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金融政策決定会合議事要旨

(2006年1月19、20日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2006年3月8、9日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

(開催要領)

1.開催日時
2006年1月19日(14:00〜15:48)
1月20日( 9:00〜12:50)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )(注)
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )(注)
  • (注)岩田委員は、月例経済報告等に関する関係閣僚会議に出席のため、1月19日14:00〜15:12の間、会議を欠席した。
4.政府からの出席者
  • 財務省 杉本 和行 大臣官房総括審議官(19日)
    赤羽 一嘉 財務副大臣(20日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)(19日)
    中城 吉郎 内閣府審議官(20日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局企画役内田眞一
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長中山泰男
  • 政策委員会室審議役神津多可思
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

金融市場調節は、前回会合(2005年12月15日、16日)で決定された方針 1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、31〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

2.金融・為替市場動向

短期金融市場では、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、年末越え金利が小幅上昇したものの、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物金利は、ユーロ円レート、短国レートとも、低位で安定的に推移している。
株価は、景気回復期待の高まりなどを背景に1月中旬にかけて大幅に上昇した後、一部企業に関する報道をきっかけに下落し、最近では、日経平均株価は15千円台後半で推移している。
長期金利は、概ね横這い圏内の動きとなり、最近では1.4%台後半で推移している。
円の対米ドル相場は、本邦投資家等によるドル買いから年末にかけて下落した後、米国の金融政策に対する思惑などから上昇し、最近では114〜115円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

米国経済は、家計支出や設備投資を中心に潜在成長率近傍の着実な景気拡大が続いている。この間、既往のエネルギー高から物価は一時的に高い上昇率を示しているが、基調的なインフレ率は緩やかな上昇となっている。
ユーロエリアでは、景気はなお停滞気味ではあるが、ユーロ安もあって輸出や生産が持ち直すなど、景気回復に向けた動きが徐々に強まっている。
東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、エネルギー高の影響が部分的に顕在化しているが、総じてみれば緩やかな景気拡大が続いている。
米欧の金融資本市場をみると、長期金利は、インフレ関連指標の落ち着きや、米国における利上げ打ち止め観測の強まりなどを背景に低下した。株価は、企業の好決算に対する期待感等を背景に上昇した。エマージング金融資本市場では、ほとんどの国・地域で、通貨や株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

輸出は、海外経済の拡大を背景に、増加を続けている。昨年央まで伸び悩んでいた中国向けは、7〜9月に大幅に増加した後、10〜11月も情報関連や自動車関連を中心に堅調な増加となった。先行きについても、海外経済が米国、東アジアを中心に拡大を続けるもとで、輸出は増加を続けていくとみられる。
企業部門の動向をみると、設備投資は増加を続けている。先行きも、内外需要の増加や高水準の企業収益が続くもとで、引き続き増加すると予想される。
生産は、昨年央まで統計上の振れもあって一進一退を繰り返してきたが、足もとは増加の動きが再び明確になってきている。業種別には、電子部品・デバイスが大幅な増加となっているほか、一般機械や輸送機械も増加している。先行きについては、海外経済の成長が続き、内需の回復基盤がしっかりしていることから、増加基調を続けるとみられる。
在庫については、素材業種で幾分高めとなっているが、高付加価値品では引き続き需給が引き締まっており、素材関連の在庫調整の影響は限定的と考えられる。
雇用・所得環境をみると、雇用と賃金の改善を反映して、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。先行きについても、雇用不足感が出てきていることや、企業収益が高水準を続けるとみられることなどから、雇用者所得は緩やかな増加を続ける可能性が高い。
個人消費は、指標ごとのばらつきはやや大きいが、底堅く推移している。乗用車新車登録台数は弱い動きが続いている一方、家電販売は順調な増加が続いているほか、全国百貨店売上高も底堅く推移している。サービス消費では、外食売上高などが堅調な動きを続けている。一方、旅行取扱額は、均してみれば横這い圏内の動きとなっている。この間、消費者コンフィデンスは改善している。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、着実な回復を続ける可能性が高い。

国内企業物価は、国際商品市況高や昨年後半における円安などを背景に上昇を続けている。先行きについても、当面は国際商品市況高の影響などから、上昇を続けるとみられる。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、11月は前年比+0.1%と若干のプラスに転じている。先行きについては、需給環境の緩やかな改善が続く中、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、プラス基調になっていくと予想される。

