このページの本文へ移動

【講演】 わが国の経済・物価情勢と今後の展望 日本経済団体連合会審議員会における講演

English

日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年12月26日

1.はじめに

日本銀行の黒田でございます。本日は、わが国の経済界を代表する皆様の前でお話しする機会を賜り、誠に光栄に存じます。

1年を締め括るこの時期に、私がこの場所でお話しさせていただくのも、今年で6回目となりました。本日は、最初に、この6年間を振り返りつつ、わが国の経済・物価情勢に関する日本銀行の見方をお話しします。次に、人手不足等を背景とする生産性向上に向けた企業の皆様のこれまでの取り組みと、今後の展望について申し述べたいと思います。最後に、日本銀行による金融政策運営についてご説明いたします。

2.わが国の経済・物価情勢

この6年間の経済・物価情勢

それでは、わが国経済を振り返ることから、話を始めます。2013年からの約6年間で、わが国の景気は大きく改善しました(図表1)。2012年12月に始まった今回の景気回復局面は、この10月で連続71か月に達したとみられ、こうした回復が続けば、今月で戦後最長の73か月に並ぶことになります。また、資本や労働の稼働状況を表すマクロ的な需給ギャップをみると、2016年の末頃に、需要が供給をはっきりと上回る状態となり、以後、約2年間に渡って、需給ギャップのプラス幅は着実に拡大し続けています。

今回の景気回復局面については、こうした息の長さに加え、景気拡大の牽引役が特定部門に偏らないバランスの良さも大きな特徴です。業種ごとの業況感をみますと、2000年代半ばの前回の長期回復局面は、好調な輸出を背景に、自動車や生産機械など、製造業の一部が景気全体の改善を牽引していました(図表2)。一方で、建設や小売などでは、景気回復期の最後まで業況感が明確に改善しないなど、業種間に大きなばらつきがみられました。この点、今回の回復局面では、製造業、非製造業ともに、ほぼすべての業種で万遍なく業況感が改善しています。景気回復のバランスの良さは、企業規模別にみても確認できます(図表3)。ここ数年、企業の業況感は、大企業だけでなく、中小企業でもはっきりと改善しており、このことは、両者の間に大きな差がみられた前回の局面とは対照的です。地域という切り口でみても、今回は、大都市圏に集中した景気回復ではありません。地方圏の有効求人倍率は、バブル期の水準を大きく上回るなど、大都市圏と遜色ない改善振りをみせています。

こうしたバランスの良い景気回復の背景の一つとして、幅広い分野で需要が拡大していることが挙げられます。例えば、海外需要の動きをみると、前回局面では、財の輸出の伸びが目立っていました(図表4)。一方、今回の局面では、外需全体の伸びは緩やかですが、財の輸出だけでなく、インバウンド需要や海外拠点からの特許使用料を中心とするサービス輸出も増加しています。なかでも、インバウンド需要の増加は、地域や規模を問わず、幅広い企業に新たなビジネスチャンスを提供しています。また、固定資本形成、いわゆるモノへの投資の内訳をみると、前回局面では、輸出の増加を背景に機械投資が増加した一方、建物などの構造物投資は大きく減少していました(図表5)。今回は、両者が揃って増加しています。このうち、構造物投資の増加については、住宅投資や公共投資の増加に加え、都市再開発に伴うオフィスビル投資や、インターネット通販の急拡大に対応した大型物流拠点の建設、さらには、インバウンド需要向け宿泊施設の建設需要の高まりなど、投資需要の多様化が大きく影響しています。

次に、この間の物価の動きについて、お話ししたいと思います。わが国の生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、2013年半ばにプラスに転じた後、2014年春にはいったん+1.5%まで上昇しましたが、その後は、原油価格の大幅下落などを背景に、横ばいから前年比マイナスとなりました(図表6)。もっとも、2016年末頃からは、需給ギャップのプラス転化と歩調を合わせる形で、物価は再び緩やかな上昇に転じ、足もとでは+1%程度で推移しています。エネルギー価格の影響も除いた、より基調的な物価の動きをみても、2013年の半ば以降、5年以上にわたり、ほぼ一貫して前年比プラスを維持しています。景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べれば、なお弱めの動きが続いていますが、この数年で、少なくとも、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。

