このページの本文へ移動

金融政策決定会合議事要旨

(2004年10月12、13日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年11月17、18日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年11月24日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年10月12日(14:00〜15:51)
10月13日( 9:00〜11:56)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(12日)
    上田 勇  財務副大臣(13日)
  • 内閣府 浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役加藤 毅
  • 企画局企画役神山一成

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(9月8、9日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、中間期末日に当たる9月30日を含め、当座預金残高は32兆円〜35兆円程度で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.005%となった9月30日を除き、概ね0.001%で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、経済指標の予想比下振れや原油高等による米国株価の反落を受けて、9月下旬にかけて下落したが、その後、米国株価の反発や9月短観の結果を材料に上昇に転じ、足許は、日経平均で、前回会合時とほぼ同じ水準となる11千円台前半で推移している。

 長期金利は、景気回復に対する慎重な見方が強まったことを背景に、一旦1.4%近傍まで低下した後、株価の反発や9月短観の結果を受けて幾分上昇しており、足許では、1.4%台後半での動きとなっている。

 為替市場では、9月下旬以降の原油価格高騰を眺め、10月初にかけて対ユーロ等での円売りがやや優勢となったが、その後、米国の雇用統計が予想比下振れたことを受けてドル安に転じ、円の対ドル相場は、前回会合直前の水準と同じ109円台で推移している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、家計支出や設備投資などの国内民需に支えられて、景気の拡大が続いている。ただし、雇用者数や資本財受注など、景気拡大テンポのスローダウンを示す指標もみられている。当面は、景気拡大が持続する可能性が高いが、原油価格が引き続き高水準で推移していることもあり、今後の動向については、注意深くみていく必要がある。

 ユーロエリアでは、景気の回復が続いている。ただ、輸出の増勢が幾分頭打ちとなっていることもあって、企業コンフィデンスの持ち直しは一服している。

 東アジアをみると、中国は、内外需ともに力強い拡大が続いており、固定資産投資の年初来累計の前年比は、政策当局が景気過熱抑制策を講じているもとにあっても、引き続き高い伸びとなっている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、景気拡大が続いているが、このところ、IT関連財を中心に、輸出、生産の伸びが鈍化している。この間、物価面では、中国を含め、多くの国・地域で、景気拡大や原油価格の上昇などを反映して、消費者物価が上昇傾向にある。

 米欧の金融資本市場では、株価、長期金利とも、原油価格の上昇などを受けて、このところ幾分弱めの動きとなっている。

 エマージング金融資本市場では、多くの国・地域で、株価が堅調に推移し、対米国債スプレッドが縮小するという動きが続いている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、このところやや伸びが鈍化しつつも、海外経済が拡大を続けるもとで増加傾向を続けている。地域別にみると、4〜6月まで堅調に伸びていた米国向けが、7〜8月は自動車関連や消費財(デジタル家電等)等を中心に減少した。また、東アジア向けは、4〜6月に続いて、小幅の伸びにとどまった。このうち、中国向けの減速については、同国における景気過熱抑制策が影響している面があるとみられる。

 設備投資は、増加を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は、4〜6月に続いて7〜8月も堅調な増加を続けた。9月短観で、設備投資を取り巻く環境を確認すると、企業収益が増加を続けているほか、企業の業況感も着実な改善を続けている。そうしたもとで、2004年度の設備投資計画は、中小企業を中心に、順調に上方修正されている。この間、先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)は、4〜6月に大幅に増加した後、その反動が出るかたちで7〜8月は減少したが、もう一つの先行指標である建築着工床面積(民間非居住用)については、このところ増加傾向が明確となっている。

 雇用・所得環境をみると、労働需給を反映する求人関連指標や失業率は振れを伴いつつも改善傾向を続けており、雇用者数は増加傾向にある。賃金については、パート比率の上昇などから、一人当たり平均でみた減少傾向がなお続いているが、そのマイナス幅は徐々に縮小している。以上の結果、毎月勤労統計でみた雇用者所得は、下げ止まってきている。

 この間、個人消費は、やや強めの動きを続けている。また、消費者心理を示す指標は、総じて改善傾向を辿っている。

 生産は、4〜6月に前期比+2.6%の増加となった後、7、8月とほぼ横ばいの動きが続いており、7〜9月を通してみても、4〜6月対比横ばい圏内の動きにとどまる見込みである。在庫は、電子部品で増加する一方、その他生産財や建設財で減少しており、全体としては横ばい圏内の動きが続いている。このため、在庫循環図をみると、1〜3月以降、ほとんど動きがみられていない。電子部品の在庫調整については、デジタル家電市場の成長トレンドが続くとみられることや、メーカーが早めに生産ペースを落としていることなどから、軽度の調整にとどまるとの見方が多い。ただし、具体的な調整の深度や期間については、内外の年末商戦の動向にもよるため、その動向は注意深くみていく必要があると考えられる。

