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金融政策決定会合議事要旨

(1998年 6月25日開催分)*

  • 本議事要旨は98年 7月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で承認されたものである。

1998年 7月31日
日本銀行

(開催要領)

1.開催日時
98年 6月25日(9:00〜11:57)
2.場所
日本銀行本店
3.出席委員
  • 議長 速水 優(総裁)
  • 藤原作弥(副総裁)
  • 山口 泰(  副総裁  )
  • 後藤康夫(審議委員)
  • 武富 将(  審議委員  )
  • 三木利夫(  審議委員  )
  • 中原伸之(  審議委員  )
  • 篠塚英子(  審議委員  )
  • 植田和男(  審議委員  )
4.政府からの出席者
  • 経済企画庁 新保生二 調査局長

(執行部からの報告者)

  • 理事黒田 巌
  • 理事松島正之
  • 金融市場局長山下 泉
  • 国際局長村上 堯
  • 調査統計局長村山昇作
  • 調査統計局早川英男
  • 企画室企画第1課長山本謙三

(事務局)

  • 政策委員会室長三谷隆博
  • 政策委員会室渡部 訓
  • 企画室調査役門間一夫

I.前々回会合の議事要旨の承認

 前々回会合(5月19日)の議事要旨が全員一致で承認され、6月30日に公表することとされた。

II.金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要

1.最近の金融調節の運営実績

 金融調節については、前回会合(6月12日)で決定された方針(無担保コールレート<オーバーナイト物>を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す)に従って運営した。

 具体的にみると、前回会合以降は、一部金融機関の経営問題に関する思惑等から、総じてレートが強含みやすい地合いにあったため、前積み期間最終日の6月15日に追加オペを実施したのをはじめ、連日厚めの資金供給を実施した。とくにここ2〜3日は、オーバーナイト・レートが0.5%を超えて強含む場面もみられる中で、朝方の積み上げ幅を拡大するとともに、最終時点でも余剰を残して準備預金の積みを進捗させる調節を行うなど、レートの安定に努めている。なお、前積み期間中(5月16日〜6月15日)のオーバーナイト・レート加重平均は、0.44%で着地した。

 当面は、金融機関を巡る市場の不安心理が根強いことに加えて、夏期賞与の支払い、税揚げなどの資金不足要因が見込まれるため、引き続きレートに上昇圧力がかかりやすい地合いにあると予想される。したがって、調節面では、潤沢な資金供給を続けていく考えである。

 なお、ターム物金利についても、信用リスクに対する不安心理が強まるもとで、——昨年秋ほど大幅な上昇ではないが——、じりじりと強含む展開となっている。

2.為替市場、海外金融経済情勢

(1)為替市場

 円の対米ドル相場をみると、前回会合直後の6月15日に、90年8月以来の水準である146円台後半まで円安が進行した。その後、日米協調介入や、不良債権処理の迅速化を含めた経済問題全般への政府の取り組みが表明されたことなどから、円は一時134円前後まで反発した。もっとも、不良債権処理策に関する不透明感が依然として強く、一部金融機関の経営問題に関する思惑等も台頭する中で、円は再び141円前後まで軟化している。

 この間、円の対ドイツマルク相場も、日米協調介入直後に一旦75円台まで上昇したが、その後は再び弱含んでいる。東アジア通貨は、対米ドルで6月央にかけて下落したあと、日米協調介入を受けて反発したが、その後は一進一退の動きとなっている。

(2)海外金融経済情勢

 米国経済の動向をみると、内需は家計支出を中心に引き続き堅調であるが、アジアの経済調整を背景とした外需減速から、生産活動の拡大テンポは鈍化傾向にある。こうしたもと、物価は引き続き落ち着いた動きを示している。株価は、経済成長鈍化の兆しなどを背景とする企業収益悪化への懸念などから、軟調に推移しており、30年国債利回りも、「安全性への逃避(flight to quality)」の動きもあって、70年代に発行が開始されて以来の最低圏内で推移している。