最近の経済情勢と海外経済を巡るリスク

このように、わが国の経済・物価は、この6年間で大きく改善しました。現在も、わが国の景気は、緩やかな拡大を続けています。本年7~9月の実質GDPの成長率は前期比マイナスとなりましたが、これについては、相次ぐ自然災害により、輸出や生産、観光などに一時的な下押し圧力がかかったことが主な要因だと考えています。実際、10月以降のこれらの動きをみると、7~9月の反動から再び増加に転じていることが確認できます(図表7)。

先行きについても、わが国の景気は、緩やかな拡大を続けるとみています。もっとも、こうした見通しについて、このところ、海外経済の動向を中心とする不確実性が増してきていることには留意が必要です。特に、米中間の貿易摩擦を始め、最近の保護主義的な動きについては、慎重に点検していく必要があります。先日の短観の結果などをみても、これまでのところ、この問題がわが国経済に及ぼす影響は限定的と考えられますが、一方で、企業の皆様からは、サプライチェーンを通じた各国経済の相互依存関係が一段と深まる中、現時点で、その影響を正確に見積もることは難しいとの声も聞かれます。保護主義的な政策は、どの国にとってもメリットがないことは明らかであり、行き過ぎた動きには、いずれブレーキがかかるはずだと考えています。しかし、今回の貿易摩擦の問題が、米中間の関係を将来にわたってどう構築していくのか、という大きな文脈の一部と捉えるならば、その解決に時間がかかる可能性も否定できません。そうなれば、この問題が各国の貿易活動や内外経済に及ぼす影響は複雑かつ広範なものとなり、その展開次第では、企業マインドの悪化や金融市場の不安定化を伴って負の影響が増幅される惧れもあります。このほかにも、海外に起因するリスクとしては、英国がEUからの「合意なき離脱」に追い込まれる可能性、米国の利上げの動きが新興国からの資本流出に繋がる可能性、中東を始めとする各種地政学的リスクなどに留意が必要です。中国経済については、総じて安定した成長を続けていますが、最近、同国製造業の景況感の改善ペースが鈍化するなど、一部に弱めの動きもみられています。これが、貿易摩擦の影響なのか、それともデレバレッジなどに伴う国内需要の減速の表れなのか、といった点も、今後見極めていく必要があります。

この間、株式市場は、やや不安定な動きを続けています。これまで述べてきた世界経済を巡る様々なリスク要因に対する認識の変化が、株式市場の変動に繋がっている面があると考えています。今後も、国際金融市場の動向とその背景となる各種リスク要因の動きについて、注意深く点検してまいります。

3.生産性向上に向けた取り組み

経済の頑健性

このように、経済の先行きについては、様々なリスクが存在します。もっとも、後ほど述べるように、ショックに対する内外経済の頑健性は、以前に比べれば高まっているように思われます。その背景の一つには、企業の皆様のこれまでの取り組みがありますし、今後もさらに進めていただくことが必要だと考えています。以下では、企業における生産性向上に向けたこれまでの動きと、こうした動きが続くことで、わが国経済が、人口減少や高齢化という構造的な課題にも対応しつつ、成長力を高めていくと期待できることについてお話しします。

ちょうど1年前、私はこの場で人手不足の問題をとりあげたうえで、わが国経済はこうした制約を乗り越え、成長を続けることが展望できるといった話をさせて頂きました。この点、企業の皆様には、これまでのところ、大きな成果を挙げていただいています。ここ数年、労働需給がタイト化する中で、多くの企業は、より効率的な業務運営を目指して、省力化・合理化投資やビジネス・プロセスの見直しを積極的に進めています。ITを中心とした近年の技術進歩は、こうした取り組みを後押ししており、この点は、人手不足が深刻化している建設や小売、宿泊・飲食などの業種で、ソフトウェア投資が大きく増加していることからもわかります(図表8)。

