を支援するため、気候変動対応オペの初回オファーを行い、2.0兆円の貸し付けを実行した。

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、金利は、翌日物、ターム物とも、総じてマイナス圏で推移している。翌日物金利のうち、無担保コールレートは、-0.03から-0.01%程度で推移しているほか、GCレポレートは、-0.09から-0.06%程度で推移している。ターム物金利をみると、短国レート(3か月物)は、概ね横ばいとなっている。

株価(TOPIX)は、本年初まで、オミクロン株に対する警戒感の後退を背景に上昇したが、その後は、米欧長期金利の上昇に伴う米欧株価の軟調を受けて下落し、期間を通じてみれば概ね横ばいとなっている。長期金利は、米国長期金利に連れて強含んでいるが、長短金利操作のもとで、ゼロ%程度で推移している。為替相場をみると、円の対ドル相場は、米国長期金利の上昇もあって、円安方向の動きとなったが、足もとでは、若干の巻き戻しの動きもみられる。円の対ユーロ相場は、欧州長期金利の上昇もあって、円安方向の動きとなっている。

3.海外金融経済情勢

海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。オミクロン株の流行に伴い、新規感染者数は、既往ピークを上回り急速に増加しているが、多くの国・地域では、公衆衛生上の措置の対象を絞りつつ、経済活動の再開が継続している。こうしたもとで、グローバルにみた企業の業況感は改善しており、製造業の生産水準や貿易量も増加している。先行きの海外経済については、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、総じてみれば回復を続けるとみられる。ただし、ワクチンの普及ペースの違いなどを背景に、回復の足取りは各国間で不均一なものとなる可能性が高い。また、感染症および供給制約の動向や、それらが海外経済に与える影響について、引き続き不確実性が大きい。

地域別にみると、米国経済は、回復している。個人消費は、政府による経済対策の効果もあって、財消費を中心に増加が続いている。雇用者数は増加しているが、経済活動の再開ペースとの対比では、回復度合いは依然として緩やかになっている。企業部門をみると、業況感の改善が続くもとで、設備投資は増加を続けている。物価動向をみると、PCEデフレーターの前年比は、供給制約の影響などもあって、高い伸びとなっている。

欧州経済は、回復している。個人消費は、経済活動の再開が継続するもとで、サービス消費を中心に、回復を続けている。企業部門をみると、業況感は改善を続けているものの、設備投資は弱めとなっている。物価面では、HICPの前年比は、足もとのエネルギー価格の上昇などから、2%を大きく上回って推移している。

中国経済は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いている。個人消費は、一部で感染症の影響が残るほか、半導体不足の影響から自動車販売が減速しているものの、雇用・所得環境の改善等を背景に、基調としては増加している。固定資産投資は、企業の債務問題等に伴って不動産投資が減速していることなどから、概ね横ばい圏内で推移している。こうしたもとで、生産は、電力供給問題のほか、供給制約の影響もあって、減速した状態が続いている。

中国以外の新興国経済は、内外需要の改善により、持ち直している。NIEs経済は、輸出の増加が続くもとで、感染症の影響緩和に伴い内需も持ち直しており、回復している。ASEAN経済は、感染症の影響を一部に残しつつも、内外需要の増加に支えられて、持ち直している。

海外の金融市場をみると、先進国の長期金利は、FRBの金融緩和の早期縮小観測が台頭したことから、はっきりと上昇している。先進国の株価は、長期金利上昇による下押しの影響を受けつつも、オミクロン株による景気悪化懸念が後退するもとで、期間を通じてみれば小幅に上昇している。為替市場をみると、リスクセンチメントの改善を主因に、新興国通貨は小幅に上昇している。この間、原油価格は、感染拡大に伴う需要減退懸念が緩和する中で、上昇している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

わが国の景気は、内外における感染症の影響が徐々に和らぐもとで、持ち直しが明確化している。先行きについては、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくとみられる。

輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けている。業種別の生産をみると、輸送機械は、ASEAN地域における感染拡大に起因した部品調達難の影響から大幅に減少したあと、増加しているが、なお供給制約の影響がみられる。はん用・生産用・業務用機械は、内外の堅調な設備投資需要を背景に、増加基調を続けている。電子部品・デバイスは、スマートフォン向けに弱めの動きがみられるが、データセンター向けの半導体等が堅調に推移するもとで、全体では高水準で推移している。先行きの輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が緩和するもとで、増加していくと考えられる。

企業収益や業況感は全体として改善を続けている。設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直している。機械投資の一致指標である資本財総供給は、携帯電話基地局など一部に部品不足の影響は引き続きみられるが、自動車関連における供給制約の緩和などから、増加に転じている。建設投資の一致指標である建設工事出来高(民間非居住用)は、緩やかな減少傾向を続けてきたが、Eコマースの拡大を背景とした物流施設の増加などを受けて、下げ止まっている。先行きの設備投資は、供給制約の影響が緩和していくもとで、企業収益の改善や緩和的な金融環境に支えられて、増加傾向が明確になっていくと見込まれる。機械投資の先行指標である機械受注は、振れを均してみれば、持ち直している。建設投資の先行指標である建築着工の工事費予定額は、飲食・宿泊業等による店舗や宿泊施設に弱さが残るものの、物流施設等が増加傾向にあることに加え、都市再開発案件の進捗にも支えられて、全体では持ち直している。

