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金融政策決定会合議事要旨

(2005年 6月14、15日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年7月12、13日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年 7月19日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年6月14日(14:01〜16:12)
6月15日( 9:00〜12:58)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(14日)
    上田 勇 財務副大臣(15日)
  • 内閣府 藤岡 文七 大臣官房審議官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局参事役鮎瀬典夫(15日 9:00〜9:13)
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役山田泰弘(15日 9:00〜9:13)
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役武田直己
  • 金融市場局企画役坂本哲也(15日 9:00〜9:13)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(5月19、20日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は、6月2日、3日に29兆円台と目標値の下限を一時的に下回ったが、この期間を除いては、30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、ゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、総じて低位で推移している。

 株価は、米国株価の上昇等を背景に上昇した後、上値の重い展開となり、日経平均株価は足もと11千円台前半で推移している。

 長期金利は、米国長期金利の低下や機関投資家の底堅い需要等を受けて、1.2%台前半まで低下した。

 為替相場をみると、円の対米ドル相場は、中国人民元切り上げに対する思惑の後退や米国貿易赤字の予想比縮小などを受けて下落し、最近では107〜109円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、潜在成長率近傍の着実な景気拡大を続けている。最終需要面では、純輸出が大きなマイナス寄与となっている一方、国内民需は増勢が幾分鈍化しつつも堅調な増加を続けている。この間、コアベースの消費者物価指数は、緩やかながらも着実に上昇している。

 ユーロエリアでは、これまでごく緩やかながらも景気回復が続いてきたが、このところ輸出や生産面を中心に停滞感がやや強まっている。

 東アジアをみると、総じて景気の拡大が続いている。中国では、内外需ともに力強い拡大が続いている。この間、輸入は、一部業種における在庫調整の動きや景気過熱抑制策に伴う新規投資の増勢鈍化などから、伸びが大幅に鈍化している。NIEs、ASEAN諸国・地域では、輸出・生産がIT関連分野の調整の進捗を受けて増加傾向にあるなど、緩やかな景気拡大が持続している。

 米欧の金融資本市場をみると、長期金利は、米国、欧州とも、市場予想を下回る経済指標の発表等を受けて、低下した。株価は、米国、欧州とも幾分上昇した。この間、社債の対米国債スプレッドは、5月下旬にかけて拡大傾向を辿ってきたが、その後は幾分縮小している。

 エマージング金融資本市場では、米国など先進国の金融市場の安定や良好なファンダメンタルズなどに支えられて、多くの国・地域で株価が上昇し、対米国債スプレッドが縮小した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、海外経済の拡大基調が続いているものの、中国での景気過熱抑制策の影響とみられる動きなどから、伸び悩んでいる。先行きについては、海外経済が全体として拡大を続け、IT関連分野の調整圧力も引き続き和らいでいくとみられることから、次第に伸びが高まっていくと予想される。

 企業部門の動向をみると、設備投資は、高水準の企業収益を背景として増加している。法人企業統計季報によると、製造業の設備投資は今年1〜3月まで3四半期連続の増加となったほか、昨年後半に弱めの動きとなっていた非製造業の設備投資も、1〜3月は回復した。資本財出荷(除く輸送機械)は、昨年後半以降は横這い圏内で推移してきたが、4月は大幅に増加した。

 生産は、IT関連分野の在庫調整が進むもとで、緩やかに増加している。鉱工業生産は1〜3月に比較的はっきりと増加した後、4月も増加した。在庫面では、電子部品・デバイスの在庫は5ヶ月連続で減少しているが、全体では、自動車メーカーの納期待ちなどの一時的な要因が影響したことから、幾分増加している。先行きについては、生産は、増加基調を続けると考えられる。ただし、IT関連分野における最終需要の動向や輸出の増加が明確になるタイミングには不確実性が大きいため、今後の動向は、注意深くみていく必要がある。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標や失業率は改善傾向を続けており、毎月勤労統計でみた常用雇用者数は前年比増加が続いている。また、パート労働者数の前年比がマイナスとなるなどパート比率の頭打ちは鮮明になってきた。賃金面をみると、パート比率の動きを背景に所定内給与は下げ止まりつつあり、一人当たり名目賃金の下げ止まりは一層明確になってきた。こうしたもとで、雇用者所得は緩やかに増加している。先行きについては、企業は人件費を抑制するスタンスを維持するとみられるが、雇用過剰感が概ね払拭されていることや、企業収益が好調を持続するとみられるもとで、雇用者所得は緩やかな増加を続けていく可能性が高い。