このように、わが国では、多くの企業において、このところの労働需給のタイト化をきっかけに、労働生産性を高めていく前向きの動きが拡がっています。ただ一方で、企業の皆様からは、先行きの成長の持続性を不安視する声が、少なからず聞かれます。戦後最長の景気回復を実現し、バブル期を超える人手不足に悩むほどの需要増加に直面してもなお、将来に対する慎重な見方を示す企業が少なくありません。これについては、最近の海外経済を巡る不確実性の高まりが、企業マインドを慎重にさせている面があると思います。また、長期にわたる低成長やデフレの経験が、こうした不確実性を、大きくみせている可能性もあります。しかしながら、以下に述べるいくつかの事実を踏まえると、あまり過度な悲観に陥る必要はないと考えています。

第1に、海外経済についての見方です。様々なリスクが意識されていますが、それでも、多くの国で内需が増勢を維持するなど、海外経済は、総じてみれば、着実な成長を続けています。10月に公表されたIMFの世界経済見通しでは、7月の前回見通しからは幾分下方修正されたとはいえ、2018年、2019年の実質GDPの前年比は、ともに+3.7%と、リーマン・ショック後のピークに近い高めの成長が続くと予想されています(図表9)。米国経済についても、一頃に比べて、長期的な成長力に対する見方が改善してきました。景気の過熱や金融面での目立った不均衡がみられないことも、重要なポイントです。現在、米国経済は、連続110か月以上という、日本以上に息の長い景気回復を続けていますが、この間の景気回復ペースが緩やかであったことや、グローバル金融危機の教訓を踏まえた各種の金融規制の整備もあって、これまでのところ、バブル的な現象の拡がりはみられていません。このように、世界の牽引役である米国経済が安定した成長を続けていることは、わが国経済にとっても大きな安心材料です。

第2に、わが国経済の成長部門が多様化していることも、経済の頑健性を高めている重要な要素です。先ほど、海外需要におけるサービス輸出、固定資本形成における構造物投資が、それぞれ需要の伸びに大きく貢献していることをご紹介しましたが、こうしたバランスの良い成長は、先行きのショックに対するわが国経済の抵抗力を高めるものと考えています。

第3に、わが国企業の収益力が改善していることも特筆すべきポイントです。企業収益のレベルもさることながら、重要なのは、その中身です。この6年間、企業収益は改善を続けていますが、2016年頃までの改善の主因は、原油価格の低下でした。この間、販売数量はさほど伸びず、売上げも横ばい圏内で推移していました(図表10)。こうした形での収益の改善は、設備投資を増やすといった、先を見据えた前向きな行動には結びつきにくいと言われています。しかし、この2年程は、同じ収益の改善でも、販売数量や売上げの伸びを伴ったものに変化してきています。このことは、収益内容が、企業にとってより自信が持てるものとなり、設備投資の増加に繋がりやすくなってきたことを示しています。

今後の展望

今申し上げたいくつかの事実を踏まえると、わが国や世界の経済は、仮に何らかのショックが生じたとしても、それに耐え得る相応の頑健性を有していると考えられます。こうした中にあって、企業の皆様が、生産性向上に向けた前向きの取り組みを、今後も継続していっていただければ、わが国経済の持続的な成長とともに、様々な不安心理が徐々に解消されていくことが期待できると考えています。改めて申し上げるまでもなく、労働生産性とは、「労働投入量一単位当たりの付加価値額」と定義され、労働者一人当たり、あるいは時間当たりといった一単位の労働が稼ぐ力を意味しています。この定義からわかるように、労働生産性を高めるためには、分母である労働投入量を節約する取り組みと、分子である付加価値を高める取り組みの二つに分けて考えることができます。先ほど述べたように、わが国の企業は、労働需給のタイト化をきっかけに、この数年間、他国に比べて生産性向上余地の大きい非製造業を中心に、省力化投資などを通じて、労働投入量を節約する取り組みを進めてきました。実際、わが国の労働生産性は、G7諸国の中で最も高い伸びを示しています(図表11)。そのうえで、さらに一段の生産性向上を実現していくためには、労働生産性の分子である付加価値を増やしていくことが大事になります。そのためには、潜在需要の掘り起こしをさらに進めていただくことが必要となります。例えば、化粧品や日本酒といった日本に優位性のある商品について、訪日観光客向けの国内販売にとどまらず、帰国後のリピート需要を引き出して販売拡大に繋げたケースは、新たな需要開拓の成功例です。また、家事サービスやセキュリティサービス、家電などの多様化・高度化も、共働き世帯や高齢者世帯の急増を背景とした需要の掘り起しともいえます。さらに、急速に進歩するAIやビッグデータといった新たな技術は、それがなければ捉えることができなかった潜在的な需要を掘り起こす、強力な武器になると思います。例えば、自動運転による新たな移動手段の開発や、人々のリアルタイムの健康データを用いた予防医療サービスの提供などは、これまで存在しなかった有望なビジネスとして注目を集めています。

