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金融政策決定会合議事要旨

(2004年 1月19、20日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2004年2月26日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2004年 3月 2日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
2004年1月19日(14:00〜15:41)
1月20日( 9:00〜12:40)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 福井俊彦(総裁)
  • 武藤敏郎(副総裁)
  • 岩田一政(  副総裁  )
  • 植田和男(審議委員)
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
  • 春 英彦(  審議委員  )
  • 福間年勝(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 津田 廣喜 大臣官房総括審議官(19日)
    石井 啓一 財務副大臣(20日)
  • 内閣府 中城 吉郎 政策統括官(経済財政−運営担当)(19日)
    伊藤 達也 内閣府副大臣(20日)

(執行部からの報告者)

  • 理事平野英治
  • 理事白川方明
  • 理事山本 晃
  • 企画室審議役前原康宏
  • 企画室審議役山口廣秀
  • 企画室参事役櫛田誠希
  • 金融市場局長中曽 宏
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局参事役門間一夫
  • 国際局長堀井昭成

(事務局)

  • 政策委員会室長秋山勝貞
  • 政策委員会室審議役武井敏一(20日)
  • 政策委員会室調査役村上憲司
  • 企画室企画第2課長吉岡伸泰(20日9:00〜9:30)
  • 企画室調査役内田眞一
  • 企画室調査役加藤 毅
  • 金融市場局金融市場課長栗原達司(20日9:00〜9:30)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節は、前回会合(2003年12月15、16日)で決定された方針1に従って運営した。この結果、当座預金残高は29〜31兆円台で推移した。こうした調節の下で、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、概ね0.001%で推移し、1月13、14日にはマイナス金利となった。

 市場では資金余剰感がきわめて強く、年末年初はここ数年で最も平穏な状況となった。

  1. 「日本銀行当座預金残高が27〜32兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

2.金融・為替市場動向

 短期金融市場では、日本銀行による潤沢な資金供給の下で、短期金利は総じて低位で安定している。

 長期金利は、押目買い・戻り売り意欲の強い展開となり、概ね1.2%台後半〜1.4%の狭いレンジでの動きとなっている。民間債流通利回りの対国債スプレッドは、ほぼ横ばい圏内で推移している。

 株価は、米国株価の上昇やわが国の景気回復期待を背景に、幅広い銘柄で上昇し、最近では日経平均株価は11千円程度で推移している。

 為替市場では、米国の「双子の赤字」問題への懸念や地政学的なリスクを背景に、ドル安センチメントが強い状況となっている。こうした中、円の対米ドル相場は、介入警戒感もあって、小幅の円高となっている。一方ユーロの対米ドル相場は、ユーロ発足以来の最高水準まで大幅なユーロ高が進んだのち、当局者の牽制発言などを受けて、ユーロ安方向に戻している。

3.海外金融経済情勢

 米国経済は着実に回復しており、そのモメンタムが強まっている。個人消費は、減税効果で好調であった7〜9月の後、10〜12月も堅調であり、クリスマス商戦はまずまずの仕上がりとなった模様である。設備投資は、振れはあるもののIT関連を中心に増加している。生産も、力強さには欠けるものの持ち直している。さらに、改善が遅れていた雇用面でも、非製造業を中心に明るい動きがみられている。

 金融市場をみると、株価は、企業収益の改善期待の高まりなどを背景に上昇している。一方、長期金利は、金融緩和の長期化観測が強い中、市場予想比弱目の雇用統計の公表もあって、水準を切り下げている。

 ユーロエリアでは、個人消費、設備投資など内需は低調裡に推移しているが、輸出・生産が回復し、景気は全体として底打ちしている。物価面では、今のところユーロ高の影響は表面化しておらず、消費者物価指数の前年比上昇率は2%前後で推移している。金融市場では、米国の動向を受けて、株価の上昇と長期金利の低下がみられる。

 東アジアでは、景気回復の足取りが引き続き強まっている。中国では、内外需ともに力強い動きが続いている。NIEs、ASEAN諸国・地域では、IT関連財を中心に輸出・生産が増加している。

 このように、世界経済が下振れるリスクは、全体として弱まっている。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 10〜11月の輸出は、東アジア向けが引き続き好調なことに加えて、米国向けも増加に転じ、7〜9月対比で+6.3%と高い伸びを示した。品目別では、情報関連財や半導体製造装置などの資本財が増加を続けているほか、デジタル家電などの消費財が著増した。この間、輸入も、輸出ほどの勢いはないにしても着実に増加しており、国際的な分業体制が拡大していることが窺える。

