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金融政策決定会合議事要旨

(2004年3月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年4月8、9日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 4月14日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年3月15日(13:59〜15:56)
3月16日( 8:59〜11:48)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(15日)
    山本 有二 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)(15日)
    伊藤 達也 内閣府副大臣(16日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一(16日)
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(16日8:59〜9:13)
  • 企画室調査役山岡浩巳
  • 企画室調査役正木一博
  • 金融市場局金融市場課長栗原達司(16日8:59〜9:13)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(2月26日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は概ね32〜33兆円台で推移した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、0.001%で推移した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給のもとで、短期金利は引き続き低位で安定的に推移している。

 長期金利は、株価の上昇や円の対ドル相場の下落などを受けて、一時1.4%台まで上昇したが、その後は米国長期金利の低下などを受けて再び低下し、最近では1.2%台後半で推移している。民間債利回りの対国債スプレッドは、横ばい圏内で推移している。

 株価は、わが国の景気回復期待の高まりや円の対ドル相場の下落などを受けて上昇傾向を辿り、現在は11千円台で推移している。

 為替市場では、ドル安センチメントの後退に伴い、円の対米ドル相場は反落し、最近では110円台となっている。

3.海外金融経済情勢

 米国景気は、バランスのとれたかたちで着実に回復している。すなわち、個人消費は緩やかな増加基調にあり、住宅投資も高水準を維持している。また、製造業の受注や設備投資が増加傾向にあるほか、生産も緩やかに増加しており、企業活動の回復に広がりが出ている。雇用も、ごく緩やかながら着実に改善している。

 この間、物価面では、現在のところ、国際商品市況など投入コストの上昇は企業部門で吸収されており、ガソリン価格などを除けば、最終財の価格上昇には殆どつながっていない。

 ユーロエリアでは、設備投資が振れを伴いつつも底入れしつつあるほか、生産も投資財を中心に回復するなど、企業部門の活動が持ち直している。しかし、家計部門の支出活動は低調であり、回復のモメンタムは依然として弱い。この間、英国経済は、着実に成長している。

 東アジアでは、景気回復の足取りは引き続き力強い。中国では、内外需ともに力強い動きが続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、IT関連財を中心に輸出・生産が増加している。

 米欧の金融市場をみると、米国株価は、良好な企業収益などを背景に最近の高値圏内で推移した後、市場予想を下回る雇用統計の公表(3月5日)を受けて反落した。米欧の長期金利は、米国の雇用統計公表を材料に低下した。

 エマージング金融市場をみると、多くの国・地域において、株価が上昇したほか、対米国債スプレッドも低位で安定している。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 輸出はこのところ大幅に増加している。すなわち、海外経済の回復を背景に昨年10〜12月に大幅増加となった後、1月も中国やASEAN、EU向けを中心に10〜12月対比で+4.7%と高い伸びを続けた。もっとも、こうした高い伸びには、中国の年初の関税引き下げやASEAN向けスポット輸出といった一時的要因も寄与しているとみられる。財別にみると、資本財・部品が好調を持続しているほか、化学、鉄鋼などの中間財も大幅な増加となった。

 企業部門の動向をみると、企業収益は着実な改善を続けている。法人季報の売上高経常利益率をみると、先行して急速な回復を遂げた製造業・大企業では、高水準ながら改善テンポは緩やかになっている一方、非製造業では改善が徐々にはっきりしてきている。このように、収益面からみた企業部門の回復は、一頃に比べ広がりが出てきている。大企業の収益予想をみると、製造業・非製造業とも、2003年度、2004年度と順調に増益を続ける見込みである。

 こうしたもとで、設備投資は回復を続けている。10〜12月の法人季報ベース名目設備投資額は高い伸びとなったほか、資本財出荷(除く輸送機械)も、10〜12月期の大幅増加に続き、1月も10〜12月対比で大幅に増加した。