この間、支店長会議や「地域経済報告」(さくらレポート)では、依然として地域間格差を伴いつつも、景気回復が地方にも波及している点が確認された。

(2)金融環境

企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。また、民間の資金需要は減少テンポがかなり緩やかになってきている。こうしたもとで、民間銀行貸出は増加幅が拡大しており、CP・社債の発行残高も前年を上回る水準で推移している。
マネタリーベースの伸び率は前年比1%台となっており、マネーサプライ(M2+CD)は前年比2%程度の伸びで推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

経済情勢について、委員は、わが国経済は、内外需がともに増加を続ける中で、着実に回復を続けているとの認識を共有した。
海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大が続いており、今後も拡大を続けるとの見方を共有した。
米国経済について、多くの委員は、家計支出、設備投資を中心に着実な拡大を続けており、先行きも潜在成長率近傍の拡大を続ける可能性が高いとの見方を示した。複数の委員は、個人消費について、クリスマス商戦は前年に比べてやや高めの伸びとなったようであると述べた。何人かの委員は、イールドカーブがほぼフラットになっていることを指摘し、金融市場では、FRBによる利上げが終盤を迎えているとの見方が広がっていると指摘した。この点に関連して、一人の委員は、労働・設備などの資源利用率が高水準で推移していることや、国際商品市況が高騰を続けていることなどを踏まえると、インフレ懸念は引き続き存在しているのではないかと述べた。
この間、ある委員は、自動車関連の生産が減速していることや、住宅投資の伸びが鈍化していることを指摘し、2005年第4四半期の米国の経済成長率は幾分鈍化する可能性が高いとの見方を示した。この委員は、住宅価格の動向は、資産効果などを通じて個人消費にも影響を及ぼすため、長期金利の動向ともあわせ、今後注意してみていく必要があると述べた。
東アジア経済について、委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いているとの認識を共有した。一人の委員は、中国経済はこれまでのところ順調に拡大しているが、人民元改革の動向や、過剰設備が先行き経済に与える影響については、引き続き注意してみていく必要があると指摘した。
世界経済のリスク要因について、何人かの委員は、地政学的なリスクや需給のタイト化に対する懸念を背景に原油価格がここに来て再び上昇していることを指摘し、これがインフレ心理やひいては経済活動に与える影響については、引き続き十分な注意が必要であると述べた。
わが国経済について、委員は、輸出は海外経済の拡大を背景に増加を続けており、先行きについても、増加を続けていく可能性が高いとの見解で一致した。この点、一人の委員は、昨年央まで伸び悩んでいた中国向けは、夏場に大幅に増加した後、10〜11月も引き続き堅調に推移しており、増加基調が明確になってきたと評価できると述べた。
国内民間需要について、委員は、企業部門の好調が家計部門に波及するもとで、設備投資、個人消費ともに着実に増加しているとの見方を共有した。
企業部門について、委員は、設備投資は増加を続けており、先行きについても、設備の過剰感が概ね払拭され、高水準の企業収益が続くもとで、引き続き増加する可能性が高いとの見方で一致した。一人の委員は、企業の設備投資は、これまで補修・改修が中心であったが、最近では、慎重さを保ちながらも能力増強投資に踏み切る新たなモメンタムが広がりつつあると述べた。この委員は、その背景として、企業経営者が中長期的な収益拡大を経営目標として重視し始めているもとで、先行投資の有無が将来の競争力の較差につながるとの危機感が芽生え始めていることがあるとの見方を示した。
雇用・所得面について、委員は、雇用者数、賃金がともに増加し、雇用者所得も緩やかに増加を続けているとの認識を共有した。一人の委員は、雇用環境が改善するもとで、求職意欲も強まりつつあり、労働参加率の下げ止まりが明確になってきていると述べた。何人かの委員は、アンケート調査等によれば、大企業の冬季賞与は、夏季賞与以上の伸びになったとみられると指摘した。また、複数の委員は、今春の労使交渉において、好業績企業を中心に賃上げが合意される可能性を指摘し、こうした動きが広がっていけば、企業収益の雇用者所得への波及が一段と強まっていくことが期待されると述べた。
個人消費について、委員は、底堅く推移しており、先行きについても、雇用・所得環境の改善を背景に、着実な拡大を続ける可能性が高いとの認識を共有した。何人かの委員は、乗用車新車登録台数は弱めの動きが続いているものの、家電販売は好調であるほか、年末年始の百貨店売上げも、宝飾品などの高級品を中心に好調であったことを指摘した。この間、一人の委員は、サービス関連消費の捕捉には統計上の限界があり、個人消費の実勢は、現在我々がみている各種の統計が示す以上に強い可能性があると述べた。また、別の一人の委員は、2004年度の家計貯蓄率が2.8%にまで低下したことや、配当所得が利子所得を上回ったことを指摘し、これらが消費の堅調を下支えしている可能性があるとの見方を示した。さらに別の委員は、株価の上昇に伴う資産効果などを背景に、消費マインドが高まっていることも、好調な消費の背景となっていると述べた。
生産について、委員は、内外の需要が着実に増加するもとで、増加の動きが明確になってきているとの認識を共有した。複数の委員は、鉱工業生産がIT関連分野中心に4か月連続の増加となっていることを指摘し、これまで需要面に比べて回復が遅れ気味であった生産面でも、回復の動きが明確になってきたと述べた。これらの委員は、企業ヒアリングなどを踏まえると、先行きについても、生産の増加が続くと見込まれると付け加えた。この間、一人の委員は、素材関連で在庫調整の動きが続いている点には注意を要するとの見方を示した。
物価面について、委員は、国内企業物価は、国際商品市況高や昨年後半における円安などを背景に上昇を続けており、先行きについても、上昇を続けるとの認識を共有した。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、11月は+0.1%と若干のプラスに転じており、先行きについても、景気回復に伴って需給環境の緩やかな改善が続く中、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、プラス基調になっていくとの見方で一致した。
やや長い目でみた物価の先行きに関して、何人かの委員は、需給バランスが改善していくことや、賃金が上昇方向にある中でユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていくことを踏まえると、一時的な要因に伴う短期的な変動はあるにせよ、消費者物価の前年比プラス基調が定着していくとの見方を示した。この点に関し、一人の委員は、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」や内閣府の「消費動向調査」において、1年後に物価が上昇すると見込む割合が概ね半数となってきていることを指摘し、人々の物価に対する見方は数年前に比べて大きく変化していると述べた。

