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総裁記者会見要旨 2018年10月31日(水)
午後3時半から約60分

2018年11月1日
日本銀行

(問)本日の決定会合の結果と、同時に公表された展望レポートの内容について教えてください。

(答)本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。

また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。

本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。

やや詳しく申し上げますと、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善基調を辿り、業況感も良好な水準を維持するもとで、増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しています。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境は、極めて緩和した状態にあります。

先行きについては、2018年度は海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられます。2019年度から2020年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需にも支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれます。今回の見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。

次に、物価面では、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。こうした中で、中長期的な予想物価上昇率の高まりも後ずれしています。

もっとも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引き上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。今回の見通しを、従来の見通しと比べますと、2018年度を中心に幾分下振れています。

リスクバランスについては、経済・物価ともに、下振れリスクの方が大きいとみています。物価面では、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要があります。

なお、展望レポートについては、片岡委員が、消費者物価の前年比について、先行き、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続します。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

(問)世界経済のリスクについてお伺いします。総裁は今月上旬にインドネシアで開かれたG20会議に出席した際に、米中の貿易の問題は世界経済に悪影響を及ぼすとのご認識を示されていまして、IMFも18年以降の世界経済の見通しを下方修正しています。足許で米中の貿易摩擦の問題は、実際にどのような形で世界経済にリスクとして及び始めているのでしょうか。特に中国景気の減速が懸念され始めていますが、それが世界や日本に与え得る影響についてもご見解をお願いします。

(答)最近のいわゆる保護主義的な通商政策の影響は、米中間など一部の貿易活動にみられますが、グローバルな製造業の業況感が緩やかな改善を続けるもと、多くの国で内需が増勢を維持しており、世界経済は、総じてみれば着実な成長を続けていると判断しています。

ただ、各国経済の相互依存関係が一段と深まる中で、こうした保護主義的な政策は、先行き、当事国だけでなく、いわばグローバルなサプライチェーンを通じて、世界経済全体に影響を及ぼす可能性があります。その影響度合いについては、貿易活動に加えて、家計や企業のマインドや金融市場にどの程度波及するのかという点にも大きく依存すると思います。この点は、IMFの世界経済見通し等でも指摘されています。

中国経済については、投資関連の指標などにやや弱めの動きがみられているほか、先行きも米国による関税率引き上げがあれば相応に影響があると思われますが、今のところ、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路を辿るとみています。

わが国の経済への影響についてみますと、先日の短観やこの間のヒアリング調査等を踏まえれば、これまでのところ、米中間の貿易摩擦の影響は限定的なものにとどまっていると思いますが、他方で、企業からは、現時点で、この問題の影響を正確に見積もることは難しいとの声も聞かれるほか、この先、こうした貿易摩擦が長期化するようなことがあれば、IMFも指摘しているように、マインドや金融市場の不安定化という経路を通じた影響が拡がる可能性もあります。日本銀行としては、保護主義的な動きの帰趨とその影響を、わが国経済の先行きに関するリスク要因の1つとして認識しており、今後とも注意深くみていきたいと思っています。

(問)7月末の金融緩和の修正から3か月がたちました。総裁は市場機能の改善に必要な措置とご指摘されましたが、3か月たちまして、金利形成や取引の活性化に関して当初想定した通りの効果が得られていますでしょうか。市場機能の改善に引き続き課題があれば、その点についても教えてください。

(答)7月の決定会合以降、国債市場では、現物、先物ともに取引が幾分活発化して、日々の値動きもある程度高まってきています。本年前半には、株価や米国の長期金利が変動しても、日本の国債金利は殆ど反応しないといった状況がみられましたが、7月の会合以降、そうした価格の連動性も回復しつつあるように思われます。従って、いわゆる市場の機能度という点からは、国債買入れを弾力的に運営するもとで、一頃よりも改善してきているということは言えると思います。