 家計部門の動向をみると、雇用面では、労働需給を反映する求人関連指標がはっきりと改善してきている。労働力調査の雇用者数もこのところ前年を幾分上回って推移しており、毎勤統計の常用雇用者数も前年比マイナス幅が縮小傾向にある。失業率もなお高水準とはいえ、緩やかな低下傾向にある。この間、雇用者所得は徐々に下げ止まってきているが、冬季賞与の減少などもあり、なおはっきりとした下げ止まりが確認できているわけではない。

 この間、個人消費は、10〜12月期に続き、1月も総じて強めの指標が出るなど、足許はやや強めの動きとなっている。

 このような需要動向のもと、生産は増加しており、10〜12月期に前期比+3.7%と大幅に増加した後、1月も10〜12月対比で+3.2%と高い伸びが続いた。先行きも、当面は輸出や設備投資の増加、さらには耐久消費財の販売好調に支えられて増加が続くとみられる。ただし、そのテンポは、かなり高い伸びとなった過去数か月に比べれば、緩やかなものとなる可能性が高い。

 物価面をみると、国際商品市況は全体として大幅な上昇が続いており、これを受けて輸入物価は上昇している。国内商品市況も、非鉄や鋼材を中心に、2月は上昇テンポが速まった。

 このような内外の商品市況高などを反映し、国内企業物価は、3か月前対比でみて上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)は、米価格の上昇など一時的要因も押し上げに働く中、ゼロ%近傍で推移している。

(2)金融環境

 資金需要面をみると、企業の借入金圧縮スタンスは維持されているものの、設備投資が増加するなど企業活動が上向きつつあることから、民間の資金需要は傾向としては減少テンポが幾分緩やかになってきている。銀行も、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を幾分緩和している。こうした動きを受け、民間銀行貸出(特殊要因調整後)は2月は−1.7%と、減少幅がわずかながら縮小する傾向にある。企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断も、中小企業等ではなお厳しい状況にあるが、幾分改善している。

 CP・社債の発行環境は総じて良好な状況にある。CP・社債の発行金利や信用スプレッドは低水準で安定しており、こうした中で、これらの発行残高は引き続き前年を上回って推移している。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感の後退などから低下し、最近では2%台で推移している。一方、マネタリーベースの伸び率は、前年比1割台半ばとなっている。マネタリーベースの対名目GDP比率は上昇を続けており、きわめて高い水準となっている。マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台の伸びとなっている。

 企業倒産件数は減少傾向が続いており、1月の前年比は−18.2%となった。

II.「適格担保取扱基本要領」の一部改正

1.執行部からの提案内容

 銀行等保有株式取得機構は、政府保証付借入れについて、従来からの当座貸越形式に加え、今般、証書貸付形式による借入れも開始した。

 日本銀行としても、上記の取得機構向け政府保証付証書貸付債権を新たに適格担保とすることは、金融市場調節の一層の円滑化に資するものと考えられる。そこで、このために必要となる「適格担保取扱基本要領」の一部改正を行うことを提案したい。

2.委員会の検討・採決

 採決の結果、上記執行部提案が全員一致で決定され、適宜の方法で公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 海外経済に関して、多くの委員は、米国や東アジアを中心に、全体として回復傾向を辿っているとの見方を共有した。

 ひとりの委員は、海外経済回復の持続性に関連し、(1)最近の国際商品価格上昇の影響は、先進諸国で生産性の上昇によってかなりの程度吸収され、一般物価への影響は軽減されている、(2)こうしたもとで、各国とも緩和的な政策運営を維持し得ている、と指摘した。そのうえで、現在の海外経済の回復はある程度の持続性を備えているとの見方が多い、と述べた。

 米国経済に関し、ひとりの委員は、住宅価格の堅調による資産効果も米国の家計支出を下支えしていると述べた。

 この間、何人かの委員は米国の雇用回復の緩慢さに言及した。複数の委員は、雇用回復の緩慢さが先行きの消費マインド等に影響を及ぼす可能性を下方リスクとして挙げた。別のひとりの委員は、雇用創出の遅れについて、医療保険負担の増加から企業が正規社員の採用に慎重であることに加え、サービス部門がアウトソーシングを通じて生産性上昇を図っていることも作用しているとの見解を示した。そのうえで、(1)景気の改善が雇用創出につながるタイムラグは従来に比べ伸びる傾向があるが、それでも、いずれ雇用面にも好影響は徐々に及んでいくと考えられ、(2)実際、雇用創出はなお緩慢な中で、失業率は既に低下傾向を辿っている、と述べた。

