このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2004年10月29日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年12月16、17日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年12月22日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年10月29日(9:00〜13:01)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 上田 勇 財務副大臣
  • 内閣府 浜野 潤 政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫(9:17〜13:01)
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(10月12、13日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は30〜34兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ねゼロ%近傍で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、米国株価の下落等を材料に、前回会合以降下落した後、足許はやや回復し、日経平均で11千円を幾分下回る水準で推移している。この間、長期金利は、1.4%台の水準で推移した。

 円の対米ドル相場は、米国景気や経常赤字を巡る懸念等から、やや円高方向の動きとなり、最近では106〜107円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資などの国内民需に支えられて、景気の拡大が続いている。ただし、資本財受注など、景気拡大テンポのスローダウンを示唆する指標もみられている。この間、物価面では、ガソリン価格等の上昇はみられるものの、インフレ率の上昇は総じて緩やかなものに止まっている。

 東アジアをみると、中国は、内外需とも力強い拡大が続いており、固定資産投資は再び伸びを高めている。こうしたもとで、中国人民銀行は、10月28日、9年振りに市中金融機関の貸出・預金基準金利の引上げ措置等を決定した。NIEs、ASEAN諸国・地域では、景気拡大が続いているが、このところ、IT関連財を中心に、輸出、生産の伸びが鈍化している。物価については、多くの国・地域で、原油価格の上昇などを反映して、消費者物価が上昇傾向にある。

 米欧の金融資本市場では、株価、長期金利とも、原油価格の上昇に伴う景気鈍化懸念等を背景に、総じて弱めの動きが続いた。

 エマージング金融市場についても、多くの国・地域で、原油高に伴う景気拡大テンポの減速懸念が強まったことなどから、全体的に軟調に推移した。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、4〜6月に前期比+3.2%と増加した後、7〜9月は同+0.1%とほぼ横這いとなった。地域別にみると、4〜6月まで堅調に増加していた米国向けが、7〜9月は自動車関連や消費財(デジタル家電等)を中心に減少した。また、東アジア向けは、4〜6月に続いて、小幅の伸びに止まった。この間、EU向けは堅調な増加となった。

 中小企業製造業の設備投資について、中小企業金融公庫の調査結果(9月調査)をみると、今年度投資計画は当初計画から大幅に上方修正され、前年比2割を上回る増加となった。

 雇用・所得環境をみると、労働需給を反映する求人関連指標や失業率は、改善傾向を続けている。こうしたもとで、雇用者数は増加傾向にある。賃金の前年比をみると、所定外給与はプラスを続けている。所定内給与は、パート比率の上昇などから一人当たり平均でみた減少傾向がなお続いているが、マイナス幅は徐々に縮小している。

 この間、個人消費は、天候要因(台風)の影響などから、一部にやや弱めの数字がみられるが、消費者心理を示す指標が総じて改善傾向を辿る中で、基調に大きな変化はないとみられる。

 こうしたもとで、生産は、4〜6月に前期比+2.6%の増加となった後、7〜9月は同−0.8%に減少した。業種別には、輸送機械のほか、電子部品が減少している。在庫は、輸送機械での増加もあって、9月は前期比+1.9%となった。もっとも電子部品についてみると、9月は生産が減少する中で出荷が増加したことから、在庫は減少しており、在庫調整が軽度に止まるとの見方と整合的な姿となっている。ただし、調整の深度や期間については、内外の年末商戦の動向にもよるため、その動向は引き続き注意深くみていく必要があると考えられる。

 物価面では、国内企業物価が、内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、引き続き上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)についてみると、9月の全国(除く生鮮食品)は、7〜8月の原油価格上昇を受けた石油製品(ガソリン等)の値上がりが押し上げ方向に働き、前年比0.0%となった。もっとも10月の東京(除く生鮮食品)は、米価格が前年比で下落に転じたことの影響もあって、同−0.3%となった。以上を踏まえると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、引き続き小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。日本銀行の「主要銀行貸出動向アンケート調査」をみると、資金需要判断が過去2回連続で悪化した後、7〜9月期は大幅に改善した。民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き改善している。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドは低位安定しており、良好な発行環境が続いている。

