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金融政策決定会合議事要旨

(1998年11月13日開催分)*

  • 本議事要旨は、日本銀行法第20条第1項に定める「議事の概要を記載した書類」として、98年12月15日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年12月18日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年11月13日(9:02〜12:19、13:13〜16:54)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 大蔵省   谷垣禎一 政務次官(13:13〜16:54)
  • 経済企画庁 今井 宏 政務次官( 9:02〜12:19)
    新保生二 調査局長(13:13〜16:54)

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巌
  • 理事松島正之
  • 金融市場局長山下 泉
  • 国際局長村上 堯
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局早川英男
  • 企画室参事稲葉延雄
  • 企画室参事(企画第1課長)山本謙三

(事務局)

  • 政策委員会室長小池光一
  • 政策委員会室調査役飛田正太郎
  • 金融市場局金融市場課長雨宮正佳(13:13〜16:54)
  • 企画室企画第2課長田中洋樹(13:13〜16:54)
  • 企画室調査役門間一夫
  • 企画室調査役栗原達司

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(10月13日)の議事要旨(グリーンペーパー)が全員一致で承認され、11月18日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融市場調節の運営実績

 金融市場調節については、前回会合(10月28日)で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う)にしたがって運営した。この結果、今積み期間(10月16日〜11月15日)におけるオーバーナイト・レートは、昨日(11月12日)までの加重平均で0.22%となっている。

 この間の動きをやや具体的にみると、オーバーナイト・レートは、月末・月初においては、やや強含む局面もみられたが、このところ0.20%を下回って弱含みで推移しており、11月12日の加重平均値は、0.15%と過去最低水準となった。こうしたオーバーナイト市場の引き緩みは、(1)日本銀行の潤沢な資金供給によって準備預金の積みが早めに進捗したこと、(2)預金保険機構の特別公的管理銀行(日本長期信用銀行)向けの多額の貸出資金が一時市場に滞留したこと、などが影響したものと考えられる。

 この間、ターム物金利をみると、市場において年末越え資金の調達圧力の強い状況が続いたことから、11月上旬までは2か月物以上の金利が上昇傾向を辿った。もっとも、(1)そうした状況に対して日本銀行が年末越えの資金供給を一段と積極化させたこと、(2)わが国金融機関の外貨手当てにある程度目処がつき始めたこと、(3)国際金融市場が一頃に比べれば落ち着いてきたこと、などを背景に、ごく最近はターム物金利に頭打ちの兆しがみられ始めている。ただ、今月下旬に予定されている金融機関の中間決算の発表をはじめとして、市場の不安定要因は引き続き多い。このため、今後も可能な手段をフルに活用して、引き続きターム物金利の抑制に努めていく方針である。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対米ドル相場は、(1)IMFを中心とするブラジル金融支援策の早期決定への期待、(2)米国中間選挙における民主党の健闘、(3)米国金融市場に好転の兆しがみられているとのグリーンスパンFRB議長による発言、(4)イラク情勢の緊迫化、といった要因を背景に、11月3日以降総じてドル高・円安で推移し、11月12日の海外市場では一時124円台となった。もっとも、その後は、わが国の追加景気対策への期待や、次回(11月17日)の連邦公開市場委員会での利下げ予想等から、現在は122円台に戻っている。

 この間、ドイツ・マルクの対米ドル相場は、ドイツの金利引き下げ予想や、ロシア情勢不安等を背景に、マルク安気味で推移してきたが、11月5日のブンデスバンク理事会で金利据え置きが決定された後は、概ね保合いの動きとなっている。また、アジア諸国の通貨は、10月下旬から11月初には一旦強含んだが、その後は円安・ドル高の影響もあって、やや軟化している。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済をみると、第3四半期のGDPは+3.3%の増加を示したが、在庫の積み上がりによる部分が大きく、設備投資は91年第4四半期以来の減少となった。個人消費の増加テンポも、第2四半期に比べて鈍化している。また、10月の雇用者数は、全体では11万人以上の増加となったが、製造業では減少した。外需に好転の要因がみられない中で、NAPM(全米購買者協会)の受注指数も96年5月以来の50割れとなっており、全般に製造業が不振である。こうした情勢を踏まえ、米国経済の減速は避けられないとの見方が、市場では次第に強まっている。

 米国の金融環境については、FRBが10月15日に2回目の利下げを行った後、幾分落ち着きを取り戻してきている。資金が株式や社債へ還流する動きも一部にみられ、信用格差スプレッドは大手ヘッジファンドの破綻が表面化する直前の水準まで縮小している。もっとも、過去のレベルと比較すれば信用格差スプレッドはなおかなり大きいほか、ブラジルやロシアの情勢を含め、不確実な要因が多い。このように、市場の不安定さは払拭されておらず、資金調達環境は引き続き総じて厳しめの状況にある。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 最終需要をみると、公共投資の発注が大幅に増加している。しかし、設備投資が減少を続け、住宅投資も低迷の度を深める中で、個人消費の弱さが再び目立ち始めている。在庫は、耐久消費財を中心に一定の調整進捗がみられているが、依然かなりの調整圧力が残存している。このため、生産は弱含みを続けている。また、企業は、資金繰りに関する不安感を強めており、それが設備投資等の抑制に作用している面もある。さらに、こうした状況のもとで、雇用の削減や賃金の低下が生じており、家計の所得環境が厳しさを増していることが、個人消費になお一層の慎重さをもたらしている。物価面では、需給ギャップの拡大を背景に、全般に軟化傾向にある。