 物価動向をみると、国内企業物価は、内外商品市況高や需給環境の改善を反映して、引き続き上昇している。一方、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスが続いている。8月(全国)は、7月に続き、前年比−0.2%となった。消費者物価の先行きについては、7〜8月の原油価格上昇を受けた石油製品(ガソリン等)の値上がりが押し上げ方向に働く一方、10月以降米価格が前年比で下落に転じると見込まれることから、全体としてみると、引き続き前年比小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。また、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、民間銀行貸出の減少幅の縮小が基調として続いている。この間、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き緩和している。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドが低位安定しており、良好な発行環境が続いている。このため、CP・社債の発行残高は、引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、銀行券発行残高の伸びが金融システムに対する不安感の後退などから一頃に比べ低い伸びを続ける中で、前年比4%台で推移している。この間、マネーサプライ(M2+CD)は、前年比2%程度の伸びとなっている。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 足許の経済情勢について、委員は、輸出の伸び鈍化が引き続き生産面等に影響を及ぼしているが、(1)9月短観において、素材や機械をはじめ、幅広い業種で業況感の改善がみられ、前向きの循環が引き続き働いていることが確認された、(2)個人消費指標は引き続き強めの動きであり、消費者心理を示す指標も改善を続けている、などの点を指摘した上で、景気は回復を続けているとの認識を共有した。先行きについても、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとの見方が共有された。

 海外経済に関して、委員は、世界経済を全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつも、着実な拡大を続けていくとの見方を共有した。

 まず、米国経済について、委員は、成長ペースが緩やかになっているが、景気拡大は続いているとの認識を共有した。複数の委員は、9月の雇用統計が弱めであったことなどにみられるように、経済の成長ペースは一頃に比べ鈍化しているが、個人消費などの減速は当初懸念していたほどではないと指摘した。この点に関連し、多くの委員が、金融市場でも、一頃みられたような悲観的な見方が後退しているように見受けられると述べた。この間、複数の委員は、足許における景気の減速度合いは思っていたほどではないが、原油高の影響については、引き続き注意が必要であると述べた。また、ある委員は、金利為替動向やその内外金融経済に与える影響などにも留意が必要であるとした。

 東アジア経済について、委員は、韓国や台湾などではIT関連財の輸出・生産の落ち込みから成長率が一頃に比べて幾分鈍化している一方、中国では内外需とも力強い拡大基調にあり、全体としては、景気拡大が続いているとの見方を共有した。何人かの委員は、中国の固定資産投資は引き続き高い伸びを示しており、行政指導的な手法による過熱抑制策が十分な効果を持つのか、あるいは何らかのマクロ的な対応が採られるのか、なお見極めが必要であると述べた。一人の委員は、アジアにおいて原油高の経済への影響がそれほど顕現化していない点について、価格統制の存在が何がしか影響しており、補助金の増加により、現地政府の財政赤字が拡大している可能性があるのではないかとコメントした。

 欧州経済については、景気回復が続いているが、そのテンポは引き続き弱いとの認識が共有された。

 こうしたもとで、わが国の輸出は先行きも増加傾向を続けるとの見方が共有された。複数の委員は、足許の輸出がそれほど減速していない理由として、原油高により実質購買力が高まっている産油国への輸出が寄与している可能性があると述べた。別の委員は、フル生産の続く鉄鋼については、内需が一段と拡大しているため、輸出は数量ベースで伸びが鈍化する可能性があると指摘した。

 内需面では、設備投資について、多くの委員は、2004年度の設備投資計画が9月短観においてさらに上方修正されたことを指摘し、設備投資の増勢は、業種・企業規模の広がりを伴いつつ、力強さを増していると述べた。複数の委員は、能力増強投資に踏み切るなど、攻めの経営に転じる企業が増えてきているように窺われるとの見方を示した。先行きについても、委員は増加を続けるとの認識を共有した。一人の委員は、これまで高い伸びを続けてきた機械受注がここにきて弱くなっていることを挙げ、設備投資の持続性に全く不安がない訳ではないとしたが、その委員を含め、複数の委員は、地価下落の効果もあって不動産取引が活発化し、建築着工床面積が大幅に増加するなど、非製造業の設備投資への波及がみられ始めており、設備投資の増勢持続は十分に展望できるとの見方を示した。そのうち一人の委員は、これが建設循環の本格的上昇を意味するのであれば、設備投資の増勢はかなり息の長いものとなる可能性もあると述べた。

