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金融政策決定会合議事要旨

(2002年 1月15、16日開催分) *

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、2002年2月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

2002年 3月 5日
日本銀行

開催要領

1.開催日時
2002年 1月15日 (14:00〜15:51)
2002年 1月16日 ( 9:00〜12:39)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優 (総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 三木利夫(審議委員)
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
  • 田谷禎三(  審議委員  )
  • 須田美矢子(  審議委員  )
  • 中原 眞(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 財務省 藤井 秀人 大臣官房総括審議官(15日)
    谷口 隆義 財務副大臣(16日)
  • 内閣府 小林 勇造 内閣府審議官

(執行部からの報告者)

  • 理事松島正之
  • 理事増渕 稔
  • 理事永田俊一
  • 企画室審議役白川方明
  • 企画室参事役和田哲郎(16日、9:00〜9:30)
  • 企画室参事役雨宮正佳
  • 金融市場局長山下 泉
  • 調査統計局長早川英男
  • 調査統計局企画役吉田知生
  • 国際局長平野英治

(事務局)

  • 政策委員会室長横田 格
  • 政策委員会室審議役中山泰男
  • 政策委員会室調査役斧渕裕史
  • 企画室企画第2課長梅森 徹(16日、9:00〜9:30)
  • 企画室調査役長井滋人
  • 企画室調査役清水誠一
  • 金融市場局金融市場課長大澤 真(16日、9:00〜9:30)
  • 金融市場局調査役栗原達司(16日、9:00〜9:30)

I.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(12月18、19日)で決定された方針1にしたがって運営した。

  1. 「日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。」

 すなわち、12月末にかけて日銀当座預金残高を15兆円程度まで徐々に増加させる調節を行い、1月入り後も概ねその水準を維持した。こうした調節のもとで、無担保コールレート翌日物(加重平均値)は、年末日を含めて0.001〜0.002%と既往最低水準での動きとなった。

 なお、1月11日以降、国債借入オペ、CP現先オペにおいて、オファー額に対して応札額が下回る「札割れ」が発生している。これは、年度内を中心に資金余剰感が強い中、年度内にエンドを迎えるオペに対する応札意欲が大きく減少したためである。今後、オペの種類の選択や期間の設定を工夫しつつ、円滑な資金供給に努めていきたい。

2.金融・為替市場動向

(1)国内金融資本市場

 前回会合以降、国内金融資本市場は、総じてみれば落ち着いて推移している。

 まず、ターム物金利は、前回会合における追加緩和措置を受けて、年末および年度末越えの資金調達に対する安心感が広がったことから、全体として低下している。年度末越えとなる3ヶ月物ユーロ円レートも、やや強含んでいるとはいえ、0.1%程度と極めて低水準で推移している。

 株価は、年初にかけて幾分持ち直したが、最近では弱含みで推移している。業種別にみると、輸出関連株が円安の進展が好感されたことから比較的堅調に推移した。一方、銀行株は、公的資金再注入を巡る思惑等から一旦反発をみたが、ごく足許では不良債権処理負担の増加見通しを背景に、再び売りが優勢な展開となっている。

 国債流通利回りをみると、残存期間2年以内では先月の追加緩和措置の影響もあって低下している一方、3年超のゾーンでは、入札を控えたポジション調整の動きなどからやや上昇している。ただ、来年度の国債発行計画が市場予想の範囲内の内容であったことや景気情勢の悪化が続いていることを背景に、市場では、長期金利の大幅な上昇を見込む先は少ない。

 この間、社債市場におけるクレジット・スプレッド(社債流通利回りと国債流通利回りの格差)は、低格付債を中心に拡大傾向が続いている。このうちトリプルB格債については、信用リスクが強く意識された98年初のレベルに達している。また、銀行セクター債の信用リスク・プレミアムも、全体として拡大傾向にある。

(2)為替市場

 円の対米ドル相場は、米景気指標の予想比上振れに加え、わが国通貨当局による円安容認を巡る思惑の強まりもあって、127円台から133円台に下落した。もっとも、市場のセンチメントは、今後、一方的な円安が進展するとの相場観にはなっていないようである。この背景としては、米国景気の先行きがなお不透明であることや、アジア諸国から円安を牽制する発言が聞かれ始めていること等が指摘できる。