 設備投資は、緩やかな回復を続けている。10〜11月の資本財出荷(除く輸送機械)は、半導体製造装置やコンピューターに加えて、大口のスポット案件もあったことから、7〜9月対比で+7.0%の大幅増となった。

 企業収益をみると、大企業は順調な増益を続ける見込みである。この間、中小企業では、製造業では持ち直しているものの、非製造業や小規模な企業では厳しい状況が続いている。

 11月の個人消費関連指標は、暖冬の影響等から弱めの動きとなったが、10〜11月を均してみれば、横ばい圏内で推移している。

 こうした状況下、生産は、7〜9月に前期比+1.3%と増加に転じた後、10〜11月も7〜9月対比で+3.7%と大幅な伸びとなった。この間、在庫はなお低水準で推移している。

 雇用・所得面では、雇用者数は下げ止まりつつあり、賃金の下落にも歯止めがかかってきている。この間、求人関係指標の改善が目立つものの、失業率はなお高水準で推移している。

 物価動向をみると、国際商品市況は強含んでいるものの、輸入物価は、円高の影響がより強く表われていることから、引き続き下落している。国内企業物価は、内外商品市況の上昇や米・肉類の上昇を受けて、3か月前比でみると、強含みの動きとなっている。消費者物価(除く生鮮)は、米価格の上昇などの一時的要因も押し上げに働く中、ゼロ%近傍で推移している。先行きも、当面はゼロ%前後で推移する可能性が高いが、基調としては、需給バランスが徐々に改善しつつもかなり緩和した状況の下で、小幅のマイナスを続けると予想される。

(2)金融環境

 クレジット関連の指標をみると、民間銀行貸出は、傾向としては、前年比減少幅がわずかながら縮小してきている。銀行は、信用力の低い先に対しては慎重な貸出姿勢を維持しているが、全体としては貸出姿勢を幾分緩和している。一方、民間の資金需要は、企業の借入金圧縮スタンスが維持されている中で、キャッシュフローが設備投資を上回る状況が続いていることなどから、引き続き減少傾向を辿っている。これらの動きを反映し、企業からみた金融機関の貸出態度や企業の資金繰り判断は、中小企業等ではなお厳しい状況にあるが、幾分改善している。

 CP・社債の発行環境は、高格付け企業を中心に総じて良好な状況にある。発行金利における信用スプレッドは引き続き低水準で安定しており、発行残高は前年を上回って推移している。この間、株価の上昇を背景に、このところ、転換社債の発行や公募増資などエクイティファイナンスが増加している。

 このような貸出および資本市場調達の動きを反映し、民間総資金調達の前年比マイナス幅は、均してみれば、わずかながら縮小してきている。

 銀行券発行残高の伸び率は、金融システムに対する不安感が後退してきていることなどから、低下傾向を続けている。こうした中で、マネタリーベースの伸び率は、前年比1割台半ばに低下している。マネーサプライ(M2+CD)は、前年比1%台半ばの伸びとなっている。この間、広義流動性の伸び率は、横這い圏内で推移している。

II.「資産担保証券買入基本要領」の一部改正等

1.執行部からの報告

 前回会合における議長指示を受けて、執行部では、資産担保証券の買入れに関し、見直しの余地があるか検討してきた。その結果、(1)中堅・中小企業関連債権比率についてよりきめ細かく判断できる基準とする、(2)正常先要件を撤廃する、(3)ABCP等について単数の格付取得でも良いこととする、(4)買入対象先の随時選定を導入する、という内容の見直しを提案したい。

2.委員会の検討・採決

 委員からは、正常先要件を撤廃することに関して、日本銀行の財務の健全性に及ぼしうる影響をどう考えるべきか議論があった。この点、資産担保証券の信用力は、本来裏付資産の分散効果等を勘案してプログラム全体で判断されるべきものであるが、買い入れ開始時には、中央銀行として極めて異例の措置であること等を勘案して、日本銀行の財務の健全性に万全を期すために正常先要件を設定したとの認識を改めて共有した。そのうえで、リスク評価手法が進展していることなどに鑑みれば、個々の裏付資産の属性ではなく、プール全体の信用度や証券化の仕組み、格付等に基づいて適格性を判断することが適当であり、また、市場の発展にも資することになるとの意見が示された。

