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金融高度化センター・パネルディスカッション

(五十音順)

パネリスト:
柴田 誠  氏(XBRL Japan 金融委員会 委員長)
白田 佳子 氏(XBRL Japan 教育委員会 副委員長)
(芝浦工業大学大学院 教授)
土本 清幸 氏(東京証券取引所 上場部長)
山上 聰  氏(XBRL Japan マーケティング&コミュニケーション委員会 委員長)
吉田 幸司 氏(金融庁総務企画局企業開示課 課長補佐)
司会:
和田 芳明(日本銀行金融機構局 企画役)

和田

本日は、わが国においてXBRLの実用化に取り組んでおられる各方面の実務家の方々をパネリストとしてお招きしております。まず、第二部のパネルディスカッションから参加される吉田さん、土本さん、白田さんに、それぞれのお立場におけるXBRLの実用化に向けた取り組みなどについて、ご紹介を頂きたいと思います。

吉田

金融庁では、有価証券報告書等の証券取引法で定める開示書類について、従来の紙媒体による開示から電子媒体による開示への移行を段階的に進めており、これを支えるインフラとして、EDINET(Electronic Disclosure for Investors'NETwork)と呼ばれる電子開示システムを稼動させています。以下、資料に沿って説明します。

EDINETでは、開示会社が法定開示書類をインターネットで提出し、これがデータベースに登録されます。閲覧者は、全国の財務(支)局の閲覧室、証券取引所および証券業協会に設置されたパソコンから、当該データベースに格納された開示書類にアクセスすることができます。また、個人のパソコンからインターネットで、当該データベースに格納された開示書類にアクセスすることも可能です。

EDINETの稼動により、開示会社にとっては、法定開示書類を製本したり、財務局まで出向いて提出する必要がなくなり、開示に係る事務コストを低減することができます。また、一般投資家にとっても、パソコンからの情報収集が可能となり、開示書類への迅速かつ公平なアクセスが確保されることになります。

開示書類の種類によってEDINETの適用時期は異なりますが、平成16年6月以降は大半の開示書類について電子開示手続が義務付けられています。こうした中、EDINETによる提出会社の数も本年6月時点で累計8,000社余りまで順調に増加しています。また、一般投資家からのインターネット経由での情報アクセス件数も本年6月には20万件/月程度と増加傾向にあります。

金融庁としては、企業の財務情報を投資家に迅速かつ正確に開示し、投資家のスピーディーで適切な意思決定をサポートしていくことが、健全な市場育成の観点からも重要な政策課題であると考えています。また、当局における開示書類の審査作業についても一層の効率化を図る必要があると認識しています。

こうした課題に適切に対応する観点から、昨年11月に関係11団体とともに「EDINETの高度化に関する協議会」を立ち上げ、この中で、現在のEDINETにXBRL技術を活用する方向で検討を進めています。今年度中には、政府の電子政府構想の一環として、「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム最適化計画」を策定し、XBRLを活用した新しいEDINETの具体案を取り纏めることにしています。

土本

配布資料に即して説明します。吉田さんから法定開示書類の電子開示のお話がありましたが、私ども証券取引所では、取引所の規則によって、上場会社に対し重要な会社情報のタイムリーな開示(適時開示)を義務付けています。東証では、会社情報の広範かつ迅速な伝達を目的として、平成10年4月にTDnet(Timely Tisclosure network)を稼働させました。その後、平成15年4月の第2次システム稼動に合わせて、XBRLのVer2.0を世界で初めて採用・実用化し、現在に至っています。

現在のTDnetにおいては、上場会社の適時開示制度の下で、決算短信や業績予想の修正に関する情報開示を義務付けていますが、これらの情報の数値データの入力や蓄積にXBRLの技術を活用しています。データの入力者である上場会社自体はXBRLを利用していなくても、東証が提供する入力フォームに入力するだけで、自動的にデータがXBRL化されるという仕組みが、現行TDnetにおけるXBRL化の最大の特徴として挙げられます。

将来像としては、TDnetにおけるXBRLの適用範囲をさらに拡大したいと思っています。具体的には、現在は決算短信の1枚目部分のデータのみがXBRLの適用対象となっていますが、決算短信・四半期開示における基本財務諸表部分についてもXBRLを適用する方向で検討を進めています。また、出口の部分でのXBRL化、すなわち、XBRLデータそのものを東証から投資者に提供することも検討しています。なお、東証としては、さきほど吉田さんから説明のあった金融庁のEDINETのXBRL化とも連携を取りながら、法定開示タクソノミーとの整合性を確保していきたいと思います。

