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【概要説明】 通貨及び金融の調節に関する報告書 衆議院財務金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 植田 和男
2024年4月10日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について、詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

経済金融情勢

まず、最近の経済金融情勢について、ご説明致します。

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。輸出は横ばい圏内の動きとなっています。企業収益が改善するもとで、設備投資は緩やかな増加傾向にあります。雇用・所得環境は緩やかに改善しています。本年の春季労使交渉では、昨年に続きしっかりとした賃上げが実現する可能性が高まっています。個人消費は、物価上昇の影響に加え、一部メーカーの出荷停止による自動車販売の減少などがみられるものの、底堅く推移しています。先行きは、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみています。

物価面をみると、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰しつつも残るもとで、サービス価格の緩やかな上昇も受けて、足もとは2%台後半となっています。先行きについては、今年度は2%を上回る水準で推移し、その後は、プラス幅が縮小すると予想しています。この間、消費者物価の基調的な上昇率は、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」に向けて徐々に高まっていくと考えています。

先行きのリスク要因をみますと、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い状況です。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要があると考えています。この間、わが国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。先行き、内外の実体経済や国際金融市場が調整する状況を想定しても、わが国の金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえると、全体として相応の頑健性を有しています。より長期的な金融面のリスクとしては、金融機関収益への下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かう惧れがある一方、利回り追求行動などから、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあります。現時点では、これらのリスクは大きくないと判断していますが、先行きの動向を注視する必要があります。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、先月の金融政策決定会合において、各種のデータやヒアリング情報から、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、先行き、見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断しました。そのうえで、これまでの「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みおよびマイナス金利政策は、その役割を果たしたと考え、金融政策の枠組みを見直しました。具体的には、政策金利を無担保コールレート(オーバーナイト物)としたうえで、これを0から0.1%程度で推移するよう促すことなどを決定しました。

日本銀行は、引き続き2%の「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営して参ります。現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えています。

ありがとうございました。