 また、中堅・中小企業要件に関しては、市場育成の観点から、実情に合わせて見直すことが適当である、との意見が表明された。この間、複数の委員は、銀行の資本制約が緩和されている中、基準を緩和しても、市場での発行や日本銀行の買取りが増えない可能性があるが、買取金額を増やすこと自体が目的ではなく、適格証券の拡大などを通じて、資産担保証券市場の育成を図ることが重要とコメントした。

 こうした議論を経て、「資産担保証券買入基本要領」の一部改正等が、全員一致で決定され、別紙1のとおり、対外公表することとされた。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.経済情勢

 経済情勢について、委員は、「景気は緩やかに回復している」「先行きについては、景気は回復を続けるが、そのテンポは緩やかなものにとどまる」という認識を共有した。

 多くの委員から、前回会合以降公表された経済指標などから、海外経済の回復を背景にわが国の輸出・生産・企業収益・設備投資の好循環が生じる、という回復のメカニズムが働いていることが確認されたとの認識が示された。

 まず、海外経済に関して、多くの委員は、米国経済はよりバランスの取れた成長の姿となってきているとの見方を示した。ある委員は、クリスマス商戦など家計支出は引き続き堅調であると述べた。何人かの委員は、生産や設備投資が回復していることに触れた。雇用については、ある委員が、12月の雇用統計をみると雇用回復の持続性に疑念が残る、とコメントした。一方、複数の委員は、一部に弱い指標もみられるものの、雇用の改善傾向は定着してきている、との評価を示した。別の複数の委員は、米国経済は想定よりも強く、潜在成長率を上回る成長となる蓋然性が高いと述べた。このうちひとりの委員は、需給ギャップが縮小するとみられることや、実質金利が自然利子率に比べて低位にあると考えられることを踏まえれば、年央以降ディスインフレーション傾向は弱まるのではないか、と付け加えた。

 この間、多くの委員が、米国経済や世界経済に対するリスク要因として「双子の赤字」の問題に言及した。ある委員は、双子の赤字に端を発するドル資産からの逃避や地政学的なリスクの顕現化といった通常の景気判断には織り込みにくいリスクが存在している、との認識を示した。何人かの委員は、国際資本市場の発展によって、対外不均衡の持続可能性は高まっていると述べた。ひとりの委員は、不均衡が縮小する可能性として、(1)アジア・欧州の内需の拡大、(2)米国の内需の低下、(3)為替相場の調整のいずれかが考えられるが、このうち(1)と(3)がある程度起こる形で不均衡を支えている、と整理した。複数の委員は、こうした状況下、アジアや日本による為替市場介入が行われ、その資金が米国債などの投資に向かっている、という面もあると指摘した。ある委員は、米国の金融資本市場は、ドル安、低金利を維持しながら、資本流入を図り、資産価格を支えるという微妙なバランスの上に立っている、と表現した。

 複数の委員は、世界的なIT需要の回復が、国際分業体制の中でNIEs諸国などにも好影響を与えている、と述べた。また、多くの委員が、中国について、高い成長を続けているとの認識を示した。このうち何人かの委員は、景気過熱のリスクや、電力不足などの供給面のボトルネック発生の可能性を指摘した。この点に関して複数の委員が、当局の引き締め政策の効果に注目していると述べた。

 ユーロエリアの景気について、複数の委員が底を打ったとの見方を示した。さらに、何人かの委員が、原油など一次産品の価格の上昇などもあって、中南米などのエマージング諸国においても、回復の動きがみられると指摘した。

 こうした下で、多くの委員が、世界同時回復の様相を呈しているとの認識を示した。ある委員は、世界経済は、成長率見通しの上方修正が続く中、株価は上昇し、金利は低位で安定するなど、順調な展開となっていると述べた。また、ひとりの委員は、先進国で構造改革や生産性の向上がみられることに加え、経済のグローバル化が進展していることから、高い成長の割には過熱感や金融資本市場での歪みなどは具体的に顕現化していない、とコメントした。