今後の取り組みとしては、金融庁の主催する「EDINETのXBRL化に関するワーキング」等に参画していくほか、中期経営計画の一部として策定しているITマスタープランに基づき、平成20年度を目途として、XBRL適用範囲を拡大した第3次TDnetを開発、稼動させたいと考えています。また、TDnetがこれまで蓄積してきた決算短信に係るインスタンス(注)、及び、プロトタイプとして開発したタクソノミー(注)を本年度中に試験公開する準備を進めています。今後、試験公開後の利用者からのフィードバック内容を第3次TDnetの開発作業にも反映していきたいと思っています。

  • (注)タクソノミーとは、貸借対照表等の勘定科目名(ラベル)や勘定科目間の関連性、財務情報の表示形式などを定義するもの。タクソノミーを用いて実際に作成された文書をインスタンスと呼ぶ。

白田

XBRLユーザーの視点からお話をしたいと思います。私は企業倒産予知モデルや与信管理モデルの研究を専門にしているため、日ごろから企業の財務データを取り扱う立場にあります。私の研究活動において、ユーザーにとって使い勝手のよい財務データのあり方を以前から模索していましたが、そうした中で出会ったのがXBRLでした。

また、教育の現場でもXBRLを積極的に取り入れています。XBRLと聞くと、「利用するのが難しいのではないか」、「エクセルと何が違うのか」といった抵抗感や疑問をお持ちになるかもしれません。しかし、二十歳前後の学部生にXBRLの講義を30分程度した後、実際にXBRLを使わせてみると、彼らは一様に「エクセルの世界にはもう戻れない」と言います。XBRLの普及には若い世代への教育も重要な役割を担うとの思いから、現在、XBRL Japanの教育委員会で様々な啓蒙活動のお手伝いをしています。

私としては、企業の財務データ交換が早くXBRL化しないかと思っていますが、本日会場にお越しの皆様も、実際にXBRLに触れて、現実に財務データの加工や分析をしていただくと、XBRLの素晴らしさを実感していただけるのはないかと思います。一人でも多くの方にXBRLを体験していただきたいと思います。

和田

ありがとうございました。ここからは、共通のテーマについて議論していきたいと思います。本日のセミナーには金融機関の皆様が多数参加されていますが、金融機関にとってXBRLの活用はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。また、一般企業や社会全体に対してどのような貢献が可能なのでしょうか。

柴田

金融機関における情報処理の中で、財務データの処理は大きなウエイトを占めており、あらゆる業務において財務データの効率的な活用が課題となっています。しかしながら、現実には、例えば銀行の融資業務をみると、財務データをそのままの形で再利用できるケースは非常に限られていますし、「データの手入力→ペーパーの出力→データの手入力」といったプロセスがかなりの程度存在するのが実情ではないかと思います。データの記述形式が複数あるため、同じようなデータであっても、行内の様々な情報ネットワークに乗せるためには、どうしても手入力が何度も発生してしまうといった事情があります。

XBRLによって財務データの記述形式が標準化されれば、銀行業務における現在の手作業のかなりの部分がSTP(Straight Through Processing)化され、大幅な業務の効率化を図ることが可能になると思います。また、財務データの入力ミスの防止や検証コストの低減にも大きな威力を発揮するのではないでしょうか。

土本

金融機関におけるXBRL活用のメリットのお話がありましたが、こうしたメリットを金融機関が最大限に享受していくうえで、事業会社におけるXBRLの普及が重要なポイントになると思います。今後、金融庁や私ども東証の取り組みによって、上場会社におけるXBRLの利用は拡大していくものと予想されます。そうした中で、金融機関においては、法人顧客である事業会社のXBRL利用を自らのデータ処理システムや現場の業務運営に上手に取り込んでいくことで、さきほど柴田さんから指摘のあったメリットを最大化できるものと思います。

山上

金融機関は企業の財務データのスーパーユーザーと言えます。金融機関が信用仲介機能を効果的に発揮していくためには、顧客の財務データを効率的に処理し、リスク管理や当局への報告などの情報の流れをスムーズにしていく必要があります。XBRL化によって一連の情報の流れを円滑かつ低コストにすることにより、例えば融資実行までの期間の短縮化など金融サービスの向上にも役立てることができると思います。

白田

土本さんから上場会社のXBRL利用の話がありましたが、地域金融機関の顧客である非上場企業にもXBRLの利用を促していくことが大切だと思います。金融機関の融資業務では、与信判断を効率的に行うことで迅速に融資を実行することができれば、顧客の満足度の向上に繋がります。