個人消費は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、持ち直しが明確化している。消費活動指数(実質・旅行収支調整済)をみると、緊急事態宣言等の全国的な解除以降、昨年10月、11月とはっきりとした増加を続け、感染症拡大以降のピークとなる2020年11月の水準にほぼ並んだ。耐久財消費は、昨年夏場にかけて、在宅関連需要の一巡や自動車等の供給制約から減少してきたが、その後は持ち直している。非耐久財消費は、飲食料品や日用品が堅調に推移する中、外出意欲の持ち直しなどによる衣料品等の増加も加わり、増加している。サービス消費は、外食や国内旅行を中心に、10月、11月ははっきりと増加している。

企業からの聞き取り調査や高頻度データをもとに、昨年12月から本年1月初にかけての個人消費動向を窺うと、耐久財では自動車が供給制約の緩和に伴い増加を続けたほか、サービス消費についても、オミクロン株を巡る不透明感が意識されつつも、年始までの感染状況が総じて抑制されていたこともあり、少人数利用での外食や国内旅行を中心に持ち直し基調を続けているとみられる。ただし、1月入り後は、新規感染者数が増加し、一部地域でまん延防止等重点措置が適用されたため、対面型サービス消費を中心に、目先の不透明感が高まっているとの声が聞かれている。先行きの個人消費は、当面、感染症への警戒感などが重石となるものの、ワクチンの普及などにより感染抑制と消費活動の両立が進むもとで、ペントアップ需要の顕在化や政府の経済対策による後押しもあって、回復していくと予想される。

雇用・所得環境をみると、一部で改善の動きもみられるが、全体としてはなお弱めとなっている。労働力調査の就業者数は、経済活動全体の持ち直しを反映して下げ止まっているが、対面型サービス業の非正規雇用を中心に、依然低めの水準にある。ただし、正規雇用は、人手不足感の強い医療・福祉や情報通信等を中心に、緩やかな増加を続けている。労働需給面では、有効求人倍率は、1倍をやや上回る水準で横ばい圏内の動きが続いているが、有効求人倍率の先行指標である新規求人倍率は、足もとでは宿泊・飲食の求人増加を背景に上昇している。一人当たり名目賃金は、緩やかに増加しているが、感染症拡大前の水準を依然下回っている。先行きの雇用者所得は、景気の改善に伴い緩やかな増加を続け、水準も明確に切り上がっていくと予想される。

物価面について、商品市況は、オミクロン株拡大に伴う不確実性がある中でも、世界経済の回復継続を背景に、引き続き高水準で推移している。国内企業物価の3か月前比は、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、はっきりとした上昇を続けている。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、小幅のプラスとなっている。消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、携帯電話通信料等の一時的な要因を除いたベースでみると、0%台半ばのプラスとなっている。この間、予想物価上昇率は、緩やかに上昇している。最近公表された家計、企業、エコノミスト、市場参加者のインフレ予想指標をみると、短期を中心に、商品市況の動きなどを反映して、感染症拡大直前の水準を上回って上昇しているものが多い。先行きの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、当面、エネルギー価格が上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も緩やかに進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、振れを伴いつつも、プラス幅を拡大していくと予想される。

(2)金融環境

わが国の金融環境は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にある。

資金需要面では、一部では原材料コストの上昇を受けた運転資金需要がCP市場を中心にみられているが、感染症の影響を受けた予備的な流動性需要などが総じて落ち着いていることから、全体としては横ばい圏内で推移している。資金供給面では、企業からみた金融機関の貸出態度は、緩和した状態にある。CP・社債市場では、良好な発行環境となっている。企業の資金調達コストは、きわめて低い水準で推移している。こうした中、銀行貸出残高の前年比、CP・社債計の発行残高の前年比は、それぞれ0%台半ば、9%程度となっており、これらの残高は引き続き高水準となっている。日本銀行・政府の措置と金融機関の取り組みにより、外部資金の調達環境は緩和的な状態が維持されている。企業倒産は低水準で推移している。企業の資金繰りは、感染症の影響を受けやすい業種や中小企業を中心に、なお厳しさが残っているが、経済の持ち直しに伴い全体としては改善が続いている。

この間、マネタリーベースは、ひと頃に比べ減速しつつも、足もとではなお前年比8%台前半のプラスとなっている。マネーストックの前年比は、3%台後半のプラスとなっている。

(3)金融システム

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

大手行の収益は、高水準の貸出残高や、手数料収入の増加などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、幾分上昇している。地域銀行と信用金庫の収益も、高水準の新型コロナ関連融資残高などを背景に、堅調に推移している。信用コストは、低水準となっている。自己資本比率は、概ね横ばいとなっている。

金融循環面では、金融システムレポートで示しているヒートマップを構成する全14指標のうち、実体経済活動との対比でみた金融機関の与信量等の4指標について、過熱方向にトレンドから乖離した状態となっている。もっとも、これらは、主として、感染症の影響による企業等の運転資金需要の高まりに金融機関が応えた結果として生じており、金融活動の過熱感を表すものとはみられない。企業収益の回復とともに債務返済が進み、金融機関与信が実体経済活動に見合った水準に復していくか、引き続き注視する必要がある。

2.貸出増加支援資金供給の今後の取扱い

1.執行部からの説明

貸出増加支援資金供給の利用残高をみると、伸びは一服しているが、高水準で推移しており、本資金供給は、引き続き、きわめて緩和的な金融環境の形成に貢献している。引き続き、金融機関による貸出増加に向けた取り組みを促す観点から、「貸出支援基金運営基本要領」の一部改正等を行い、本資金供給を1年間延長することが考えられる。