 このように、現在のわが国経済では、実体経済の悪化と物価の下落が同時進行している。しかも、こうした景気・物価面の動きは、金融面で金融機関や投資家のリスク回避姿勢が強まっている動きと、相乗作用を起こしている。

 先行きについては、公共投資の効果がこれから本格的に現れてくる見込みであり、経済情勢の悪化テンポを和らげる方向に働くと考えられる。しかし、現在のような経済情勢を踏まえると、公共投資が増加しても、民間需要を喚起する効果は限定的なものにとどまる可能性が高い。さらに、家計の支出スタンスがこのところ一段と緊縮的になる兆しがみられることや、為替相場や海外経済動向に関する不透明感を勘案すると、少なくともしばらくの間は、国内民需の減少に歯止めが掛かるとは考えにくく、需給ギャップが縮小することは展望し難い。物価面では、こうした需給ギャップの状況に円高の影響が加わっていくことを勘案すると、来年入り後には、物価全般の下落テンポが速まっていく可能性が高い。

(2)金融情勢

 金融市況をみると、年末越えのユーロ円金利が、10月中旬以降じりじりと上昇した。これは、ジャパン・プレミアムの拡大にみられるように、外貨の調達環境が一段と厳しさを増すもとで、わが国金融機関が円投による年末の外貨手当てを大規模に進めたことを反映している。一方、TB利回りは、円転コストの低下を背景とする外銀による運用増加から、ゼロ近傍まで低下した。このように、年末における外貨流動性リスクに対する市場の警戒感が、ユーロ円金利とTB金利の格差拡大という形で、国内金融市場にも波及している。

 もっとも、ごく最近は、ユーロ円金利の先物は反落し始めており、ジャパン・プレミアムにも頭打ち感が出てきている。これは、(1)わが国金融機関の外貨手当てが円投を中心に進捗してきたことや、(2)国際金融市場における信用収縮懸念が薄らぐ方向にあることなどを、反映したものとみられる。ただ、こうしたインターバンク市場での動きが、企業の資金調達環境の落ち着きにつながるかどうかについては、なお注意を要する。

 金融の量的指標に関連して、民間銀行の融資姿勢をみると、年末における銀行自身の外貨手当て懸念を背景に、一段と慎重化している。一方、企業の資金需要面では、手許資金を厚めに確保しようとする動きに加えて、大企業などで、外貨繰りへの懸念から円資金調達を拡大する動きがみられている。

 こうしたもとで、10月の民間銀行貸出は、前年比マイナス幅を表面上拡大した。もっとも、9月末の不良債権償却や、旧国鉄清算事業団向け貸出の一般会計への承継が、貸出残高を押し下げる方向で寄与したことを勘案すると、実勢としては、前年比マイナス幅は概ね横這いで推移したとみられる。

 企業の資本市場からの資金調達は、これまでのところ着実に増加している。しかし、信用力の相違に伴う金利格差が一層広がったほか、格付の低下した企業では、CPや社債の発行が困難化する例もみられている。こうした企業金融の動向が、年末や年度末にかけてどのように展開するか、注意深くみていく必要がある。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

(1)景気の現状

 景気の現状については、公共投資など一部に好材料もあるが、経済全体としては依然として悪化を続けているという点で、委員の判断は概ね共通であった。

 具体的にみると、ある委員からは、公共投資が、98年度当初予算に計上されている橋梁、河川、港湾関連を中心に9月以降本格的に出始めているほか、個人消費でも、一部の白物家電(エアコン、冷蔵庫、洗濯機)に新製品を中心に回復の手応えが窺われるとの発言があった。もっとも、別の委員からは、全体としてはむしろ個人消費の弱さが目立ち始めているとの指摘があり、最初の委員も、明るい材料はごく一部にとどまり、景気は依然として下押し圧力の強い状況が続いているとの認識であった。

 もう一人の委員からも、公共投資の増加が漸く明確化してきた反面、98年度上期の企業収益が大幅減益となる見込みにあることなどからみて、生産・所得・支出を巡るマイナスの循環がかなり強く働いているとの見方が示された。

 さらに別の委員も、内外の金融資本市場が小康状態を示していることは数少ない好材料と受け止めつつも、実体経済に下げ止まりの兆しはみられていないとの判断を示した。また、その委員からは、(1)流動性制約が設備投資に悪影響を及ぼしていること、(2)先行きを含めた所得面の不安が個人消費を減退させていること、(3)需給ギャップの拡大によって物価が下落しつつあることなどが指摘された。そのうえで、同じ委員から、これらが企業収益の悪化を通じて金融機関のバランスシートを悪化させるという悪循環につながっていることを勘案すると、経済はかなり困難な局面に入り込んでしまったのではないかとの懸念が示された。

(2)金融面の動き

 金融面の動きについては、内外の金融資本市場が一頃に比べれば落ち着きを取り戻していることへの言及が多くみられた。しかし、それと同時に、国内市場については、なお脆弱な面が多く残されており、年末・年度末へ向けての企業金融を取り巻く環境はかなり厳しいとの認識が概ね共有された。