 生産について、多くの委員は、7〜9月の鉱工業生産指数は、一時的に横ばい圏内の動きにとどまる見込みであるが、10〜12月は、内外需要の回復を背景に再び増勢を取り戻すとの見方を示した。その上で、基調判断として、生産は増加傾向を続けているとの認識が概ね共有された。一人の委員は、世界的なIT関連需要の減速が輸出・生産に影響しているが、素材を中心とする他の業種は好調を持続しており、全体としては増勢が維持されているとの見方を示した。この点に関し、一人の委員は、素材関連の多くの業種では、既に稼働率の余裕が乏しいため、今後は生産が大幅に増加することは難しいと指摘した。一人の委員は、非製造業を合わせた企業部門全体の活動が踊り場的局面を迎えている可能性もないとは言えないとコメントした。

 個人消費について、委員は、やや強めの動きが続いているとの見方を共有した。そうした動きを下支えする要因として、何人かの委員は、消費者コンフィデンスの改善傾向を指摘した。この間、ある委員は、こうした消費者コンフィデンスの動きについて、大きな改善の材料は既に出尽くしており、更なる目立った改善は期待できない面があると指摘した。

 雇用・所得面では、委員は、求人関連指標や失業率、短観の雇用判断DIなど労働需給を反映する諸指標が改善を続けている中で、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も概ね下げ止まりつつあり、雇用者所得は下げ止まってきているとの認識を共有した。ある委員は、企業収益の増加が雇用者所得に与える好影響は今後明確になり、いずれかの時点で、個人消費の強めの動きが雇用者所得の裏付けを伴ったものとなるとの見方を示した。別の委員は、パート比率の上昇テンポがこのところ鈍化しており、今後一人当たり賃金が増加に転じてくるのではないかとの見方を示した。パート比率の動きについて、さらに別の委員は、現時点で上昇テンポが鈍化しているとまでの判断は難しいとした。

 内外経済の先行きとの関連で注目すべき点として、まず、原油価格の動向とその実体経済への影響が議論された。現在の原油価格高騰の背景として、複数の委員は、世界景気の拡大という需要面の要因に加え、米国のハリケーンの影響等もあって、供給面でそうした景気拡大に見合うだけのエネルギー供給が実現できるかどうかについての懸念があると整理した。わが国経済・物価に与える直接的な影響については、何人かの委員は、(1)エネルギー効率が高まっており、原油原単位(実質GDP1単位当たりの原油消費量)は第一次オイルショック時に比べてかなり小さくなっていること、(2)輸入原油のうち、足許の価格が大きく上昇しているWTIや北海ブレントに代表される軽質油の比率は高くなく、このため、通関原油価格はそれほど上昇していないこと、などから、比較的小さいものにとどまるとの見方を示した。その一方で、多くの委員は、さらに原油価格が上昇した場合、エネルギー多消費の国を中心に、実質購買力の毀損や企業収益の圧迫等を通じて、海外経済の先行き見通しが下振れる可能性があり、そうした海外経済の下振れに伴う間接的な影響については、引き続き注意が必要であると指摘した。ある委員は、原油をはじめ一次産品価格の需要の強さを踏まえると、原油価格がさらに上昇するリスクは小さくないとの見方を示した。また、別の委員は、実体経済の調整が懸念される場合には、為替レートが大きく変動する可能性もあり、そうした面からも今後の動きを注意深く見守っていく必要があるとした。さらに、ある委員は、東アジア諸国の消費者物価は、原油価格の上昇が波及するかたちで、コア指数でみてもやや強含んできており、今後の懸念材料であるとした。

 次に、IT関連財を巡る動向について、何人かの委員は、世界的なIT関連需要は、このところ伸びがやや鈍化しているが、デジタル家電や自動車用電子部品にまで、需要の裾野が従来よりも広がっていることから、大きく落ち込む可能性は低いと述べた。また、このところの国内のIT関連財の在庫調整の動きについて、多くの委員は、調整開始が早めであったこともあり、取りあえずは軽度の調整にとどまる可能性が高いとの見方を示した。この点に関連して、ある委員は、米国ナスダック株価指数の持ち直しなど、市場の先行きに対する見方も一頃に比べて幾分改善していると付け加えた。一方、複数の委員は、IT関連財の動向に関しては、予測が難しい面もあり、思わぬかたちで大きな調整に至るリスクは否定できないため、クリスマス商戦の動向など、今後の動きについては注意してみていく必要があると述べた。

