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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 8月 9、10日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年9月8、9日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 9月14日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年8月9日(14:00〜15:58)
8月10日( 8:59〜11:38)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 石井 道遠 大臣官房総括審議官(9日)
    石井 啓一 財務副大臣(10日)
  • 内閣府 加藤 裕己 大臣官房審議官(経済財政分析担当)(9日)
    浜野 潤  政策統括官(経済財政運営担当)(10日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画局長山口廣秀
  • 企画局審議役前原康宏
  • 企画局企画役内田眞一
  • 企画局企画役山岡浩巳
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一
  • 政策委員会室企画役村上憲司
  • 企画局企画役齋藤克仁
  • 企画局企画役正木一博

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(7月12、13日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は31〜33兆円台で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、7月14日、21日に小幅のマイナスとなった以外は、概ね0.001〜0.002%で推移した。ターム物レートも、引き続き低位で安定的に推移している。

 株価は、米国株価がIT関連セクターを中心に下落したことを受けて、総じて軟調に推移しており、足許では日経平均で11千円を下回る水準まで低下している。

 長期金利は、7月中は、株価の軟調にもかかわらず、景気回復期待を背景に強地合いで推移したが、8月入り後は、株価が一段と下落したことなどを受けて、大幅に低下している。この間、社債流通利回りの対国債スプレッドは、概ね横這い圏内での動きとなっている。

 為替市場では、米国経済の先行きに対する強気の見方を背景に、7月下旬にかけて一時ドル買戻しの動きがみられたものの、その後は、米国のGDPや雇用統計が予想比下振れしたことを受けてドル安に転じており、円の対ドル相場は110円台前半まで上昇している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は、設備投資や家計支出が増加しているほか、企業収益も大幅増加となっているなど、前向きの循環に支えられて拡大を続けている。もっとも、4〜6月の実質GDP(速報値)は年率+3.0%となり、個人消費を中心に、1〜3月(同+4.5%)に比べて減速した。また、実質個人消費(6月)や雇用統計(7月)も事前の予想を下回るなど、足許の指標はやや弱めのものが目立っている。米国経済の動向については、原油価格上昇の影響も含め、注意深くみていく必要がある。

 ユーロエリアでは、景気の回復感がやや強まっている。すなわち、輸出や鉱工業生産など製造業を中心に明るさがみられているほか、家計部門の支出についても、全体としてみれば幾分持ち直している。もっとも、企業の投資意欲や雇用環境には改善の兆しはみられておらず、景気回復のモメンタムはなお弱いものに止まっている。

 東アジアでは、増勢はやや鈍っているものの、景気が順調に拡大している。中国では、内外需ともに力強い拡大基調にあるが、固定資産投資は、政策当局の抑制策強化の効果が現れており、高水準ながらも増勢が鈍化している。物価面をみると、食料品の値上がりから、消費者物価指数の前年比上昇率は高まっている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、多くの国・地域で、輸出が増加基調を維持している。生産も、先進国やアジア域内の需要の堅調を反映して、IT関連財を中心に増加傾向を辿っている。物価面では、ほとんどの国・地域で、景気拡大や原油・食料品価格の上昇などを反映して、消費者物価指数の前年比が着実に上昇している。

 米欧の金融資本市場では、7月半ば以降、米国株価が軟調に推移している。その理由としては、利上げに伴う不透明感の拡大に加え、米国経済の先行きに対する見方の変化も影響しているとみられる。米国の政策金利については、8月のFOMCでの利上げはほぼ織込まれているものの、9月以降については、利上げテンポは従前の予想ほどは速くないとの見方が強まりつつある。こうしたもとで、足許、長期金利は低下している。

 エマージング金融資本市場では、株価や対米国債スプレッドは、アルゼンチンやロシアなど一部の国を除き、概ね横這い圏内で推移している。もっとも、依然として各国独自の要因で大きな変動が生じやすい状況にある。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出は、米国や東アジアを中心とする海外経済の拡大を背景に、1〜3月に前期比+4.1%と大幅に増加した後、4〜6月も+3.3%と堅調な増加を続けている。地域別にみると、米国向けが緩やかな増加を続けている一方、東アジア向けはこれまで大幅な増加が続いた反動もあって、4〜6月はほぼ横這いの動きとなった。このうち、中国向けの減速については、同国における景気過熱抑制策が何がしか影響している可能性もある。

 設備投資は増加を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は、1〜3月に幾分減速した後、4〜6月は前期比+5.6%と再び高い伸びを示した。先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)は、1〜3月に−5.6%の減少となった後、4〜6月は+10.3%と製造業を中心に大幅に増加した。