 この間、別の委員は、ガソリン価格高騰の家計への影響も懸念要因としたうえで、減税効果の剥落とともに消費の伸びは鈍化しようとの見方を述べた。

 また、何人かの委員は、海外経済を巡る当面の留意点として、(1)テロ懸念の高まり等が消費マインドに及ぼす影響、(2)ユーロ高の影響もあって、ユーロエリアの景気回復のテンポはなお緩慢であること、も挙げた。

 多くの委員は、海外経済が全般に回復傾向を辿るもとで、わが国の輸出がこのところ、中国向けなどを中心にかなり大幅に増加していることを指摘した。このうちひとりの委員は、1月の輸出の高伸には中国の関税引き下げなど一時的要因も寄与しているとみられることを付言した。

 国内企業部門について、多くの委員は、製造業を中心に民間企業の経営体質の改善が進む中で、企業収益も増加を続けており、こうしたもとで、設備投資もこのところかなりはっきりと増加していることを指摘した。

 このうちひとりの委員は、(1)デジタル家電関連を中心に、高付加価値製品の開発拠点を国内に置く動きもみられている、(2)企業収益増加のもと、債務返済の動きは依然として続いているが、その一方で、設備投資やR&D、M&Aといった前向きの動きも散見されている、と述べた。

 ある委員は、企業収益増加の原因を業種別にみると、(1)製造業では生産性上昇によって単位労働コストの低下が実現される傾向がみられる一方、(2)非製造業では賃金そのものの引き下げによって単位労働コストの低下が実現される傾向がなお強いと述べた。そのうえで、過剰債務や労働分配率の高さといった構造調整圧力への対応はある程度進んできており、非製造業においても、業況改善が進んでいる先から投資スタンスを前傾化させていく可能性はあろうと述べた。この間、別の複数の委員は、業種別に企業収益や設備投資動向をみても、最近では中小企業や非製造業においても収益や設備投資が増加しており、設備投資増加の動きに広がりがみられているとの見方を示した。

 この間、何人かの委員は、足許の商品市況上昇の企業収益等への影響に関して発言した。

 ひとりの委員は、国際商品価格の上昇が世界経済の回復を背景としている以上、これによる原材料価格の上昇は、生産性の向上に加え輸出・販売数量の増加によっても相殺されることになるため、マクロ・ベースでみて企業収益の圧迫につながる可能性は、当面は低いのではないかと指摘した。別のひとりの委員も、昨年10〜12月期の法人季報をみても、売上数量増加の効果が交易条件悪化の影響を上回るかたちで企業収益の増加が実現されていると指摘した。そのうえで、これらの委員を含めた何人かの委員は、引き続き企業収益の動向を見守っていきたいと述べた。

 家計部門に関し、多くの委員は、個人消費関連の指標をみると、デジタル家電関連に加え、小売業販売額や百貨店売上高、新車登録台数など、足許では増加ないし堅調に推移しているものが多いことを指摘した。

 同時にこれらの委員は、企業の人件費抑制の動きが続く中、家計の所得は漸く下げ止まりつつある段階であるとの認識も示した。そのうえで、何人かの委員は、このように所得が明確な増加に至っていない中で、先行して消費にやや強めの動きがみられることの背景について発言した。

 ひとりの委員は、個人消費には昨年末から持ち直しの兆しが窺えると述べたうえで、雇用者数の増加など雇用情勢の改善に加え、株価上昇による資産効果もあって消費マインドが幾分改善していることが影響しているのではないか、との見解を示した。別のひとりの委員は、雇用情勢の改善や所定内給与のプラス転化、夏季賞与の増加予想に象徴される先行きの所得の増加予想に加え、これまでの物価下落を反映した家計の実質資産の増加も、足許の消費堅調の一因ではないか、との見方を示した。