 銀行券発行残高が前年比2%程度の伸びとなっている中、マネタリーベースの伸び率は、引き続き前年比4%台で推移している。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 最近の経済情勢について、委員は、前回会合以降公表された経済指標にやや弱めのものがみられるものの、これらは、(1)海外経済の成長テンポの減速に沿った概ね予想の範囲内の動きとみられること、(2)天候要因(台風)等による一時的な影響もあると考えられること、から基本的には「回復を続けている」という前回会合時の基調判断を変更する必要はないとの認識を共有した。ただ同時に、経済情勢には幾分不透明感が出ており、台風や地震の影響も含め、今後の経済動向を注意深く点検していく必要があることを確認した。

 海外経済については、前回会合以降に公表された経済指標が少ないこともあって、前回会合での見方(「全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつも、着実な拡大を続けていく」)に変化はないとの認識が共有された。

 米国経済に関し、多くの委員は、成長ペースは緩やかになっているが、家計支出や設備投資等に支えられて景気拡大が続いているとの見方を示した。ある委員は、加速度償却措置の終了が予定されているが、年明けの新しい税制面の措置が設備投資の拡大持続に好影響を与える可能性があると付け加えた。この間、複数の委員は、ガソリン価格の上昇等から消費者コンフィデンスがやや低下していることに触れ、年末商戦の動向を含めて今後の個人消費動向が一つの重要な焦点であると述べた。また、別の複数の委員は、最近のドル安傾向が米国経済に与える影響を丁寧に確認していく必要があると指摘した。

 東アジア経済について、何人かの委員は、IT関連財の輸出・生産の減速から韓国や台湾などの景気拡大テンポが幾分鈍化している一方、中国は内外需とも高成長を続けているとの見方を述べた。複数の委員は、中国の固定資産投資が再び高まっている可能性を指摘し、中国人民銀行が実施した金利引上げ措置等の効果を見極めていきたいと述べた。

 こうした海外経済のもとで、わが国の輸出については、多くの委員が、直近の公表データによって改めて増勢の鈍化が確認されるが、これは海外経済の減速を受けたものであり、概ね予想の範囲内の動きとみて良いのではないかとの認識を示した。一人の委員は、需要が強い素材関連で、国内企業への供給を優先させていることも輸出の増勢鈍化に影響していると述べた。

 内需面では、複数の委員が、設備投資は好調な企業収益のもと、業種・企業規模の広がりを伴いつつ増勢を続けていると述べた。ただし、一人の委員は、企業収益について、原油高、素材高、円高から先行きに慎重な見方をする企業も多いため、今後の動向に注意していく必要があると述べた。

 個人消費については、何人かの委員が、一部に弱めの指標も出ているが、天候の影響も大きいとみられるほか、堅調な消費マインドや雇用者所得の下げ止まりを踏まえると、やや強めの動きというこれまでの基調に変化はないとの見方を示した。何人かの委員は、天候や地震の影響が消費マインドにどのように表れてくるのか注意してみていく必要があると付け加えた。

 雇用・所得面では、求人関連指標や失業率など労働需給を反映する諸指標が改善を続けている中で、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も概ね下げ止まりつつあり、雇用者所得は下げ止まっているとの認識が共有された。一人の委員は、雇用者数の増加に加え、一人当たり賃金も、パート比率の上昇テンポが鈍化する中、今後増加に転じる可能性があると述べた。この間、ある委員は、企業の人件費抑制姿勢は根強く、雇用者所得の好転が確認できるまでにはまだ時間がかかるのではないかとの見方を示した。

 生産については、7〜9月の鉱工業生産が前期比−0.8%となったことの評価を巡り議論が行われた。多くの委員は、10〜12月の予測が+1.6%となっていること、7〜9月の減少は、台風等の要因も影響しているとみられることを指摘した上で、海外経済の成長テンポの鈍化やIT関連需要の減速に概ね沿った動きではないかとの見方を示した。その上で、生産は、伸びをやや鈍化させつつも、基調としては増加傾向を続けているとの認識が概ね共有された。