 この間、日本政策投資銀行の調査によると、本年度の設備投資計画は、製造業で前年度比2桁の増加、非製造業でも小幅の増加となるなど、先般公表された6月短観と同様、設備投資の強さを裏付けるものとなった。

 雇用・所得環境をみると、求人関連指標は改善傾向を続けている。こうしたもとで、労働力調査の雇用者数は増加傾向にあり、毎月勤労統計の常用労働者数も増加に転じてきている。失業率も引き続き低下傾向にある。この間、賃金については、パート比率の上昇などから、一人当たり平均でみると減少傾向が続いているが、そのマイナス幅は徐々に縮小している。なお、6月の特別給与の落ち込みについては、大幅増となった前年の反動という面が大きく、夏季賞与の実勢を評価するには7〜8月の動きをみる必要がある。

 個人消費をみると、財に関する販売統計は、家電販売やコンビニエンス・ストア売上高などを除き、総じて冴えない一方で、旅行取扱額や外食売上高などのサービス支出は堅調に推移している。この間、家計調査は、サンプル要因から実勢をやや過大評価している可能性もあるが、4〜6月でみると高い伸びとなった。

 こうしたもとで、生産は、1〜3月に前期比+0.5%と減速した後、4〜6月は+2.6%と再び伸びを高めた。在庫は、全体として横這い圏内で推移しているが、電子部品では在庫積み増しの動きが明確化している。この分野では、好調な内外需要からみて直ちに在庫調整圧力が高まるとは考えにくいが、供給能力の増強がさらに進んでいる中で、携帯電話など一部の商品では強気の販売見込みに対して販売実績が下振れるケースもみられている。このため、電子部品関連の需給バランスについては、当面、注意深くみていく必要がある。

 物価動向をみると、国内企業物価は上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)は、6月(全国)は前年比−0.1%と、前月(同−0.3%)と比べて下落幅が縮小した。これは、主としてガソリン等の石油製品価格の上昇によるものである。こうした原油高の影響を除けば、物価を巡る環境に大きな変化はみられない。先行き、原油価格の上昇が消費者物価をさらに押し上げる方向に働く可能性はあるものの、消費者物価の前年比は、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想される。

(2)金融環境

 民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資の増加が続くなど企業活動が上向いていることから、減少テンポが幾分緩やかになってきている。また、民間銀行の貸出姿勢は緩和してきており、企業からみた金融機関の貸出態度も、中小企業を含め、引き続き明確に改善している。こうしたもとで、民間銀行貸出は、減少幅の縮小が基調として続いている。

 資本市場調達については、CP・社債とも信用スプレッドは低位安定しており、良好な発行環境が続いている。こうしたもとで、CP・社債の発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 マネタリーベースの伸び率は、銀行券発行残高の伸びが金融システムに対する不安感の後退などから低下傾向を続ける中で、前年比4%台で推移している。この間、マネーサプライ(M2+CD)は、7月は前年比+1.9%の伸びとなった。

II.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、前回の会合以降明らかになった経済指標等をみると、景気判断に基本的な変化はなく、景気は回復を続けているとの認識を共有した。

 先行きについても、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとの見方が共有された。

 この間、多くの委員は、原油価格が上昇を続けていることを指摘し、原油価格の動向と、これが内外経済に与える影響については留意する必要がある、との見方を示した。

 海外経済に関して、多くの委員は、米国や中国を中心に世界経済が全体として拡大を続けているとの認識を示した。

 まず、米国経済について、委員は、設備投資や住宅投資が着実に増加しているほか、企業収益も大幅増加となっているなど、前向きの循環に支えられて回復を続けているとの認識を概ね共有した。

 多くの委員は、減税効果の一巡やガソリン価格の上昇等を背景に個人消費の伸びが鈍化しており、これを主因として、第2四半期のGDP成長率が前期比年率+3.0%と第1四半期(同+4.5%)に比べて低下したことを踏まえ、原油価格の高騰が個人消費ひいては景気の先行きに与える影響や、最近の雇用統計で雇用拡大のペースが鈍化していることなどを巡って議論を行った。雇用情勢については、何人かの委員が、(1)家計調査ベースの雇用者数は明確に増加していること、(2)新規雇用保険受給申請者数が減少傾向にあるほか、失業率も低下していること、(3)雇用マインドを示す指標は総じて好調に推移していることなどを指摘した。また、個人消費の先行きについて、複数の委員は、一時落ち込んだ自動車販売が7月に回復していることを指摘し、さほど悲観的になる必要はない、との見解を述べた。何人かの委員は、米国経済がこれまで高めの成長を続けてきたことや、金融政策が利上げ局面に転じたことなどを踏まえれば、ある程度の景気減速は予想されたところであり、今後、巡航速度の持続的な成長に復帰できるか否かが重要なポイントとなる、と述べた。