 欧州経済の動向をみると、ドイツでは緩やかな景気の回復が続いており、フランス経済も堅調な動きを続けている。英国では、イングランド銀行が、6月4日にオペ金利を引き上げたが、雇用、物価関連の指標は引き続き総じて強めであるため、市場では再利上げへの思惑も燻っている。

 東アジアでは経済調整が続いている。韓国、タイは、IMFプログラムを概ね予定通り実施しているのに対し、インドネシアでは、国内で暴動が頻発するなどなお不安定な状況であるため、早期にIMFプログラムに沿った調整が進むよう期待されている。

3.国内金融経済情勢

(1)実体経済

 前回会合以降に発表された経済指標をみると、1)輸入が減少ピッチを速め、2)設備投資が急速に減少しているほか、3)生産・雇用関連指標も幾分下方修正されるなど、経済の活動水準がさらに低下していることが窺われる。

 とりわけ、設備投資の減少は、昨年末の金融システム不安などに端を発した家計支出の減退やアジア向け輸出の減少に起因するだけではなく、中小企業を中心に企業の投資マインドが急速に萎縮した可能性があることを示している。これらを踏まえると、経済に働いている負のモメンタムの大きさを判断するうえで、当面、6月短観における設備投資計画の修正状況等に注目していくことが重要である。

(2)金融情勢

 金融面をみると、日米協調介入や、不良債権処理の迅速化等に関する政府の取り組みが表明されたことなどを反映して、株価、長期国債流通利回りとも反発した。もっとも、両者ともその後やや弱含んでいることからみて、市場のセンチメントは、——一頃より持ち直しつつも——、なお神経質な状況にある。この間、短期金融市場におけるターム物金利は、一部金融機関の経営問題に関する思惑等を背景に、やや強含んでおり、金融機関の信用リスク・流動性リスクに対する警戒感が、再び若干強まっているように窺われる。

 なお、マネーサプライは、4月に前年比伸び率が大きく低下した後、5月は小幅の持ち直しとなった。ただ、民間部門の資金需要は低迷が続いており、マネーサプライ伸び率の鈍化傾向自体には、大きな変化はないものとみられる。

III.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要

 金融経済情勢の現状および先行きについて、前回会合(6月12日)以降の追加的な材料を踏まえ、前回会合の判断を修正すべき部分があるかどうかという観点から、討議が行われた。

 まず、設備投資については、ある委員から、1)法人企業統計によると企業収益がかなり悪化してきていること、2)中小企業金融公庫の製造業設備投資アンケートにおいて97年度の設備投資が年度後半に異例の大きさで下方修正されていること、といった状況からみて、設備投資の減少は中小企業を中心に加速してきているとの判断が示された。別の委員からは、こうした設備投資の減少について、もともと過剰ストックが残存しているもとで、新たなストック調整局面が始まった可能性が高く、今後さらに非製造業(建設、不動産等)も巻き込む形で、2〜3年程度調整が続くのではないかとの見解が述べられた。その委員からは、調整の大きさについて、設備投資のGDP比率は、バブル崩壊後の不況で5%ポイント程度低下したが(約20%→約15%)、最悪の場合これが米国並みの10%程度まで低下する可能性があるとの見方が示された。さらに別の委員からは、これまでは、日本経済に昨年生じたショック——すなわち、1)財政面からのデフレ圧力、2)金融システム不安等による個人消費の落ち込み、3)アジア経済の混乱等による輸出の頭打ち——の二次的な波及がどの程度大きくなるかという視点から情勢を注目してきたが、1〜3月の設備投資の大幅な落ち込みを踏まえると、一次的なショックの大きさ自体がこれまでの認識を上回るものであった可能性があるとの意見があった。さらにその委員からは、このように企業部門を含む形で大きなショックが発生した背景として、1)先行き不透明感の強まり、2)金融仲介機能の低下、の二つが考えられるが、各々をどのようなウェイトで考えておけばよいかは判然としないとの陳述があった。