当然のことながら、潜在需要の掘り起こしに、何か決まった手法があるわけではなく、イノベーティブな取り組みが重要な役割を果たすといえます。そのために必要なことの一つには、創意工夫に長けた優秀な人材の確保が挙げられます。人材の確保にあたっては、働き方改革を始めとする職場環境の整備など様々なポイントがありますが、生産性の持続的な向上による賃金の上昇も大事な視点です。人手不足に対応して省力化投資を進められていることが、結果として、賃金の上昇と優秀な人材の確保により、新たな需要をつかむチャンスを手に入れることに繋がっている面もあるのではないかと感じています。

こうした潜在需要の開拓に励む企業にとって、政府の成長戦略や構造改革は大きなチャンスを提供します。日本銀行も、強力な金融緩和を通じて、きわめて緩和的な金融環境を維持することにより、企業の投資活動を積極的にサポートしています。企業の皆様には、こうした絶好の環境を活用し、引き続き、生産性向上に向けた取り組みを進めていっていただきたいと考えています。企業の皆様のアニマル・スピリットこそが経済成長の究極的な源泉です。政府・日本銀行そして企業の皆様が一体となって取り組むことにより、わが国経済全体の持続的な成長を実現していければと考えています。

4.日本銀行の金融政策運営

最後に、日本銀行の金融政策についてお話しします。

日本銀行が行う金融政策運営の理念は、日本銀行法にもあるように、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」です。このことを踏まえ、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」を定めたうえで、企業収益や雇用・賃金の増加とともに、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環が働く経済を目指して、金融政策を運営しています。政府による成長戦略や機動的な財政政策は、こうした持続的な経済成長の実現をサポートする力強い援軍となり得ますが、自らの責任において、「物価安定の目標」の実現に全力を尽くすという日本銀行の姿勢は、これまでも、これからも変わりはありません。

もちろん、過去の経験からもわかるように、経済や物価は、様々な要因によって変動します。このため、日本銀行がその使命を果たしていく際には、政策のベネフィットとコストを比較衡量しながら、その時々の状況に応じて、最も適切な金融政策を追求していくことが必要となります。こうした考え方は、日本銀行のみならず、世界の中央銀行の共通認識であり、それは、どのような政策手法を採用しているとしても、変わるものではありません。

日本銀行が、6年前に「量的・質的金融緩和」を導入した時は、景気は回復しておらず、消費者物価の前年比もマイナスで、目標の2%から程遠い状況でした。大胆な金融緩和策を実施することのベネフィットは、コストを大きく上回っていました。このため、2%の「物価安定の目標」の早期実現に焦点を当てて、思い切った政策を実施することが適切と判断し、マネタリーベースの大幅な拡大など、それまでとは大きく異なる大胆な政策に踏み切りました。

こうした強力な金融緩和は、わが国経済を大きく改善させる効果があったと考えています。物価面でも、既に、「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。ただ、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べれば、物価は弱めの動きを続けており、「物価安定の目標」の実現にはなお時間を要する状況にあります。ここにきて、海外経済を中心とする下振れリスクにも一層注意が必要になってきました。こうしたやや複雑な局面において必要なことは、金融緩和の効果と副作用、ベネフィットとコストをバランスよく考慮しながら、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことです。まさに、政策の持久力が大事になっています。