 中国経済については、これまで採られてきた景気過熱抑制策の効果もあって、投資活動などに減速感が窺われており、景気過熱のリスクは幾分後退しつつある、との認識が概ね共有された。この間、ひとりの委員は、電力や物資輸送などのインフラ整備の遅れがボトルネックとなって、供給制約の面から景気減速を余儀なくされる可能性もある、との見方を示した。

 欧州経済については、景気の回復感がやや強まっているとの見方が共有された。ひとりの委員は、ドイツの大手メーカーにおいて、賃上げを伴わない労働時間の延長について労使間の同意が成立したことを指摘し、構造調整が遅れている欧州においてこのような取り組みが始まったことは画期的である、と述べた。

 こうした海外経済の拡大のもとで、輸出について、委員は、今後も引き続き増加すると見込まれるとの認識を共有した。ひとりの委員は、とりわけ素材分野については、中国をはじめとする世界的な需要が高まる中で、供給余力の大きいわが国企業へのニーズが強まっており、今後も堅調に推移することが期待できる、と述べた。

 内需面では、設備投資について、複数の委員が、日本政策投資銀行の調査において本年度の設備投資計画が強めのものとなったことを指摘し、設備投資の増加を裏付けるものである、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、同調査によれば、製造業の投資動機は、「新製品・製品高度化」「合理化・省力化」「研究開発」の3分野で約4割を占めており、前向きの投資拡大の動きが広がっていると評価できる、と述べた。別のひとりの委員は、中小企業金融公庫の中小企業景況調査において、中小企業の生産設備判断D.I.が「不足」超となったことを指摘し、中小企業においても先行き設備投資の回復が期待できる、との見方を示した。

 企業収益について、委員は、原油価格の上昇や川上段階での物価上昇に伴う交易条件の悪化にもかかわらず、販売増加による数量効果や単位労働コストの低下を背景に、これまでのところ好調を維持しているとの認識を共有した。もっとも、何人かの委員は、原油価格が一段と上昇すれば、企業収益に悪影響をもたらす可能性があるため、今後の企業収益の動向については注意深くみていく必要がある、と述べた。このうち、ひとりの委員は、足許までの好業績にもかかわらず、通期の見通しを据え置いている企業が多く見受けられるのは、下期にかけてのリスクを勘案したものと理解できる、との見方を示した。

 企業の生産について、何人かの委員は、1〜3月に減速した後、4〜6月は再び伸びを高めており、先行きについても、内外需要の回復を背景に増勢を辿るとみられるとの認識を示した。

 多くの委員は、IT関連を中心とする電子部品の在庫動向について意見を述べた。何人かの委員は、デジタルカメラなどのデジタル家電や液晶関連では在庫の増加が顕著である一方、半導体の在庫はさほど増加している訳ではない、と指摘した。ある委員は、IT関連の最終需要は引き続き堅調に推移しており、近い将来に腰折れする可能性も小さいとみられること、2000年の景気後退局面の反省もあって、各メーカーとも生産・在庫管理に十分な注意を払っていることなどを勘案すれば、既に意図せざる在庫の積み上がりが始まっているとは考えにくい、との見方を示した。この間、別の委員は、世界のIT関連需要のサイクル(いわゆる「シリコン・サイクル」)は今年がピークであり、来年以降は減速するとの見方が根強いことや、内外で供給能力拡大のための設備投資が継続していることなどを踏まえれば、このところの電子部品の在庫増加は気掛かりであるが、基調判断にはもう少し時間を要する、との見解を示した。さらに別の委員は、IT関連の電子部品は、海外経済や輸出との関連が強く、産業としてのウェイト以上にマインド面に与える影響が大きいため、その動向には特に注意が必要である、と述べた。

 家計部門に関して、複数の委員は、新規求人などの労働需給関連指標は引き続き改善しているほか、雇用者数の増加傾向もはっきりしてきているものの、賃金に関しては、夏季ボーナスの動きを含め、明確な増加の兆しはみられていない、と述べた。この間、別のひとりの委員は、労働分配率は歴史的にみて低水準となっており、先行きの賃金の増加余地が現れてきている、との見方を示した。