 個人消費は、1〜3月に続き4月も底堅く推移している。1〜3月は昨年10〜12月に天候・災害要因の影響から総じて弱い動きとなったことの反動もあって持ち直しを示す指標が多くみられたが、4月も乗用車新車登録台数(除く軽)や家電販売、全国百貨店売上高などが底堅く推移している。先行きの個人消費については、雇用者所得の緩やかな増加を伴いつつ、着実な回復を続ける可能性が高い。

 物価動向をみると、国際商品市況は引き続き高値圏で推移している。国内企業物価は、原油価格上昇の影響などから、大幅に上昇している。先行きも当面上昇を続ける可能性が高い。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、電気・電話料金の引き下げの影響等から小幅のマイナスとなっており、先行きも当面、小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き改善している。そうしたもとで、民間銀行貸出は減少幅が緩やかに縮小している。

 資本市場調達については、CP・社債とも良好な発行環境が続いており、CP・社債の発行残高は前年並みの水準となっている。

 マネタリーベースの伸び率は、前年比2%程度となっており、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台の伸びとなっている。

II.分割償還債にかかる適格担保としての取扱いの見直しについて

1.執行部からの提案内容

 パス・スルー債等、元本の分割償還が行われることがある債券について、担保価格の算定方法を見直すことにより、今後増加していくことが見込まれる発行後5年超のものも適格担保とするため、「適格担保取扱基本要領」の一部改正を行うことを提案したい。

委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、わが国の景気は「踊り場」脱却に向けて着実に進んでいるが、明確に「踊り場」を脱却したと判断するにはもう少し見極めが必要であるとの認識を共有した。こうした判断の背景として、多くの委員は、(1)高水準の企業収益のもとで、設備投資の増勢が続いているほか、個人消費も強めの動きとなるなど内需は底堅い動きを示している一方、(2)輸出が中国向けを中心に伸び悩んでいるほか、IT関連分野における在庫調整は着実に進捗しているもののなお継続中である、と指摘した。

 先行きについては、IT関連分野の調整の影響が弱まるにつれて、年央以降、景気回復の動きが次第に明確になり、緩やかながらも息の長い回復が続くという認識が共有された。

 海外経済に関して、委員は、米国や東アジアを中心に拡大を続けているとの見方を共有した。ある委員は、原油価格が高騰していることや、足もと製造業の活動にグローバルな軟調傾向が出ていることには注意が必要であると述べた。

 米国経済について、委員は、個人消費や住宅投資といった家計支出が増加しているほか、雇用環境も改善しており、潜在成長率近傍の成長率で引き続き着実に拡大しているとの認識を共有した。これに関して、何人かの委員は、企業の景況感指数(ISM指数)などをみると、米国の製造業にやや勢いがないことが懸念されると述べた。また、複数の委員は、米国の金利引き上げが消費や住宅投資の今後の動向に与える影響を注視する必要があると述べた。

 東アジア経済について、委員は、中国では内外需ともに力強い拡大が続いているほか、NIEs、ASEAN諸国・地域でも、緩やかな景気拡大が持続しているとの見方で一致した。中国の輸入の伸びが鈍化している背景について、多くの委員は、基本的には景気過熱抑制策など国内要因に基づく調整圧力が在庫面などに生じているとみられると指摘した。ある委員は、現地供給力の増加により輸入代替が進んでいる可能性もあると付け加えた。また、複数の委員は、中国には様々な構造問題が残っており、これが今後どのように改善していくか引き続き注意を払っていく必要があると指摘した。