2.金融面の動向

金融面に関して、委員は、極めて緩和的な金融環境が続いているとの認識を共有した。
ある委員は、銀行貸出の増加幅が拡大していることを指摘し、貸出金利が依然として低下基調にあることを踏まえると、銀行の貸出姿勢の積極化という供給面の要因が少なからず影響していると考えられると述べたうえで、企業の資金需要の面でも、設備投資が増加を続け、配当や自社株買いも増加するなど動意が窺われつつあるとの見方を示した。この委員は、企業の資金調達コストが総じて低位で推移するもとで、景気の回復に伴って企業の投資収益率は大幅に上昇しており、企業金融の緩和度合いは一段と強まっていると続けた。別の複数の委員も、物価情勢の改善に伴い実質金利が低下していることや、景気の回復に伴って景気中立的な均衡金利が上昇していることなどを踏まえると、量的緩和政策の金融緩和効果は、導入以降、足もとで最も強力になっていると述べた。
このところの株価について、何人かの委員は、一部企業に対する証券取引法違反容疑の影響もあって、個人投資家の売買などで活況が続いていた新興市場を中心にやや大幅に下落しているが、わが国の景気が着実に回復を続け、企業収益も引き続き好調が見込まれていることを踏まえると、株式市場を巡る基本的な環境に大きな変化が生じている訳ではないとの見方を示した。複数の委員は、昨年央以降の株価上昇は、基本的には企業収益の好調を背景とするものであるが、最近の上昇はあまりに急ピッチであり、今回の件が調整のひとつのきっかけとなった面があると指摘した。別の複数の委員は、超緩和的な金融環境が資産価格の行き過ぎた上昇につながるリスクについて懸念を示した。今後の株価の動向について、何人かの委員は、今回の件が投資家心理や東京市場に対する信認に与える影響を含め、注意してみていく必要があると述べた。