 こうした中、個人消費について、何人かの委員は、販売統計は家電等を除いて全般的に冴えないものの、旅行等のサービス支出が堅調であるほか、家計調査の消費水準指数も高水準で推移していることを指摘し、総じてみれば、やや強めの動きを続けているとの認識を示した。このうち、ひとりの委員は、猛暑が個人消費にプラスに寄与することが期待される、と述べた。

 何人かの委員は、景気回復の地方経済への波及について意見を述べた。複数の委員は、先般の支店長会議における報告によれば、公共投資への依存度が高く、構造的に回復力が乏しい地域は残ってはいるものの、全体としてみれば、景気回復が地方に広がりつつあることが確認できる、との見方を示した。ある委員は、地方経済への波及は、景気ウォッチャー調査の結果からも窺われる、と述べた。

 物価面に関して、多くの委員が、原油価格の上昇について意見を述べた。何人かの委員は、このところの原油価格の上昇は、需要・供給の両面からもたらされており、これが経済や物価に与える影響については、様々な角度から分析する必要がある、と述べた。また、複数の委員は、実際の供給能力が不透明な中で、地政学的リスクなど先行きの供給に対する懸念が価格の押し上げに寄与しているのではないか、との見方を示した。この間、ひとりの委員は、原油価格の上昇が実体経済にマイナスの影響を及ぼす場合には、物価面ではむしろ下落方向に働く可能性もある点に留意する必要がある、と述べた。

 消費者物価について、委員は、企業の生産性上昇に伴って単位労働コストが低下を続けるもとで、当面、基調として前年比小幅のマイナスで推移するとみられるとの認識を共有した。ひとりの委員は、6月の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比マイナス幅が前月に比べてやや縮小したことについて、主としてガソリン価格などの石油製品の価格上昇に起因するものであり、原油高の影響が消費者物価段階まで波及してきたことが窺われる、との見方を示した。この委員は、原油価格の動向によっては、秋口にかけて前年比が一時的にゼロまたはプラスになる可能性があるため、今後の物価動向は注意してみていく必要がある、と述べた。この間、別のある委員は、素材に関しては、これから本格的な値上げ交渉を予定しているメーカーも多く、今後価格転嫁が進む可能性がある、との見方を示した。

2.金融面の動向

 金融面に関しては、多くの委員が、内外の株価がこのところ軟調に推移しており、長期金利も低下傾向にあることについて意見を述べた。

 米国の株価について、何人かの委員は、米国経済が先行きIT関連セクターを中心に幾分減速する可能性を織り込んだものである、との見方を示した。このうち、複数の委員は、市場では景気の先行きに対するリスクが意識されている一方で、FRBは景気に対する比較的明るい見通しに基づいて利上げを進める姿勢を維持しており、経済・物価情勢に対する両者の認識のギャップが不透明感を高めているという側面もある、と述べた。

 わが国の株価について、何人かの委員は、このところの低下は直接的には米国株価の影響を受けたものである、との見方を示した。このうち、ひとりの委員は、わが国の株価は、先行きの景気減速に伴う企業収益の伸び悩みを織り込み始めていると考えられる、と述べた。もっとも、複数の委員は、わが国の株価は、米国株価の下落の割には底固く推移していると評価したうえで、今後の日米の景気動向如何では、両国の株価が異なった動きとなる可能性もある、と指摘した。

 ひとりの委員は、足許、世界的に長期金利が低下していることを指摘し、市場では原油高が景気減速をもたらし、物価下落圧力に繋がるリスクが意識されているとみられる、と述べた。

 ある委員は、米国金融市場などでは、株価の下落などにもかかわらず、インプライド・ボラティリティやクレジット・スプレッドは、低位で推移しており、不確実性の高まりを十分に織り込んでいない可能性もある、との見方を示した。別の委員は、ここ7〜8年、先進国の株式のリスク・プレミアムは高い水準となっており、不確実性は相応に市場価格に反映されているとみてよいのではないか、とコメントした。この間、ある委員は、市場は短期的には様々な思惑によって振れる面があり、やや長い目でみる必要があるが、株価や長期金利の動きが経済・物価情勢の変化を示唆している可能性もあるため、今後の金融資本市場の動向については注意深く分析していく必要がある、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、マネタリーベースの動きに関連して、足許の銀行券発行残高の伸び率の鈍化は、主として金融システム不安の後退によるものであり、引締め的な政策運営を意味するものではないことをよく説明する必要がある、と述べた。この委員は、改刷を機に、退蔵現金の還流に伴って一時的に銀行券発行残高が減少する可能性があるため、対外的な説明には特に注意が必要である、と付け加えた。