3.海外金融経済情勢

 海外経済は、全体として減速が続いている。米国では生産・在庫調整圧力が減じているほか、アジア諸国でも輸出減少テンポが鈍化しつつあるものの、先行きはなお不透明である。

 まず、米国経済の動向をみると、これまでの継続的減産の結果、在庫調整はかなりの程度進捗し、企業の景況感指数(ISM指数)や消費者コンフィデンス指数も改善している。クリスマス商戦については、まずまずの仕上がりとなった模様であり、個人消費の底固さも窺われる。こうしたことから、今年前半の景気底入れ、年央以降の緩やかな景気回復が一応展望できる。しかし、(1)雇用情勢の一段の悪化に伴う消費の腰折れ、(2)収益環境の悪化を背景とした設備投資調整の長期化といったダウンサイド・リスクになお留意すべき状況にあると考えられ、米国景気の先行きは依然として不透明である。

 米国金融市場では、株価が先行きの景気回復期待から堅調に推移してきたが、足許では、企業収益に対する慎重な見方が広がり、やや軟調な展開となっている。また、株価収益率、イールド・スプレッドといったバリュエーション指標をみると、このところ、株価の割高感が強まる傾向にある。

 欧州では、輸出の伸び鈍化、設備投資の減速などから、全体として景気の減速が続いており、とくにドイツでは既に景気後退局面にある。もっとも、これまでの減産による在庫調整の進捗などから、12月の製造業PMI(ユーロエリア購買者指数)が2か月連続の改善となるなど、足許では、減産テンポが緩やかになる兆しも窺われている。また、物価面では、消費者物価指数(HICP)の上昇率は、このところ低下傾向を辿っている。

 NIEs、ASEAN諸国でも、総じて景気の減速が続いている。ただ、輸出の減少テンポは、半導体等の在庫調整進捗を背景とする情報関連財輸出の減少幅縮小を主因に、このところ鈍化しつつある。

 この間、アルゼンチンでは、政治・社会的混乱が発生する中で、公的対外債務の支払停止措置や通貨切り下げが発表されるなど、事態は深刻さを増している。こうした情勢を背景に、アルゼンチン国債の対米国債スプレッドは高止まりしている。アルゼンチン情勢の先行きは不透明感が強く、その他エマージング諸国への影響を含めて、注意が必要である。

4.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 景気の現状について、「広範に悪化している」との前月の総括判断を変える材料は得られていない。昨年初来、最初に悪化をみた輸出や生産の減速テンポは幾分緩やかになり始めた。これらの調整が順調に進み、後に述べるリスクが顕現化しなければ、年央頃には、在庫調整が一巡し、生産が底に達する可能性がある。その一方で、雇用・所得環境や消費については、ここへきて遅れて調整が広がっている。

 需要項目別にみると、輸出は10、11月と僅かに増加したが、米国向け自動車の増加など、一時的と考えられる要因が影響しており、基調としては引き続き減少傾向にあるとみられる。ただし、情報関連財については、輸出の減少幅が大きく縮小している。世界的な情報関連財の在庫調整がかなり進捗しているほか、為替円安の効果もあって、先行き、わが国の輸出の減少テンポは緩やかになっていくものと考えられる。

 設備投資は、減少が続いている。先行きも、企業収益等の投資環境や機械受注の動きを踏まえると、これまで減少が顕著であった情報関連の製造業だけでなく、非製造業を含めたより幅広い業種で減少する可能性が高い。

 個人消費は、個別の販売指標の一部には底固い動きもみられたが、総じてみれば、弱めに推移している。消費者コンフィデンスも引き続き慎重化している。個人消費の基盤となる雇用・所得環境は、厳しさを増している。失業率が上昇を続けているほか、有効求人倍率も、求職者数の増加から、低下テンポがやや速まっている。また、雇用者所得の弱さも明確化してきている。これらを背景に、先行きの個人消費は、弱めの動きが続く可能性が高い。

 このような最終需要の動向を受けて、生産は大幅な減少を続けている。ただ、在庫調整の進捗から、電気機械を中心に生産の減少幅が幾分縮小し始めている。先行きも、生産の減少テンポは緩やかになるものと予想される。