 まず、金融市況面についてみると、ある委員から、内外の金融資本市場が若干改善しているとの判断が示されたほか、別の委員からも、金融機関の外貨資金調達にそれなりに進捗がみられてきており、ユーロ円金利にも頭打ち感が出始めていることへの言及があった。このうち、国内市場の改善要因としては、最初の委員から、日本銀行による潤沢な資金供給のほか、金融機関に対する公的資本注入の展望がある程度はっきりしてきたことが挙げられた。もっとも、同じ委員から、株価の回復が持続するかどうかはなお不透明であることや、景気の悪化と金融機関の信用仲介能力との間に悪循環が生じてしまっている可能性が指摘され、国内市場の情勢はなおかなり脆弱であるとの見解が述べられた。

 なお、ユーロ円市場における外銀間の取引などでマイナスの金利がついたことについては、ある委員から、わが国金融機関の円投需要増大が直接的な原因になったことは事実であるが、そもそも円の金利水準が全体として異常なまでに低いことが基本的な背景であるとの見方が示された。このマイナス金利を巡って、別の委員からは、日本銀行がわが国金融機関のターム物調達金利を強力に抑え込もうとしたため、わが国金融機関に対するリスク・プレミアムの拡大が、信用リスクのないTB金利の大幅低下という形で現われ、ついには外銀間の一部取引で、一時的に僅かながらゼロを下回ったものとみられるとの説明がなされた。そうした理解を踏まえて、同じ委員から、TB金利がどんどんマイナス幅を拡大していくことは考えにくいため、日本銀行が金融機関のリスク・プレミアムに直接働きかけるようなオペレーションを行わない限り、わが国金融機関のユーロ円金利をこれ以上低下させることは難しいかもしれないとの問題意識が示された。

 企業金融面については、ある委員から、銀行部門の状況については一種の小康状態にあるとの見方が示されたが、それがそのまま企業金融面への好影響につながっていくかどうかについては、なお不確実性が大きいとの意見が述べられた。そのうえで、同じ委員から、既に実施されている信用保証枠の拡大や政府による追加的な信用収縮対策の効果はどうか、一方で資本市場における企業の資金調達が大量償還の見込まれる年度末に向けて順調に進むかどうかなどを含め、予断を持たずにみていく必要があるとの認識が示された。

 別の委員からは、優良企業は年末資金の手当てが完了し、中小企業には、信用保証協会の保証枠拡大が効果を発揮しているが、格付の低下した大企業や、中堅企業については、資金手当てが年末・年度末の最大の問題になるとの懸念が示された。

 この間、マネーサプライについては、ある委員から、信用乗数が近年低下の一途を辿っているなど、マネタリーベースとM2+CDとの関係はどんどん変化しているとの発言があった。さらにその委員は、こうした現象が銀行行動の構造変化と無関係ではないと述べたうえで、日本銀行による資金の供給がなかなかマネーサプライに結びつきにくいことを指摘した。

 一方、別の委員からは、M2+CDとGDPとの関係に注目した発言があった。すなわち、その委員からは、M2+CDとGDPとの関係を長い目でみると、バブル崩壊後はそれ以前に比べ、GDPのM2+CDに対する弾性値が上昇しているとの指摘があり、最近M2+CDの伸び率が緩やかながら上昇しているのは、経済成長率が高まりやすい状況になってきていることを示唆するものではないかとの解釈が述べられた。もっとも、この点については、もう一人の委員から、最近のマネーサプライの伸び率増加は、信用収縮への懸念が強いもとで企業が予備的な動機から流動性を積み上げていることによるものであり、一方で資金調達が困難な企業も多数存在していることを考えると、マネーの動きにはむしろ警戒すべき面が大きいとの反論が述べられた。

(3)景気の先行き

 実体経済および金融に関する以上の現状認識を踏まえ、景気の先行きについて議論が行われた。それによれば、ここ1年ほどの急速な景気の悪化テンポは、今後は金融・財政政策の効果が現れていく中で緩やかなものとなっていくとみられるが、それが自律的な景気回復につながるかどうかは依然として不透明という点で、前回会合までとほぼ同様の判断が概ね共通のものとなった。

 具体的にみると、ある委員からは、公共投資については、既に増加し始めている98年度当初予算分に加えて、今後第1次補正予算分が本格化することから、来年1〜3月、4〜6月とも例年のような季節的な落ち込みを示すことなく、高水準で推移しようとの見方が示された。もっとも、同じ委員からは、在庫調整が思いのほか長引いていることや、民間需要回復のきっかけが差し当たり見当たらない点も指摘されたほか、来年度の経営計画では多くの企業が徹底したリストラ策を断行するのではないかとの懸念が示された。結局、その委員は、公共投資による景気の下支えが、民間需要の回復につながっていくためには、恒久的な減税や政策減税等の措置が不可欠であるほか、企業の経営計画がより前向きなものとなるよう、財政・金融政策や金融システム対策面の措置を適切に講じていくことが必要である点を強調した。