 また別のひとりの委員も、個人消費の足許の強めの動きの背景として、雇用情勢の改善や倒産件数の減少、日本経済の先行きに対する過度の悲観論の後退などを反映した消費マインドの好転が影響している可能性を指摘した。そのうえで、消費マインドの改善傾向が維持されれば、所得対比強めの消費の伸びが続く可能性もある一方で、消費マインドは年金改革への見方などさまざまな要因の影響を受けやすいものであるので、今後ともその動向を注意深くみていく必要がある、と述べた。

 この間、ひとりの委員は、足許の販売指標の増加には、デジタル家電需要などの一時的な盛り上がりも影響している可能性もあると指摘した。そのうえで、この委員を含めた複数の委員は、足許の消費の伸びの持続性については、今後の指標などをみながら慎重に判断していく必要があるとの考え方を示した。さらに別のひとりの委員も、税制や年金問題の議論の展開を考えると、消費の先行きについてはなお慎重にみておきたい、と述べた。

 生産について、多くの委員は、輸出や設備投資など最終需要の伸びに牽引されるかたちで増加していることを指摘した。このうちひとりの委員は、地域別にみても、電子部品デバイスの増加を起点として、生産の増加が全ての地域でみられるに至っていると指摘した。

 あわせて、何人かの委員は、生産が増加する中でも企業は在庫積み増しに慎重であり、在庫水準が低位に止まっていることに言及した。

 ひとりの委員は、在庫抑制の背景として、足許の需要の強さに加え、企業の在庫管理技術の発達も寄与しているとの見解を述べた。別の複数の委員は、在庫循環から判断して、内生的・循環的な力によって景気が腰折れするリスクは当面低く、この面での景気回復の持続性はあるとの考え方を示した。

 このような議論を踏まえ、委員は、景気の現状認識としては、「緩やかに回復している」との判断を維持することが妥当である、との認識を共有した。そのうえで、多くの委員は、いくつかの需要項目の足許の強さについては、その持続性を今後の指標などから見極めていく必要がある、と述べた。

 物価面では、多くの委員が、(1)国際商品価格が、とりわけ昨年秋以降かなり急ピッチで上昇していること、(2)こうした中で国内商品市況も上昇しており、企業物価も、前年比マイナス幅はほぼゼロとなり、3か月前比ではプラスとなっていること、(3)この間、消費者物価は、昨年末にほぼゼロとなった後、概ねゼロ近傍での推移を続けており、川上の価格上昇が川下に及ぶ傾向は、現時点ではさほどみられていないこと、に言及した。

 ひとりの委員は、米国など先進各国でも、国際商品価格上昇の影響が川下の消費者物価等に及びにくい傾向が現在共通してみられることを指摘した。この背景としてこの委員は、技術革新による生産性の上昇に加え、労使関係の変化や雇用形態の多様化など労働市場の構造変化を反映した賃上げの抑制や、これらを受けた単位労働コストの低下によって、川上の価格上昇圧力が川下に至るまでに相当程度吸収されていることを挙げた。

 この委員を含む何人かの委員は、上記のようなメカニズムは、企業の人件費抑制の動きが続く日本でも、当面は同様に働きやすいと指摘した。そのうえで、商品市況や企業物価の上昇には当然注意すべきであるが、現時点では先行きの消費者物価上昇リスクを警戒すべき状況とは言えないのではないか、との見解を述べた。別のひとりの委員も、わが国においてはサービス価格の弱さ、とりわけ賃貸料の低下が消費者物価に対し抑制方向に働き続けていることを指摘した。

 この間、ひとりの委員は、足許では稼働率が2000年時のピークを上回るなど、需給面からは原材料のコストアップを製品価格に転嫁しやすい環境になりつつあると指摘した。別のひとりの委員は、鉄鋼などでは少しずつ値上げ交渉が進む動きもみられると述べた。さらに別のひとりの委員は、台湾や香港、シンガポール、中国等では川下の物価の上昇傾向がみられていることを紹介した。