 物価については、引き続き緩やかな下落傾向を辿っているが、そのうち国内卸売物価では、マイナス幅が幾分縮小する兆しが窺われる。その背景としては、(1)国際商品市況において、原油や非鉄の価格が反発しつつあること、(2)国内商品市況も一部に上昇の兆しがみられること、(3)為替円安が輸入物価の下支えに寄与すること等が指摘できる。一方、消費者物価は、石油製品をはじめ幅広い財でこのところ下落幅が拡大している。また、賃金が弱めに推移していることの影響が、今後、サービス価格にどう波及していくかについて、注意が必要である。

 景気・物価情勢の先行きを展望するうえでは、とくに、(1)米国をはじめとする海外の経済の先行きには依然不確実な要素が多い、(2)国内では、大型倒産の増加などが消費者心理や企業金融に悪影響を及ぼすおそれがある、といったリスク要因に留意する必要がある。

(2)金融環境

 銀行貸出は、前年比2%程度の減少が続いている。金融機関では、先行き3月にかけて、資金需要のさらなる落ち込みを予想している。

 市場を通じた資金調達をみると、12月のCP発行残高は既往ピークとなったが、前年比伸び率は鈍化を続けている。社債市場では、低格付け社債の発行量が大きく減少している。

 以上を総合した民間部門の総資金調達をみると、前年比減少幅が拡大傾向にある。

 量的金融指標の動きをみると、12月のマネタリーベースは、日銀当座預金の大幅な増加を主因に、一段と伸びを高めた。また、M2+CDの伸び率も、MMFから普通預金等への資金シフトを背景に、前年比3.4%と、前月(同3.2%)に比べて伸び率が拡大した。先行き1〜3月のM2+CDについては、郵便貯金からの資金シフトの動きが一巡する中で、民間資金需要が一段と落ち込むとみられることから、前年比伸び率は幾分鈍化する見通しである。

 企業の資金調達コストは、総じてみれば極めて低い水準で推移している。ただ、長期プライムレートは、利金債の対国債スプレッドが拡大していることから2か月連続で上昇した。一方、12月中旬まで上昇傾向にあったCP発行金利は、12月の追加緩和措置を受けて高格付けCPを中心にやや低下している。ただし、低格付けCPについては、目立った発行レートの低下がみられていない。

 このように、金融環境は、総じてみれば、きわめて緩和的な状況が続いているが、中小企業からみた銀行の貸出態度は徐々に厳しさを増しており、信用力の低い企業の資金調達環境は悪化する方向にある。このため、今後の金融機関行動や企業金融の動向には、十分注意していく必要がある。

II.「適格担保取扱基本要領」、「国債売買基本要領」および「手形買入における買入対象先選定基本要領」の一部改正等の決定

1.執行部からの提案内容

(1)金融市場調節手段の拡充のためのオペ対象資産・適格担保の拡大

 12月19日の政策委員会決定を受け、オペ対象資産・適格担保の拡大を図るため、「適格担保取扱基本要領」等を一部改正し、(1)資産担保CP(以下ABCP)のCP現先オペ対象化・適格担保化、(2)資産担保債券(以下ABS)の裏付け資産の範囲拡大(不動産、住宅ローン債権の追加)、(3)パス・スルー債券等の分割償還が行われることがある債券(住宅ローン債権を裏付けとするABS、財投機関等債券等)の適格担保化、の3つの措置を講じることとしたい。なお、ABCPの担保受入・CP現先オペ対象化は2月中、不動産、住宅ローン債権を裏付けとするABSの担保受入は3月半ばまでに、それぞれ開始する予定である。

(2)国債買入オペにおける対象銘柄選定ルールの見直し

 国債買入オペにおいては、昭和42年の同オペ開始時より、「実質的な中央銀行による国債引受」との見方を排除するため、買入対象から「発行後1年以内のもの」を除いている(以下「1年ルール」)。しかし、最近、国債の発行・流通市場が格段に整備されてきているため、「1年ルール」を定めた「国債売買基本要領」および「日本銀行業務方法書」を一部改正・変更し、買入対象を「発行後1年以内のもののうち発行年限別の直近発行2銘柄を除く」国債に拡大することとしたい。