例えば、借り手である中小企業がXBRLによる財務データの提供に応じた場合には、金融機関内部の融資実行手続きの効率化によるメリットの一部を、貸出金利の引き下げといった形で顧客である中小企業に還元することも考えられます。XBRLによる財務データの流通を促進していくためには、借り手、貸し手双方にメリットがあるようなインセンティブ・メカニズムを積極的に導入することが非常に重要になってくると思います。

そうした意味では、今後のXBRLの普及や社会全体の厚生を考えた場合、金融機関の役割は大きいと言えるかもしれません。

和田

XBRLのメリットとして、「効率性」、「正確性」、「迅速な意思決定」といったキーワードに繋がるようなお話が紹介されました。ほかに何かございますか。

吉田

XBRLによって財務データ交換におけるフォーマットの共通化が進めば、データの再利用が可能となり、金融機関は当局あて報告資料や開示書類などを別々に作成する必要がなくなります。また、監督当局として適切に金融行政を遂行するうえでは、金融機関から提出を受ける様々な資料(データ)の「正確性」が重要なポイントになります。この点、XBRLのデータ・スクリーニング機能は魅力的であると思われます。

山上

XBRLの特徴として、財務データ(数字)に「意味(定義)」を付与することができるという点があります。個々の財務データは、それぞれに意味付けされた情報単位ごとにITインフラから切り離され、異なるITシステム間での互換性を確保することが可能になります。また、数字に意味を与えることで、企業活動における財務データの処理や会計処理のプロセスを可視化できるといったメリットもあります。こうした特徴は、企業経営者にとって内部統制の強化といった面で大きな可能性を持つものと思います。

白田

山上さんから指摘のあった「可視性」について、皆様にとって身近なエクセルとの対比でお話すると、例えば、企業の財務分析において「流動比率」を算出する場合、エクセルの計算式では「セルAをセルBで除する」という形で表現されます。一方、XBRLの場合は、セルの認識ではなく、財務データ(数字)そのものに「流動資産」や「流動負債」というタグ(荷札)がついているので、「流動比率」を「『流動資産』を『流動負債』で除する」という形でダイレクトに認識することが可能です。

こうした特徴があるため、エクセルよりもはるかに財務データの意味を理解しやすいですし、担当者が替わっても事後的なトレースが容易になります。パネルディスカッションの冒頭に、私が「エクセルの世界には戻れない」と申し上げたのもこうした理由からです。

柴田

金融機関業務におけるXBRLのメリットとして、データの「信頼性」を確保できるという点もあると思います。金融機関の融資業務では、通常の場合、取引先企業からペーパーベースで財務諸表の提出を受け、その真正性を担保する手段として税務申告における税務署の収受印を確認しています。しかしながら、最近、各金融機関が注力している無担保ローンで、この収受印を偽造する、あるいは、税務申告のデータそのものを改竄するといった悪質な事例がみられています。

これらの事例は、ペーパーベースでの財務データ交換のある種の限界を示唆していますが、国税庁の電子申告データは税理士や監査法人による電子署名が可能であり、これを融資業務に活用することができれば、ペーパーベースでの財務データ交換の限界をクリアすることも可能になると思います。

和田

パネリストの皆様からご指摘のあったXBRLの有用性については、日本銀行が、日計表のXBRL形式での授受を目指して開発しているXBRLデータの作成ツールで、金融機関の皆様にも確認していただけると思います。最後に、XBRLの今後の利用可能性や発展の方向性についてご意見をいただければと思います。

白田

XBRLによる財務データ交換は大きな可能性を秘めていると思います。本日は金融機関の融資業務への活用がメインのトピックになりましたが、私は企業間信用における与信リスク管理にもXBRLを利用していくことが可能だと考えています。中小企業の営業マンがXBRL形式の財務データを駆使して、取引先の与信管理を効率的に行っていく、そんな姿が理想ではないでしょうか。

土本

一昨年、ニュージーランドで開催されたXBRL国際大会に出席した際に、海外からの参加者の一人が、「数年後のグローバルな金融市場では、XBRLによる財務データを提供できない企業は、世界の機関投資家やポートフォリオ・マネージャーのレーダー・スクリーン(投資分析対象)から抜け落ちるのではないか」と発言していたのが強く印象に残っています。近い将来、グローバルな投資の世界においてXBRLが財務データ交換の標準になる可能性もあると思います。

山上

証券化市場の発展やシンジケートローンの成長などにみられるように、間接金融から直接金融という金融の大きな流れの中で、情報の流通性を一段と高めることが金融の分野でも重要な課題になっていると思います。例えば、証券化商品について言えば、原資産に関する情報を市場参加者が円滑かつ公平にシェアできるような情報の流れを作ることが大切です。XBRLはその役割を果たし得ると思います。