ただ、「イールドカーブ・コントロール」というものが、そもそも長短金利を低位に安定させることを通じて、経済活動を広く刺激することを目的としていますので、市場機能に一定の負荷をかけ、金利変動を抑制する面があることには留意が必要だと思っています。そのうえで、日本銀行としては、こうした副作用が大きくなり過ぎて、政策効果を却って阻害することにならないよう、引き続き市場の動向をよく点検していくつもりです。

(問)本日の展望レポートで、物価の見通しが18年度以降、全ての期間で、下方修正、引き下げられました。物価がなぜ上がり難いのかの検証を踏まえた7月の見通しから、更に下振れた形になるわけですが、この要因について、総裁はどのようにご認識をされているのでしょうか。

あわせて、物価上昇に向けたモメンタムは変わらず維持されているとお考えなのか、例えば、モメンタムが弱くなっていることはあり得るのか、お願いします。

(答)まず、2018年度の物価の見通しについて、幾分下振れしたことは事実ですが、2019年度、2020年度については、殆ど変わっていないのが実態だと思います。足許の物価がやや弱めであったことから、2018年度の見通しが0.2%程度下振れしましたが、物価を巡る全体のピクチャー、状況は大きく変わったとは考えていません。

そのうえで、いわゆるモメンタムの面では、非常に重要な点は、1つは需給バランス、GDPギャップがどうなっているかですが、これはプラスに転化して、ずっとプラスが続いています。更には、失業率も極めて低い2.3%ですし、有効求人倍率も40数年振りの高さになっていますので、需給ギャップ、GDPギャップあるいは労働市場の需給の引き締まりといった点からは、賃金・物価を押し上げていくモメンタムははっきりと維持されていると思います。もう1つの中長期的な予想物価上昇率は、昨年の初めからみると上昇してきていますが、このところ横ばい状態ですので、予想物価上昇率はやや弱めといいますか、少なくとも引き続き上昇していく感じではないと思います。ただ全体としてみて、物価上昇に向けたモメンタムは維持されていますので、今後、徐々に賃金・物価は上昇していくとみています。

(問)今回、経済の見通しについて、海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きいと書かれていますが、具体的にどういうリスクに注目なさっているでしょうか。先程、中国に関して言及があったように、中国、それからヨーロッパの指標ではよくないものが出てきていますし、ドイツは政治的に揺らいできている面もありますが、その中でどういったリスクが日本にどのような影響を及ぼすとみていらっしゃるでしょうか。

(答)公表文にもありますように、保護主義的な動き、最も典型的には米中の貿易摩擦がエスカレートしている状況ですが、こうしたことが米中のみならず、世界貿易や世界経済に与える下方リスクは、一番注目しているところです。その他、米国の金融政策の正常化を通じて、米国の金利や為替が上昇し、それが新興国にも資本流出や為替の下落をもたらすリスクは潜在的にあると思います。今のところは、アルゼンチン、トルコといったマクロ経済のファンダメンタルズが非常に脆弱な特定の国に影響が出ているだけで、新興国全般に影響が出てはいませんが、やはり、潜在的なリスクはあると思います。こうした2つの点は、先日、バリで行われたIMF世銀総会の際のG20やIMFC等でもしばしば言及されたリスクです。その他、ご指摘のように、欧州経済は回復しているが、このところやや減速気味であるとか、ブレグジットの交渉がなかなか進んでいないとか、イタリアの財政政策を巡り色々な議論が行われているなど、様々なリスクについてよくみていく必要はあると思いますが、やはり保護主義のリスクと、新興国経済が世界的な金融の状況により影響されるリスクが、国際的に最もよく議論されていると思います。

(問)ここ最近、世界的に株式相場が不安定な状況になっていますが、これについてはどうご覧になっているでしょうか。

(答)株式相場のことを言うのはなかなか難しいと思うのですが、一般的には、米国の長期金利が上昇して、それを背景に10月前半に米国の株価が大幅に下落し、投資家のリスク回避姿勢が強まって、世界的な株価の下落につながったと言われています。その後は更に、米中間の通商問題を巡る不透明性も意識されて、株式市場では足許にかけて振れの大きな展開が続いています。もっとも、わが国も、米国や欧州全体も、経済の良好なファンダメンタルズに大きな変化はみられていませんし、特に株価のベースとなる企業収益の見通しも総じてしっかりしています。そうした中で、為替市場など他の金融市場は比較的安定的に推移しています。株式市場の動きを全然気にしないことはないのですが、株式市場の動きが金融市場全体や世界経済に大きな影響を与えるような状況に今なっているかというと、なっていないと思います。ただ、金融資本市場の動きについては、引き続きよくみていきたいと思っています。