(3)手形買入の対象先選定基準の見直し

 金融調節の一層の円滑化を図る観点から、「手形買入における買入対象先選定基本要領」を一部改正し、(1)手形オペ(全店買入)対象先選定の頻度を、現行の「年1回」から「年間を通して実施」に変更するとともに、(2)手形オペ(本店買入)のオペ対象先選定基準に「手形買入(全店買入)オペの落札実績」を追加することとしたい。新たな選定基準に基づくオペ対象先選定は、全店買入については2月初より、本店買入については5月頃に予定している次回選定時より、それぞれ行う予定である。

2.委員による検討・採決

 以上の提案について、ほとんどの委員が、金融市場調節の一層の円滑化と資金供給能力の強化に繋がるとして、賛意を示した。このうちひとりの委員は、国債買入オペにおける「1年ルール」の見直しはあくまで国債市場の整備が進んだことを踏まえたものであり、今回の措置が、国債買入オペをどんどん増額するとの思惑に繋がらぬよう、対外説明には万全を期してほしい、との意見を述べた。一方、別のひとりの委員は、日本銀行が企業金融の領域に過度に踏み込むべきではないとの考えから、上記3つの提案のうち、オペ対象資産・適格担保の拡大には反対である、と発言した。

 採決の結果、(1)金融市場調節手段の拡充のためのオペ対象資産・適格担保の拡大については賛成多数、(2)国債買入オペにおける対象銘柄選定ルールの見直し、および(3)手形買入の対象先選定基準の見直しについては全員一致で、それぞれ決定され、適宜の方法で公表することとされた。

オペ対象資産・適格担保の拡大に関する採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)従来から主張してきたとおり、中央銀行が企業金融の分野に踏み込むことは適当ではなく、金融緩和は正統的な手段で行うべきである、(2)ABS等の市場規模は小さく、今回の措置は限定的な効果しか有しない、として上記採決において反対した。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

1.景気の現状と先行き

 景気の現状については、大方の委員が、「輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している」との前月の総括判断を維持することが適当である、との認識で一致した。

 そのうえで、何人かの委員は、このところ、情報関連分野を中心に輸出・生産の落ち込むテンポが幾分緩やかになっている点を指摘した。もっとも、これらの委員を含め多くの委員は、米国をはじめ世界経済の動向にはなお不確実性が高いことや、雇用・所得環境の悪化等から個人消費がさらに弱まる懸念があることから、景気の先行きは引き続き不透明である、との見解を示した。

 まず、海外経済情勢について、議論が行われた。

 多くの委員は、(1)情報関連分野における過剰在庫の調整が着実に進み、世界の半導体出荷の減少テンポが緩やかになるとともに、半導体市況にも底入れの兆しがみられる、(2)注目していた米国クリスマス商戦では、大幅な落ち込みが回避された、とポジティブな材料が出てきたことを述べた。ある委員は、米国の積極的な金融・財政政策や原油価格の下落などが、引き続き景気回復の支援材料になっている、と付け加えた。何人かの委員は、本年半ば以降の米国経済回復というシナリオは維持されており、米国の金融市場では、先行きの景気回復を織り込む動きが広がっている、と指摘した。

 もっとも、これら多くの委員は、同時に、(1)今後、自動車をはじめ広範な値引き販売の反動減が懸念される、(2)雇用・所得環境の悪化や消費者の過剰債務体質が、個人消費の伸びを抑える可能性がある、(3)企業収益の回復力は乏しく、設備投資の増加は見通しがたい、など、米国の最終需要の回復が確認されていないことから、先行きは依然として不確実性が高い、との考えを共有した。さらに、より慎重な見方を示すひとりの委員は、米国について、株価がミニバブル的状況にあることに加え、失業率の上昇、設備投資の頭打ち、輸入の減少等からみて、年央に回復するというシナリオは達成困難ではないか、との認識を述べた。

 また、ある委員は、アルゼンチン情勢の他国への影響は、現在のところ窺われていないが、世界経済のリスク要因として引き続き注意を要すると付け加えた。

 次に、国内経済の現状と先行きについて、討議が行われた。

 まず、企業部門については、何人かの委員から、輸出は減少基調が続いているものの、減少度合いは幾分和らいでいる、との見解が示された。このうちひとりの委員は、とくに、対米、対東アジアの電機関連の輸出について、下げ止まり感が窺われつつある、と指摘した。こうした輸出動向を背景に、多くの委員から、電子部品を中心に在庫調整が進捗しているほか、生産についても減少テンポが緩やかになっている、との見方が示された。ただ、ひとりの委員は、先行きの生産を左右する在庫調整の終了見込み時期は財の種類によって様々であるうえ、生産拠点の海外シフトが続くことが予想されるため、生産が下げ止まるにはなお時間を要する、との考えを述べた。