 多くの委員は、こうした海外経済の回復の影響は、わが国の輸出・生産・設備投資にも明確に表われているとの認識を示した。

 輸出については、東アジア向けのIT関連財や資本財、米国向けのデジタル家電などを中心に、かなりの増加となっているとの認識を共有した。

 また、生産も、大幅に増加していることが確認された。ある委員は、IT産業などでは中堅・中小企業を含めて業績の回復がみられると述べた。別のある委員は、デジタル家電は、わが国の得意分野であり、アナログ家電の更新という大きな潜在需要がある、として、その広がりに期待を表明した。この間、ひとりの委員は、10〜11月は、米国において高価なデジタル家電がクリスマス商戦に集中して売れたことなど一時的な要因もあり、1〜3月の生産は増加するにしても伸び率は鈍化するとみられるとの見解を述べた。またもうひとりの委員は、一部業種の在庫増加などを捉えて、生産は当面のピークを打つ懸念もあるとコメントした。

 設備投資については、半導体製造装置などIT関連を中心に回復しているという認識を共有した。ある委員は、設備投資は予想以上の強さと広がりを示していると述べた。別の委員は、生産能力指数が低下しており、企業の選択と集中の下、設備面の調整が進んでいる姿が窺われると述べた。この間、ひとりの委員は、10〜11月の資本財出荷は大幅増となったが、これには、いくつか大口スポット案件がみられたことなど一時的に良い材料が重なった面もある、と指摘した。別のある委員は、非製造業の機械受注は低迷していると述べた。もっとも、ひとりの委員は、来年度はスーパーの出店が増加する見込みであり、非製造業の設備投資の先行きや商業地価への影響にも注目しているとコメントした。

 企業収益について、ある委員は、上場企業のROA、ROEなどはバブル崩壊以降のピーク水準まで回復していると述べた。もっとも、中小・零細企業の収益回復ははかばかしくないと付け加えた。また、何人かの委員が、企業間の業績の格差は大きくなっていると指摘した。ある委員は、世界経済との接点の少ない地方経済や非製造業の一部は、低迷が続いているとコメントした。

 こうした企業部門の回復の雇用・所得環境や個人消費への波及は限定的である、との認識が共有された。

 ある委員は、企業のリストラ意欲はなお強く、企業業績回復の影響が所得面全般に波及する気配は感じられない、と述べた。別の委員は、賃金は全体としては下げ止まりつつあるが、所定内給与がわずかながらマイナスを続けているなど、当面は伸び悩むものとみられる、との見方を示した。この委員を含めて複数の委員が、先行き社会保険料負担が増えることなども加味すれば、可処分所得はより抑えられることになる、と指摘した。

 そうした下で、個人消費は、横ばい圏内の動きとなる可能性が高いとの認識を共有した。ある委員は、株価の回復や金融システム不安の後退などから消費者マインドは改善しているが、個人の消費態度にも2極化がみられるとコメントした。別のひとりの委員は、所得の減少が続いてきた中で、家計貯蓄率が低下していると指摘し、個人消費の先行きは楽観できないと述べた。

 物価面では、消費者物価は、需給ギャップの大幅な縮小が見込めないもとで、小幅の下落基調が続くと予想される、との認識を共有した。複数の委員は、現在予想されている程度の成長率では、デフレ克服には力不足であると述べた。このうちひとりの委員は、円高の中で輸入物価が下落を続けており、その影響も懸念されると付け加えた。

 この間、複数の委員は、当面は、内外商品市況や米・肉類の価格などの上昇の影響について、良くみていく必要があると指摘した。また、別の委員は、一部には、国際商品市況や海上運賃の上昇を受けて、製品価格に転嫁する動きもみられるとコメントした。この点に関連して、ある委員はグローバルな観点から、物価の動向についての見方を整理した。すなわち、素材などの国際商品市況は上昇しているが、中国の豊富な潜在的労働力や米国の高い生産性によって吸収されており、最終財の価格は下落している、と指摘した。そのうえで、中国での供給面のボトルネックの発生や米国での生産性上昇の一巡によって、こうした条件が崩れた場合の影響について、可能性は高くないにしても、意識しておきたいと述べた。この間、別の委員は景気回復の中でデフレマインドにも変化が生じないか注目していきたいと述べた。

2.金融面の動向

 多くの委員は、短期金融市場は安定しているとの認識を示した。ある委員は、年末特有のプレミアムの発生もみられず、昨年10月以降当座預金残高の目標レンジを拡大して柔軟な対応が可能な体制を整えておいた効果があったとコメントした。この間、複数の委員が、為替市場介入によるFBの大量発行について、市場が意識し始めていると述べた。