 物価面についても、委員は、これまでの基調に大きな変化はないとの見方で一致した。

 国内企業物価に関しては、多くの委員が、原油をはじめとする内外商品市況高や需給の改善を反映して上昇しており、当面こうした状況が続くとみていると述べた。ある委員は、素材関連の多くの業種が稼働率に余裕がない状況にあることからも、国内企業物価は当面上昇を続けるのではないかと述べた。

 また、消費者物価について、9月の全国(除く生鮮食品)は、石油製品(ガソリン等)の値上がりが影響して前年比0.0%となったが、生産性の向上や人件費の抑制を背景に物価が上昇しにくい傾向は続いており、10月以降は米価格が前年比で下落に転じるとみられることもあって、小幅の下落基調が続くとの見方を共有した。一人の委員は、為替がやや円高気味であることも物価の小幅下落に影響しているとの認識を示した。

 今後の内外経済・物価情勢を確認していく上で注目しておくべき点として、多くの委員が、原油高の影響、IT関連需要の動向と、台風や地震の影響について言及した。

 原油高の影響について、何人かの委員は、わが国の原油輸入に占めるウェイトが高い中重質油の価格が相対的に低い水準にあることや、わが国のエネルギー効率の高さも踏まえると、わが国経済への直接的な影響は相対的に大きくないと考えられると指摘した上で、エネルギー多消費国の実質購買力低下等を通じて、海外経済が減速することによる間接的な影響に留意する必要があると述べた。ある委員は、原油価格の高騰は物価面へのインフレ圧力であると共に、実体経済には下押し圧力となる点に注意が必要であり、特に内外の金融市場では後者の影響が大きいとみている可能性があると述べた。この間、一人の委員は、原油価格の高騰は世界経済の拡大という需要面の強さを反映しており、原油高により世界経済が幾分減速すれば、価格が低下するというメカニズムが働くのではないかとの見方を示した。

 IT関連需要に関し、委員は、世界的なIT関連需要の減速で、わが国のIT産業も生産・在庫調整に入っていることに言及した。多くの委員は、(1)早めに在庫調整を開始していること等から深い調整に入る可能性は小さいこと、(2)素材産業の在庫が減少している等、鉱工業全体でみた在庫は横這い圏内にあること、から全体としては大きな調整には至らないとの見方を示した。何人かの委員は、9月の数字をみると、電子部品の減産・出荷増の中で在庫が減少していることや、内外のIT関連企業の決算が総じて好調であり、これら企業の株価が堅調であることを踏まえると、在庫調整が軽度に止まる可能性がより高まったとみていると述べた。

 複数の委員は、天候や地震について、実体経済面では生産や公共投資・建設需要等に、増加と減少の両方の影響が出る可能性があること、物価面では野菜等の値上がりがみられる他、10月以降の米価格への影響等が考えられると述べ、今後の影響の有無や程度は丹念にみていく必要があるとの認識を示した。

2.金融面の動向

 短期金融市場について、何人かの委員は、引き続き安定しているとの見方を示した。ある委員は、ペイオフ解禁を控えた年度末越え金利が低下していることについて、金融システムに対する不安感の後退を表しているとの解釈も聞かれるが、実際には量的緩和政策の時間軸に対する見方がやや強固になっている可能性もあると述べた。

 最近の金融資本市場については、ひとりの委員が長期金利は総じて落着いて推移している一方、株価は米国株価の下落等を材料に一旦下落した後、再び持ち直すといったやや振れのある動きとなっていると指摘した。別の委員は、企業業績対比で株価の上値が重いことがやや気掛かりであると述べた。