 次に、個人消費については、一頃の落ち込みには歯止めがかかりつつあるとみられるが、雇用・所得環境の悪化を踏まえると、目先明確な回復に向かうとは考えにくく、逆にもう一段落ち込むリスクも否定できないという見方で、委員の認識はほぼ一致していた。

 具体的にみると、最近の個人消費関連指標の動きについては、ある委員から、低価格車中心ながら乗用車の販売がやや持ち直しているようにみられるのは明るい材料との見解が示されたほか、別の委員からも、全般に下げ止まりの兆しがみられるとの指摘があった。もっとも、これらの委員も含め、数名の委員から、企業部門における収益や生産の減少が、雇用調整の本格化や名目賃金の低迷を通じて家計所得に悪影響を与える可能性が懸念されるため、個人消費が再び落ち込むリスクは否定できないとの見方が示された。また、このところ企業倒産が増勢を強めていることや、金融システム不安が再び台頭しつつあることなどが、家計のビヘイビアにどのような影響を与えるかについて、注意深くみていく必要があるとの指摘を行った委員もあった。この間、ある委員からは、製造業大企業について言えば、総合経済対策の効果が出始める秋口まで、これ以上大きく操業度を落とさずに凌いでいく計画にあるため、常用雇用の調整が本格化するリスクは差し当たり小さいとの見方が示された。しかしその委員も、中小企業については、倒産の増加に伴って失業者が増加するリスクが否定できないとの見解であった。

 生産・在庫面については、ある委員から、素材産業を中心に限度一杯生産を絞っている企業が増加しているが、一方で民間需要が低迷しているため、在庫調整は前回会合時に予想していたよりも長引くのではないかとの見方が示された。そうした情勢を踏まえ、その委員からは、景気が夏場に向かって二番底の様相を呈する懸念が依然として強いとの見解が述べられた。

 なお、このところ輸入が大きく減少している点については、内需の弱さだけではなく、輸入品の在庫が大幅に積み上がっていることも影響しているとの指摘もあった。

 こうした最終需要および生産の動向等を踏まえ、多くの委員から、全体として前回会合の判断を大きく変えるまでには至らないが、設備投資の弱さがより鮮明になってきたことなどからみて、マイナス方向の循環の力はこれまで想定していたよりもやや大きい可能性があるとの見方が示された。ある委員からは、財政支出の増加を確認できる前の段階で、設備投資の落ち込みがはっきりしてきたことを踏まえると、7〜9月頃には経済活動が概ね下げどまりに向かうというこれまで念頭においてきたシナリオは、やや不確実になってきているとの見解が述べられた。別の委員からは、景気一致指数が、97年3月の景気の山を100としてこの4月に88〜89程度まで急低下していることなどからみて、景気に反転の気配は全く感じられず、98年度の成長率はマイナス、さらに99年度もマイナス成長が続く可能性は否定できないとの意見も述べられた。このように、景気の先行きをみるうえで、ダウンサイド・リスクを、これまでよりもやや強く意識しておかざるを得ないのではないかとの認識で、委員の見方はほぼ一致していた。

 しかし一方で、総合経済対策の効果が秋口から出てくると見込まれることや、政府・自民党において金融再生トータルプランへ向けた動きが本格化している状況に鑑みると、これらが家計、企業のコンフィデンスにどのような効果を及ぼしていくのかを含め、もう少し情勢の展開を見守る必要があるという点で、委員の認識は概ね一致していた。

 また、現在経済に働いている負のモメンタムの強さ自体についても、近日中に明らかになる6月短観の調査結果等を踏まえて再確認したいとの意見が、数名の委員から述べられた。その中には、6月短観の結果自体もさることながら、それに対して金融・資本市場がどのような反応を示すかも、景気の先行きを展望するうえで注目していきたい動きのひとつであるとの見解もあった。