 別の委員からも、在庫率の高さなどからみた現在の需給ギャップが相当大きいことや、個人消費の低迷等から判断すれば、財政・金融政策による支えにもかかわらず、景気の回復感が現れてくるまでには、相当時間がかかるとの見方が示された。

 また、別のある委員は、景気回復のきっかけになりうる経路をいくつか候補として挙げたうえで、そのおのおのについて不確実性が大きいという形で議論を展開した。具体的には、まず、(1)財政面からの景気刺激効果、(2)金融機関に対する公的資本の注入がきっかけとなって金融機関株価の回復等が生じ、次第に実体経済にも好影響が及んでいく経路、(3)対外黒字の増加、の3点が景気回復への契機になる可能性があるとの指摘があった。そのうえで、その委員自身から、これらのそれぞれについて、(1)財政支出は増加傾向が今後さらにはっきりしてこようが、減税の内容やそれが企業・家計のコンフィデンスに及ぼす作用については不確実性が大きいこと、(2)公的資本の注入の効果についても今後の進め方に依存すること、(3)為替相場や海外経済の情勢を踏まえると対外黒字の大幅な増加は難しそうであること、などの見方が述べられ、結局どの経路からみても景気回復へ至る展望が現時点では定かではないとの認識が示された。

 さらにもう一人の委員からは、現在は一種の横這い状態にあるが、これは不安定の中の微妙な安定とでも言いうる状況に過ぎず、労働生産性および資本の効率が非常に低いことや、日本経済全体が市場メカニズムへの適応過程にあることを踏まえると、今後再びかなり急速な調整を余儀なくされるとの見方が示された。そうした中で、例えば、資本ストックについては既に本格的な調整局面に入っており、98年度の設備投資は10%以上のマイナス、99年度もマイナスが続くとの見解が示された。さらにその委員からは、財政赤字や国債発行残高が近い将来に限界的な水準に達する可能性を踏まえると、民間部門が徹底的にリストラを行う以外に日本経済の再生はありえないとの考えが述べられ、その点からも、今後大幅な調整局面は不可避との認識が示された。

 景気の先行きに関連して、とりわけ雇用情勢が悪化する可能性への懸念が、複数の委員から述べられた。

 すなわち、ある委員からは、売上高人件費比率が製造業・非製造業ともに過去最高圏にあることや、労働分配率が最近の諸外国とは逆に上昇していること、そして、そうした状況に対して企業は既にボ−ナスを大幅にカットしていることなどが指摘された。その委員からは、これらを踏まえると、今後は雇用者数の面で大幅な調整が避けられず、失業率はこれまでの最高水準を更新し続ける形で、相当高い水準に達する可能性があるとの見方が述べられた。

 別の委員からは、昨年秋の金融システム危機との関連で、その後雇用面で生じた現象の特徴が述べられた。具体的には、(1)昨年末以降、非自発的失業者の増加テンポが自発的失業者のそれを上回るようになったこと、(2)日本と同様に金融危機に見舞われた韓国では失業率が急上昇したのに対し、日本では、雇用調整はゆっくりとしか進んでおらずなおかなりの調整圧力が残っていること、(3)パート労働の普及等により、雇用保険でカバーされない不安定な雇用形態の労働者が多くなっていることなどが指摘された。そのうえで、同じ委員から、今後雇用情勢の一段の深刻化が予想される中で、セーフティー・ネット等の労働政策面での対応が遅れていることに対し、強い懸念が示された。

 こうした雇用問題に加えて、他の側面から家計の不安心理に焦点を当てた発言もあった。具体的には、ある委員から、それほど所得の高くない家計のグループについて、公的年金を信頼していない家計の消費性向は、信頼している家計のそれに比べて低い、という外部シンクタンクの実証分析が紹介された。さらにその委員は、このように年金の将来展望が揺らいでいるのは金利水準が低いこととも無関係ではないとして、金利がこうしたルートを通じて消費性向に響きうる可能性にも注意すべきとの発言を行った。

 これに関連して、別の委員からも、個人消費や住宅投資の弱さの根底には、税制、年金、介護制度等の様々な制度要因が構造的に作用している可能性があるとの指摘があり、家計の経済行動は、世代間の負担を含めた社会システム全体の問題との関連で、捉えていく必要があるとの意見が述べられた。

 景気の先行きを展望するうえでのダウンサイド・リスクとして、米国経済の先行きに関する不透明感を強調する委員もいた。その委員からは、米国の過剰消費・過少貯蓄構造は是正される方向にあり、来年の米国経済はかなりの減速が必至との見方が示された。また、同じ委員から、当面注目すべき具体的なポイントとして、(1)このところの株価回復も、天井構成が見えつつあることからみて来年の初め頃にどのような展開となるか、(2)社債におけるクレジット・スプレッドが高止まっている情勢からみて、金融資本市場の信用仲介機能はかなり低下しているのではないか、(3)稼働率や製造業の関連指標等からみて、設備投資が調整局面に入りつつあるのではないか、といった諸点が挙げられた。

 当面の物価情勢については、円高を原因とする価格の下落が何らかのプラス効果を持ちうる可能性を巡って多少の議論があったが、基本的には、現在の経済環境のもとでは、物価の下落は実体経済をさらに悪化させる蓋然性が高いことを念頭に置いて、その動向に十分な注意を払っていく必要があるとの点で、委員の認識は概ね一致していた。