 為替市場について、何人かの委員は、経常赤字を巡る懸念等から、最近はややドル安傾向で推移していることに言及した。今のところ市場の振れの範囲内とみられ、円の実質実効レートも安定的に推移しているが、短期的な振れであってもその程度や方向によっては経済活動に対して様々な影響を及ぼす可能性があるため、今後の動向をしっかりと見極めていく必要があると述べた。ある委員は、ドルは他のアジア通貨やユーロに対しても下落傾向にある等、ほぼ全面安の状況であることからも、その動向には注意を払っていく必要があると付け加えた。

3.経済・物価情勢の展望

 経済・物価情勢の先行き見通しについて、委員は、「景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくと考えられる」との見方を共有した。

 こうした見方の背景として、多くの委員は、原油価格の高騰やIT関連需要の減速を受けて、世界経済の成長のスピードは幾分鈍化するとみておくべきと指摘した上で、米国における企業部門の好調や中国の高成長を踏まえると、メインシナリオとしては、世界経済の拡大持続が期待できることを挙げた。

 加えて、多くの委員は、(1)企業の過剰投資・過剰債務・過剰雇用や金融システムの脆弱性といった、これまで経済の回復を遅らせてきた構造的な要因の調整がかなり進んでいること、(2)調整の成果に支えられて、「前向きの循環」──輸出・生産の増加が企業収益の好転や設備投資の拡大を促し、これが雇用・所得面の回復を通じて家計にも波及するという流れ──が維持されると想定できること、を指摘した。複数の委員は、設備投資の好調さが中小企業にも波及している点や、非製造業向けの設備投資新規貸出が増加している点は、景気回復の持続性を支える材料の一つと指摘した。ある委員は、多少の循環要因で景気が減速しても、国内要因から景気が腰折れする可能性は小さく、息の長い成長が期待できるのではないかと述べた。

 この間、ある委員は、IT関連の調整は軽度に止まるとみられるが、輸出・設備投資や生産への影響は当面続く可能性があることを指摘した。

 物価面では、国内企業物価について、原油をはじめとする内外商品価格の上昇や素材等の需給引締まり等を反映して上昇を続ける可能性が高いが、2005年度は上昇テンポが緩やかになるとの認識で一致した。

 消費者物価に関し、委員は、生産性の向上や企業の人件費抑制姿勢が根強いことから、基本的には景気回復に物価が反応し難い姿が続くとの見方を共有した。ある委員は、物価に対する人々の見方が引き続き落着いている点も、景気と物価の乖離の背景の一つであると付け加えた。その上で、多くの委員は、景気が回復を続け、需給バランスの緩やかな改善が続く中で、2005年度は、前年比小幅のプラスとみるのが中心的な想定ではないかと述べた。この間、何人かの委員は、物価の先行きについては、原油価格の動向に加え、生産性の伸びが今後どうなるか、企業の人件費抑制の動きがどの程度持続するか、という予想し難い要因に依存する面が強いため、不確実性が高いと指摘した。

 上振れ・下振れ要因として、多くの委員は、(1)海外経済、特に米国経済の減速の程度・期間や、(2)今後の原油価格、IT関連需要の動向が世界景気やわが国経済に与える影響、(3)年金等の家計負担増加が見込まれるもと、企業の人件費抑制姿勢の強さ次第で雇用者所得や個人消費が下振れる可能性があること等を指摘した。

 複数の委員は、金融システム面の問題については、2005年度からのペイオフ解禁を控え、引き続き注意していく必要があるが、不良債権問題への対応は、相当程度進捗しており、企業金融面を通じて実体経済に悪影響を及ぼす惧れは小さくなっていると指摘した。また、何人かの委員は、米国の「双子の赤字」等を巡って海外金融・為替市場に変動が生じた場合の世界経済への影響についても、引き続き注意してみていく必要がある、と付け加えた。

 金融政策運営に関しては、大方の委員が、2005年度の消費者物価指数前年比が小幅プラスとなる見通しを示すことにより、金融政策運営に関する市場の関心が一段と高まることが予想されるため、政策の透明性を確保する観点から、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方について、丁寧に説明していく必要があると指摘した。