 また、多くの委員が、世界的に株価の上昇、長期金利の低下がみられると指摘した。複数の委員は、米国の長期金利の低下について、(1)高い生産性の下でコアCPIの上昇率の低下傾向が続いており、その下で金融緩和の長期化が予想されていることや、(2)為替市場介入資金を含めた資本の流入が続いていることが背景にあると指摘した。そのうえで、こうした状況に変化が生じ、米国の長期金利が上昇した場合、世界経済に悪影響を与えるリスクがあるとの見方が示された。

 多くの委員が、為替市場では、米国の「双子の赤字」への懸念等から、ドル安センチメントが強い状況が続いており、今後の動きとその影響には注意が必要であるとの認識を示した。

 何人かの委員は、対ユーロでは円高となっておらず、実効為替レートの上昇幅は円ドル相場ほどではないと指摘したうえで、世界経済が回復していることや、企業の体質強化や海外生産が進んでいることも踏まえれば、円高が企業業績に与える直接的な影響は現在までのところ大きくないと述べた。ただ、これらの委員は、同時に、これ以上の円高は日本経済に一層のデフレインパクトをもたらすとの懸念を表明した。このうちひとりの委員は、ドル安センチメントが強いことや、円がユーロに比べれば緩やかな上昇にとどまっていることを考えると、さらに円高が進むリスクもあると述べた。また別の委員は、さらなる円高は、連結ベースでの企業業績にネガティブな影響を与える惧れがあるほか、やや長い目でみると生産の海外移転などの動きを加速させ、中小企業などに影響を与える惧れもあり、企業心理は慎重さを増していると指摘した。

 銀行貸出について、ある委員は、銀行の貸出姿勢は積極化しているが、業績好調の企業は手許資金が潤沢で借入れニーズに乏しく、債務返済姿勢も強いとして、貸出が伸びる状況ではないと述べた。別の委員は、マネーサプライの伸び率低下について、金融情勢の安定化に伴って、より高いリターンを求めて資金シフトが生じたことによる面も大きく、広義流動性の伸び率は安定している、と指摘した。

 何人かの委員は、銀行券残高の伸び率が低下していることに関して、その背景には、(1)超低金利が長く続いたためこの面からの銀行券需要押し上げ効果が徐々に薄れてきていることや、(2)金融システムに対する不安感が後退してきていることなどがあると指摘した。このうちひとりの委員は、銀行券の動きの背景やその意味合いは、一般にはわかりにくい面もあるので、良く説明していく必要があると付け加えた。

3.中間評価

 以上のような経済・物価・金融面の情勢認識を踏まえ、10月の展望レポートで示した標準シナリオとの関係では、シナリオに概ね沿った動きを続けると予想される、との見方が共有された。

 多くの委員から、展望レポート公表時以降これまでの回復のペースは、輸出を中心にやや強めの滑り出しとなっている、との認識が示された。ただ、(1)これには、前述のデジタル家電販売の季節性や設備投資面のスポット案件など一時的な要因もあること、(2)雇用・所得や個人消費面への広がりはみられていないこと、などが指摘された。こうした認識の下で、足許の動きのみを捉えて、先行きを含めた標準シナリオが上振れているとするほどではないとの認識が共有された。

 こうしたシナリオが上振れまたは下振れるリスク要因としては、引き続き、(1)海外経済の動向、(2)金融・為替市場の動向、(3)不良債権処理や金融システムの動向および(4)国内民間需要の動向が挙げられる、との見方で一致した。また、海外経済については、下振れるリスクが展望レポート公表時に比べ小さくなっていると評価できる一方、金融・為替市場の動きとその影響には注意が必要である、との認識が共有された。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 当面の金融政策運営について、デフレ克服が展望できない中にあっては、デメリットよりもメリットの大きい有効な手段があるのであれば政策対応を行うべきであるという点については、委員の見解は一致した。

 複数の委員は、標準シナリオどおりであったとしても、均衡ある経済の姿が展望できていない以上、満足できるものではない、と述べた。別の委員も、(1)中間評価で概ね標準シナリオに沿った動きとの認識が共有されたが、これは、緩やかな景気回復と小幅の物価下落基調が続くということを意味する、(2)日本経済や日本銀行にとっての課題は、こうした景気回復の動きをより確かなものとし、デフレ克服を目指していくことである、との見解を示した。

