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金融政策決定会合議事要旨

(2005年 4月28日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2005年6月14、15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2005年 6月20日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2005年4月28日( 8:59〜13:04)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 須田美矢子(審議委員)
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
  • 水野温氏(  審議委員  )
  • 西村清彦(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 上田 勇 財務副大臣
  • 内閣府 浜野 潤 政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫( 9:09〜13:04)
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役神山一成

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(4月5、6日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移した。

 株価は、米国株価の軟調な動きなどを材料に下落した後、足許はやや回復し、日経平均で11千円程度で推移している。長期金利も、株価の下落等を受けて低下し、足許は、1.2%台後半で推移している。

 円の対米ドル相場は、米国における利上げペースが速まるとの思惑が後退する一方で、中国人民元の早期切り上げを巡る思惑が高まったこと等を受けて、幾分円高方向の動きとなり、最近では106円前後で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出と設備投資が共に増加を続けているほか、雇用者数も改善傾向を辿るなど、景気は引き続き拡大している。こうした中で、インフレ率は緩やかながらも着実に上昇している。東アジアをみると、中国では、内外需とも力強い拡大が続いているほか、NIEs、ASEAN諸国・地域でも緩やかな景気拡大が持続している。一方、ユーロエリアでは、停滞感が強い状況が続いている。

 米欧の金融資本市場では、原油高の影響などを意識して米国の景気減速懸念が一時的に高まるなど、先行きの景気動向等に対する不透明感が強まっている。こうした状況下、株価が下落し、長期金利も低下した。エマージング金融市場でも、多くの国・地域で、株価が下落し、対米国債スプレッドが拡大した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、世界的なIT関連の調整が徐々に進捗していることを反映して、NIEs向けを中心に情報関連財輸出の持ち直しがみられる。もっとも、中国向け輸出が伸び悩んでいることもあって、1〜3月は前期比+0.7%と小幅の伸びとなった。

 設備投資は、製造業を中心に増加傾向にある。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、10〜12月に前期比+6.0%と増加した後、1月は幾分減少したが、2月は前月比+4.9%と持ち直しており、全体として、緩やかな増加傾向が維持されている。同時指標である資本財出荷(除く輸送機械)は、鉱工業統計の年間補正による修正の結果、昨年前半に高い伸びとなった後、後半以降は横這い圏内の動きとなった。

 この間、中小企業の設備投資について、中小企業金融公庫の調査結果(3月調査)をみると、設備投資を実施した企業の割合は、引き続き高水準で推移している。

 雇用・所得環境は、求人関連指標や失業率が改善傾向を続けており、雇用者数は増加傾向にある。賃金の前年比をみると、特別給与が増加する中で、所定内給与のマイナス幅も徐々に縮小している。

 この間、個人消費についてみると、百貨店売上高、スーパー売上高や家電販売額、外食売上高など、多くの指標で1〜3月は、10〜12月の反動もあって、総じて強めの数字がみられている。

 生産は、10〜12月が前期比−0.9%と減少した後、1〜3月は同+1.7%と増加に転じている。輸送機械が増加しているほか、電子部品・デバイスの在庫もほぼ前年並みに低下している。この間、非製造業の動向を示す第3次産業活動指数をみると、1〜2月は、卸・小売やサービスを中心に、10〜12月対比で+2.1%の上昇となった。

 物価動向をみると、国内企業物価は、昨年末にかけて原油価格がいったん反落したことから弱含んで推移していたが、3月は、原油をはじめとする内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、強含みに転じた。一方、消費者物価(除く生鮮食品)は、3月の前年比が−0.3%と小幅のマイナスを続けている。

 この間、支店長会議および「地域経済報告」では、足許の景気について、一部で弱めの動きがみられるが、ほぼ全ての地域で緩やかな回復基調にあることが報告された。

(2)金融環境

 企業金融を巡る環境は、総じて緩和の方向にある。民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中、回復方向に一服感がみられているが、民間銀行貸出は減少幅が緩やかに縮小している。この間、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き緩和している。