(問)先程言及のあった債券市場への7月末以降の影響について、多少機能が回復してきているという言及はあったのですが、一方で先日も10年物国債の値付けができない事態も発生しています。今後更に市場の機能の阻害が疑われるような事態になったときに、日銀としてどのような手立てがあるのかお聞かせください。

(答)値動きの幅が非常に小さくなりますと、あるときに需要と供給が突き合わなくなって、取引が成立しないことが起こり得るわけですが、このところは少なくとも今年前半のような状況ではありません。7月末の決定会合以降、変動幅はある程度広くなって、需給の突き合いがつかないケースはかつてに比べると非常に少なくなっていると思います。依然として値動きの幅はそれほど大きくなっているわけではないので、そうしたことも起こり得ると思いますが、基本的には、あくまでも10年物国債の操作目標はゼロ%程度であり、ある程度の幅をもって変動し得るということで、長期国債の買入れについてもある程度弾力的にやってきていますので、更に市場機能が低下するとは考えていませんし、そうした心配はないと思います。ただ、経済・物価・金融情勢次第では色々なことが起こり得ますので、そうしたことには適切な対応を必要に応じて講じていくということに尽きると思います。市場機能がこれ以上低下していくようなことはないと思います。

(問)米国との通商関係において、米国のムニューシン財務長官が、今月だったと思うのですが、来年にも始まる日米の2国間交渉の際、「為替条項」も検討材料としたいという発言をしました。実際に検討されるとなると、マーケットはもしかしたら円高に反応し、かつ日銀の物価目標にも影響してくるかもしれない懸念があるのですが、総裁は今の時点でどう受け止められているでしょうか。

(答)まず、為替政策は財務大臣の所管であって、いわゆる「為替条項」の取扱いや今後の交渉について、私の立場からコメントすることは適切ではないと思っています。

もう1つは、日本銀行の金融緩和政策はあくまでも2%の「物価安定の目標」を実現するために行っています。G20等でよく言われる、いわゆるドメスティック・マンデートに基づいてやっているわけでして、為替相場を目的とするものではありません。これは国際的にも認識されていると思います。

これら2つの点が私どもとしては重要なポイントであると思っています。

(問)本日、TPP11が12月に発効するという発表がありました。展望レポートの見通しにはTPP11が織り込まれているのかどうか、織り込まれていないとしたら、来年度以降0.8%になっていますが、これがどれだけ影響を受けるのか、お考えをお願いします。

(答)展望レポートにおける政策委員会のメンバーの見通しは、それぞれの方がそれぞれの考えに基づいて出されており、その中心値や幅をお示ししています。具体的に何を考慮しているか、考慮していないかというのは、申し上げることはできませんが、基本的にそれぞれの委員が見通しを出されるときに、確定していることは入れられますが、確定していないことはなかなか入れられないということにはなると思います。TPP11も、発効の時期が確定した、あるいは発効した、という時点では、当然そうしたことの影響がどのくらいあるかを頭に入れて、経済や物価の見通しを示されると思いますが、今の時点では、おそらく明示的には考慮されていないのではないかと思います。ただ、それぞれの委員の方の判断ですので、私が一方的に決めつけることはできないと思います。

(問)展望レポートの経済リスクに、海外経済の動向、特に米国の政策運営がありますが、来週、中間選挙があります。今のところ言われているのが、上院が共和党、下院が民主党で、ねじれの可能性があるということ。こうした場合、日本銀行の見方としては、海外リスクは高まるということになるのかどうか、米国経済にどのような影響を与えるのかも含めてお聞かせください。