 設備投資に関しては、複数の委員が、引き続き減少傾向にある、と発言した。このうちひとりの委員は、設備投資の減少は、これまでの情報関連の製造業に加えて、非製造業を含めたより広範な業種で悪化する可能性がある、との認識を示した。また、ある委員は、価格下落と量の落ち込みから企業収益が大きな打撃を受けているとの見方を述べた。

 家計部門については、多くの委員が、雇用・所得環境が悪化し、個人消費が弱まっているとの見解を述べた。

 他方で、別のある委員は、各種の指標を点検すると、自動車や家電販売は減少しているものの、外食や国内旅行、百貨店販売等、一部に底固い動きもあり、消費はかろうじて「平時」の範囲を維持している、との見方を示した。この委員は、消費が持ちこたえている間に経済全体を立て直すことが重要である、と付け加えた。

 物価動向に関して、ある委員は、国内卸売物価については、最近の為替円安の影響もあって、一部に下げ止まりの兆しも出始めているとの認識を示した。この委員は、在庫調整の進展を背景に需給バランスが改善しつつある財については、価格引き上げの動きも出てきている、と指摘した。

 なお、別のある委員は、原油価格について、一段の減産と世界景気動向との綱引きになっており、依然として下値を模索している、と述べた。

 以上のようなわが国の景気情勢について、複数の委員は、「来年度下期にかけて、景気は全体として下げ止まりに向かう」という昨年10月の展望レポートにおける標準シナリオを大きくは逸脱していない、との認識を示した。ただ、これらの委員は、同時に、引き続き下振れリスクに注意を払う必要がある、と発言した。

 具体的な先行きのリスク要因としては、多くの委員が、米国をはじめとする世界経済の動向を挙げた。さらに、これらの委員は、金融システムや企業金融の動向や、その実体経済への影響については、細心の注意が必要である、と強調した。そのほか、ある委員は、地方財政の悪化や地方と大都市圏との二極化の進展、さらには中小企業倒産の増加等を背景に、地方経済の悪化が深刻さを増していることも注目すべきである、との考えを述べた。

 この間、ある委員は、他の委員に比べてより慎重な景気判断を示した。この委員は、その理由として、(1)景気動向指数からみて、景気悪化の度合いは過去最悪の第1次オイルショック後の状況に匹敵しており、なお回復の兆しはみられていない、(2)需給バランス、投資採算、投資のGDP比率からみて、中期循環的に設備投資が下降局面にあるほか、建設投資も長期的な循環でみて大底に向かいつつある、といった点を指摘した。同じ委員は、同時に、もう少し長いスパンで見通すと、過剰債務、過剰設備、過剰雇用という先送りされた諸問題の総決算の時期が遅くとも2〜3年内に来るものの、その後の先行きには、ほのかな光が見えてきた、と述べた。その理由のひとつとして、バブル期以前の80年代初頭の銀行貸出残高対名目GDP比を適正な貸出規模のひとつの目途と考えると、あと25兆円程度貸出を縮小すれば、オーバーレンディングについて一応の調整が終わるとみられる点を挙げた。

2.金融面の動向

 まず、12月の追加金融緩和措置の効果という観点から、最近の金融市場動向に関する議論があった。多くの委員は、(1)短期金融市場では、大きな混乱なく年末を越えることができたほか、年度末に向けても、資金調達に対する安心感が広がっている、(2)12月上旬にやや強含み傾向にあったターム物金利は、再び低下をみている、(3)CP市場では、高格付け企業を中心に発行レートが低下している、といった点を挙げて、12月の措置の効果は短期市場を中心に徐々に現れている、との認識を共有した。

 一方で、複数の委員は、日本銀行による潤沢な資金供給にもかかわらず、社債にかかる信用スプレッドや株価における二極化傾向が一段と進んでいることを指摘した。このうちのひとりの委員は、現在の強力な金融緩和策のもとで、97〜98年にみられたような流動性や資金繰りに対する懸念はかなり抑え込まれているが、信用リスクに対する警戒感は相当強まっている、との見方を示した。別のある委員も、日本銀行の供給する「流動性」によって、「信用」の問題に対処することには限界がある、との考えを述べた。