 こうしたもとで、わが国の輸出は、中国向けを中心に伸び悩んでいるが、先行きについては、中国国内の調整がいつ終わるかはっきりしないものの、海外経済全体として拡大が続くと見込まれるもとで、増加基調を辿るとの見方が概ね共有された。ただ、多くの委員は、世界的なIT関連需要の回復テンポが緩やかと見込まれることも考えると、輸出の伸びは昨年前半のような高いものとはならない可能性が高いとの見方を示した。また、一人の委員は、一部業種で設備能力の制約から当面供給余力が乏しい状態が続くと予想されることも、輸出の伸びを抑える要因となり得ると付け加えた。

 生産・在庫面について、委員は、IT関連分野の在庫調整が順調に進むもとで、生産は緩やかに増加しているとの認識を共有した。何人かの委員は、1〜3月の生産は、鋼船等の一時的な押上げ要因が効いたことから高めの伸びとなったが、4〜6月は、この反動も予想されることから微増程度の伸びに止まるのではないかと指摘した。この間、ある委員は、4〜6月の生産は、ほぼ横這いないし微減のリスクがあると述べた。

 IT関連分野の調整について、多くの委員は、電子部品・デバイスの在庫の前年比は着実に低下してきており、調整は着実に進展しているとの認識を示した。これに関して、何人かの委員は、生産、出荷などの計数面では回復を確認できていないものの、関連財の市況や企業等からのミクロ情報などを踏まえると、調整は想定通り進捗しているとみられると述べた。このうち一人の委員は、ミクロ情報によると、台湾の半導体メーカーに回復感が窺われていると述べた。別の委員は、世界半導体市場予測が上方修正されていると指摘した。また、複数の委員は、DRAMやハードディスクドライブの価格に下げ止まりの兆しが窺われており、こうした動きが本格的なものかどうか注意してみていく必要があると指摘した。

 IT関連分野以外の在庫が増加していることについて、多くの委員は、自動車の船待ち在庫など一時的とみられる要因によるものと考えられるが、今後在庫調整圧力が高まることがないか、海外の需要動向等を注意してみていく必要があると述べた。

 設備投資について、委員は、前回会合以降公表された法人企業統計季報などの指標を踏まえると、高水準の企業収益を背景にしっかりとした増勢が続いていることが確認できたとの見方で一致した。ある委員は、IT関連分野以外の製造業では生産能力の上限に近い高水準の生産が続いており、関連業界を含めて広い範囲に亘って能力増強目的の投資が行われていると述べた。複数の委員は、小売、電力・ガスなど非製造業にも設備投資増加の裾野が広がりつつあることは前向きに評価できるとコメントした。また、別の複数の委員は、高水準のキャッシュフローが実物投資などに回り始めた可能性もあると指摘し、投資意欲の強さについては次回の短観で確認したいと述べた。この間、別の委員は、キャッシュフローが高水準であっても、期待収益率の上昇が明確でない中、企業の投資姿勢には慎重さが残るのではないかと述べた。別の一人の委員は、バブルの教訓等もあり、企業は慎重に投資の意思決定を行っているが、そのことがむしろ、息の長い投資増加をもたらすのではないかと指摘した。

 企業収益について、委員は、各種調査で高水準の収益が維持される見通しとなっていることなどを踏まえると、伸びは鈍化するにしても、増益基調自体は維持されるとの見方で一致した。何人かの委員は、原油価格が再び高騰していることが企業収益等に与える影響には注意する必要があるとの認識を示した。また、一人の委員は、高水準の収益を背景に増復配する企業が増えており、これが株式市場などにプラスの効果を及ぼす可能性があると指摘した。

 雇用・所得面では、委員は、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も下げ止まっていることから、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、緩やかな増加を続ける可能性が高いとの認識を共有した。

 こうした雇用・所得環境のもとで、個人消費について、委員は、底堅く推移しているとの見方を共有した。昨年10〜12月からの反動増もあって増加した本年1〜3月に続いて、4月も個人消費の指標が強めであったことについて、多くの委員は、雇用者所得の増加や消費者コンフィデンスの改善が背景にあるとの認識を示した。このうちある委員は、旅行・外食等のサービス支出の増加が個人消費の伸びに寄与していると述べた。複数の委員は、多くの企業が増復配による株主還元を進めていることも個人消費にプラスの影響を与えている可能性があると述べた。また、別の委員は、景気ウォッチャー調査等によると、近畿、中国などの地域でも個人消費の増加を窺わせる動きが広がってきていると指摘した。