III.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 ひとりの委員は、先般の「中間評価」で「景気は上振れ」、「消費者物価はほぼ見通し通り」とした判断が、市場でどのように受け止められるか注目していたが、その後の市場の反応等をみると、大きな違和感なく消化されているように窺われる、と述べた。

 当面の情報発信について、委員は、(1)消費者物価に基づく「約束」に沿って量的緩和を継続していくという政策スタンスと、(2)経済・物価情勢に関する認識の双方について、必要に応じて丁寧に説明していくことにより、金融市場における価格形成が円滑に行われるための環境を整えていくことが重要であるとの認識を共有した。

 この間、ひとりの委員は、市場の期待を安定化させるためには、「約束」に基づいて量的緩和政策を継続するという現行の方針を説明することに加えて、将来、量的緩和政策の枠組みを変更する過程において、どのようなスタンスで臨むのかについて市場に示していくことが必要である、と述べた。

 ある委員は、FRBは米国景気が幾分減速する中で利上げを行っており、市場とのコミュニケーションに苦心しているように見受けられるが、現行の「約束」が景気に遅行する傾向のある消費者物価を基準としていることに鑑みれば、日本銀行も将来的には同様の問題に直面する可能性がある、との見方を示した。別のひとりの委員も、現行の「約束」に基づく金融政策運営において、どのような景気循環の局面で利上げ時期を迎えるかは、景気や物価のモメンタム如何によってかなり異なったものとなるだろう、とコメントした。

IV.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  •  先般(7月30日)、閣議了解された平成17年度予算の概算要求基準は、従来にも増して、要求・要望段階から歳出全体の洗い直しを行うため、要求省庁自らに制度改革努力等を促す新たな仕組みを導入するなど、歳出改革路線の堅持・強化を図るものになったと考えている。
  •  今後は、予算編成過程において、その内容を厳しく精査し、さらなる縮減を図っていきたいと考えているところであり、今後とも手綱を緩めることなく、財政規律の確立に向けて一層の努力を傾注し、歳出改革路線の堅持・強化を図っていきたいと考えている。
  •  わが国経済の現状を見ると、景気は堅調に回復しているものの、デフレは緩やかながらも依然として継続しており、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  •  日本銀行は、量的金融緩和政策継続のコミットメントを明確にし、それを堅持することとされているが、引き続き経済・市場動向を十分注視し、現在の金融市場調節方針でも述べられているとおり、市場が不安定化する惧れがある場合には、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。
  •  加えて、緩和的な金融環境の継続に関し、様々な憶測が完全に払拭されていない状況のもとで、量的緩和政策解除の条件が満たされていないことを引き続き明確に示すなどにより、このような憶測を払拭するとともに、金融政策の先行きについての市場の観測も見据えつつ、景気回復を持続的なものとするため、今後、どのような新たな工夫を講じることができるのか検討を進めて頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  •  景気は、企業部門の改善が家計部門に広がり、堅調に回復している。一方、原油価格や世界的な金利の動向等が経済に与える影響には留意する必要があると考えている。物価については、総合的に勘案すれば、デフレ克服は道半ばの状況にある。
  •  政府は、「基本方針2004」の早期具体化により、構造改革の取組みを加速・拡大することとしている。重点強化期間の初年度である平成17年度の予算編成に当たっては、財政規律確立への姿勢の明確化、予算のメリハリの強化及び国民への説明責任を重視し、構造改革をさらに進めるとした「17年度予算の全体像」を経済財政諮問会議で決定した。
  •  その議論を行うに際し、マクロ経済の動向を踏まえることが必要であるとの認識から、16年度については、内閣府による経済動向試算として、GDP成長率で実質3.5%、名目1.8%、17年度については、一定の前提をおいて「マクロ経済の想定」という形で実質2%強、名目1%台半ばという経済の姿を示した。
  •  日本銀行におかれては、量的緩和政策を引き続き堅持する姿勢を示されているが、今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、効果的な資金供給に繋がるような措置を含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。また、景気の堅調な回復に伴い金利の動向が注目を集めていることにも鑑み、専門的な立場からの検討を進めて頂き、デフレ克服までの道筋を含め、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努めて頂きたい。

V.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VI.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(8月10日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は8月11日に、それぞれ公表することとされた。

VII.議事要旨の承認

 前々回会合(6月25日)および前回会合(7月12、13日)の議事要旨が全員一致で承認され、8月13日に公表することとされた。

以上


(別添)
2004年 8月10日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上