 こうした認識のもとで、多くの委員は、当座預金残高目標を引き上げることで、日本銀行のデフレ克服に向けたスタンスを改めて明確に示し、景気回復の動きをより確かなものとすることが適当である、との意見を述べた。

 ある委員は、量的緩和政策は、流動性懸念の払拭や長めの金利を含めた金利・信用スプレッドの低位での推移など金融市場の安定や、緩和的な企業金融環境を維持することに寄与し、実体経済をしっかりとサポートしている、としたうえで、今回、一段と潤沢な資金供給を行うことを通じて、日本銀行のデフレ克服に向けたスタンスを改めて明確に示すことは、市場や人々に安心感を与え、ポジティブな行動を促すことにもつながる、と述べた。また、別の複数の委員も、景気回復の動きが明確になってきている中で、前向きのモメンタムを促す効果が期待できるのではないかとの見方を示した。これらの委員の中からは、こうした点は伝統的な金利低下の効果のように波及のメカニズムが明確ではないだけに、今後とも、効果や副作用をよく点検しながら政策運営を行っていく必要があるが、今回の目標引き上げによって経済主体のマインド面に好影響が生じることを期待するとの認識が示された。

 また、多くの委員が金融・為替市場の動向とその影響に注意が必要な状況となっていることを指摘した。この点、これらの委員は、円高が輸出や企業収益に与える影響という観点のみから問題を捉えることは適当でなく、国際的な不均衡の中で資本の流れが変化するリスクとその場合の世界経済・日本経済への影響というより大きな構図の中で捉える必要があるとの認識を示した。そのうえで、何人かの委員が、こうした背景のもとでさらにドル安・円高が進むことは、日本経済にとって不透明要因であると述べた。複数の委員は、輸出中心の回復過程にあることを踏まえると、円高に伴う将来のリスクの芽をつむとともに、経済を下支えしていくことが重要であるとコメントした。もっとも、このうちひとりの委員は、ターゲットの引き上げが直接的な円高対策のための追加緩和と受け止められるリスクもある、と付け加えた。

 また、短期金融市場の状況とその下での当座預金残高目標引き上げの効果についても議論があった。ある委員は、短期金融市場が落ち着いていることは事実であるが、金融機関のALM上のニーズなども踏まえれば、オペに対する需要はあるのではないかと述べた。別の委員は、為替市場介入の増加などによって市場では日本銀行の資金供給オペが減少するのではないかといった不安感があり、ターゲットの引き上げによって本行のスタンスを改めて示すことが適当であるとの見方を示した。もうひとりの委員も、資金吸収オペの頻度が高まり、介入資金の流入により金融機関間で資金の偏在がみられることなどを考えると、オペ技術上の観点からも引き上げが適当であるとコメントした。

 この間、ひとりの委員は、財政政策をあまり急速に引き締めないことで名目公債残高が伸びることと、マネタリーベースが伸びることが相俟って、デフレから脱却できるとコメントした。別の委員は、ペイオフ解禁を控えて金融システム問題の総仕上げの時期になるということを考えても、この段階で金融政策上の保険を掛けておく意味はあると述べた。

 これに対して、ひとりの委員は、量的緩和政策には、長めの金利を含めた金利の低下、スプレッドの低下など金融市場の安定や、流動性懸念の払拭など金融システム面の安定に効果があったとしつつ、こうした効果は、当座預金の積み増しによってこれ以上強まるとは考えられないとの見解を示した。また、短期金融市場は落ち着いており、金融機関の一部には日銀当座預金を圧縮する動きもある、と述べた。さらに、この委員は、短期金利がほぼゼロ%となっている下では、マネタリーベースと成長率・物価変化率・為替レートなどとの関係は理論的に明確でないし、特に90年代半ば以降は経験的にもはっきりしない、との見方を示したうえで、現在の状況で引き上げを行えば、マネタリーベースの低下に対応したものといった誤解を生じかねず、市場との対話を困難にさせる惧れがある、として現状維持が適当であるとの立場を採った。