 この間、金融面の動きについては、ある委員から、このところのターム物金利や株価の動きをみると、金融機関の信用リスクや流動性リスクに対する警戒感が再びじりじりと強まってきているように窺われるが、昨年11月の状況と比べれば、なお総じて落ち着いているとみてよいのではないかとの指摘があった。

 また、別の委員からは、株価や長期金利などが弱い動きを続けているのは、景気の現状を反映しているという面もあるが、日本経済の将来展望を切り拓くための前提条件として、資産デフレの清算を市場が求めているものではないかとの見方が示された。これに関連して、もう一人の委員から、前々日公表された金融再生トータルプランの第1次とりまとめについては、ブリッジバンク等のスキームが示されていないことなどから、市場の評価は必ずしも高くないとの指摘があった。

 為替相場については、日米協調介入によって円安に一応の歯止めがかかった点について、複数の委員から、様々な要因を総合的に踏まえれば一応ポジティブに評価しうるとの見解が示された。具体的には、ある委員から、今回の協調介入によって実現された為替相場水準は、多くの企業が想定しているレベルにほぼ見合ったものであり、日本経済への直接的なプラスの面が残されつつ、アジア経済への影響等から生じるマイナスの面はそれなりに減少したと言えるのではないかとの評価が示された。別の委員からは、今回の協調介入前後で、円相場は133円〜146円のレインジで変動したことになるが、このレインジ下端の133円というのは、貿易財価格を基に経済企画庁が試算した購買力平価に等しいとの指摘があった。さらに、もう一人の委員からは、円安は、本来ならばわが国の経済の弱さに対して、市場による自己調整装置として働くものと考えられるが、円安が株安との連動を強めるような場合には、かえって経済にとって不安定要因となる面があることも否定できないとの見方が述べられた。

IV.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要

 以上で検討された金融経済情勢を踏まえて、当面の金融政策運営の基本的な考え方が検討された。

 ほとんどの委員から、前回会合以降明らかになった追加材料は、景気が従来考えていたよりもやや弱い方向にある可能性を示唆するものと判断されるが、金融政策運営については、少なくとも次回会合(7月16日)まで、これまでの緩和基調を続けることが適当との見解が示された。その主な理由として挙げられたのは、1)短観など当面明らかになる判断材料やそれに対する市場の反応等を踏まえて、景気の先行きについてさらに検討を深める必要があること、2)日米協調介入後のこのタイミングにおいて、再び円安を招来する可能性のある金融政策運営は採りにくいこと、3)景気回復のために何らかの手だてが必要であるとしても、それを金融政策面で行いうるかどうかについて疑問無しとしないこと、といった諸点であった。

 まず、ある委員から、金融システム対策の展開とその株価等への影響や、総合経済対策の効果が民間経済の弱さに吸収されることなく現れてくるのか、といった重要な点について、現時点では不確実な部分が大きいとの指摘があった。その委員からは、当面出てくる追加材料を踏まえて、そうした諸点を吟味し、98年度から99年度にかけての景気展開を検討しておく必要があるとの見解が述べられた。別の委員からも、当面は財政や不良債権対策の動きを見守るほか、今月末にかけて明らかになる短観結果や各種の月次経済指標に注目したいとの見方が示された。

 為替相場との関係では、ある委員から、日米協調介入後も円相場には下落圧力がかかりやすい地合いにあり、そうした中での金融緩和は再び円安の進行を促進しかねないとの見解が示された。別の委員からも、為替市場やアジア情勢が依然として不安定であることを踏まえると、日米協調介入後まだ日も浅いこのタイミングで金融緩和に踏み切るには、よほどの理由が必要であろうとの意見が述べられた。