 このように個人消費や設備投資といった内需が強めの動きをしている一方で、輸出が伸び悩んでいることを踏まえ、今後内需がどこまで景気回復の牽引役となり得るかについて議論が行われた。複数の委員は、内需とりわけ個人消費の強さが本格的なものかどうかについては、もう少し見極めていく必要があると述べた。また、このうち一人の委員は、輸出増加による収益増加が見込まれなければ設備投資の持続的な拡大は期待できず、内需が経済成長の牽引役にはならないのではないかと指摘した。これに対し、別の委員は、このところのサービス関連消費の増加などを踏まえると、今後は個人消費の増加による収益増加を見込んだ設備投資が持続的に拡大することも展望し得るのではないかとの見解を示した。また、ある委員は、輸出の増加を受けて生産が増加し、所得も増加していくといった景気拡大の主たるメカニズムに、個人消費の増加を起点とした内需の自律的な拡大というもう一つのメカニズムが加わった可能性があるのではないかと述べた。

 物価面について、委員は、国内企業物価は、既往の内外商品市況の上昇を受けて、当面、上昇を続けていく可能性が高いが、そのテンポは鈍化するとの見通しを共有した。また、消費者物価の前年比は小幅のマイナスで推移しており、先行きについても、電気・電話料金の引き下げの影響が続くこともあって、当面、小幅のマイナスが続くとの見方を共有した。

 その上で、複数の委員は、需給ギャップの縮小や賃金の下げ止まりを背景に、特殊要因を除いた消費者物価は既にゼロ近傍にあると指摘した。また、別の複数の委員は、賃金の状況に変化がみられている中で、先行きユニットレーバーコストの動きなど物価を巡る環境にどのような影響が及ぶかに注意していく必要があると指摘した。この間、一人の委員は、価格競争が激しく技術革新のテンポが速い耐久消費財価格が下落していることなどを踏まえると、消費者物価の緩やかな下落傾向は続いているのではないかと述べた。

 地価の動向について、一人の委員は、市街地価格指数でみると、六大都市の商業地は14年振りに前期比プラスに転じており、こうした土地価格の動向が個人消費や設備投資にどのように波及していくかみていく必要があると述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関して、委員は、極めて緩和的な環境が続いているとの認識を共有した。

 金融資本市場の動向について、何人かの委員は、前回会合で当座預金残高目標の下限割れを認める「なお書き」を加えたこと、および、6月2日、3日に実際に当座預金残高目標の下限割れが発生したことに対して、市場は冷静な反応を示しており、量的緩和の枠組みには何ら変更はないというスタンスが市場に正しく理解されたとみてよいのではないかとコメントした。また、一人の委員は、最近の市場は膠着状態を続けているが、原油価格の再上昇や米国でのインフレ動向といった波乱要因を考えると、引き続き注意深くみていく必要があると述べた。別の委員は、日本を含む世界的な長期金利の低下について、経済がグローバル化するもとで、インフレ期待が低下していることや企業の投資行動が慎重になっていること等、ファンダメンタルズの変化を反映した部分が大きいとの見方を示した。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、消費者物価の前年比が小幅ながらマイナスを続けている現状では、(1)所要準備額を大幅に上回る潤沢な流動性を供給し、(2)そうした政策を消費者物価指数に基づく「約束」に沿って続けていく、という現在の量的緩和政策の枠組みを堅持すること、が重要であるという点で、前回決定会合に続き認識を共有した。

 その上で、金融システム不安が後退するもとで、金融機関の流動性需要が減少し資金余剰感が強まっている状況を踏まえて、複数の委員は、量的緩和政策をより円滑に運営していくためには、当座預金残高目標を減額することが適当であるとの見解を示した。一人の委員は、金融環境が変化しているにもかかわらず巨額の当座預金残高を維持することは市場機能の回復を妨げるほか、金融規律の低下に繋がるリスクがあるなどデメリットの方が大きいとして、当座預金残高目標を「27〜32兆円程度」に減額し、「なお書き」を前回決定会合での修正前の文言に戻すことが適当であるとの見解を示した。また、もう一人の委員は、当座預金残高をある程度引き下げていかないと短期金融市場の機能は回復しないと主張し、当座預金残高目標を「25〜30兆円程度」に減額することが適当であると述べた。