3.中間評価

以上のような経済・物価・金融面の情勢認識を踏まえ、10月の展望レポートで示した「経済・物価情勢の見通し」との関係では、(1)景気は、内外需がともに着実な増加を続ける中で、「見通し」に比べて幾分上振れて推移すると予想される、(2)国内企業物価は、国際商品市況高や昨年後半の円安を背景に、「見通し」に比べて幾分上振れるものと見込まれる、(3)消費者物価は、概ね「見通し」に沿って推移すると予想される、との見方が共有された。何人かの委員は、わが国の景気は、回復に加速感がついている訳ではないが、内需と外需、企業部門と家計部門のバランスが取れた形となっており、ショックに対する耐性が高まっているとの見方を示した。
当面の注目すべきリスク要因として、多くの委員は、このところ再び上昇している原油価格の動向がインフレ予想や長期金利、ひいては米国をはじめとする海外経済に与える影響を指摘した。そのうえで、上振れ・下振れ要因については、引き続き10月の展望レポートで示した3つの要因に注目していくことが適当であるとの認識を共有した。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

当面の金融政策運営について、委員は、「約束」に沿って、量的緩和政策の枠組みを継続することが適当であるという認識を共有した。
その上で、複数の委員は、金融機関が資金繰り上必要とする流動性需要が趨勢的に減少していることや、将来の量的緩和政策の解除を円滑に行うためには、出来るだけ市場における自由な金利形成を促しておく必要があること等から、現時点で当座預金残高目標を減額することが適当であるとの見解を示した。これに対して、大方の委員は、「なお書き」を含めて、現在の金融市場調節方針を継続することが適当であるとの見解を述べた。
何人かの委員は、消費者物価指数の前年比がプラスに転じるもとで、金融政策の枠組みの変更時期やその後の政策運営に対する市場の関心が一段と高まっていると述べた。この点につき、委員は、量的緩和政策の解除は、今後の経済・物価情勢を丹念に点検したうえで、予断を持つことなく、あくまで「消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上」と言えるかどうかという基準に沿って適切に判断していくとの認識を共有した。
枠組み変更後の金融政策運営に関する情報発信についても、議論が行われた。ある委員は、この点に関する基本的な考え方は、既に展望レポートで示したように、(1)概念的には、極めて低い短期金利の水準を経て、次第に経済・物価情勢に見合った金利水準に調整していくというプロセスを経ること、(2)経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、全体として余裕をもって進められる可能性が高いということであると述べた。そのうえで、量的緩和政策の枠組みの変更という先例のない状況のもとで、金融市場において経済・物価情勢に応じた円滑な価格形成を促していくためにはどのような具体策が考えられるのかという観点から、今後、さらに議論を深めていく必要があるとの見方を示した。この点に関し、何人かの委員は、フォワード・ルッキングな姿勢が重要であることを強調した。
この間、一人の委員は、量的緩和政策の下では、消費者物価指数を基準とするコミットメントが物価の先行きに対するアンカーとして機能してきたと評価したうえで、金利政策に移行する際には、望ましい物価上昇率を示すことにより、これに代わる新たなアンカーを設定することが必要であるとの見解を示した。これに対して、別の一人の委員は、現在、わが国経済は、物価が需給ギャップに反応しにくいという90年代後半以降の経済構造からの転換点にあり、このように経済構造に関する不透明性が高い状況下において、不確実な知識に基づいて長期的な物価安定の数値目標を徒に拙速に示すことは、政策運営の透明性向上につながらないだけでなく、場合によっては金融政策に対する信認に悪影響を及ぼすことにもなりかねないと指摘し、数値目標の設定は中長期的な検討課題とすべきであると述べた。これに対し、先の委員は、経済構造の不確実性は常に存在しているとしたうえで、各国の中央銀行も、同様の問題に直面しながら政策運営の透明性を高める努力を行っていると指摘した。別の一人の委員は、いわゆるインフレーション・ターゲティングは、本来、中長期的な観点から物価目標値の実現を目指すものであるが、現状では、足もとの物価指数に金融政策運営を機械的に連動させる枠組みであると誤解されるリスクが小さくないことを踏まえると、当面は、数値目標を設定することなく、政策運営の透明性を高める方法を模索する方が賢明であるとの見解を示した。さらに別の委員は、物価安定の数値目標の設定に当たっては、物価指数の選択も重要な論点になると指摘した。
こうした議論を通じ、枠組み変更後の情報発信のあり方について、委員は、(1)今後も検討を続けていくこと、(2)その際、政策運営の透明性向上と柔軟性・機動性の確保の適切なバランスを確保することが重要であることについて、認識を共有した。

