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銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言(日本銀行仮訳)

1999年10月 5日
バーゼル銀行監督委員会
証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会

日本銀行から

 最終版ペーパー「銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言」の全文は、こちら(bis9910a.pdf 115KB)から入手できます。

解説ノート

バーゼル委員会とIOSCO専門委員会が、銀行と証券会社のトレーディングおよび
デリバティブ取引に関するディスクロージャーの指針を公表

 バーゼル銀行監督委員会と証券監督者国際機構(IOSCO)専門委員会は、本日、トレーディングおよびデリバティブの分野でのパブリック・ディスクロージャーに関する、銀行と証券会社への指針の改訂版を公表した。本文書においては、どのようなカテゴリーの情報を公開すれば、市場や取引相手が金融機関のトレーディングおよびデリバティブ取引の健全なリスク評価を行うための大きな助けとなるかが示されている。

 今回の提言は、両委員会が継続的に行なってきた努力の一環を成すものであり、銀行と証券会社が、市場参加者および一般に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引に関して意味のある情報を提供するよう促すことを狙っている。両委員会は、金融機関によるディスクロージャーの改善は、業務を効率的に、かつ定められた事業目的に沿って管理する金融機関が報いられるような市場ベースのインセンティブを創り出すことにより、安全かつ健全で、有効に監督される金融システムを育成するための監督当局の努力を補強する可能性が強いと考える。

 本日公表されたペーパーは、世界各国の金融アナリストや実務家から寄せられたコメントに負うところが大きい。寄せられたコメントは、一般に、ディスクロージャーの強化という原則に好意的であった。両委員会は、金融実務家から寄せられたコメントのうち、特に次の2点を、十分に認識すると同時に支持するものである。第1に、ディスクロージャーの価値は、重要性の原則の観点からみて、そのディスクロージャーが適切な水準に達しているか否かにより決まることである。第2に、開示可能な情報の量に制限を加える有力な要因として、法律および私的財産権に関する配慮があることである。

 本ペーパーは、米国通貨監督庁のSusan Krause氏が議長を務める、バーゼル委員会の透明性小委員会、および、英国金融サービス機構のPaul Wright氏が議長を務める、IOSCOの「金融仲介者の規制に関するワーキング・パーティ」が共同で作成したものである。

バーゼル銀行監督委員会

 バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国および米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のWilliam J. McDonough総裁兼CEOである。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。
 バーゼル委員会の透明性小委員会は、バーゼル委員会がパブリック・ディスクロージャーおよび監督当局への報告に関する諸問題を検討するに当たって主たる責任を有する。同小委員会の議長は、米国通貨監督庁の国際関係担当副長官であるSusan Krause氏が務めている。透明性小委員会の作成したレポートには、「銀行の透明性の向上について」(1998年9月)および「信用リスクのディスクロージャーに関するベスト・プラクティス」(市中協議ペーパー、1999年9月)が含まれる。

IOSCO専門委員会

 IOSCO専門委員会は、先進国における証券会社の監督当局の委員会である。同委員会は、オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、イタリア、日本、メキシコ、オランダ、オンタリオ州、ケベック州、スペイン、スウェーデン、スイス、英国および米国の証券監督当局の上席代表により構成される。現在の議長は、フランス証券取引委員会のMichel Prada氏である。
 IOSCOの「金融仲介機関の規制に関するワーキング・パーティ(The Working Party on the Regulation of Financial Intermediaries)」の議長は、英国金融サービス機構のPaul Wright氏が務めている。本グループは近年、リスク管理の分野を中心として多様な作業を行ってきた。本グループは、IOSCO専門委員会の後援の下、バーゼル委員会との調整と協議について第一義的責任を担っている。本グループは、IOSCO専門委員会のメンバー機関を代表する証券監督者により構成される。

これまでに行なわれた作業

 バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、G10諸国の銀行と証券会社におけるディスクロージャーの実務について調査を行なってきた。最も新しい調査は、1998年11月に公表された「銀行、証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引に関するディスクロージャー:1997年のディスクロージャー状況の調査結果」である。本調査報告においては、トレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーが、量、詳細度、および明確性において近年大幅に改善していることが示された。しかしながら、両委員会は、リスク管理のあり方や金融市場の変化のペースについてゆくため、パブリック・ディスクロージャーは継続的に向上してゆかなければならないと考える。更に両委員会は、トレーディングおよびデリバティブ取引について監督当局が収集すべき情報に係る指針を公表した(「銀行、証券会社のデリバティブおよびトレーディングに関し監督上必要とする情報を収集する際の枠組み」、1998年9月)。
 本日公表されたペーパーに述べられている提言は、1995年に、両委員会が、銀行および証券会社によるトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーに関する最初の調査報告の際に公表した提言に代わるものである。前回の提言以降、金融機関によるデリバティブの利用の拡大、リスク管理技術の利用と内容の変化、ディスクロージャーの基準や実務の継続的な変化など様々な変化が生じた結果、指針の更新は必須となった。

本レポートの全文をどこで入手できるか?