 物価面に関して、委員は、国内企業物価は内外商品市況高や需給の改善を反映して上昇している一方で、消費者物価は小幅の下落が続いており、基調に大きな変化はみられていないとの見方で一致した。消費者物価が上昇に転じていない背景として、多くの委員は、(1)マクロの需給環境は改善方向にあるがなお緩和した状況にあること、(2)原材料価格の上昇を企業段階でのユニット・レーバー・コストの低下が吸収していること、(3)企業の価格支配力が引き続き弱いこと等の要因を指摘した。消費者物価の先行きについて、委員は、当面ガソリン価格の引き上げが押し上げ要因として働く一方で、先行き米価格が前年比を押し下げると見込まれるため、全体としては、引き続き前年比小幅のマイナスで推移する可能性が高いとの見方を共有した。一人の委員は、計測次第で需給ギャップはプラスの値をとり得るようになっていることから、マクロの需給環境が今後も引き続き緩和した状態にあると言えるかどうかは、一定の留保が必要であるとコメントした。また、複数の委員は、景気回復が続くもとで、原材料価格の転嫁の動きが川中段階まで広がってきているだけに、企業の価格設定スタンスに変化が生じていないかどうか、引き続き注意は怠れないと述べた。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、金融市場では総じて大きな動きがないという認識が共有された。何人かの委員は、前回決定会合以降の株価と長期金利の動きについて意見を述べた。

 一人の委員は、原油価格の動きや短観の結果等を材料に、内外景気の先行きに対する見方が変化する中で、株価や長期金利が一高一低を示したが、全体としては、引き続き、相場の動きは方向感に乏しいとの見方を示した。

 複数の委員は、原油価格の高騰等の悪材料にもかかわらず、株価は世界的に比較的堅調な動きを続けていると指摘した。別の委員は、グローバルな金融緩和が株価や商品市況などを下支えしている可能性もあるとコメントした。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 当面の金融市場調節に関して、複数の委員は、量的緩和開始後初めて「なお書き」を発動しないまま半期末越えを迎えるなど、金融市場はきわめて落ち着いた推移を辿っていると評価した。そのうち一人の委員は、こうした状況では、金融機関の当座預金に対する需要が減退しがちであるため、当座預金残高目標の達成は必ずしも容易でないと指摘し、引き続ききめ細かい調節に配慮する必要があると付言した。他の一人の委員は、現在のように金融システムに対する不安感が後退しているもとでは、現行の当座預金残高目標を維持するとともに、市場機能復活の芽を摘まないという観点も必要ではないかと述べた。これに対し、別の委員は、当座預金残高目標の達成と同時に市場機能の回復の芽を摘まないということは、大変難しい要請であるとした。さらに別の委員は、少なくともペイオフが完全に実施されるまでは、金融市場の動きを注意深くみていく必要があるとの考えを述べた。

 複数の委員は、次回の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示される2005年度の消費者物価見通しに市場参加者の関心が改めて集まりつつあることに言及し、見通し計数などに過剰な反応がみられる可能性もあるので、引き続き、市場の動向を丁寧に確認していくとともに、日本銀行としての経済・物価情勢の見方や政策運営についての考え方を市場に対して分かり易く示していくことが重要である、との考えを述べた。

 この間、一人の委員は、将来のいずれかの時点では、日本銀行当座預金残高を金融市場調節の主たる操作目標とする現在の金融政策の枠組みから移行することになるので、移行のイメージについて十分に議論しておくことが必要ではないかとの意見を述べた。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  わが国経済の現状をみると、先日公表された日銀短観においても業況判断の改善がみられるなど、景気は堅調に回復しているが、原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向には引き続き留意する必要がある。
  •  特に原油価格の上昇については、世界経済に対するリスクとして、G7においても議論を行い、価格の緩和を確保するために、適切な供給を続けることを産油国に対し要請するとともに、消費国側もエネルギー効率性を向上させることが重要であること等について、意見の一致をみたところである。
  •  こうした中、デフレは依然として継続していることから、日銀におかれては引き続き量的緩和政策堅持の姿勢を明確にして頂きたいと考えている。なお、金融政策の先行きへの関心が強まっている中、引き続き市場動向を十分に注視し、現在の金融市場調節方針でも述べられているとおり、市場が不安定化するおそれがある場合には、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  •  また、緩和的な金融環境の継続に関する期待を維持し、景気回復を持続的なものとするため、これまでも申し上げているとおり、今後、どのような新たな工夫を講じることができるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は堅調に回復している。一方、原油価格の動向が内外経済に与える影響や世界経済の動向等には留意する必要があると考えている。物価動向を総合的に勘案すると、デフレ克服は道半ばの状況にある。従って、日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することと民需主導の持続的な成長を図ることである。
  •  このため政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」を早期に具体化することとしており、本格的かつ迅速な構造改革に取り組んでいくため、現在、経済財政諮問会議において、郵政民営化、社会保障制度改革、三位一体改革、歳出歳入の一体的見直し、持続的成長に向けた取り組み等について改革の道筋を明らかにしていくこととしている。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、デフレの克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であり、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。また、景気の堅調な回復に伴い、金利の動向が注目を集めていることにも鑑み、日本銀行におかれては専門的な立場からの検討を進めて頂き、デフレ克服までの道筋を含め金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めて頂きたいと考えている。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(10月13日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は10月14日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前回会合(9月8、9日)の議事要旨が全員一致で承認され、10月18日に公表することとされた。

以上


(別添)
2004年10月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上