 これに対して、大方の委員は、現在の金融市場調節方針を継続することが適当であるとの見解を述べた。多くの委員は、景気が「踊り場」にある中で、金融市場調節方針の変更を行うと、日本銀行の金融緩和スタンスが後退したと誤解されるリスクがあるとの認識を示した。一人の委員は、デフレ克服にマイナスの影響が出ないことへの理解を得ながら、慎重に当座預金残高目標を減額していくことは将来の選択肢の一つと指摘しつつも、景気が「踊り場」にある中では、現状の金融市場調節方針の継続が適当であると述べた。ある委員は、量的緩和政策の効果の中には家計・企業の期待に働きかける効果があると思うが、金融市場調節方針の修正にあたっては、こうした期待に働きかける効果を損なうことのないよう、極めて慎重な配慮が必要であるとの認識を示した。別の一人の委員は、当座預金残高目標を減額することは、量的緩和政策の時間軸効果を減殺してしまうリスクがあり、現在の目標水準を維持することは、デフレ克服を確かなものとし、市場機能の回復を可能とする最短の途であると述べた。

 前回決定会合で修正した「なお書き」の扱いについて、一人の委員は、金融機関の流動性需要の減少やそのもとでの「札割れ」の頻発といった基本的な構図に変化がないもとで、今後様々な要因によって、金融機関の資金需要が減少するような場合には、市場機能への影響に配慮しつつ、最大限の資金供給努力を行っても、当座預金残高目標の維持が難しくなる場合も考えられることから、「なお書き」を維持することが適当であると述べた。また、何人かの委員も、「なお書き」を修正した趣旨については、市場でほぼ正確に理解されてきており、「なお書き」を変更する必要はないとの見解を述べた。この間、一人の委員は、前回修正した「なお書き」を維持することには敢えて反対するものではないが、発動基準や配慮すべき市場機能の内容について、必ずしも明確でない面もあることから、今後とも議論を行いつつ、残高目標達成に向けてのオペレーション上の努力を一貫して続けていくことが重要であると述べた。

 この点に関連して、委員は、前回会合における「なお書き」修正の趣旨は、金融機関の流動性需要が減少していることを踏まえ、金融機関の資金需要が極めて弱いと判断される場合には、当座預金残高が一時的に目標値を下回ることがありうるとしたものであり、今後の政策決定に関して何かを積み残しているものではないという点を改めて確認した。複数の委員は、金利の正常化に向けた第一歩というような今後の政策と結びつけた形で解釈されることがないよう、対外的な情報発信には正確を期す必要があると付け加えた。