 資本市場調達については、CP・社債とも総じて良好な発行環境が続く中、発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースは、伸びを幾分高め、4月は足許前年比3%程度となっている。また、マネーサプライは、前年比2%程度の伸びが続いている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 最近の経済情勢について、委員は、前回会合以降公表された経済指標をみると、わが国の景気は、IT関連分野の調整を伴いつつも、基調としては回復を続けている、との前回会合時の判断を変更する必要はない、との認識を共有した。

 海外経済に関して、多くの委員は、米国や中国を中心に拡大を続けているとの見方を共有した。

 米国経済に関し、複数の委員は、株価の下落にみられるように、金融資本市場を中心に、原油高の影響を意識した景気減速懸念やインフレ警戒感が出ていることを指摘した。もっとも、何人かの委員は、米国経済を全体としてみると、家計支出と設備投資は増加しており、雇用も着実に改善しているなど拡大を続けていると評価して良いと述べた。

 中国経済について、複数の委員は、固定資産投資が高めの伸びを続けるなど、内外需とも拡大を続けているとの見方を示した。一人の委員は、景気過熱とインフレ圧力の高まりに注意が必要な状況であると付け加えた。

 この間、欧州経済について、一人の委員は、企業マインドの悪化や生産面での停滞感など、回復の持続性が懸念されると指摘した。

 こうした海外経済のもとで、わが国の輸出は、前期比小幅の増加が続いている、と一人の委員が指摘した。

 内需面では、複数の委員が、設備投資について、1〜2月の機械受注が10〜12月比で増加するなど、増加基調を続けていると認識していると述べた。個人消費についても、天候要因等があった10〜12月の反動という面もあるが、各種の販売統計など1〜3月の指標は総じて強めであり、引き続き底堅く推移しているとみていると発言した。

 生産については、何人かの委員が、1〜3月の鉱工業生産が前期比+1.7%と高めの伸びとなったほか、先行きも強めの予測となっていることを指摘した。IT関連分野の調整については、在庫が着実に減少し、生産も下げ止まりつつあるなど、徐々に進捗し、調整圧力はかなり和らいできているとみて良いのではないか、との見方を示した。

 物価についても、委員は、これまでの基調に大きな変化はないとの見方で一致した。

 国内企業物価に関しては、何人かの委員が、原油価格を中心とした内外商品市況の上昇のほか、需要好調な鉄鋼等の素材価格の上昇幅拡大なども影響して、再び強含んでいることを指摘した。一方、消費者物価については、3月の全国(除く生鮮食品)が、電気・電話料金の引き下げの影響もあって、引き続き小幅のマイナスとなっており、川上の価格上昇が川下に波及しないという、これまでの大きな流れが続いているとの認識を示した。一人の委員は、原油・素材価格の高止まりや、基調的に景気が回復を続けていることから、一部には、価格転嫁が可能となる環境になりつつあるとの見方を述べた。

 この間、ある委員は、支店長会議や4月21日に公表した「地域経済報告」によって、IT関連分野の調整の進捗状況等のミクロ情報が確認できたと述べたほか、別の委員も「地域経済報告」等を活用しつつ、地域経済の動向を点検していくことが重要であると発言した。

2.金融面の動向

 金融資本市場について、何人かの委員は、一部米国企業の決算が市場予想比弱めだったこと等から米国株価が下落したことなどを材料に、わが国でも株価が下落したほか、長期金利も低下していることに言及した。また、為替についても、幾分ドル安の動きがみられていることを指摘した。その上で、これらの市場の動きには、米国経済を中心に海外経済の下振れ懸念が背景にあるとみられるが、企業マインドに与える影響を含めて注視していく必要があると述べた。

 この間、一人の委員は、国内の金融面については引き続き極めて緩和的な環境が続いているとの認識を示した。

3.経済・物価情勢の展望

 経済・物価情勢の先行き見通しについて、委員は、「年央以降、景気回復の動きが次第に明確になり、2005年度は、潜在成長率を若干上回る成長、2006年度は、緩やかながら持続性のある成長軌道を辿ると予想される」との見方を共有した。