 これらの委員を含め、多くの委員は、今後とも商品市況上昇の動向、およびその物価や企業収益等への影響を注意深くみていく必要がある、との見解を述べた。

 この間、ひとりの委員は、物価が安定的にプラスとなっていく場合、(1)素材価格の上昇が世界レベルで最終財価格に波及するか、あるいは、(2)わが国の賃金上昇率が安定的にプラスの領域に入り、これがサービス価格にも波及していくか、いずれかのシナリオが考えられると述べた。

 別のひとりの委員は、2003年度は3%近い成長率となり、2004年度も同程度の成長を実現できるとみた場合、仮にわが国の潜在成長率を1%台半ばとみても、GDPギャップはあわせて3%ポイント程度縮小する計算となると指摘した。そのうえで、右下がりのフィリップス・カーブを前提とすれば、GDPギャップ縮小の影響は、タイムラグを伴いつつも、いずれインフレ率にも及んでいくと考えるのが自然であるとの見解を述べた。

2.金融面の動向

 多くの委員が、3月期末を控える中でも金融市場は総じて安定しており、期末越えの流動性調達を巡る不安感が殆どみられないことを指摘した。そのうえで、何人かの委員は、企業金融も総じて安定しており、金融環境は全体として、現在の景気回復の動きをサポートするものとなっている、との評価を示した。

 この間、ある委員は、政府短期証券(FB)の増発について、その短期金融市場への影響については引き続き注意が必要であると述べた。別のひとりの委員は、FB増発懸念の問題は国債発行管理の観点から留意が求められるが、現在のFB金利は依然極めて低い水準にあり、市場機能の確保という観点からも殊更に問題視すべきものではないとの見解を示した。

 何人かの委員は、株価が11千円台を回復し、為替市場でも、ドルの先安観が幾分後退していることを指摘した。この間、ひとりの委員は、目先の円高懸念は一応後退しているが、底流にある円の先高観には根強いものがあり、為替市場の動向には引き続き注意が必要であると述べた。

 民間銀行の貸出動向に関連して、何人かの委員は、銀行の融資スタンスは、経営体力の高い先を中心に、以前に比べて積極化していることを指摘した。

 このうちひとりの委員は、このことは設備資金調達を巡る不安感の後退などを通じて、足許の中堅・中小企業の設備投資スタンス積極化の一因にもなっているのではないかと述べた。同時に、この委員を含めた複数の委員は、現在の設備投資の水準は、企業収益の増加に伴って増加しているキャッシュフローとの対比ではなおこれを下回っているため、資金需要や銀行貸出の増加にはつながりにくい状況が基本的には続いていると指摘した。別のひとりの委員は、一部では、限定的ながら資金需要の増加に向けた動きが出てきているように思われ、今後とも細心の注意を払ってみていきたいと述べた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、委員は、前述のような経済金融情勢の判断のもと、現在の「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標を維持することが適当であるとの認識を共有した。

 ひとりの委員は、(1)実体経済は回復の動きを続けており、こうしたもとでの業況感や先行き見通しの改善は足許の設備投資の伸びなどにも表れている、(2)物価の基調的なマイナス幅も縮まってきており、デフレ的な予想形成も一頃に比べ後退している、との見方を述べた。そのうえで、このような状況の中で、現在の思いきった金融緩和政策をしっかりと続けていく意味は大きく、金融面から民間経済活動のサポートを続け、物価が安定的にプラスとなる状況を実現していくことが重要であると述べた。

 なお、別のひとりの委員は、先行きの政策運営に関し、各国において目指す物価の状態の示し方にはかなり相違があり、日本は日本に合ったやり方を考えていけばよいと思うが、例えば消費者物価上昇率について1%以上を目指し、かつ2%程度の上限を置くことを明らかにしていくことは有益ではないか、との見解を表明した。