 この間、ひとりの委員は、量的ターゲット導入後の政策運営およびその効果について総括した。この委員は、当初は困難と思われた水準にまで日銀当座預金残高を増額することができた背景として、昨年秋以降の金融システム不安、年末・年度末を控えた流動性需要の高まり、超低金利下での短期金融市場の仲介能力低下などの要因を指摘した。そのうえで、前回会合以降の追加的資金供給の結果、資金調達に対する安心感の広がりやターム物金利の低下等の効果がみられたが、中長期の金利や株価、為替相場には目立った影響が観察されていない、と続けた。この委員は、このように、ポートフォリオ・リバランス効果だけでなく、15兆円前後という思い切った水準への当座預金増額が市場等の期待形成に働き掛ける効果も、これまでのところはっきりとは現れていないと整理したうえで、こうした効果の有無について、今後の動きを見守りたい、と述べた。

 このところ円安が進んでいる為替相場の動きについても、多くの委員が意見を述べた。何人かの委員は、内外の経済情勢の格差を踏まえると、現状は、株価の弱さ、長期金利の低位安定と合わせて、経済のファンダメンタルズと整合的な動きではないか、との趣旨を発言した。そのうち、ある委員は、円安は企業のリストラや生産性向上のインセンティブを阻害するおそれがあるが、短期的には、企業収益や物価にプラスに作用する面がある、との見解を示した。

 他方、別のある委員は、足許の円安は日米のマネタリーベースの伸び率格差が影響している面が強いとしたうえで、日米の労働生産性や単位当たりの労働コストの格差、さらには購買力平価を勘案すると、円はなおかなり過大評価されている、との見方を示した。また、もうひとりの委員は、物価を勘案した実質為替レートを安定させるとの観点からは、デフレを解消しようとするのであれば、それに見合うだけの円の減価が必要になる、との認識を述べた。

 これに対して、ひとりの委員は、アジア諸国等から円安を問題視する声が出始めていることを紹介するとともに、金融システム不安が懸念される中での一段の円安進行は、市場の日本経済全体に対する見方に悪影響を及ぼす、と述べた。

 こうした議論を受け、何人かの委員は、為替市場が様々な思惑で動きやすいことを踏まえ、当局者は為替相場に関する発言は慎むべきであることを強調した。

 このほか、金融市場動向に関して、ある委員は、長期金利がこれまでのレンジの上限近くで推移していることに着目し、日本国債のリスクに対する警戒から先行き金利上昇圧力が生じるおそれがある、と指摘した。もうひとりの委員は、国債先物相場が昨年半ばから秋にかけて高値を付けた後に下落しており、チャート的にみて要注意のレベルにあることを指摘したほか、株価についても今後の安値更新のリスクを念頭に置くべきである、との考えを述べた。

 次に、多くの委員が当面のリスク要因のひとつと位置付けている企業金融について、議論があった。まず、何人かの委員は、金融機関が企業に対して信用リスクに見合った適正なスプレッドを求めることは当然であるし、また、金融システムの健全化のために必要なことである、との見解を述べた。ただ、最近の情勢をみると、(1)中小企業からみた銀行の貸出態度が厳しさを増している、(2)社債の信用スプレッドの二極化傾向が強まっている、ことなどから、中小企業や信用力の低い企業の資金調達環境は悪化している、との認識を合わせて示した。ある委員は、年度末に向けて、円滑な中小企業金融を確保することが肝要であり、そのためには公的金融の活用もひとつの選択肢になる、との考えを示した。そのほか、別のある委員は、2001年1〜9月の資金循環統計からみて、企業間信用等が大きく収縮しているのではないか、との見方を述べた。

 金融システムの現状についても、意見が交わされた。何人かの委員は、銀行株が低迷していることや、銀行社債・金融債の信用スプレッドが拡大傾向にあること等を踏まえると、金融システムに対する市場の見方は引き続き厳しい、との認識を明らかにした。また、複数の委員は、不良債権への十分な引当やオフバランス化を行うことが必要であり、そのうえで自助努力により自己資本充実が図れない先には、公的資本の再注入もやむを得ないのではないか、との見解を述べた。