2.委員会の検討・採決

採決の結果、上記案件について全員一致で決定された。本件については、会合終了後、対外公表することとされた。

3.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要

1.経済・物価情勢の現状

国際金融市場について、委員は、オミクロン株の帰趨とその経済への影響に関する不確実性や、米国等の金融緩和の縮小の動きへの警戒感などから、振れの大きい展開となっているとの見方を共有した。

海外経済について、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復しているとの見方で一致した。何人かの委員は、海外経済は、オミクロン株の感染拡大や供給制約の影響を受けつつも、欧米を中心にウィズコロナを前提とした経済活動が定着するもとで、回復傾向を維持しているとの見解を示した。一人の委員は、オミクロン株は、その感染力の高さから、幅広い経済活動を停滞させ、実体経済を下押しするリスクがあるが、これまでのところ、グローバルな経済活動全体に大きな支障を来す事態とはなっていないと述べた。

地域別にみると、米国経済について、委員は、回復しているとの認識を共有した。一人の委員は、米国経済は、オミクロン株の感染拡大や供給制約が逆風となっているものの、個人消費を中心に回復を続けていると述べた。複数の委員は、米国では、景気拡大と労働需給の引き締まり、供給制約の長期化、原材料価格の高止まりを背景に、賃金の上昇と高い伸びのインフレが続いているとの見方を示した。この間、ある委員は、米国において、高いインフレ率が続き、利上げ開始も予想されているにもかかわらず、イールドカーブの水準や傾きがなお低位にとどまっている事実は、同国において、長期的には低成長・低インフレ・低金利が定着していく可能性を示唆していると述べた。

欧州経済について、委員は、回復しているとの見方を共有した。一人の委員は、欧州経済は、感染者数の増加から、一部地域で公衆衛生上の措置を再強化する動きもみられるが、全体としては回復を続けていると述べた。別の一人の委員は、欧州のPMIは、感染拡大や供給制約の影響などから低下しているが、それでもなお節目の50をはっきりと上回っており、景気の回復基調は維持されていると述べた。ある委員は、ユーロ圏でもECBの予想を上回る物価の上昇が長期化しつつあるが、米国や英国とは異なり、賃金の明確な上振れは顕在化していないと述べた。

中国経済について、委員は、基調としては回復しているものの、改善ペースが鈍化した状態が続いているとの認識で一致した。何人かの委員は、不動産セクターにおける調整に加え、ゼロコロナ政策に伴う厳しい行動制限もあって、中国経済は改善ペースが鈍化しているとの見方を示した。

中国以外の新興国経済について、委員は、持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、ASEANなどの新興国では、オミクロン株の感染拡大に対する警戒感が強まっているものの、ワクチン接種率の着実な高まりに支えられて、景気は持ち直していると述べた。

わが国の金融環境について、委員は、企業の資金繰りの一部に厳しさが残っているものの、全体として緩和した状態にあるとの認識で一致した。一人の委員は、長引く感染症や供給制約の影響、原材料コスト上昇の経済活動への影響には注意する必要があるが、金融システムが全体として安定性を維持するもとで、金融環境も緩和した状態にあると述べた。別の一人の委員は、前回会合で決定した特別プログラムの一部延長は、市場や金融機関に冷静に受け止められているとの認識を示したうえで、最近の感染拡大を受けても、CP・社債市場に特段の変調の兆しは窺われず、企業の資金調達環境はきわめて緩和的な状態が維持されていると述べた。

以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済・物価情勢に関する議論が行われた。

わが国の景気について、委員は、内外における感染症の影響が徐々に和らぐもとで、持ち直しが明確化しているとの見方で一致した。ある委員は、企業部門と家計部門が足並みを揃えて改善していることを踏まえると、景気判断を前進させることが適当であると述べた。

輸出や生産について、委員は、供給制約の影響を残しつつも、海外経済の回復を背景に、基調としては増加を続けているとの認識で一致した。何人かの委員は、東南アジアの感染拡大に起因する部品の供給制約が緩和するもとで、11月の輸出・生産は、自動車関連が大幅な増加となったほか、デジタル関連や設備投資関連も堅調だったとの見方を示した。

企業部門について、委員は、企業収益や業況感は全体として改善を続けており、そのもとで、設備投資は、一部業種に弱さがみられるものの、持ち直しているとの認識を共有した。一人の委員は、企業収益は、資源価格上昇による下押しの影響を受けつつも、売上数量の増加に支えられて増加基調を続けており、そうしたもとで、設備投資も成長分野を中心に活発になってきていると述べた。ある委員は、日本企業が先送りしてきたデジタル化や気候変動対応は、事業の成長にとって喫緊の課題となったとの認識を示したうえで、昨年12月の気候変動対応オペの結果は、中小企業を含め、気候変動対応が大きく進展する可能性を示しており、今後、企業の取り組み状況や関連する投資計画をしっかりと把握・分析していく必要があると述べた。また、為替レートと企業活動の関係について、一人の委員は、本邦企業は、生産、販売、投資、資金管理の各方面で、海外での活動を拡大・高度化させており、為替変動の影響は、以前と比べて一段と複雑化していると述べた。