 また、多くの委員は、一昨年や昨年とは異なり、金融市場では期末越えの流動性調達を巡る不安感は殆どみられておらず、金融システムも安定していることを指摘した。こうした指摘を踏まえ、委員は、「なお書き」の表現について、本年は特に期末を意識した表現に改める必要はなく、総裁が記者会見において、適宜必要に応じて「なお書き」も活用しながら資金供給を行っていくとの考え方を示すことが適当であろうとの見解を概ね共有した。

V.政府からの出席者の発言

会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • わが国経済の現状をみると、設備投資や輸出の増加に加え、個人消費も持ち直しているなど、景気は着実な回復を続けている。
     このような中、依然として継続しているデフレの克服こそが我々の直面している最大の懸案であり、引き続き金融政策の役割は重要であると考えている。
  • 日銀はこの1年間、デフレ克服に向けて累次にわたり追加的な金融緩和措置を採ると同時に、量的金融緩和政策を継続するという日銀の政策スタンスを明確化することによって、市場や人々の期待に積極的に働きかけることに重きを置いた金融政策運営に当たってきている。
     政府としては、こうした日銀の取り組みは、中長期金利が低位かつ安定的に推移するなど、金融市場の安定に大きく寄与し、金融政策の実効性を高める効果があるものと評価している。
     日銀におかれては、引き続き景気回復を持続的なものにするにはどうすれば良いかとの観点から、一段と工夫を講じられないか、さらなる検討を進めて頂きたいと考えている。
  • 今後とも政府との意思疎通を密にしつつ、金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、年度末における資金需要には迅速かつ的確に対応するなど、機動的な金融政策運営を実施して頂きたいと考えている。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の基調判断については、昨日の月例経済報告で、「景気は設備投資と輸出に支えられ、着実に回復を続けている」と判断した。引き続き為替レートなど金融・資本市場の動向には留意する必要があると考えている。一方、物価については、総合的に勘案すると、依然として緩やかなデフレ状況にあると考えている。
  • 日本経済の重要な課題はデフレを早期に克服することおよび内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府は、3月11日にこれまでの改革の成果と今後の対応を一覧的に取り纏めた「経済活性化のための改革工程表」を作成した。デフレ克服のためには、構造改革の加速・拡大の政策努力を進める中で、政府の行うより強固な金融システムの構築に向けた取組みと、日本銀行による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じ、資金供給が拡大していくことが重要である。
  • 日本銀行におかれては、金融・資本市場の動向にも留意のうえ、「構造改革と経済財政の中期展望─2003年度改定」で示した中期の経済の姿を実現するために、金融政策運営の基本的枠組みの検討を進め、更に実効性ある金融政策運営を行うことを期待する。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を30〜35兆円程度とする現在の調節方針を維持することが適当である、との考え方を共有した。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:なし

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(3月16日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は3月17日に、それぞれ公表することとされた。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(2月4、5日)の議事要旨が全員一致で承認され、3月19日に公表することとされた。

IX.先行き半年間の金融政策決定会合等の日程の承認

 最後に、2004年4月〜9月における金融政策決定会合等の日程が別添2のとおり承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別添1)
2004年 3月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。  日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別添2)
2004年 3月16日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(2004年4月〜9月)
  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2004年4月 4月8日(木)・9日(金)
4月28日(水)
4月9日(金)
----
(5月25日(火))
(6月18日(金))
5月 5月19日(水)・20日(木) 5月20日(木) (6月30日(水))
6月 6月14日(月)・15日(火)
6月25日(金)
6月15日(火)
----
(7月16日(金))
(8月13日(金))
7月 7月12日(月)・13日(火) 7月13日(火) (8月13日(金))
8月 8月9日(月)・10日(火) 8月10日(火) (9月14日(火))
9月 9月8日(水)・9日(木) 9月9日(木) 未定
  1. (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  2. (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  3. (注3)「経済・物価の将来展望とリスク評価(2004年4月)」の「基本的見解」は、4月28日(水) 15時(背景説明を含む全文は4月30日(金)14時)に公表の予定。

以上