 他方、別のある委員は、金融機関のリスク・テイク機能が低下していると考えられる中、ここで公的資本を注入しても、金融機関の貸出が直ちに増加すると期待することには無理がある、との認識を示した。さらに、信用リスクに対する過度な警戒感を緩和するには、企業部門の過剰な供給力が削減され、企業収益が持続的に回復する道筋が明らかになる必要がある、と続けた。もうひとりの委員も、資本注入は避けられないと思われる一方で、それが直ちに銀行に対する市場の評価の改善に繋がるかどうかは不確実であるとした。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 続いて、当面の金融政策運営について、検討が行われた。

 大方の委員は、足許の景気について、輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるなど、広範に悪化している、との見解を共有した。さらに、当面は、米国をはじめとする海外経済の動向に加えて、わが国の金融システムや企業金融の動きを注視する必要がある、との認識でほぼ一致した。

 そのうえで、ほとんどの委員は、こうした金融経済情勢を十分踏まえて12月の追加緩和措置を講じたところであり、(1)現状の金融市場調節方針を継続し、潤沢な資金供給を通じて市場の安定に努め、(2)日銀当座預金残高の大幅な増額が金融機関行動や金融市場に与える影響を見極めることが適当である、との考えを示した。このうち何人かの委員は、とくに3月期末にかけて、流動性の面から市場に安心感を与えることが重要である、と主張した。さらに、別のある委員は、日本銀行が緩和的な金融環境の維持に最大限の努力を続けていくもとで、政府および民間における構造改革への取り組みが着実に進められることを強く期待している、と付け加えた。

 金融市場調節の具体的運営方法についても、意見が出された。複数の委員は、「10〜15兆円程度」というレンジの中で、「可能な範囲でレンジの上の方を目指す」というこれまでの調節運営を続けることが適当である、との考えを述べた。この間、オペの「札割れ」が発生し始めたことについて、ある委員は、それだけ日本銀行がぎりぎりまで資金供給を行っていることの証拠である、と述べた。この委員を含めた複数の委員は、「札割れ」が続く中での資金供給努力が金融市場や実体経済活動にどのような効果を及ぼすかを見極めたい、との考えを示した。

 次に、金融システム不安への対応について、議論があった。ある委員は、万が一、金融面のリスクが顕現化し、市場の流動性不安が高まった場合には、機動的に潤沢な資金供給を行うことが必要であり、この点は、金融市場調節方針の「なお書き」で十分対応可能である、との見解を述べた。また、複数の委員は、金融危機への対応策を具体的に示すことが市場に安心感を与えるとして、期末にかけて、金融システム問題に関する政府との連携が重要である、との考えを述べた。別のもうひとりの委員は、これらの議論を整理し、(1)大量の流動性供給およびロンバート型貸出ファシリティーの提供により、マクロの金融政策としてできることはすでに行っている、(2)何らかのイベント・リスクに対しては、さらなる流動性供給が可能かつ適当な対応である、(3)さらに、システミック・リスクに対しては、マクロの金融政策とは別の枠組みでの政策発動が必要となり、その際、日本銀行としてできることを適切に行っていくことは当然である、と総括した。

 また、複数の委員は、長期金利の動きについても注意を要すると発言した。このうちひとりの委員は、景気情勢如何によっては財政政策の役割が一段と重要となりうる中、財政運営についての市場の信認確保が不可欠であり、中期的にサステイナブルな財政見通しが提示されることが鍵になる、との考えを示した。

 この間、景気情勢について他の委員に比べて一段と慎重な見方を有する別のひとりの委員は、「wait and see」の受け身的な政策対応では不十分であるとして、(1)物価水準ターゲットの導入、(2)資金供給の円滑な実施のための外債買入れ開始、(3)日銀当座預金残高目標を15兆円程度とする調節方針、を提案したいと述べた。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中では、財務省からの出席者から、以下のような趣旨の発言があった。