 こうした見方について、一人の委員は、これまで想定してきた景気回復の基本的なメカニズムの延長線上にある動きと整理できると述べた。また、別の委員は、これまでと同様に、景気は外需に振られ易い状態が続くのではないかと述べた。

 まず、海外経済について、多くの委員は、米国や東アジアを中心に、成長テンポが緩やかに減速しつつ、潜在成長率程度の拡大を続けることが予想されると述べた。特に、米国経済については、原油価格の上昇やそれに伴うインフレ懸念の高まりと、米国における大手企業の格下げに伴う金融市場の不透明感の高まりを指摘する声も聞かれるが、家計支出、設備投資とも増加を続けており、先行きの景気回復のモメンタムは維持されていると述べた。

 以上のような海外経済のもとで、わが国の先行きの景気回復について、そのテンポは緩やかなものに止まるが、息の長いものになると想定されるという見方が委員の間で共有された。

 景気回復が息の長いものになると見込まれることに関しては、多くの委員が、次のような点が背景にあると指摘した。

 まず、IT関連分野の調整は、見通しにくい性質のものであるため幅をもってみる必要はあるが、デジタル家電等に需要の裾野が広がっている中で、企業も早めに在庫調整に取り組んだこと等から、年央以降には概ね調整が終了し、2000年から2001年にかけてのような大きな調整にはならないと見込まれることが挙げられた。次に、企業の過剰投資・過剰債務・過剰雇用や金融システムの脆弱性といった、これまで経済の回復を遅らせてきた構造的な要因の調整がかなり進み、景気回復を支える環境がしっかりしていることについて多くの委員が言及した。さらに、何人かの委員は、こうした調整の成果にも支えられて、企業収益の好調と設備投資の増加傾向が維持されると共に、企業部門の好調が雇用者所得の増加など、経済の各部門に及んでいくと見込まれると述べた。

 一方で、多くの委員は、設備投資の増加がキャッシュ・フローの範囲内に止まり、人件費抑制姿勢も根強いなど、慎重な企業行動が続いていることに言及し、こうした点を踏まえると、設備投資や個人消費を中心に、景気の回復テンポが緩やかなものに止まる可能性は高いと発言した。もっとも、慎重な企業行動によって、設備投資や在庫投資の面での行き過ぎが起こりにくく、息の長い成長につながるとも言えると付け加えた。

 この間、ある委員は、IT関連分野の調整に関連して、電子部品等の価格下落が加速している可能性や世界の半導体関連設備投資が先行き落ち込むとの予測は、在庫調整の進捗の遅れや調整後の回復の弱さを示唆しているものでないか十分注意して確認していく必要があると述べた。別の委員も、今回のIT調整は価格下落によって達成された面が強く、調整終了後も生産が直ちに回復するかは注意深くみていく必要があると指摘した。また、一人の委員は、IT関連分野の調整のペースや終了のタイミングにはばらつきがあり、今後あまり明確な回復感は期待できないとみられると述べた。

 物価面では、国内企業物価は、原油をはじめとする内外商品市況の動きにも左右されるが、2005年度、2006年度とも、2004年前半ほどの急ピッチにはならないまでも、上昇を続けるとみられるとの認識で一致した。

 消費者物価に関し、多くの委員は、米価格や電気・電話料金の影響が続く2005年度は、前年比でみてゼロ近傍で推移した後、2006年度にはプラスに転じるとの見方を示した。その背景として、原材料コストの上昇は、川下段階での生産性の向上や人件費抑制姿勢の継続によって、かなりの程度吸収されることにより、景気と物価の乖離が続くという姿は大きく変わらない、という認識を共有した。