 また、量的緩和政策のもとでの資金供給が市場機能へ及ぼす影響についても議論があった。ある委員は、資金供給オペレーション期間の長期化により、例えば短期国債の金利がほぼ一様にゼロに貼り付くなど、タイム・バリューのない異常な金利形成になっていると述べた。また、一人の委員は、2006年度にかけて量的緩和政策の枠組みを変更する可能性が徐々に高まると想定されるもとで、長めの資金供給オペレーションにより金利を無理に押し下げてしまうと、金利に関する市場の情報発信機能を損なうことになるため、オペレーション期間の長期化は避けるべきであると指摘した。別の委員は、同様の観点から、オペレーション期間の短期化を進めるべきとの見解を示した。これに対して、複数の委員は、市場機能の尊重は中央銀行にとって極めて重要なテーマであるが、潤沢な資金供給がイールドカーブを押し下げる効果を持ち得ることは量的緩和政策の宿命でもあると指摘した。別の一人の委員は、量的緩和政策は、当初から市場機能への影響と政策目的達成との間のバランスを保ちつつ進められてきた政策であるとした上で、経済金融情勢が変化してきている中で、当座預金残高目標が自己目的化し、市場機能に過度の悪影響を及ぼすことは出来る限り避けるべきであると述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、大局的にみれば、景気は回復局面にあり、弱さを脱する動きもみられるが、デフレは依然として継続している。
      また、高騰を続ける原油価格が経済に与える影響についても、その動向を注視していく必要がある。
  •  このような経済状況のもと、民間需要主導の景気回復を持続的なものとするとともに、デフレから脱却することは、政府・日銀が一体となって取り組むべき重要課題であり、その達成のために、最大限の努力を行わなければならない状況に変わりはないと考えている。
  •  したがって、デフレが継続する現下の経済情勢においては、現在の政策内容が継続されることが適切であると考えている。
      日本銀行におかれては、デフレ克服に向け、現状の量的緩和政策を堅持する姿勢に変更のないことを、引き続き明確に示して頂きたいと考えている。
      また、前回会合においては、技術的な観点から「なお書き」を付記することが決定されたが、これについてもその趣旨に沿った適切な運用を図って頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、弱さを脱する動きがみられ、緩やかに回復している。政府は、現在、経済財政諮問会議において「基本方針2005」の取りまとめを行っているが、平成18年度以降には名目成長率2%程度あるいはそれ以上の成長経路を辿ると見込んだことも念頭におき、経済活力と財政健全化を両立させつつ、民間需要・雇用の拡大に力点をおいて、構造改革を加速・拡大し、デフレからの脱却を確固たるものにすることとしている。
  •  日本銀行におかれては、実体経済が大局的には緩やかに回復している一方、デフレ克服には結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、政府の取り組みや、経済の展望と整合的なものとなるよう、市場の動向や期待を踏まえつつ、実効性のある金融政策運営を行って頂くよう期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針については、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針について、「なお書き」を含め、現状を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 ただし、一人の委員は、前記のような理由から、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げることが適当であり、その旨の議案を提出したいと述べた。また、別の委員は、前記のような理由から、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「25〜30兆円程度」に引き下げることが適当であり、その旨の議案を提出したいと述べた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 福間委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、水野委員、西村委員

 水野委員からは、「日本銀行当座預金残高が25〜30兆円程度となるよう金融市場調節を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、西村委員

 議長からは、会合における多数意見を取りまとめる形で、以下の議案が提出された。

金融市場調節方針に関する議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、(1)当座預金残高目標を引き上げてきた大きな要因である金融システム不安に伴う資金需要は後退していること、(2)こうしたもとでの巨額の当座預金残高維持は、市場機能回復の障害となるほか、金融規律の低下につながるリスクがあること、(3)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、景気回復ひいてはデフレからの脱却をサポートすることは十分可能であること、から反対した。

水野委員は、(1)短期国債買入れオペレーションでも「札割れ」が発生するなど、金融機関の流動性需要の減退が顕著になってきたこと、(2)日本銀行当座預金残高を引き下げていかないと市場の機能は回復しないこと、(3)当座預金残高目標の引き下げが金融機関の資金需要の減退への対応に過ぎないことは十分に理解されており、当座預金残高目標を引き下げることで、金融市場調節方針はより分かりやすいものとなること、から反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(6月15日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は6月16日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(4月28日)および前回会合(5月19、20日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月20日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2005年7月〜12月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2005年 6月15日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。  日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。また、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断される場合には、上記目標を下回ることがありうるものとする。

以上


(別添2)
2005年 6月15日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2005年7月〜12月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2005年7月 7月12日(火)・13日(水)
7月27日(水)
7月13日(水)
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(8月12日(金))
(9月13日(火))
8月 8月8日(月)・9日(火) 8月9日(火) (9月13日(火))
9月 9月7日(水)・8日(木) 9月8日(木) (10月17日(月))
10月 10月11日(火)・12日(水)
10月31日(月)
10月12日(水)
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(11月24日(木))
(12月21日(水))
11月 11月17日(木)・18日(金) 11月18日(金) (12月21日(水))
12月 12月15日(木)・16日(金) 12月16日(金) 未定
  • (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  • (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  • (注3)「経済・物価情勢の展望(2005年10月)」の「基本的見解」は、10月31日(月)15時(背景説明を含む全文は11月1日(火)14時)に公表の予定。

以上