個人消費について、委員は、感染症によるサービス消費を中心とした下押し圧力が和らぐもとで、持ち直しが明確化しているとの見方で一致した。何人かの委員は、感染の落ち着きと行動制限の緩和を受けて、個人消費は、対面型サービスを含め、年末年始頃にかけて明確に持ち直したとの見解を示した。このうちの一人の委員は、年末年始には、帰省ラッシュや初詣・初売りなどの賑わいが戻り、経済社会活動が正常な姿を取り戻しつつあるようにも窺われたと述べた。また、為替変動が消費関連マインドに及ぼす影響について、ある委員は、景気ウォッチャー調査には、足もとで「円安」に言及するコメントは殆どなく、マインド面への悪影響は確認されていないと指摘した。

物価面について、委員は、消費者物価の前年比は、携帯電話通信料の引き下げの影響がみられるものの、エネルギー価格などの上昇を反映して、小幅のプラスとなっているとの見方で一致した。一人の委員は、携帯電話通信料などの一時的要因やエネルギー価格を除いた、実力ベースでみた消費者物価の前年比は、0%台半ばのプラスとなっていると述べた。また、別の一人の委員は、消費者物価の基調的変動を示す刈込平均値、加重中央値、最頻値、上昇・下落品目比率は、財を中心とした価格上昇の拡がりを反映して、緩やかに上昇していると指摘した。複数の委員は、国内企業物価が40年振りの高い上昇率となったことが示すように、企業は企業間取引を中心に価格転嫁の動きを積極化させているとの見方を示した。このうちの一人の委員は、1月の支店長会議でも、企業の価格設定スタンスについて、前向きな声が多かったとの認識を示した。この間、一人の委員は、足もとのGDPデフレーターの低下は、輸入物価の上昇を国内の販売価格に十分に転嫁できていないことを示していると述べたうえで、物価動向の判断にあたっては、消費者物価の基調的な変化に加え、GDPデフレーターや雇用・所得動向など幅広い指標をみていく必要があるとの見解を示した。別の一人の委員は、欧米対比でわが国の物価が弱い背景や、物価の基調を見極めるうえでの各種コア指標の有用性、物価指数の人々の体感や実際の生活コストとの関係など、物価に関する分析を外部の知見も借りながら深めていく必要があると述べた。ある委員は、生活に身近な幅広い財の価格が上昇し、統計上のインフレ数値と生活上のインフレ実感の乖離が拡がる可能性があり、注意する必要があると述べた。

予想物価上昇率について、委員は、緩やかに上昇しているとの見方で一致した。一人の委員は、インフレ予想は、短期が中心ではあるが、家計、企業、専門家ともに緩やかに上昇しているとの評価を述べた。

2.経済・物価情勢の展望

2022年1月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の作成にあたり、委員は、経済情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、感染症によるサービス消費への下押し圧力や供給制約の影響が和らぐもとで、外需の増加や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果にも支えられて、わが国経済は回復していくとの見方で一致した。その後の見通しについても、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが家計部門を含め経済全体で強まる中で、わが国経済は、潜在成長率を上回る成長を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、オミクロン株の弱毒性が判明し、3回目のワクチン接種や経口薬の認可が進む中で、人々の間に安心感が拡がっていけば、ペントアップ需要を伴う力強い回復が期待できると述べた。別の一人の委員も、オミクロン株の影響を克服することができれば、わが国経済の回復基調は徐々に強まっていくと述べた。一方、ある委員は、供給制約が自動車関連の生産や設備投資に及ぼすマイナスの影響は、前回展望レポート時点よりも大きくなっているとの見方を示した。別のある委員は、まん延防止等重点措置の適用地域が増える見込みの中、自主的な行動制限の動きがある程度拡がることは避け難く、実質GDPが感染症拡大前の水準に復する時期は、前回展望レポート時点よりも幾分後ずれするとの見方を示した。

海外経済の先行きについて、委員は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつも、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、先進国を中心とした積極的なマクロ経済政策にも支えられて、成長を続けるとの見方で一致した。一人の委員は、オミクロン株の感染拡大が海外経済の回復の重石となっているものの、収束の兆しがみえてくれば、回復ペースは加速していくとの見通しを示した。

わが国の財の輸出について、委員は、当面は、部品の供給制約の緩和から自動車関連を中心にはっきりと増加するとの見方で一致した。その後についても、委員は、デジタル関連を含むグローバル需要の堅調な拡大を背景に、輸出増加を続けるとの見方で一致した。委員は、生産についても、供給制約の影響が和らぐもとで、堅調な海外需要に支えられて、しっかりと増加していくとの見通しを共有した。

設備投資について、委員は、対面型サービス部門の弱さは当面残るものの、企業収益の改善や緩和的な金融環境、政府の経済対策にも支えられて、機械投資やデジタル関連投資、脱炭素化関連の研究開発投資などを中心に、増加傾向が明確になっていくとの認識で一致した。一人の委員は、世界的な需要の拡大が続く半導体などの生産能力の増強、気候変動対応、都市開発、物流施設の拡充など、設備投資需要は、持続性を伴って拡大することが期待できると述べた。別の一人の委員は、設備投資の2021年度の着地と2022年度の計画が増加モメンタムを維持できるかどうかに注目していると述べたうえで、有形資産の設備投資だけでなく、人的資本投資や研究開発投資、ソフトウェア投資などの無形資産投資の動向も合わせて分析していくことが重要であるとの見解を示した。