  •  政府は、平成14年度予算において、歳出の効率化を進める一方、予算配分を重点分野に大胆にシフトする改革断行予算を編成した。また、14年度予算に先立ち、13年度第2次補正予算を提出し、両者一体として、柔軟かつ大胆に経済に対応しつつ構造改革を実現していくこととしている。
  •  前回の金融政策決定会合において、金融緩和措置が講じられた結果、短期金融市場は混乱なく年末を乗り越えた。今後とも、経済・市場動向を十分注視し、とくに年度末に向けての資金需要を見据え、さらなる数兆円規模の資金供給を視野に入れ、引き続き潤沢な資金供給を行って頂きたい。
  •  消費者物価指数をみると、物価の下落が依然として継続している。日本銀行におかれては、わが国経済がデフレ・スパイラルに陥らないよう、引き続き政策論議を深めて頂き、経済により効果のある政策を今後とも幅広くご検討頂きたい。こうした観点からは、本日検討された金融市場調節手段の拡充についても、これにより金融緩和の実効性が高められるものと期待している。

 内閣府からの出席者からは、以下のような趣旨の発言があった。

  •  景気の基調判断については、実質GDP成長率が2四半期連続マイナスとなり、失業率がこれまでにない高さに上昇するなど、厳しい状況にあると認識している。政府としては、14年度の経済見通しにおいて、実質GDP成長率は0.0%程度の横這い、消費者物価は−0.6%の下落と見込んでいる。
  •  政府としては、日本銀行と密接に連携を図りつつ、できるだけ速やかに景気の回復と物価の安定を図っていきたいと考えており、日本銀行におかれても、デフレ阻止に向けて、引き続き適切かつ機動的な金融政策を行って頂きたい。

VI.採決

 以上のような議論を踏まえ、会合では、現状の金融市場調節方針を維持することが適当である、との考え方が大勢となった。

 ただし、ひとりの委員は、実体経済が一段と悪化し、デフレ・スパイラルの初期段階と考えられる中、現状維持の政策では不十分であるとの判断のもと、(1)物価水準ターゲットを導入すること、(2)資金供給の円滑な実施のため外債買い入れを開始すること、(3)日銀当座預金残高目標を15兆円程度とすること、を提案したいと述べた。

 この委員はこれらの提案理由として、(1)デフレ阻止の意思を明確にする必要がある、(2)資金供給手段について、国債依存の高まりを回避し、多様化を図る必要がある、(3)日本銀行による定時定額の外債購入は、日銀法第40条第2項との関係で問題はない、(4)日銀当座預金の目標はピンポイントとすべきである、といった点を挙げた。

 この結果、以下の議案が採決に付されることになった。

 中原伸之委員からは、金融市場調節方式について、「2001年7〜9月期平均の消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)のレベル(99.2)を基準として、2003年7〜9月期平均の同指数について、その基準レベル(99.2)を維持ないしはそれ以上に引き上げることを目的として、金融市場調節を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 次いで同委員から、同じく金融市場調節方式について、「日本銀行当座預金を円滑に供給するうえで必要と判断される場合には、実務体制等の準備が整い次第、外債の買入れを開始する」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 さらに同委員から、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、「日本銀行当座預金残高が15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」との議案が提出された。

 採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめるかたちで、以下の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添のとおり公表すること。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)下限の10兆円では、量として不十分である、(2)10〜15兆円というレンジでは、執行部の裁量の余地が大きすぎる、(3)経済情勢が深刻化し、デフレ・スパイラルの初期段階に入っているとの認識を前提にすると、現状維持では、政策対応が手後れになる危険がある、と述べ、上記採決において反対した。

VII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が賛成多数で決定され、それを掲載した金融経済月報を1月17日に公表することとされた。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、三木委員、植田委員、田谷委員、須田委員、中原眞委員
  • 反対:中原伸之委員

 中原伸之委員は、(1)景気後退の速さや倒産、失業率等にも言及すべきである、(2)経済は既にデフレ・スパイラルの初期段階に入っている、(3)公共投資の落ち込みが地方経済に大きな影響を及ぼしていることを記述すべきである、(4)当面の物価の下落が「緩やか」との判断は適当でない、と述べ、上記採決において反対した。

VIII.議事要旨の承認

 前々回会合(11月29日)および前回会合(12月18、19日)の議事要旨が全員一致で承認され、1月21日に公表することとされた。

以上


(別添)

平成14年1月16日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

 日本銀行当座預金残高が10〜15兆円程度となるよう金融市場調節を行う。

 なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

以上