 その上で、一人の委員は、エネルギー・素材価格の上昇をユニット・レーバー・コストの低下で吸収する余地は低下しており、原材料高が続くとの見方が広がると、企業が価格転嫁に動く可能性もあるとの認識を示した。また、ある委員は、ガソリン価格などに基調的な上昇がみられている可能性があり、こうした中で、各種アンケート調査において人々のインフレ予想に変化がみられている点は注目されると述べた。

 この間、一人の委員は、消費者物価の動向をみていく際のポイントとして、ウエイトが比較的高くかつ地域差の大きい住居費、特に家賃に言及し、統計に採用されている家賃の価格改定は漸進的に行われるため、景気動向と物価指数の動きが乖離する可能性があることを念頭に置いておく必要があると指摘した。

 以上の見通しに関する上振れ・下振れ要因として、多くの委員は、(1)エネルギー・素材価格の動向、(2)米国および中国の景気動向と、(3)国内民間需要の動向、の3点を指摘した。

 エネルギー・素材価格の動向に関しては、複数の委員が、供給能力の増強投資に対する企業の慎重姿勢もあり、価格の高止まりが当面続く可能性もあると述べた。その上で、原油価格等の上昇が経済・物価に与える影響について、何人かの委員が意見を述べた。具体的には、わが国のエネルギー効率の高さは強みと指摘しつつも、原油価格が高止まりした場合、企業収益の圧迫や実質購買力の低下を通じ、米国や中国経済と共に、わが国経済の下振れ要因になりかねないと指摘した。また、インフレ期待の上昇による国際金融市場への影響も注意深くみていく必要があると述べた。

 米国経済について、何人かの委員は、インフレ懸念が強まる際には、より強い金融政策面での対応もあり得るが、その場合、住宅投資の減速等を通じた経済面への影響、金融市場を通じたエマージング諸国などの世界経済への影響が懸念される、との認識を示した。また、別の委員は、在庫の増加が日本を含むアジア諸国からの輸入を抑制する可能性があると指摘した。

 中国経済については、多くの委員が、固定資産投資の過熱リスク、電力不足をはじめとするインフラ面のボトルネックや都市と農村間での所得格差などの構造問題を抱える中で、成長の持続性が焦点であると指摘した。その上で、デモなどの中国情勢が、わが国の輸出や対中直接投資等に与える影響も、今後注意深くみていく必要があると述べた。ある委員は、中国企業の競争力が高まる中で、わが国からの輸出が伸びにくくなる可能性にも注意しておくべきと付け加えた。また、別の複数の委員は、人民元を巡る今後の動きが、中国経済や国際金融為替市場に与える影響も丁寧に確認していく必要があると述べた。

 この間、ある委員は、2006年度の見通しはかなり幅をもってみる必要がある以上、想定されるリスクが顕現化した場合のシナリオを記述することが適当であると述べた。これに対し、別の委員は、見通し以上に、リスクに対する評価は、各委員の間で見方に幅があり、共通のリスク・シナリオを示していくことは難しいとの認識を示した。

 金融政策運営に関しては、何人かの委員が、今回の展望レポートにおいて、2005年度の消費者物価指数の前年比がゼロ近傍、2006年度が若干のプラスに転じる見通しを示すもとで、先行きの金融政策運営に関する考え方を説明しておくことが重要であると指摘した。

 具体的には、見通しは上下に振れる可能性があり、今回の展望レポートが対象とする期間において、量的緩和政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではないが、大きな流れとしては、今回の経済・物価見通しが実現することを前提とすると、2006年度にかけてその可能性が徐々に高まっていくとみられることを記述することが適当であるとの意見が示された。また、同時に、景気に物価が反応しにくい状況が続くのであれば、枠組みの変更やその後の金融政策運営について余裕をもって対応を進められる可能性が高いという基本的なスタンスは、昨年10月の展望レポートと同様に、改めて明確にしておくことが適当であるとの認識が示された。

 以上の点に関し、一人の委員は、先行きの政策運営に関する考え方を説明していくのであれば、出口の定義をより明確にし、その前後における政策運営のあり方を具体的に示すことが必要ではないかと述べた。別の委員は、見通しが緩やかな景気回復であると共に、そこからの下振れリスクもある中で、2006年度にかけての政策運営について記述することは難しいのではないかとの意見を述べた。