 また、そもそも現在の日本経済への政策対応を、金融政策で行うことが果たして適当なのかという視点から、いくつかの意見が述べられた。ある委員からは、現在は金利が多少低下しても企業が設備投資を増加させるような環境にはなく、金融政策面でなし得ることはかなり限られているのではないかとの見解が示された。その委員からは、日本銀行としては、当面、政府が打ち出している各種対策の効果を見守るしかないとの主張がなされた。別の委員からも、3年間近く非常に低い金利水準を続けてきているという特別な状況のもとで、仮に一段の金融緩和に踏み切った場合にそれが教科書的な一般論で想定されるような効果をもたらすのか、あるいはむしろある種の副作用を伴うことになるのか、慎重に考えてみる必要があるとの見解が示された。

 このほか、複数の委員から、総合経済対策による公的需要の創出を民間需要の増加につなげていくうえでは、企業や家計のマインドを好転させることが不可欠であり、そのためには、不良債権処理の迅速化とともに、税制改革等を含む抜本的な構造政策が重要であるとの指摘があった。また、別の委員からは、恒久減税について直ちに具体策が出てくるところまでは期待できないとしても、大きな方向性についてはなるべく早急に打ち出されることが望ましいとの意見が述べられた。さらに、別の委員からは、人々のマインド面への影響もさることながら、いずれにしてもこれらの構造政策を進めることが最も重要との見解が示された。このように、現在の日本経済においては、財政面からの措置や不良債権対策および構造政策が政策展開の主軸となるべきとの意見が多く出され、そうした政策環境の中で金融政策が果たしうる役割についてどう位置づければよいかとの問題意識が、複数の委員から示された。

 以上のような討議を通じ、金融政策運営については、短観や月末指標、金融再生トータルプランを巡る動き、さらにはそれらに対する市場の反応、といった追加材料を踏まえながら、次回会合で改めて再検討するのが適当との点で、多くの委員の間で認識が共有された。

 また、ある委員から、金利の引き下げ余地が乏しいことを勘案すると、次回会合以降において追加的な金融緩和が検討されるようなケースでは、いわゆる「量的緩和」などこれまでとは異なるタイプの金融緩和も、選択肢の一つとして考えておく価値はあるとの意見が述べられた。その委員からは、そういうタイプの金融政策も、金利を下げなければ量は増やせないという意味で、通常の利下げと根本的に異なるものではないが、ある程度中期的な金融緩和へのコミットメントを明確にすることを通じて人々の期待に働きかけうるという点で、追加的な効果が得られる可能性があるとの説明があった。

 以上のように、現時点ではこれまでの金融緩和基調を維持することが適当との意見が多かった中で、ある委員から、コールレート(オーバーナイト物)の誘導水準を0.40%と、現在よりも僅かではあるが引き下げる微調整を行ってはどうかとの提案が、前回に引き続き出された。提案理由としては、1)景気が依然として下降を続けていること、2)一部金融機関の経営問題等から金融市場に不安心理が台頭しており、短期金利の上昇圧力を抑える必要があること、といった点が挙げられた。また、同じ委員から、前回会合において、マイナーな政策変更には効果が無く、かえって市場に失望感を与えるリスクすらあるといった批判が強かったことに対し、景気の先行きを展望するうえで不確実要因が多い状況においては、むしろ大きな政策変更にこそ危険が伴うのであって、0.1%刻みといった段階的な政策変更の方が望ましいとの意見が付け加えられた。

 しかし、この提案について、他の委員からは、このような微調整では極めて効果が小さいという点を主たる理由に、前回に引き続き消極的な姿勢が示された。

 金融政策運営そのものではないが、それと密接に関わる点として、不良債権の抜本処理に向けて、日本銀行としてもできる限りの努力は続けていくべきとの認識が、前回会合に続き、委員の間で共有された。とりわけ、不良債権処理の過程で信用の収縮が生じ、それが景気の回復を制約するといった事態を回避することが重要との見解が、ある委員から示された。