(答)中央銀行として知見のある話ではありませんので、直接的にお答えするのは差し控えさせて頂きたいと思います。特に選挙はやってみないと分からないわけでして、あまり予断を持って申し上げるのは適切ではないと思います。いずれにしましても、米国経済は3.5%成長で、世界経済の成長を引っ張っている状況にあります。米国の通商政策や金融政策の正常化が世界経済に与えるリスクも認識されているわけですが、一方的にリスクとも言えません。米国経済は極めて順調に成長して、世界経済の成長を引っ張っている面があると同時に、通商政策やマクロ政策が世界経済に与えるリスクも注視していかなければならない、という状況だと思います。

(問)先行きの経済・物価は下振れリスクの方が大きいということですが、今後そうしたリスクが顕在化した場合の金融政策対応についてお伺いしたいと思います。超低金利に加えて金融緩和の副作用が拡大している分、従来よりも追加措置を行う場合の判断は難しさを増しているかと思いますが、この点について総裁のご見解をお伺いします。

また、その関連で、現在のイールドカーブ・コントロール政策では、長期金利が-0.2%程度まで低下することを許容していると思います。その意味では、ある程度経済・物価の下振れにも対応できる枠組みになっているのではないかと思いますが、その点について総裁のお考えを伺わせてください。

(答)下振れリスクがあり、そのリスクのかなりの部分が海外からくる可能性があるということは、この展望レポートにも示されている通りですが、仮にそうしたリスクにより、経済や物価、金融市場等に大きな影響が出てきたときには、金融政策の対応もあり得るわけです。その際に、どのようなことがあるかといえば、一昨年、「イールドカーブ・コントロール」を導入したときにも申し上げた通り、金利の引き下げ、マネタリーベースの拡大、資産買入れの拡大など色々な手段があり得ると思いますが、今のところ、メインシナリオではそのようになっていませんので、リスクを注視しているところです。

また、「イールドカーブ・コントロール」で10年物国債金利がゼロ%程度というときに、今年の前半までは±0.1%程度の狭い範囲で動いていましたが、それはやや極端で、その倍くらいの幅で動いても全然おかしくありません。経済・物価・金融情勢によって、そのような変動が起こることはある意味で当然ですので、今おっしゃったようなこともあり得るとは思います。具体的に大きな下方リスクが顕在化して、経済・物価見通しに大きな影響が出てくるということになれば、金融政策自体を調整することになると思いますが、今のところ、そのような状況にはなっていないと思います。

(問)金融システムの安定という観点についてお尋ねします。先日公表された金融システムレポートでは、やはり不動産向けの融資が過去最大になっている点とか、銀行の信用コストに見合わないような金利水準での貸出が増えているといった指摘がありました。最近でいいますと、例えばスルガ銀行の過剰な個人向けの不動産融資問題等も顕在化しています。こういった状況を考えると、既に超低金利の長期化を見越した過度のリスクテイク、あるいは過度の債務の増大という副作用が相当顕在化しているのではないかという感じがしますが、総裁の現状認識をお尋ねします。

それから、先立って7月に、超低金利の長期化を見越した副作用対応をされましたが、こうした過度のリスクテイクや金融仲介機能が損なわれる点についての対応はまだなさっていないと思いますが、これについてもどのようにお考えかお尋ねします。

(答)金融システムレポートにもある通り、地域金融機関を中心にミドルリスクをとることがやや増えていますが、競争が激しい中で、それに応じた金利の調整がなかなかできないでいると、リスクとリターンが見合わないことになるおそれがあります。不動産融資については、一昨年末くらいがピークで、地域金融機関は、このところむしろ不動産融資関係についてより厳しい目でみており、融資の増加ペースは大幅に低下していますので、これが今大きな問題になってはいないと思います。いずれにせよ、リスクテイクする際には、十分なリスク管理が必要なのは全くその通りで、この点は、金融機関の方々にも十分理解してもらえるようにということもあり、金融システムレポートで年に2回詳しく分析していますし、また、個別金融機関に対する考査の中で、それぞれの金融機関におけるリスク管理等の問題についてよく議論しています。そうした対応は十分できていますし、今後ともやっていく必要があると思います。マクロ・プルデンシャルあるいはミクロ・プルデンシャルに基づく規制そのものは、ご承知のように金融庁が担当していますが、カウンター・シクリカル・キャピタル・バッファーなどの運用については、金融庁と日本銀行で話し合うことになっていますので、そうした形で、金融庁のマクロあるいはミクロのプルデンシャル規制にも一定の発言をできるようにはなっています。今申し上げたように、金融システムの安定を維持するために、金融システムレポートにある各々の課題について、色々な形で金融機関とも対話し、対応を促していますし、今後とも続けてまいります。