 これらの点をやや具体的にみると、ある委員からは、物価と実体経済との負の相乗作用が懸念される情勢にあるとの基本認識を前提としつつも、円高による物価の低下分については、その最終的な受益者が家計であるとの指摘がなされた。そうした観点から、同じ委員から、価格の低下が、新規商品の開発努力やペントアップ・ディマンドの顕在化などと相俟って個人消費の下支え要因となり、それが景気回復への足掛かりのひとつとして作用する可能性も、全くないわけではないとの認識が示された。

 もっとも、別の委員からは、物価の下落による消費刺激効果は、価格の低下が、技術革新の進行や実質所得の増加といった要素と同時に生じていない限りは、顕在化しにくいとの指摘があり、大きな需給ギャップと資産価格の下落傾向を抱えた今の経済環境のもとでの物価下落は、やはりマイナスの影響の方を強くみておくべきとの見解が述べられた。同趣旨の発言は、他の委員からも行われた。

 いずれにせよ、かなりの期間に及ぶ物価の下落という戦後の主要国では希な現象が、今後日本経済にどのような影響を及ぼしていくのかについては、物価下落の原因が異なればその影響も異なりうるのかといった点も含め、注意深く観察し、かつ分析していく必要があるとの問題意識が、ある委員から示された。

 この間、地価の下落がこのところ再び目立ち始めたことに注目する委員もいた。その委員からは、地価が株価に1年超遅れて変動する傾向がみられることを踏まえると、地価の底入れは当分期待し難いのではないかとの見方が示された。

 早期健全化法のもとでの金融機関に対する公的資本の注入については、その効果について一定の効果を期待しつつも、現時点では実体経済へどのように影響していくのか不確実性が大きいというのが、多くの委員の認識であった。

 すなわち、ある委員からは、公的資本の注入は、金融機関の貸出が増加していくための必要条件ではあるが、十分条件ではないとの指摘があり、資本注入が経済の回復に実質的に役立つよう、関連する政策を整備していくことが重要との意見が述べられた。別の委員からも、経済政策全体をうまく設計していく要請が従来にも増して高くなってきている中で、とくに日本銀行としては、公的資本注入の効果が最大限発揮されるように努力していくべきとの見解が示された。

 また、もう一人の委員は、公的資本注入によって起こりうる結果として、(1)不良債権の償却が進み短期的にはデフレ圧力となるケース、(2)新規の貸出を増加する余地が生まれるケース、(3)既存の非効率な借り手に対する融資が継続され、ある種の問題先送りとなるケース、の3つの可能性を挙げた。そのうえで、その委員からは、日本銀行の流動性供給も含めた金融システム対策は、これらのうちどのケースが生じることを念頭に置いているのか、またそのことと資本注入の具体的な条件等が整合的かなどについて、よく考えておく必要があるとの問題意識が示された。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。その結果、年末・年度末の企業金融の厳しさを緩和するため、何らかのオペレーション上の工夫が望ましい一方、金融市場調節方針については、9月9日以来の思い切った緩和措置を継続するのが適当という点で、委員の意見は概ね一致していた。

 まず、金融市場調節方針についての議論を具体的にみると、ある委員から、既に検討されたような金融経済情勢の厳しさからみて、現状の思い切った金融緩和姿勢をしばらく続けざるをえないとの認識が示された。

 もっとも、金融市場調節方針を一段と緩和すべきかという観点からは、ある委員から、現在は、財政面からの景気対策や金融機関に対する公的資本注入の動向、およびそれらの効果をまずみきわめる局面であるとの見解が示された。さらに、同じ委員から、9月9日の金融緩和措置について、需要を誘発するだけの効果は出ていないが、金利全般の低下を通じて各種調整の痛みを和らげる働きをしている可能性はあるとの見方が述べられ、そのうえで、金利をここまで引き下げてきた以上、一段の引き下げは慎重に検討するべきとのスタンスが示された。別の委員からは、日本銀行が現在行っている金融政策は企業等から十分に評価されているとの認識が示されたほか、金利水準の引き下げなど通常考えうる対応はもはや限界に近づいているのではないかとの見解が述べられた。これらの点は、他の複数の委員からも指摘された。

 さらに別の委員からは、年度末に向かって実体経済がさらに一段と収縮するような事態になれば一段の金融緩和も念頭に置く必要があるかもしれないが、現状は日本銀行の潤沢な資金供給などによって金融市場が小康状態にあり、こうした不安定の中の微妙な安定が続く限りは、現状の政策を続けるのが適当との見解が述べられた。

 この間、金融市場調節方針のいわゆる「なお書き」の部分(金融市場調節方針の後段で「なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」と書かれている部分のこと)について、意見交換があった。すなわち、ある委員から、「必要と判断されるような場合」の内容が不明確であり、追加的な金融緩和が幅広く可能であるかのような印象を与えるが、例えばCP市場の流動性が枯渇するなどの緊急事態にのみ発動されるものと解釈すべきではないかとの意見が出された。これに関しては、9月9日および9月24日の会合において、短期金融市場等における突発的な動きや何らかの緊急事態を念頭に置き、そうした場合はコールレートが誘導水準から乖離することを許容する旨が既に確認されているが、再度、その点に関する委員会としての認識が整理され、確認された。

