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【概要説明】通貨及び金融の調節に関する報告書衆議院財務金融委員会における概要説明

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日本銀行総裁 黒田 東彦
2018年12月7日

はじめに

日本銀行は、毎年6月と12月に「通貨及び金融の調節に関する報告書」を国会に提出しております。本日、わが国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しくご説明申し上げる機会を頂き、厚く御礼申し上げます。

わが国の経済金融情勢

まず、わが国の経済金融情勢についてご説明いたします。

わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しています。7~9月期の実質GDPは小幅のマイナス成長となりましたが、これについては、自然災害などの一時的な要因の影響が大きいとみています。やや詳しくみますと、海外経済が総じてみれば着実な成長を続ける中、輸出は増加基調にあります。設備投資は、企業収益が改善基調をたどり、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。先行きのわが国経済についても、緩やかな拡大を続けると考えています。なお、先行きのリスクについてみると、保護主義的な動きの帰趨とその影響など、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいと考えています。

物価面では、消費者物価の前年比はプラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。その背景として、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方が根強く残っていることが、大きく影響しています。加えて、非製造業を中心とした生産性向上余地の大きさや近年の技術進歩などが、経済が拡大する中にあっても、企業が値上げに対して慎重なスタンスを維持することを可能にしている面もあります。もっとも、先行きを展望しますと、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。このように、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けていますので、引き続き注意深く点検していく必要があると考えています。

金融政策運営

次に、金融政策運営について、ご説明申し上げます。

日本銀行は、2016年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、強力な金融緩和を推進しています。このうち、長短金利操作については、2%の「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促すよう、短期政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針を掲げ、市場において国債の買入れを実施しています。

7月の金融政策決定会合では、こうした強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、現在の政策の枠組みを強化することを決定しました。第一に、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持するという、政策金利のフォワードガイダンスを導入しました。これは、将来の政策金利の水準を予め約束することにより、強力な金融緩和を継続する姿勢を明確にすることを狙いとしたものです。第二に、金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営することを決定しました。これにより、金利形成の柔軟性が高まるなどして、市場の機能度が向上すれば、政策の持続性強化に繋がると考えています。

日本銀行としては、こうした政策対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%をできるだけ早期に実現することに繋がると考えています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら、適切な政策運営に努めてまいります。

ありがとうございました。