 また、数名の委員から、金融機関に対する信用リスク等の高まりによって金利上昇圧力が強まるような場合には、従来どおり、潤沢な資金供給によって市場の不安心理除去に努めることが重要との見解が述べられた。その中には、そうした潤沢な資金供給において、CPオペの活用が有益であることを強調する委員もあった。なお、同じ委員から、いわゆる「貸し渋り」対策のひとつとして、わが国においてもコミットメントライン契約を早期に導入する必要があり、これを実現するために現在一部で検討されている利息制限法等の改正に向けての動きを、日本銀行としてもサポートしていくべきであるとの意見が述べられた。

V.政府からの出席者の発言

 経済企画庁の新保調査局長から、骨子以下のような発言があった。

● 近年の資本ストックの伸びは4%前後で推移しており、これが2%程度の潜在成長率に概ね見合ったものであることを踏まえると、資本ストックが大幅に積み上がっているとは考えにくく、したがってその本格的な調整が始まったものとは認識していない。

● むしろ、1〜3月における設備投資の減少は、それが中小企業中心の動きであったことなどからみて、いわゆる「貸し渋り」による面が大きいと考えられる。こうしたもとでは、財政面からいくら需要を刺激しても、中小企業の設備投資に波及しない可能性が懸念される。

● インフレもデフレも基本的にはマネタリーな現象と考えられるので、本当にデフレの危険がある場合には、ある委員からも指摘があったとおり、あらゆる障害を乗り越えて金融政策を活用せざるを得ないのではないかと思われる。

VI.採決

 以上の検討の結果、次回金融政策決定会合までの金融政策運営については、現状の金融緩和姿勢を維持し、財政や不良債権処理に関連する動きを含め、経済面、金融面の動向を注意深く見守っていくことが適当であるという見解が、多くの委員から示された。一方、金融緩和方向への小幅の政策変更を行うべきとの提案もあったため、次の2つの議案が採決に付されることとなった。

 中原委員からは、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.40%前後で推移するよう促すこととする旨の議案が提出された。採決の結果、反対多数で否決された(賛成1、反対8)。

 議長からは、会合における多数の意見をとりまとめる形で、次の議案が提出された。

議案(議長案)

 次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を下記のとおりとし、別添1のとおり公表すること。

 無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて公定歩合水準をやや下回って推移するよう促す。

採決の結果

  • 賛成:速水委員、藤原委員、山口委員、後藤委員、武富委員、三木委員、篠塚委員、植田委員
  • 反対:中原委員

 中原委員は、景気が急速に下降している状況を踏まえれば、現時点において可能な限り日本銀行の厳しい情勢認識を示しておくべきであり、小幅の政策変更を段階的に行って、通貨供給量の増大を図ることが適当であるとの立場から、上記採決において反対した。

 最後に、7〜12月における金融政策決定会合の日程が別添2のとおり承認された。

以上


(別添1)
平成10年 6月25日
日本銀行

当面の金融政策運営について

 日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、当面の金融政策運営について現状維持とすることを決定した(賛成多数)。

以上


(別添2)
平成10年 6月25日
日本銀行

金融政策決定会合等の日程(平成10年7〜12月)

表 金融政策決定会合等の日程(平成10年7〜12月)
  会合開催 (参考)金融経済月報公表 (議事要旨公表)
7月 7月16日(木)
7月28日(火)
7月21日(火)
−−
(8月14日(金))
(9月14日(月))
8月 8月11日(火) 8月13日(木) (9月29日(火))
9月 9月 9日(水)
9月24日(木)
9月11日(金)
−−
(10月16日(金))
(11月 2日(月))
10月 10月13日(火)
10月28日(水)
10月15日(木)
−−
(11月18日(水))
(12月 2日(水))
11月 11月13日(金)
11月27日(金)
11月17日(火)
−−
(12月16日(水))
(12月30日(水))
12月 12月11日(金)
12月25日(金)
12月15日(火)
−−
未定
未定

以上