 一方、金融市場調節方針とは別に、資金供給手段の多様化についても議論が行われた。すなわち、ある委員から、銀行の金融仲介機能が低下している状況を踏まえると、年末および年度末の企業金融が当面最大の問題であり、日本銀行としてもそこに焦点を絞って、何らかの手段を講じるべきタイミングにあるとの意見が述べられた。

 もっとも、ある委員から、企業金融は金融機関の金融仲介機能によって実現されていくべきものであるので、いわゆる貸し渋りへの対応は公的資本の注入によるべきとの見解が示された。そうした認識のもとで、その委員から、日本銀行はあくまでも銀行部門に対する流動性の供給に徹するべきであって、直接に企業金融を念頭に置いた政策を採るべきではないとの意見が述べられた。

 これに対し、別の委員は、日本銀行の資金供給が直接的には銀行部門に対するものであるべき点には同意を示しつつも、オペの具体的なあり方によって銀行部門の外側への波及効果には少しずつ違いがあり得るとの見解を述べ、そのうえで、そうした効果の大小を勘案して資金供給手段を考えていく余地はあるとの反論を行った。これについては、他の委員からも賛意があった。

 なお、こうした資金供給手段を巡る議論の中で、日本銀行資産の健全性や機動性についてどう考えるかも、重要なポイントになった。具体的には、ある委員から、信用秩序維持関連の資産増加などによって日本銀行資産の固定化が進みつつある現実を踏まえると、今回のオペ手段検討をひとつのきっかけに、日本銀行の資産の流動性を全体としてどう確保していくか、考えておくべきではないかとの問題意識が示された。その委員からは、金融市場調節上の機動性を保つ観点から、例えば、預金保険機構向け貸付を流動化するとか、満期が到来した保有長期国債を短期資産に入れ替えるなど、バランスシートの管理を研究していく余地があるとの見解が述べられた。

 信用秩序維持関連の固定的な資産の増加について、別の委員からも、流動性を旨とする中央銀行資産が、資本性を帯びる形で用いられることの是非という角度から、問題意識が示された。また、その委員からは、企業金融を念頭に置いたオペレーションは、その性格上、期間がやや長めになるだけに、中央銀行にとって、機動的な資金吸収や弾力的な資産組み替えなどの備えが、従来以上に重要性を増すとの指摘もあった。同じ委員からは、そうしたターム物の資金供給と、オーバーナイト・レートの誘導を軸とした日々の金融市場調節との関係をどのように考えるか、といった問題意識も追加的に挙げられた。

 もう一人の委員からは、中央銀行のバランスシートが悪化すると、その国のカントリー・リスクが問われることにもなりかねないとの立場から、日本銀行資産の健全性と流動性を維持することの重要性が改めて強く指摘された。

V.政府からの出席者の発言

 会合の中で、政府からの出席者も発言した。大蔵省からの出席者は以下のような発言を行った。

  • 景気は、低迷状態が長引いており、きわめて厳しい状況にある。こうした認識のもと、総理から、緊急経済対策を11月16日までに取りまとめるよう指示されており、現在、大蔵省では、各省庁と協議しつつ、効果的な中身を作り上げていくよう力を尽くしているところである。この対策を反映する98年度第3次補正予算については、当初予算や第1次補正予算の施行状況も見きわめながら、経済の現状に的確に対応したものとなるよう、努力してまいりたい。

 経済企画庁からの出席者は以下のような発言を行った。

  • 10月末に、総理から緊急経済対策をとりまとめるよう指示があり、11月16日を目処に効果的な対策をとりまとめるべく鋭意努力しているところである。99年度のプラス成長を確実なものとするため、金融システム安定・信用収縮対策が重要であるほか、景気回復策としては、即効性、波及性、21世紀に向けた未来性という3原則に沿って実施することを検討している。
  • 政府としては、対策のとりまとめとその推進に最大限努力する所存であるが、金融システム安定化を進めていく過程では信用収縮が一層拡大する可能性も考えられることから、金融政策においても、十分な資金量の確保に努めるなど、適切な運営をお願いしたい。

VI.採決

 以上の検討の結果、依然として景気の悪化が続いているもと、当面は、公的資本の注入を主体とする金融システム対策や、近々見込まれる緊急経済対策などの動向や効果に注目しながら、金融政策面では、年末や年度末の企業金融の円滑化に資するよう、オペレーション面での工夫を図りつつ、9月以来の思い切った金融市場調節方針のもとで潤沢な資金供給を続けていくことが適当という見解を、多くの委員が支持した。

 議長からは、こうした多数意見を踏まえて、次の議案が提出された

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。

 なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員 後藤委員、武富委員、三木委員、中原委員、植田委員
  • 反対:篠塚委員

──篠塚委員は、(1)長期に及ぶ超低金利の弊害を認識すべきこと、(2)9月の金融緩和措置は、実体経済面、金融システム面いずれに対する効果とも曖昧であること、(3)低金利は信用乗数を低下させるだけに終わっていること、といった諸点を踏まえると、9月に引き下げた金利水準をそのまま維持することは支持し難いとして、上記採決において反対した。