個人消費について、委員は、当面、感染症への警戒感などが重石となるものの、ワクチンの普及などにより感染抑制と消費活動の両立が進むもとで、サービス等のペントアップ需要の顕在化や政府の経済対策による後押しもあって、回復していくとの見方で一致した。その後の個人消費についても、委員は、ペースを鈍化させつつも、雇用者所得の改善に支えられて、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。一人の委員は、2022年1から3月期については、オミクロン株の感染拡大が、対面型サービスを中心に、ペントアップ需要を抑制し、個人消費を再度下押しすると見込まれるが、その後は、3回目のワクチン接種の進捗により感染拡大が抑制される中、消費活動が段階的に活発化していくと述べた。

雇用者所得について、委員は、内外需要の回復に伴う雇用者数の増加や、人手不足感の強い業種における賃金上昇を反映して、緩やかに増加していくとの見方を共有した。賃金の先行きに関連して、一人の委員は、政府による賃上げ促進に向けた取り組みの効果や、そのもとでの今年の春季労使交渉の帰趨に注目していると述べた。別の一人の委員は、わが国の正規雇用の賃金には、制度的に下方硬直性があり、その結果として、企業が引き上げを避けようとする上方硬直性も存在すると指摘した。そのうえで、この委員は、わが国では、欧米に比べて賃金上昇のハードルは高いが、労働需給の逼迫が臨界点に達した場合、賃上げが急速に拡がる可能性があると述べた。別の一人の委員は、現状、労働供給の減少と賃金の上昇は局所的な動きにとどまっていると指摘したうえで、先行きの賃金・所得動向は、政府の経済対策や強制貯蓄の取り崩しにより、需要がどの程度盛り上がるかに依存するとの見方を示した。この間、ある委員は、「団塊の世代」が70歳台半ばを迎える中で、労働参加率の更なる上昇は難しくなるとみられるため、生産性の向上が重要であると述べた。

こうした議論を経て、委員は、中心的な成長率の見通しは、前回と比べると、2021年度は供給制約の影響から下振れている一方、2022年度は政府の経済対策の効果や挽回生産などを背景に上振れているとの見方で一致した。

続いて、委員は、物価情勢の先行きの中心的な見通しについて議論を行った。委員は、消費者物価の前年比は、当面、エネルギー価格が上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も緩やかに進むもとで、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、振れを伴いつつも、プラス幅を拡大していくとの見方で一致した。その後についても、委員は、エネルギー価格上昇による押し上げ寄与は減衰していくものの、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどによる基調的な物価上昇圧力を背景に、見通し期間終盤にかけて1%程度の上昇率が続くとの見方を共有した。

こうした物価見通しの背景について、委員は、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップは、足もとではマイナス圏で推移しているが、先行きは、潜在成長率を上回る成長経路に復していくもとで来年度前半頃にはプラスに転じ、その後はプラス幅の緩やかな拡大が続くとの見方を共有した。また、委員は、家計の値上げ許容度は賃金上昇率の高まりなどを反映して緩やかに改善するほか、企業の価格設定スタンスも徐々に積極化することから、コスト転嫁と価格引き上げの動きが拡がっていくとの認識で一致した。そのうえで、委員は、現実の物価上昇率の高まりは、適合的期待形成を通じて、家計や企業の中長期的な予想物価上昇率の上昇に繋がり、更なる物価上昇を後押ししていくとの見方を共有した。一人の委員は、本年4月以降、携帯電話通信料の引き下げ要因が剥落し、それに諸要素が重なれば、消費者物価の前年比は瞬間風速的に2%に近い水準まで上昇する可能性があると指摘したうえで、その後については、物価上昇の背後にある要因や、それが持続する力が備わっているかが重要であると述べた。別の一人の委員は、消費者物価は、2022年前半に一時的に1%台半ばに到達する可能性はあるが、その後もモメンタムが維持されて2%の「物価安定の目標」に近づき安定的に推移するかは、賃金上昇率と中長期インフレ予想の動向、更には、これらを規定する需要の強さに依存すると述べた。ある委員は、コロナ禍を契機に、多くの企業がデフレ期において有効だった薄利多売型のビジネスモデルの限界を認識し、価格設定行動を変化させることで、物価上昇圧力が強まっていくとの見方を示した。別のある委員は、最近、値上げを表明した企業の株価が上昇する傾向がみられると指摘したうえで、市場が値上げ力に注目している現状では、値上げの動きが今後更に拡がり、中長期の予想インフレ率の上昇に繋がる可能性があると述べた。この間、一人の委員は、企業の価格設定行動や予想インフレ率に変化がみられるものの、需給ギャップや予想インフレ率の動向を踏まえると、2023年度末に「物価安定の目標」を達成するのは難しいと述べた。

多くの委員は、先行き、原材料コスト上昇の価格転嫁が進むと予想されるもとで、消費者物価の基調を見極めることの重要性が高まっており、そうした観点からは、サービス価格のコストの大半を規定し、かつ家計の値上げ許容度にも影響を与える賃金の動向に注目しているとの認識を示した。一人の委員は、2022年度以降の物価上昇が、硬直的とされるサービス価格にも拡がっていくのか、更には、賃金や所得の上昇を伴った持続的なものとなっていくのか、といった観点から、物価の基調をしっかりと見極めていくことが重要であると述べた。別の一人の委員も、消費者物価が基調的に上昇していくためには、賃金の上昇を伴ってサービス価格が上昇していくことが必要であるとの見方を示した。そのうえで、この委員は、欧米と比べて賃金が上がりにくいわが国でも、需給ギャップが改善し、価格転嫁が可能な状況となれば、政府が賃上げを推進するもとで、賃金上昇率が高まっていくと述べた。ある委員は、高い伸びが続く国内企業物価上昇の一定程度は消費者物価に転嫁されていくと考えられる中、賃上げに向けた政府の諸施策も踏まえ、適合的期待形成を通じて人々の中長期的な予想インフレ率の上昇や値上げ許容度の改善が実現していくか、注目していると述べた。