 「銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言」のテキストは、公表日以降、BISウェブサイトwww.bis.org(外部サイトへのリンク)およびIOSCOウェブサイトwww.iosco.org(外部サイトへのリンク)から入手することができる。


エグゼクティブ・サマリー

銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引の
パブリック・ディスクロージャーに関する提言

 本ペーパーは、バーゼル銀行監督委員会とIOSCO専門委員会が共同で公表し、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引のパブリック・ディスクロージャーに関する提言を行うものである。これらの提言は、国際的に活動する大規模な銀行および証券会社によるトレーディングおよびデリバティブ取引のディスクロージャーにつき、両委員会が毎年行っているサーベイを補完するものである。最新のサーベイは1998年11月に公表されている。いずれの提言も、両委員会が継続的に行ってきた努力の一環を成すものであり、銀行と証券会社が、市場参加者に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引に固有のリスクを理解してもらうために十分な情報を提供するように促すことを狙っている。

 両委員会は、銀行と証券会社の業務およびリスクの透明性は、金融システムを有効に監督するうえで、鍵となる要素であると考えている。適時に提供される意味のある正確な情報は、市場参加者の重要な意思決定の基盤となる。十分な情報を持った投資家、預金者、顧客、および債権者は、強い市場規律を働かせることにより、金融機関に対し、注意深くかつ定められた事業目的に適った方法で業務およびリスク・エクスポージャーを管理するよう促すことができる。

 本ペーパーに挙げられている項目についてどの程度ディスクロージャーを行なうかは、主としてそれぞれの機関が決定する問題であるが、各機関は重要性(materiality)と機密性(confidentiality)に配慮しつつ最大限のディスクロージャーを行なうことを勧奨される。

 本ペーパーの提言は、以下の二つの点に沿ったものとなっている。

  • 第一に、金融機関は財務諸表の利用者に対し、自らのトレーディングおよびデリバティブ取引の実態を正確に伝えるべきである。金融機関は、こうした取引の範囲と性質に関し、定性・定量双方の面において、意味のある概略情報を提供するとともに、それらの取引が収益構造にどのように寄与しているかを明らかにすべきである。金融機関はまた、こうした取引に伴う主要なリスク、およびそれらのリスク管理の実績に関する情報を開示すべきである。
  • 第二に、金融機関は、自らのリスク・エクスポージャーおよびその管理実績に関し、内部的なリスク測定・管理システムから生成される情報を開示すべきである。パブリック・ディスクロージャーを内部リスク管理プロセスと結び付けることにより、ディスクロージャーがリスク測定・管理技術の革新に遅れをとらないようにすることができる。

 バーゼル委員会およびIOSCO専門委員会は、銀行と証券会社が本ペーパーに示されている定量・定性双方の面においてディスクロージャーのガイダンスを実行に移すことを提言する。また、銀行と証券会社は、ディスクロージャーに係る他の国内および国際団体の提案、および国際的なレベルで同格に当たる金融機関が行っているディスクロージャーの方法も参考にすべきである。

 ディスクロージャーの提言は、大規模にトレーディングおよびデリバティブ取引を行うその他の金融・非金融機関にとっても有用かもしれない。会計基準設定者、規制当局、およびその他のディスクロージャー基準設定に責任を有する機関にとっても、より良い、調和のとれたパブリック・ディスクロージャー基準を開発していく際に、本ペーパーが役に立つかもしれない。本ペーパーは、他のより広範な報告の枠組を代替ないし無効にすることを意図してはいない。

 本ペーパーに掲げる提言は、両委員会が、銀行と証券会社のトレーディングおよびデリバティブ取引に係る初回の調査報告書に基づいて、1995年に発表した提言に代わるものである。前回の提言以降、金融機関によるデリバティブの利用の拡大、リスク管理技術の利用と手法の変化、およびディスクロージャーの水準や実務の継続的な向上等、様々な進展がみられた。

以上