VII.本行の貸出・オペレーションに関する議事の概要

(1)執行部からの報告の概要

 企業金融の情勢は、年末から年度末にかけて、一層厳しさを増す可能性がある。こうした状況に鑑み、中央銀行の資産の健全性に留意しつつ、企業金融の円滑化に資することを狙いとして、日本銀行の貸出・オペレーションについて、以下の措置を講じる、もしくは措置を講じることを具体的に検討することとしたい。また、その旨を対外公表することを検討願いたい。

(i)CPオペの積極的活用

 CPオペを一段と積極的に実施しうるよう、(1)買い入れ対象となるCPの残存期間を3か月から1年に拡大するとともに、(2)CP発行企業の適格審査事務を迅速化することとし、11月16日から実施する。これらを実施するための具体的な手続きとして、「コマーシャル・ペーパーの売戻条件付買入要領」等を一部改正する旨提案する。なお、適格CPの信用リスクに関する基準や、オペ期間(3か月以内)は変更しない。

(ii)企業金融支援のための臨時貸出制度の創設

 金融機関が企業向け貸出を増加させるインセンティブとなりうる形で、日銀貸出を活用する。具体的には、10〜12月における金融機関の貸出増加額の一定割合(50%)を対象に、リファイナンスのための日銀貸出制度を設ける。担保は国債のほか、日本銀行が適格と認める民間企業債務とするが、その際、原則として担保価額の50%以上は、民間企業債務とする。貸出期間は原則として、年度末を越える4月までとし、金利は0.5%とする。また、10〜11月中に貸出を増加させた金融機関に対しては、12月中旬にも本制度が利用できることとする。本制度は、年末・年度末の企業金融円滑化に資することを狙いとした臨時の措置であり、今後、早急に実務面での準備を進める。

(iii)社債等を担保とするオペレーションの導入

 金融市場調節の中で、社債および証書貸付債権を活用していく。もっとも、これら民間債務を直接の買い入れ対象とするのは実務的に難しいため、これらを根担保として金融機関が振り出す手形を、金利入札方式で買い入れることとする。こうしたオペレーション手段を来年の早い時期に導入すべく、実務的な検討を進める。

 以上3つの措置には、信用リスクに関する審査基準自体を緩めたり、日本銀行が民間企業に直接与信するといった要素は、含まれていない。いずれも、中央銀行資産の健全性を維持するという筋を通したうえで、民間企業金融の円滑化に資するというマクロ政策上の要請にできるだけ応えるという観点から、工夫した措置である。

(2)委員会の検討の概要

 上記執行部から説明のあった措置および、それらを対外公表する点について、多くの委員から支持があった。

 まず、CPオペの積極的活用については、ある委員から、わが国の企業の資金調達は、年末に向けて海外市場を含めて困難の度が増し、海外CPや社債から国内CPへと、発行需要がシフトしてくることが予想されるとの見方が示された。別の委員からも、CPオペについては、これまでの実績もあり、一層拡大すれば相応の効果が見込まれるとの意見が述べられた。こうした認識のもと、これら委員も含め、CPオペの一層の増加につながる措置を採ることは適切という点で、委員の見解は一致した。

 企業金融の支援のための臨時貸出制度の創設や社債等を担保とするオペレーションの導入についても、ほとんどの委員が適切な措置との判断であった。すなわち、複数の委員から、中央銀行としてオペ・担保面でぎりぎりどこまで行えるかの検討を重ねた中で、銀行部門の外側に及ぶ効果を念頭に置いて、工夫を凝らした案になっているとの評価が述べられた。そのうち一人からは、(1)これらの措置のもとでの日本銀行の与信期間は3か月程度であり、資産の長期固定化という問題を大きく引き起こすようなものではないこと、(2)現在よりもリスクの高い資産を新たに購入するというわけではなく、現在の基準でも受け入れ可能な担保を効率的に動員して、その利用を図るという性格の措置であること、といった具体的な諸点への言及があり、そのうえでこれらは日本銀行資産の健全性を損なうものではないとの見解が示された。

 また、準備段階にあるものも含めて、以上の措置すべてを一つのパッケージとして対外公表することについても、ほとんどの委員が賛意を示した。その理由としては、(1)年末・年度末へ向けた企業金融面での不安を和らげるという基本的な考え方との整合性に留意すれば、発表する時期を現在よりも遅らせるのは適当でないこと、(2)民間金融機関の貸出行動にある程度の影響を与えることを狙っている以上、金融機関の対応を可能にするためにも早めのアナウンスが必要であること、などが挙げられた。ただし、対外公表に際しては、日本銀行が企業金融を直接支援するという誤ったイメージを与えないよう、表現等には十分配意することとなった。

 こうした議論の中で、CPオペの積極的活用を除き、反対意見を述べた委員もいた。すなわち、その委員からは、(1)企業向け証書貸付を支援するような措置は、結局企業のリストラや再編成を遅らせる結果になりかねないこと、(2)信用の最後の砦たる日本銀行が、「何でも行う」という印象を対外的に与えることは望ましくないこと、(3)対外公表は直ちに実施に移すCPオペの積極的活用のみにとどめ、現在準備中の措置については実施することが正式に決定され次第ひとつずつ発表すべきであること、(4)必要があれば正統的な金融政策で一層の金融緩和を図るべきこと、などが主張された。このほか、同じ委員からは、証貸債権を担保とするスキームよりも、まず印紙税を引き下げて証貸債権から手形貸付へのシフトを図り、手形市場を活性化したうえで手形オペを拡充する方が望ましいのではないかとの見解も述べられた。