こうした議論を経て、委員は、中心的な物価の見通しは、前回と比べると、資源価格の上昇やその価格転嫁などを反映して、2022年度が幾分上振れているとの見方で一致した。

この間、委員は、経済・物価見通しの背景にある金融環境についても議論を行った。委員は、先行きも、日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を推進するもとで、金融環境は緩和的な状態が続き、民間需要の増加を後押ししていくとの認識を共有した。一人の委員は、オミクロン株の感染拡大が、今後、対面型サービス業をはじめとする中小企業等の資金繰りに、どのような影響を及ぼすのか、注意深くみていく必要があると述べた。

次に、委員は、経済・物価の見通しのリスク要因(上振れ・下振れの可能性)について、議論を行った。

まず、経済のリスク要因として、委員は、感染症が個人消費や企業の輸出・生産活動に及ぼす影響に注意が必要であるとの見方で一致した。具体的に、委員は、感染力の強い変異株の流行などによって、人々の感染症への警戒感が根強く残る場合、個人消費が下振れるリスクがあるとの認識を共有した。一人の委員は、年明け以降、オミクロン株の影響により、旅行のキャンセルや飲食店の客数減少がみられ始めていることに言及したうえで、日本人のリスク回避姿勢の強さを踏まえると、目先は経済への下押し圧力が強まる可能性を意識しておく必要があると述べた。別の一人の委員は、オミクロン株による感染が拡がる中、感染症対策と経済活動の両立の維持が今後どのように図られ、そのもとで消費者心理がどのように変化していくか、注視する必要があると述べた。ある委員は、感染症の長期化に伴い、消費・投資意欲の更なる減退や、人的資本の毀損といった「爪痕効果」が生じないか、注意が必要であると述べた。また、委員は、グローバルに半導体等のデジタル関連財の需給逼迫が続くもとで、わが国経済と繋がりの深いアジア地域等で感染が拡大した場合、サプライチェーン障害を通じて、わが国企業の輸出・生産活動が下押しされる可能性があるとの認識を共有した。この点に関連し、一人の委員は、1月の支店長会議では、部品調達が依然として綱渡りの状態であるとの声が比較的多く聞かれたと述べた。そのうえで、この委員を含む複数の委員は、アジア地域、特に中国において、感染拡大がゼロコロナ政策と相俟って工場停止などに繋がり、供給制約を悪化させるリスクには注意が必要であるとの見解を示した。一方、委員は、ワクチンや治療薬の普及により、感染症への警戒感が大きく後退すれば、サービス消費のペントアップ需要の増加が想定以上に大きくなることなどにより、経済活動が上振れる可能性もあるとの見方を共有した。ある委員は、公衆衛生上の措置が解除された昨年10月以降の状況は、コロナ禍さえ収まればわが国経済も十分な回復能力を持っていることを示していたと言及したうえで、足もとの変異株の悪影響が払拭されれば、経済の回復ペースが想定以上に強まる可能性もあると指摘した。

また、経済のリスク要因として、委員は、海外経済の動向に注意が必要であるとの認識を共有した。具体的な海外経済の下振れリスクとして、委員は、(1)米国等の先進国において、物流の停滞や労働力不足などに起因する供給制約が長期化・拡大するリスク、(2)中長期的な成長力の低下が進む中国経済において、不動産セクターの調整の影響などにより、減速感が一段と強まるリスク、(3)国際金融市場において、先進国の金融緩和縮小に向けた動きが意識されるもとで、グローバルな金融環境が想定以上に引き締まるリスクなどがあるとの見方で一致した。何人かの委員は、米国の金融緩和縮小により、資産価格が調整するリスクに警戒感を示した。このうちの一人の委員は、新興国において、米国の利上げが資本流出とその防衛のための利上げに繋がり、景気回復に悪影響を及ぼす可能性があると述べた。一方で、委員は、各国で大幅に積み上がった貯蓄の取り崩しが急速に進むことなどを通じて、海外経済が消費活動を中心に上振れるリスクもあるとの見方を共有した。

他のリスク要因として、委員は、資源価格の動向についても留意が必要であるとの見方で一致した。具体的に、委員は、資源価格の上昇が長期化したり、その販売価格への転嫁が円滑に進まなかったりする場合、企業収益の悪化などを通じて、わが国経済の回復基調に悪影響が及ぶ可能性があるとの見方を共有した。また、委員は、やや長い目でみたリスク要因として、企業や家計の中長期的な成長期待には上下双方向に不確実性があるとの見方で一致した。

次に、物価のリスク要因について、委員は、上記の経済のリスク要因が顕在化した場合には、物価にも相応の影響が及ぶとの見方で一致した。更に、委員は、物価固有のリスク要因についても、議論を行った。まず、委員は、企業の価格設定行動を巡っては上下双方向に不確実性が高いとの見方で一致した。具体的に、委員は、原材料コストの上昇圧力や企業の予想物価上昇率の動向次第では、中心的な見通しで緩やかに進むと考えているコスト上昇の販売価格への転嫁が、想定以上に加速し、物価が上振れる可能性があるとの見方で一致した。一人の委員は、個人消費の回復が値上げに対しても頑健とみられる場合には、企業が過去のコスト上昇分も含めて販売価格への転嫁を加速させる可能性があると述べた。一方、委員は、わが国では、物価は上がりにくいことを前提とした企業慣行や考え方が根強く残っている点を踏まえると、最終需要に近い川下・消費段階を中心に、コスト上昇の販売価格への転嫁が進まず、物価が下振れる可能性もあるとの見方を共有した。一人の委員は、賃金の上昇ペースが大きく高まらない場合には、値上げによる売上減少への懸念から、企業がコストの上昇をマージンで吸収する可能性があると述べた。