IV.政府からの出席者の発言

会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  平成18年度予算は、歳出改革路線を堅持・強化した姿となっており、財政健全化に向けた歩みをさらに進め、歳出・歳入一体改革の議論の土台固めを行うことが出来たと考えている。具体的には、医療制度改革、三位一体の改革、公務員総人件費など、様々な改革の成果を反映し、2年連続で一般歳出について前年度の水準以下に抑制するとともに、歳入面では、定率減税について、経済状況の改善を踏まえ廃止することとしている。このように、歳出・歳入両面における取り組みの結果、新規国債発行予定額は30兆円を下回るものとなり、一般会計の基礎的財政収支も3年連続で改善した。
  •  一方、政府経済見通しにおいては、わが国経済は緩やかな回復を続けており、18年度には、デフレ脱却の展望が開けるものとしている。
  •  しかしながら、これは政府・日本銀行一体となった取り組みを前提とするものであり、現状では、デフレ脱却に向け、引き続き最大限の努力が必要である。このことから、日本銀行におかれては、金融政策運営に当たって、経済・物価情勢について慎重かつ総合的にみていくとともに、金融市場及び金利全般に対して十分な目配りをしながら、手を緩めることなくデフレ克服に取り組んで頂きたいと考えている。また、金融政策の先行きに関する憶測で市場が不安定になることのないよう、金融政策の考え方を市場や国民に丁寧にご説明願いたいと考えている。

また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、緩やかに回復している。しかし、依然としてデフレの状況は続いており、その克服は引き続き政府・日本銀行一体となって取り組むべき重要政策課題である。
  •  政府は、本日、「平成18年度経済見通しと経済財政運営の基本的態度」及び「構造改革と経済財政の中期展望—2005年度改定」を閣議決定した。中期的には民間需要主導の持続的な成長と両立するような安定的な物価上昇率を定着させることがマクロ経済財政運営の基礎となるが、平成18年度には、政府・日本銀行が一体となった取り組みを行うことにより、デフレ脱却の展望が開けると見込んでいる。
  •  なお、実際の脱却の判断は、消費者物価のみならず、GDPデフレーター等、種々の物価統計をみるとともに、原油価格の高騰等の特殊要因を除いた物価の基調や需給ギャップ等の背景を総合的に考慮して、慎重に行うことが必要である。
  •  日本銀行におかれては、政府の経済の展望と整合性をとり、デフレ脱却の重要性に鑑み、実効性のある金融政策運営を行って頂くよう期待する。その上で、望ましい物価水準およびそこに至る通過点の考え方を含めた今後の道筋の提示を検討頂き、市場における適切な期待形成を促進することにより、物価安定のもとでの持続的な経済成長と、デフレからの脱却に寄与することを期待する。

V.採決

以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針については、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針について、「なお書き」を含め、現状を維持することが適当である、との考え方を示した。
これに対し、二人の委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げる旨の議案を提出したいと述べた。
この結果、以下の議案が採決に付されることになった。
福間委員・水野委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」との議案が提出された。
採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員、水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員

議長からは、会合における多数意見を取りまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、(1)市場機能の回復を図るため、出来るだけ自由な金利形成を促す必要があること、(2)金融政策運営の機動性・柔軟性を高めるため、資金供給オペの短期化を図っていく必要があること、(3)金融政策が効果を発揮するにはある程度の時間を要すること、(4)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、物価安定のもとでの持続的な景気回復をサポートすることは十分可能であることから、量的緩和政策の枠組みの維持に支障を及ぼさない範囲で、経済金融情勢を慎重に見極めながら漸進的・段階的に当座預金残高目標を削減していくべきであるとして、反対した。

水野委員は、(1)量的緩和政策解除時の市場の安定を図る上では、当座預金残高を短期間で集中して引き下げるのではなく、市場の実勢に合わせて修正に着手することが適当であること、(2)解除のショックを可能な限り小さくするためには、金利を通じた市場との対話が可能な環境を整えていった方が良いこと、(3)当座預金残高目標の引き下げに早めに着手することにより、量的緩和政策解除後の金融政策の正常化のプロセスを連続的に進めやすくなること、(4)当座預金残高目標を引き下げることにより、資産インフレのリスクに対して日本銀行としても配慮しているというアナウンスメント効果を期待できることから、反対した。

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。
この「基本的見解」は当日(1月20日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は1月23日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

前回会合(12月15日、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、1月25日に公表することとされた。

以上


(別添)

2006年1月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成7反対2)。
日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。
なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

以上

照会先

ご意見・ご要望をこちらまでお寄せください。
E-mail:prd@info.boj.or.jp