 これに関し、ある委員は、量的緩和政策継続の第2の条件について、「ゼロ%を超える」という基準より高めの数値を示してはどうかと述べた。別の委員は、第2条件の明確化ないしは中長期的に達成すべき望ましい物価上昇率を示してはどうかと述べた。

 さらに、同じ委員は、量的緩和政策を解除する際の金融市場調節の基本的なスタンスとして、当座預金残高縮小のテンポや国債買入オペを含めた各種調節手段の発動の仕方に関する基本的な考え方を示すことも考えられるのではないかと付け加えた。

 こうした金融市場調節の基本的なスタンスを含め、今回の展望レポートにどのような記述をすることが適当かを巡り、委員の間で議論が行われた。

 多くの委員は、(1)今回の見通しのもとでは、2005年度において金融政策の枠組みを変更するか否かは明らかではないこと、(2)今後の経済・物価情勢に応じて適切かつ機動的に政策対応すると共に、景気回復に物価が反応し難い姿が続くのであれば余裕をもって対応を進められる可能性が高いこと、(3)今後の政策運営に当たっては、異例の金融緩和の状態から脱していく過程で、市場の予想が不安定になるリスクを念頭に置き、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考となる基本的な判断材料を提供していくことを、今回の展望レポートにおいて明確に示していくことが適切かつ十分なのではないかとの意見を述べ、当面はそうした対応が適当であるとの認識が委員の間で共有された。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢の判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 ある委員は、少なくとも来春にペイオフ解禁が完全に実施されるまでは、金融市場や金融システム面の動向を注意深くみていく必要があると述べた。

 別の委員は、先行きの政策運営との関連で、景気回復に物価が反応し難い姿が続くもとで、何らかの歪みが経済に蓄積していくことはないのか、それがどのような形で表れるのか、そうしたもとで金融政策をどのように運営していくのか、といった点は、長い目でみた課題として考えておく必要があると述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  本日公表の展望レポートは、日本銀行が平成17年度の経済・物価に対する見通しを初めて示す機会であり、特に消費者物価の見通しについては、量的緩和政策継続のコミットメントとの関係で市場の注目を浴びている。
  •  こうした中、日本銀行が平成17年度の消費者物価指数がゼロ%以上になるとの見通しを示した場合においては、これにより量的緩和政策が早期に解除されるとの憶測が生じ、市場が不安定化することが懸念される。これを未然に防止するために、まず足許のデフレが継続する中では、例え今回の展望レポートにおいて先行きの消費者物価指数についてゼロ%以上の見通しを出したとしても、これが直接量的緩和政策解除の条件を満たすものにはならないということを、市場に明確に説明するとともに、量的緩和政策継続の方針を堅持する姿勢を一層明確にして頂きたいと考えている。
  •   また、引き続き市場動向を十分に注視し、今回の展望レポートを契機に、市場が不安定化する惧れがある場合には、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  •  なお、緩和的な金融環境の継続に関する期待を維持し、景気回復を持続的なものとするため、これまでも申し上げているとおり、今後、どのような新たな工夫を講じることができるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は堅調に回復している。一方、原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要がある。物価については、景気の着実な回復により需給ギャップが縮小する一方、銀行貸出の低迷等からマネーサプライの伸びが低い中で原油など素材価格の上昇により国内企業物価は上昇しているが、物価動向を総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。従って、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。このため政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を具体化し、本格的かつ迅速な構造改革に取り組んでいる。
  •  今回の経済・物価情勢の展望では、先行き景気は回復を続け、持続的成長とデフレ克服の可能性が高まっていくと展望されているが、一方で、消費者物価については当面上昇しにくい状況が続くとの見解を示されている。こうしたもとで、日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、デフレの克服には結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であり、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたいと考える。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待している。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.「経済・物価情勢の展望」の決定

 次に、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、採決に付された。採決の結果、全員一致で決定され、即日公表することとされた。なお、背景説明を含む全文は、11月1日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

以上


(別添)
2004年10月29日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上