(3)政府からの出席者の発言

 以上の検討に対し、経済企画庁からの出席者は、「以上で検討された措置は、企業の資金繰り支援につながるものであり、積極的に行って頂くよう、よろしくお願いしたい」との発言を行った。

(4)採決

(i) CPオペに関する執行部提案

 まず、CPオペの積極的活用に関しては、採決の結果、買い入れ対象となるCPの残存期間を3か月から1年に拡大するよう、「コマーシャル・ペーパーの売戻条件付買入要領」の一部改正および「日本銀行業務方法書」の一部変更を行うことが、全員一致で議決された。

(ii) 対外公表文

 CPオペの積極的活用を含めて、会合で検討された3つの措置をどのように対外公表するかについては、委員の意見が分かれたため、以下の2つの議案が提出された。

 中原委員からは、CPオペの積極的活用についてのみの対外公表文が議案として提出され、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数意見をとりまとめる形で、別添2の対外公表文が議案として提出された。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員 後藤委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員
  • 反対:中原委員

 中原委員は、(1)臨時貸出制度については、金融機関に対する日銀貸出がどんどん増加する危険性があるほか、かつての貸出制度が復活するのではないかとの印象を与えるなど、問題がいくつかあること、(2)社債等を担保としたオペについては、臨時の措置ではなく恒久的な制度になるので、もう少し詰めて検討すべきこと、(3)これらの措置は中央銀行が民間金融機関の領域に踏み込むものとの印象を世間に与えかねないと同時に、日本銀行への要求がよりリスクの高いオペレーションへとエスカレートしていく可能性を秘めていること、(4)日本銀行は、必要があれば正統的な金融政策で一層の金融緩和を図るべきであること、といった理由から、上記議長案に反対した。

VIII.金融経済月報「基本的見解」の検討

 当月の金融経済月報(アイボリーペーパー)に掲載する「基本的見解」が検討され、採決に付された。採決の結果、「基本的見解」が全員一致で決定され、それを掲載した金融経済月報を11月17日に公表することとされた。

以上


(別添1)
平成10年11月13日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

以上


(別添2)
平成10年11月13日
日本銀行

最近の企業金融を踏まえたオペ・貸出面の措置について

 日本銀行では、景気の悪化に歯止めをかけることを狙いとして、思い切った金融緩和スタンスを堅持してきている。また、日々の金融市場の調節に当たっては、CPオペの活用などにより、企業金融の円滑化にも十分配慮しつつ、機動的、弾力的な資金供給に努めてきている。ただ、金融機関の融資姿勢は、わが国金融機関を取り巻く厳しい市場環境や企業業績の悪化を反映して、慎重なものとなっている。また、資本市場においても、信用リスクに対する警戒感が強まっている。このため、年末から年度末にかけて、企業金融は一層厳しさを増す可能性がある。

 こうした状況にかんがみ、日本銀行では、中央銀行の資産の健全性に留意しつつ、金融機関借入・市場調達の両面で企業金融の円滑化に資することを狙いとして、貸出・オペレーションについて、以下の措置を講じることを、本日、政策委員会・金融政策決定会合において決定した(賛成多数)。

1.CPオペの積極的活用

 日々の金融調節の中で、CPオペを一層積極的に活用することとし、そのため、買入れ対象となるCPの期間を拡大する(注)とともに、CPの発行企業の適格審査事務を迅速化する。本措置は、11月16日から実施する。

  • (注)現行:「満期日が買入れの日の翌日から起算して三ヶ月以内に到来する」もの
    改定後:「満期日が買入れの日の翌日から起算して一年以内に到来する」もの

2.企業金融支援のための臨時貸出制度の創設

 年末・年度末にかけて、金融機関の企業向け貸出を資金繰り面から支援していく趣旨から、企業向け貸出が季節的に増加する10〜12月期における金融機関の貸出増加額の一定割合(50%)を対象に、リファイナンスのための日銀貸出制度を新たに設ける。その際、担保は国債のほか、日本銀行が適格と認める民間企業債務(手形<含むCP>、社債、証書貸付債権)とし、原則として、担保価額の50%以上は、民間企業債務を差し入れることを条件とする。また、貸出期間は原則として、年度末を超える4月までとし、金利は0.5%とする。また、10〜11月中に貸出を増加させた金融機関に対しては、12月中旬にも本件貸出制度が利用できることとする。

 本件貸出制度は、年末・年度末の企業金融円滑化に資することを狙いとした臨時の措置である。今後、早急に実務面での準備を進め、詳細が固まり次第改めて決定し、対外公表を行う予定である。

3.社債等を担保とするオペレーションの導入

 金融調節の中で、民間企業債務を一層活用していく趣旨から、社債および証書貸付債権を根担保として、金融機関が振り出す手形を金利入札方式で買い入れるオペレーション手段を新たに導入すべく、実務的な検討を進める。今後、準備が整い次第決定のうえ、資金供給手段の一つとして活用していく方針である。

以上