物価固有の追加的なリスク要因として、委員は、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向、およびその輸入物価や国内価格への波及にも、注視する必要があるとの見解を共有した。複数の委員は、世界的な環境規制強化に伴う化石燃料の開発投資の抑制や、一部資源国における地政学的リスクの高まりなどから、エネルギー価格が高止まりしたり、一段と上昇したりするリスクがあると述べた。

こうした議論を経て、委員は、リスクバランスについて、経済の見通しは、感染症の影響を中心に、当面は下振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしているとの認識を共有した。物価の見通しについて、委員は、概ね上下にバランスしているとの見方で一致した。

また、委員は、金融政策運営の観点から重視すべきリスクとして、わが国の金融システムの動向についても議論を行った。委員は、金融システムは、全体として安定性を維持しているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、より長めの視点では、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介活動が停滞方向に向かうリスクと、利回り追求行動の過熱化などにより金融システム面の脆弱性が高まるリスクの両面あるが、現時点では、これらのリスクは大きくないとの認識を共有した。一人の委員は、コロナ禍で膨らんだ企業債務が、景気後退に伴って不良債権化するリスクに注意すべきであると述べた。別の一人の委員は、金融機関の収益環境は、低金利環境の長期化に伴う預貸利鞘の縮小等により累積的に悪化しているとの認識を示したうえで、振込手数料などの為替手数料収入が今後減少した場合には、金融機関収益に対し更なる下押し圧力となり得るとの見解を示した。

4.金融政策運営に関する委員会の検討の概要

以上のような金融経済情勢に関する認識を踏まえ、委員は、金融政策運営に関する議論を行った。

当面の感染症への対応について、委員は、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れの「3つの柱」に基づく金融緩和措置は所期の効果を発揮しており、引き続き、この「3つの柱」により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要であるとの見解で一致した。そのうえで、委員は、当面、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じるとの認識で一致した。一人の委員は、オミクロン株による感染の急拡大により経済・物価の先行き不透明感が高まっている中、当面は企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に引き続き万全を期していく必要があり、現在の金融緩和を継続していくことが妥当であると述べた。別の一人の委員は、未だ経済活動の一部で感染症の影響が続いていること等を踏まえると、前回会合で決定した特別プログラムの一部延長の影響について確認していくべきであると述べた。

更に、委員は、先行きの金融政策運営の基本的な考え方について議論した。ある委員は、わが国でも春頃には物価上昇が明確となることが予想されるが、安定的な2%の実現にはなお時間がかかる状況であるため、現行の強力な金融緩和の継続が適当との基本的な考え方に変わりはない点を強調した。一人の委員は、2%の「物価安定の目標」の達成には、企業や家計の物価観の変容が必要であり、そのために、現行の金融政策を粘り強く継続していくことが重要であるとの見方を示した。別の一人の委員は、欧米では、最近の物価上昇が賃金や予想物価上昇率に波及する二次的効果が懸念され、金融緩和縮小に向けた動きもみられるが、わが国では、そもそも中長期のインフレ予想がアンカーされておらず、賃金の上昇を期待している局面にあるため、必要なのは金融緩和であると述べた。更に、この委員は、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて中長期のインフレ予想をアンカーするには、消費者物価前年比の実績値でみて2%の上昇率の定着が確認されるまで緩和を行うことが最も確実であろうと述べた。ある委員は、先進諸国の多くでは、基本的に物価上昇率を上回る名目賃金の上昇が実現してきたことを指摘したうえで、わが国が2%の「物価安定の目標」を安定的に実現していくためには、2%を上回る名目賃金の上昇が不可欠であるとの見方を示した。この間、一人の委員は、需給ギャップと予想インフレ率を高めるべく緩和姿勢を強めることで、経済の回復と「物価安定の目標」の達成を早期に実現する必要があると指摘した。別の一人の委員は、2%の「物価安定の目標」の実現には、企業による有形・無形資産投資の持続的な増加や新製品・新事業の創出、賃金の上昇を通じた、資金循環の拡大を伴う持続的な経済成長が必要であり、そのためには労働力や企業のダイナミズムと人的投資が活発化する必要があるとの見方を示した。

次に、多くの委員は、強力な金融緩和を継続することに関する対外的な説明の重要性について意見を述べた。まず、前回会合で決定した特別プログラムの一部延長との関連で、複数の委員は、本年3月末のコロナオペの一部終了に伴い、マネタリーベースが減少に転じれば、金融緩和の縮小と誤解される惧れがあると指摘した。そのうえで、このうちの一人の委員は、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでは、量が市場動向などによって短期的には変動し得ること、オーバーシュート型コミットメントは量の長期的な拡大方針を示していること、を改めてしっかりと説明する必要があると述べた。もう一人の委員は、感染症対応策からの出口と金融緩和政策の出口を明確に分けるような対外コミュニケーションが重要であると述べた。また、何人かの委員は、消費者物価が2%の「物価安定の目標」を安定的に持続するまで金融緩和を続けるとの方針を、誤解がないようしっかりと情報発信していくことが重要であるとの考えを述べた。このうちの一人の委員は、日本銀行が考える望ましい物価上昇のあり方と合わせて説明する必要があると付け加えた。別の一人の委員は、今後、物価上昇が家計の実質所得等に与える負の影響に注目する議論が増えてくる可能性があるが、金融緩和政策を継続する意図が、物価上昇だけではなく、賃金上昇を伴った成長経路への復帰にあることを、丁寧に説明するべきであると述べた。