 また、何人かの委員は、量的緩和政策の効果について、それぞれの見解を披瀝した。ある委員は、量的緩和政策は、金融システムの安定確保と共にデフレ克服にも効果があると考えていると述べた。この点について、一人の委員は、確かに、量的緩和政策はデフレ・スパイラルの回避に効果があったと思うが、これは、潤沢な資金供給が金融システム不安によるクレジット・クランチの発生を防ぐことに貢献することを通じて達成されたものと考えていると述べた。また、別の複数の委員は、量的緩和政策は、経済・物価情勢の局面に応じて、その効果の出方には違いがあり、例えば、金融システム不安が後退した段階では、量的緩和政策の「約束」を通じた金利の効果がより強くなると指摘した上で、「約束」の強さと「量」の多寡は関係ないことを明確に説明していくことが大事であるとの認識を示した。

 このほか、ある委員は、展望レポートに関し、日本銀行が重視しているのは経済・物価変動の基本的メカニズムであり、見通し計数はあくまで参考計数であるが、こうした点を丁寧に説明していくことが大事であると述べた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営については、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの意見が大勢を占めた。

 大勢意見に対しては、一人の委員が、金融機関の資金需要が後退していることや巨額の当座預金残高維持のデメリットが相対的に強まっていること等を理由に、量的緩和政策の枠組みは堅持し引き続きデフレからの脱却を図りつつ、当座預金残高目標を減額し、「27〜32兆円程度」とすることが適当であるとの見解を示した。また、別の委員は、資金需要が後退する中で、潤沢な資金供給の景気刺激効果が乏しいこと等を理由に、当座預金残高目標を減額することが適当であると述べた。

 こうした意見に対し、多くの委員は、当面当座預金残高目標の維持は可能とみられること、現在は景気や物価情勢を引き続きしっかりと点検していくべき局面にあること等を理由として挙げ、当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を示した。

 また、多くの委員は、金融市場における資金余剰感が根強いもとでの先行きの金融市場調節のあり方についても意見を述べた。

 一人の委員は、金融市場の状況について、金融機関が必要とする以上の流動性を供給することを通じて金融機関行動に働きかけるという意味での量的緩和政策の効果がより強まってきているとみることができると述べ、特に、景気が踊り場局面にあることを考慮すれば、当座預金残高目標を維持することに積極的な意義があるとの見解を示した。

 何人かの委員は、金融機関の流動性需要は大きく後退しており、今後の情勢次第では、現在の当座預金残高目標を維持することが難しくなる可能性は否定できないと指摘した。一人の委員は、調節運営面での工夫を重ねながら当座預金残高目標を維持してきたが、オペ期間が長期化するなど無理のある運営となっていることに言及した。その上で、これらの委員は、金融システムの安定度合いや、流動性需要の動向、経済・物価情勢を点検した上で、金融市場の実情に合わせて、技術的に何らかの対応が必要ないかどうかは、今後の検討ポイントの一つであると述べた。