 また、もうひとりの委員は、量的緩和政策は金融システムの安定性の維持・景気の下支えに貢献してきたが、(1)景気は概ね標準シナリオに沿った動きを続けており、むしろ足許ではやや上振れ気味で推移している、(2)金融システム不安の後退を背景に、短期金融市場も安定しているなどの状況下では、ターゲットの引き上げは、効果よりも副作用の方が大きく適当でない、と述べた。この委員は、時間軸に対する市場の信認は十分高くなっていると付け加えた。また、マネタリーベースは、ストックとしては十分供給されており、今はそれが動き出し、経済活動の活発化につながる芽が出てきているかどうか見極める時期にあると述べた。

 この委員は、量的緩和政策の副作用として、問題企業の退出や金融機関の不良債権問題への対処を遅らせてきた面があるほか、短期金融市場の機能を犠牲にしてきた、と述べた。これに対して、別の委員は、ある程度の市場機能の低下は覚悟のうえで、量的緩和政策を行ってきたのではないかとコメントした。この間、ある委員は、ごく一部に金融機関間でターム物取引が行われるなど市場機能の回復の芽もみられると指摘し、市場調節の面ではこうした点にも配慮することが適当である、と述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合では、財務省の出席者から、以下の趣旨の発言があった。

  • 政府は、これまでの構造改革の成果をさらに浸透させるとともに、構造改革の加速・拡大が重要であると考えている。こうした観点から平成16年度予算案においては、財政規律を維持しながらも民間活力を引き出すことに重点を置くなど、メリハリある配分による予算の質の向上を図ったところである。政府としては、今後とも各分野における構造改革を推進し、民間需要主導の持続的な成長を目指して参りたい。
  • わが国経済の現状をみると、設備投資や輸出の増加など企業部門を中心に景気は着実に回復している。このような中、依然として継続しているデフレの克服こそが我々が直面している最大の懸念である。デフレ克服に向け、日本銀行におかれては、今般決定された資産担保証券の買入要件の見直しなど、金融政策の波及メカニズムを強化するための取組みに加えて、デフレ心理の転換に向けて一段と工夫を講じられないか、さらなる検討を進め、さらに実効性のある金融政策を実施して頂きたい。
  • また、今後とも金利や為替の動向を含め、経済・市場動向について十分注視しながら、機動的な金融政策運営を実施して頂きたい。

 また、内閣府の出席者からは、以下の趣旨の発言があった。

  • 景気の基調判断については、19日の月例経済報告等関係閣僚会議において、「景気は、設備投資と輸出に支えられ、着実に回復している」と先月より上方修正して報告した。引き続き為替レートなど金融・資本市場の動向には留意する必要があると考えている。
  • 日本経済の重要な課題は、デフレを早期に克服することおよび内需主導の自律的回復を実現することである。このため政府は、「平成16年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」および「改革と展望─2003年度改定」を19日に決定し、平成16年度予算案を国会に提出したところである。
  • デフレ克服のためには、構造改革の加速・拡大の政策努力を進める中で、政府の行うより強固な金融システムの構築に向けた取組みと日本銀行による金融政策の波及メカニズムの強化等を通じ、資金供給が拡大していくことが重要である。「改革と展望」でも、政府、日本銀行一体となった取組みにより、集中調整期間の後にはデフレが克服できるという経済の展望を示している。
  • 日本銀行におかれては、消費者物価指数を基準とする量的緩和政策継続のコミットメントを明確にされているが、今後とも金融・資本市場の動向にも留意の上、「改革と展望」で示したような中期の経済の姿を実現するために、デフレ克服を目指してさらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。

VI.採決

 以上の議論を踏まえ、多くの委員は、当面の金融市場調節方針について、当座預金残高目標を引き上げ、30〜35兆円程度とすることが適当である、との考え方を共有した。その際、実際のオペレーションに当たっては、従来と同様の考え方に立って、均してみれば33兆円程度となることを目処として、運営することとする、との認識が確認された。

 議長からは、このような見解をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出され、採決に付された。

議案(議長案)

1.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとすること。

 日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

2.対外公表文は別途決定すること。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:田谷委員、須田委員

 田谷委員は、現在当座預金残高目標の引き上げの効果が期待できる状況になく、様々な誤解を生む惧れがある、として反対した。

 須田委員は、(1)景気は標準シナリオの概ね範囲内であるが上振れ気味であること、(2)短期金融市場は安定していること、(3)金融システム不安はかなり後退し、当座預金需要が減る兆候もみられること、(4)金融市場調節上のテクニカルな問題はないことなどから、反対した。なお、量的緩和政策の軸足を量拡大から波及メカニズムの強化に移すことが望ましい、と付け加えた。