もう少し具体的に申し上げれば、政策の効果の面では、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもと、物価上昇の原動力であるプラスの需給ギャップをできるだけ長く持続させ、2%に向けたモメンタムをしっかりと維持していくことが必要です。7月の金融政策決定会合では、政策金利のフォワードガイダンスを導入し、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持していく」という方針を明らかにしましたが、これも、現在の強力な金融緩和を継続するという、日本銀行の政策スタンスを明確にするための措置です。

一方、こうした強力な金融緩和の持続性・持久力を強化していくためには、政策の副作用への目配りも必要です。本年前半、国債市場では、日本銀行による大規模な国債買入れのもとで、金利形成が幾分硬直的になるなど、市場機能の低下が指摘されていました。このため、日本銀行は、7月の決定会合において、金融市場調節や資産買入れの運営をより弾力化していくことを、あわせて決定しました。これにより、わが国の国債利回りが、再び株価や米国金利に連動して上下に変動するようになるなど、市場の機能度は一頃よりも改善してきていると認識しています。また、日本銀行は、低金利環境や金融機関間の厳しい競争環境が続くもとで、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがあると認識しています。現時点では、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから、こうしたリスクは大きくないと判断していますが、政策の持久力を維持する観点からも、先行きの動向を注視していく必要があると考えています。

このように、日本銀行は、金融緩和のベネフィットだけでなく、コストについてもバランスよく考慮しながら、「物価安定の目標」の実現に向け、強力な金融緩和のもとで、一歩ずつ歩みを進めていく方針です。目標の実現には、想定していたよりも時間がかかると見込まれ、先行きを巡る不確実性はさらに高まっていますが、こうした政策運営により、2%に向けたモメンタムをしっかりと維持していくことが、結果的に、実体経済や金融機能に過度な負担をかけることなく、「物価安定の目標」を最も早く確実に実現することに繋がると考えています。

5.おわりに

そろそろ時間がなくなってきました。本日は、この6年間の景気回復を振り返るとともに、生産性向上に向けた企業のこれまでの取り組みと今後の展望について、少し詳しくお話ししました。最近の人手不足に対応し、省力化投資などを積極的に進めていくことが、結果として、優秀な人材の確保や、新たな需要の発掘に繋がる可能性があることもお話ししました。日本銀行としても、きわめて緩和的な金融環境を維持することを通じて、こうした企業の努力を最大限サポートしていく方針です。

来年の干支は「亥」です。「亥」といえば、「猪突猛進」のイメージが持たれがちですが、専門家によれば、勇猛果敢であるとともに、実は、高度の警戒心も併せ持った動物だそうです。日本銀行も、「物価安定の目標」の実現に向けて、しっかりと進んでいきますが、その過程では、海外経済の動向を含め、様々なリスクを十分に点検していきます。過度な悲観は禁物ですが、周囲を冷静に警戒することは、常に必要です。そのうえで、政策のベネフィットとコストを比較衡量し、その時々の状況に応じて、最適な政策を実施していく方針です。

いよいよあと4か月ほどで、平成の時代から新しい時代に入ります。このような時代の節目に立って日本経済を眺めますと、過去の長期に亘るデフレの影響が、慎重な賃金設定スタンスや値上げ許容度の高まりにくさという形で、根強く残っている姿が見えます。ただ、同時に、ここ数年の景気拡大と労働需給の引き締まりを背景に、企業や家計の慎重なマインドが、少しずつ、しかし着実に解消してきている姿も見えています。これから始まる新たな時代のもとで、「物価安定の目標」を確実に実現するとともに、経済の持続的な成長に資するべく、引き続き、中央銀行としての責務をしっかりと果たしていきたいと思います。

来たる年が皆様にとって素晴らしい年になることを心より祈念して、本日のお話を終わらせていただきます。

ご清聴ありがとうございました。