長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの認識を共有した。

以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当であるとの見解を示した。

「短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」

これに対し、ある委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとの意見を述べた。

長期国債以外の資産の買入れについて、委員は、(1)ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行うこと、(2)CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行うこと、が適当であるとの認識を共有した。

先行きの金融政策運営の考え方について、委員は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する、との考え方を共有した。

また、2020年3月以降、日本銀行が感染症の影響への対応として導入・拡充してきた措置について、委員は、引き続き、(1)特別プログラム、(2)円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)ETF・J-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくとの考えを共有した。

当面の政策運営スタンスについて、委員は、感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じることで一致した。そのうえで、大方の委員は、政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定しているとの方針を共有した。

これに対し、ある委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見を述べた。

5.政府からの出席者の発言

財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、1月17日に令和4年度予算を国会に提出した。令和3年度補正予算と一体で編成する、いわゆる16か月予算の考え方のもと、感染症対策に万全を期しつつ、「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を図るとともに、「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)」における予算編成の考え方に基づき、メリハリのついた予算としている。
  • 感染症の拡大防止や経済・財政運営に万全を期すべく、一日も早い予算成立に向けて取り組む。
  • 日本銀行には、政府との連携のもと、感染症対応を含め、必要な措置を適切に講じることを期待する。

また、内閣府の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済は、感染症の影響による厳しい状況が徐々に緩和されており、このところ、持ち直しの動きがみられる。ただし、足もとでオミクロン株の感染拡大が進む中、感染症による内外経済への影響、供給面での制約、原材料価格の動向に伴う景気の下振れリスク、金融資本市場の変動等の影響には十分注意する必要がある。
  • 感染症に対しては、予防、検査、早期治療の枠組みを一層強化し、ワクチンの3回目接種を前倒しするなど、経済社会活動を極力継続できる環境を作り、安全・安心を確保する。
  • 経済対策の迅速かつ着実な実行により、経済の底割れを防ぎ、「成長と分配の好循環」を実現し、経済を自律的な成長軌道に乗せていく。
  • 日本銀行においては、感染症の経済への影響等を十分注視しつつ、引き続き、適切な金融政策運営をお願いする。

6.採決

1.金融市場調節方針

以上の議論を踏まえ、議長から、委員の多数意見を取りまとめるかたちで、金融市場調節方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、賛成多数で決定された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

  1. 日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
  2. 10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:片岡委員

片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。

2.資産買入れ方針

議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、資産買入れ方針について、以下の議案が提出され、採決に付された。

採決の結果、全員一致で決定された。

資産買入れ方針に関する議案(議長案)

長期国債以外の資産の買入れについて、下記のとおりとすること。

  1. ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
  2. CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。

採決の結果

  • 賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、片岡委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員
  • 反対:なし

3.対外公表文(「当面の金融政策運営について」)

以上の議論を踏まえ、対外公表文が検討された。この間、片岡委員からは、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとの意見が表明された。

こうした検討を経て、議長からは、対外公表文(「当面の金融政策運営について」<別紙>)が提案され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。

7.「経済・物価情勢の展望」の検討

続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、議長から、委員の見解を取りまとめるかたちで、議案が提出された。採決の結果、全員一致で決定され、会合終了後、直ちに公表することとされた。また、背景説明を含む全文は、1月19日に公表することとされた。

8.議事要旨の承認

議事要旨(2021年12月16、17日開催分)が全員一致で承認され、1月21日に公表することとされた。

以上


  • (注)「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。」 本文に戻る

別紙

2022年1月18日
日本銀行

当面の金融政策運営について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下のとおり決定した。
    1. (1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)(賛成8反対1)(注1)

      次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。

      • 短期金利:
        日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
        長期金利:
        10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
    2. (2)資産買入れ方針(全員一致)

      長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

      1. [1]ETFおよびJ-REITについて、それぞれ年間約12兆円、年間約1,800億円に相当する残高増加ペースを上限に、必要に応じて、買入れを行う。
      2. [2]CP等、社債等については、2022年3月末までの間、合計で約20兆円の残高を上限に、買入れを行う。
  2. 日本銀行は、「貸出増加を支援するための資金供給」について、貸付実行期限を1年間延長することを決定した(全員一致)。
  3. 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。

    引き続き、(1)新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、(2)国債買入れやドルオペなどによる円貨および外貨の上限を設けない潤沢な供給、(3)それぞれ約12兆円および約1,800億円の年間増加ペースの上限のもとでのETFおよびJ-REITの買入れにより、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていく。

    当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している(注2)

以上


  1. (注1)賛成:黒田委員、雨宮委員、若田部委員、鈴木委員、安達委員、中村委員、野口委員、中川委員。反対:片岡委員。片岡委員は、コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から、長短金利を引き下げることで、金融緩和をより強化することが望ましいとして反対した。本文に戻る
  2. (注2)片岡委員は、財政・金融政策の更なる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正することが適当であるとして反対した。本文に戻る