VII.対外公表文の検討

 続いて、対外公表文について検討が行われ、採決に付された。採決の結果、別紙2の対外公表文が賛成多数で決定され、即日公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:福井委員、武藤委員、岩田委員、植田委員、中原委員、春委員、福間委員
  • 反対:田谷委員、須田委員

VIII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定された。

 この「基本的見解」は当日(1月20日)中に、また、これに背景説明を加えた「金融経済月報」は1月21日に、それぞれ公表することとされた。

IX.議事要旨の承認

 前回会合(2003年12月15、16日)の議事要旨が全員一致で承認され、1月23日に公表することとされた。

X.金融政策決定会合の開催予定日等の変更の承認

 最後に、2004年2月第1回目の金融政策決定会合の開催予定日等を、別紙3のとおり変更することが承認され、即日対外公表することとされた。

以上


(別紙1)
2004年 1月20日
日本銀行

資産担保証券の買入基準見直しについて

  1. 日本銀行は、昨年12月の政策委員会・金融政策決定会合における議論を受けて、資産担保証券の買入基準に関して見直しの余地があるかどうかについて検討を行ってきたが、本日の金融政策決定会合において、買入基準の見直しを決定した1(全員一致)。
  2. 金融緩和効果の浸透を図るためには、金融資本市場の機能が十分に発揮されることが不可欠である。日本銀行では、こうした認識の下、資産担保証券市場の基盤整備に向けた市場参加者の様々な努力を支援しており、資産担保証券の買入れもそうした支援の一環である。
  3. 今回の資産担保証券の買入基準の見直しは、実際の買入れを通じて蓄積してきた経験を踏まえ、市場関係者から寄せられた意見も参考にしつつ判断したものであり、資産担保証券市場の長期的な発展に資するものと考えている。
  1. 見直しの内容については「『資産担保証券買入基本要領』の一部改正等について」を参照。

以上


(別紙2)
2004年 1月20日
日本銀行

金融市場調節方針の変更について

  1. 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、金融調節の主たる操作目標である日本銀行当座預金残高の目標値を、これまでの「27〜32兆円程度」から「30〜35兆円程度」に引き上げることを決定した(別添)
  2. わが国の景気は緩やかに回復しており、先行きについてもその持続が見込まれる。ただ、回復のテンポは、過剰債務など構造的な要因が根強いもとで、なお緩やかなものに止まると考えられる。消費者物価は、需給バランスが徐々に改善しつつもなおかなり緩和した状況の中、引き続き小幅の下落基調を辿るものと予想される。この間、金融・為替市場の動きとその影響には注意が必要である。
  3. 日本銀行は、以上のような情勢を踏まえ、デフレ克服に向けた日本銀行の政策スタンスを改めて明確に示し、今後の景気回復の動きをさらに確かなものとする趣旨から、当座預金残高の目標値の引き上げを行うことが適当と判断した。

以上


(別添)
2004年 1月20日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。  日本銀行当座預金残高が30〜35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上


(別紙3)

金融政策決定会合等の日程(2004年1月〜6月)

 横線のとおり変更

  会合開催 金融経済月報
(基本的見解)公表
(議事要旨公表)
2004年1月 1月19日(月)・20日(火) 1月20日(火) (3月2日(火))
2月 2月4日(水)・5日(木)
2月5日(木)・6日(金)
2月26日(木)
2月5日(木)
2月6日(金)
----
 
(3月19日(金))
(4月14日(水))
3月 3月15日(月)・16日(火) 3月16日(火) (4月14日(水))
4月 4月8日(木)・9日(金)
4月28日(水)
4月9日(金)
----
(5月25日(火))
(6月18日(金))
5月 5月19日(水)・20日(木) 5月20日(木) (6月30日(水))
6月 6月14日(月)・15日(火)
6月25日(金)
6月15日(火)
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未定
未定
  1. (注1)金融経済月報の「基本的見解」は原則として15時に公表(ただし、決定会合の終了時間などによっては変更する場合がある)。
  2. (注2)金融経済月報の全文は「基本的見解」公表の翌営業日(14時)に公表(英訳については2営業日後の16時30分に公表)。
  3. (注3)「経済・物価の将来展望とリスク評価(2004年4月)」の「基本的見解」は、4月28日<水> 15時(背景説明を含む全文は4月30日<金>14時)に公表の予定。

以上