また、最近、金融機関の信用リスク管理の高度化に向けて、地域金融機関が業界として企業の財務データを共有する動きがみられています。こうしたデータ共有のツールとしてもXBRLは大きな可能性を秘めていると思います。

和田

どうもありがとうございました。それでは若干時間がありますので、会場の皆様からご質問を受けたいと思います。

質問

金融機関によって勘定科目の項目数が異なっていると思います。また、審査事務でチェックする項目数も、金融機関毎に異なっていると思いますが、そうしたときにXBRLでの財務データをやりとりするのが困難になりませんか。

柴田

XBRLには、ご指摘頂いた問題を解決するために、マッピングという機能が備わっています。例えば、財務データが入口では5万項目あったとしても、それぞれをどの科目に紐付けするのか、つまり5万項目それぞれの行き先を決めることができます。従って、金融機関によって科目が異なっていても、元の科目との紐付けのロジックを組替えればいかようにでも再現できます。また、金融機関が取引先の財務データを審査する際、チェックする項目数が金融機関間で異なっていたとしても、元データがXBRLならば、各々が希望する項目のデータを取得できますので、問題はありません。

質問

そうすると、少なくとも元データを集約するとか、元データどうしを合算するといった作業が必要になるということですか。

柴田

元データをどの科目に結びつけるかは、予め決めなければなりません。ただし、それを決めれば、後は自動的に科目毎に集計されていきます。

質問

XBRL技術に似た技術は他にはないのでしょうか。もしあるとすれば、幾つかの候補の中でなぜXBRLを推進されようとするのですか。

山上

XBRLに似た技術は、欧州で開発が試みられたことがあります。しかし、世界各地の公認会計士協会団体がXBRLを強力に支援していること、XBRL技術のベースとなるXMLという技術は、インターネットでのデータ交換に適しているため既に広く普及していることなどから、我々としてもXBRLを普及させることが適当だと考えました。

質問

日本銀行は、日計表データの授受にXBRL技術を使うためのツールを近く取引先金融機関に配付されるとのことですが、ツールには日計表データを加工する機能も付いているのでしょうか。

和田

本年度中に開始するXBRLによる日計表のデータ交換では、XBRLデータ作成ツールはお渡ししますが、データの加工ツールは含んでおりません。もちろん、必要があれば、XBRL化されたデータを、市販のツールなどを使って加工してみるということはできます。日本銀行自身でも、XBRL形式のデータそのものの加工については、来年度以降に取り組んでいこうと考えています。

質問

タクソノミーという言葉が出ましたが、それは財務データの数字に意味付けを行う、定義を与えるということだと理解しました。仮にそのタクソノミーが統一されておらず、財務データに関する色々な定義が存在すると、XBRLでデータを作る人の作業は困難を極めるのではないでしょうか。また、タクソノミーが各社毎に異なると、各社間でデータを交換することができなくなるのではないでしょうか。

柴田

ご指摘のように、仮に皆が勝手にタクソノミーを作れば、データの意味付けが異なるという問題は確かに出てきます。そのため、XBRL Japanでは、公認会計士協会と協力しながら標準的な勘定科目に関する基本タクソノミーを作っています。また、ある企業に独自のタクソノミーを開発したいというニーズがある場合には、この標準化された基本タクソノミーをベースに、一定のガイドラインに従ってタクソノミーを作る(タクソノミーを拡張する)ことができます。

白田

よりユーザーに近い立場で言いますと、銀行などの大きな組織では、独自にタクソノミーをつくるということはあり得ると思いますが、私が教えている学生がタクソノミーをつくるということはあり得ないのと同様に、一般的には既に決められたタクソノミーに沿って使用していくことになるのではないでしょうか。

無論、業種別タクソノミーは、製造業と他の業種では異なります。このため、例えば「楽天」のデータを製造業のタクソノミーでみると、一部出てこない項目があります。ユーザーの立場としては、自分達が分析したい対象のタクソノミーがない場合には、XBRL Japanや公認会計士協会などに対して、それを作ってくれと求めていくことになります。

山上

タクソノミーに関するお二人の議論を補足したいと思います。タクソノミーには3つの階層があります。一番上に、コア・タクソノミーとか基本タクソノミーといわれるものがあり、次に業種別タクソノミーと呼ばれるものがあり、一番下に、マイカンパニー・タクソノミーと呼ばれる個別会社毎のタクソノミーが存在します。コア・タクソノミーや業種別タクソノミーについては、公認会計士協会が中心となって標準化を進めています。

和田

皆様どうもありがとうございました。それでは、時間になりましたので、パネルディスカッションはこれで終了させていただきます。

(発言者敬称略)

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