 ただ同時に、その場合でも、消費者物価指数に基づく「約束」の3条件を堅持し、この「約束」に従って、所要準備を大きく上回る潤沢な資金供給を続ける、という量的緩和政策の枠組みを続けることは当然である、と付け加えた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、大局的に見れば、景気回復局面にあると認識しているが、一部に上り坂が続く中での微調整ともいえる動きも継続している。こうした中、デフレは依然として継続している。加えて、依然として高水準にある原油価格が経済に与える影響や、株式市場の動向についても十分注視する必要がある。
  •  このような経済状況のもと、デフレから脱却するとともに、民間需要主導の景気回復を持続的なものとするために、最大限の努力を行わなければならない状況に変わりはなく、日本銀行におかれては、現在の量的緩和の政策内容を引き続き堅持していただきたいと考えている。
  •  本日公表の展望レポートにおいて、将来的に、量的緩和政策の枠組みを変更する時期について言及されているが、平成18年度の政府の具体的な経済運営のあり方は現時点で確定しておらず、また、経済・物価の見通しについても、海外経済の動向など、様々な不確定要素がある。
     こうしたことから、変更時期に関する言及は、あくまでも、展望レポートの経済・物価の見通しが実現するという前提に立ったうえでの可能性を示されたものと考えている。
      したがって、今後の金融政策に当っては、内外経済や市場の動向をよく勘案のうえ、デフレ脱却及び民間需要主導の持続的な景気回復を目指した適切な運営を行っていただきたいと考えている。
      また、市場において、今回の展望レポートを契機に、日本銀行の金融政策スタンスに関する憶測が生じ易い状況が発生する惧れがあることから、引き続きデフレ克服に向け金融緩和政策を継続するという断固たるメッセージを市場や国民に伝えていただきたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気の現状については、一部に弱い動きが続いており回復が緩やかになっている。今年度については、政府、日本銀行一体となった取り組みを進めることにより、デフレからの脱却に向けた進展を見込んでいる。また、18年度以降には、概ね名目2%程度、あるいはそれ以上の成長を実現するため、各分野の構造改革をより加速、拡大することとしているところである。
  •  今回の「経済・物価情勢の展望」において、今年度に加え、来年度を対象期間に含められたことは透明性の向上の観点から適切なものと考える。経済・物価情勢の見通しは、今後、緩やかながら持続性のある成長軌道を辿ると展望する一方で、物価の動向を含め様々な下振れ要因が留意点として挙げられることから、デフレ克服が確実になるまで引き続き量的緩和政策の堅持を含め、政府、日本銀行一体となった取り組みを進めていくことが重要だと考える。これまでの当座預金残高目標の引き上げ、維持は、日本銀行からも度々説明があったように、金融システム不安への対応もあるものの、主としてデフレからの早期の脱却を目指したものであると認識している。デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であり、今後とも効果的な資金供給のため、さらに実効性のある金融政策運営を行っていただくよう期待する。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との意見が大勢となった。

 ただし、一人の委員は、当座預金残高目標を現行の「30〜35兆円程度」から「27〜32兆円程度」に引き下げることが適当であり、その旨の議案を提出したいと述べた。別の一人の委員は、議案は提出しないが、当座預金残高目標の引き下げが適当である旨の意見を述べた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 福間委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された。

採決の結果

  • 賛成:福間委員、水野委員
  • 反対:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員

 議長からは、会合における多数意見を取りまとめる形で、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、西村委員
  • 反対:福間委員、水野委員

福間委員は、(1)当座預金残高目標を引き上げてきた大きな要因である金融システム不安に伴う資金需要は後退していること、(2)こうした下での巨額の当座預金残高維持は、市場機能回復の障害となるほか、金融規律の低下を通じて将来的なインフレ・リスクが高まるなど、そのデメリットの方が大きいこと、(3)市場機能の回復には相応の時間を要するため、金融機関の資金ニーズを見極めながら当座預金残高を慎重にゆっくりと減額していく必要があること、(4)「約束」に沿ってゼロ金利を継続することにより、景気回復ひいてはデフレからの脱却をサポートすることは十分可能であること、から反対した。

水野委員は、(1)貸出が伸びない中では、量の景気刺激効果は乏しく、資金需要の減少に対応した多少の量の減額は景気に悪影響を与えないと思われること、(2)金融市場でも量の減額を予測しており、市場に大きな混乱を与えるとはみられないこと、(3)現在の量的緩和政策は機動力がなく、政策の正常化に取り組む必要があること、から反対した。

VI.「経済・物価情勢の展望」の決定

 次に、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、即日公表することとされた。なお、背景説明を含む全文は、5月2日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員、水野委員、西村委員
  • 反対:なし

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(3月15、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、5月9日に公表することとされた。

以上


(別添)
2005年 4月28日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上