なお、個別行のケースについてとやかく言うつもりはありませんが、スルガ銀行の場合は、適切なルールに従っていなかったとして金融庁からも指摘されている、大変遺憾な状況であって、普通の意味のリスクテイクや信用コスト云々の次元を離れた問題だと思っています。

それから、今申し上げたように、色々な形で副作用について議論はしていますし、一番典型的には金融システムレポートで指摘していますが、金融政策が適切に経済・物価に波及していくためには、そのチャネルである金融システムが安定していることが重要であり必要ですので、その点には十分今後とも目配りをしてまいります。

(問)先程、黒田総裁もおっしゃっていましたが、総務省が昨日発表した9月の完全失業率は2か月連続で改善して、2.3%という水準になりました。失業率は2%前後にならないと、物価上昇率というのは2%になかなか届かないという見方もあると思いますが、景気が上向いてきて雇用環境も改善してきているにもかかわらず、物価がなかなか上がらない要因というのは、どういうふうにみていらっしゃいますでしょうか。

(答)これは今回の展望レポートというよりも、前回の展望レポートでかなり詳しく分析しています。需給ギャップは今やプラスの領域にあり、プラス幅がかなり大きなものになっている点は、賃金・物価を押し上げていく要因にはなっていると思います。他方で、予想物価上昇率は、一昨年末か昨年初から上がってきたのですが、このところ横ばい状態にあり、1998年から2013年まで15年続いたデフレの時期のデフレマインドが、企業や家計からなかなか簡単に払拭されないということがあるのではないか、ということです。また、そうしたもとで、労働生産性を引き上げるための省力化投資やIT投資、あるいはサービス業におけるビジネスモデルの合理化・見直しが、様々な形で労働生産性を引き上げ、賃金はある程度上がっても、それが価格に転嫁され難いという状況も起こっているわけです。そういう意味では、やや物価の上昇が後ずれしていることは事実ですが、物価上昇のモメンタムは維持されています。需給ギャップもプラスの大きなところで動いていますし、失業率も完全雇用といえるような状況まで低下しています。色々な要因が、賃金・物価を押し上げる方向に向いていると思います。デフレマインドといいますか、企業の方も賃金の上昇を価格に転嫁せず、価格引き上げに対する家計の許容度もなかなか簡単には高まっていかないということもあって、やや後ずれしているとは思いますが、基本的なメカニズムはしっかりと作用していると思いますので、当初予想していたより時間は掛かっているとは思いますが、物価は2%に向けて徐々に上昇していくとみています。

(問)先程の質問に少し関連して、地域金融機関の件についてお尋ねしたいのですが、本日の経済・物価情勢の展望の中でも、先行きの動向には注意していく必要があるという文言が盛り込まれました。その文言を盛り込んだ理由と、総裁として、現在地域金融機関の経営状況に、どのような懸念があるのかというところのお考えを教えてください。どのような状況になれば地域金融機関に与えている副作用に対する対策をとるのかというお考えも教えてください。

(答)この展望レポートでも、より詳しくは金融システムレポートでも示されている通り、地域金融機関の全体としての収益は、この5年くらい高いレベルで推移しています。ただ、地域金融機関の主たるビジネスである貸出に基づく利益はだんだん減ってきています。信用コストが低下してきていることと、国債その他の有価証券の売却益が出てきたことから、その両者で業務純益の減少傾向をちょうど埋めてきて、全体としては相応の収益水準を維持しています。ただ、これ以上信用コストが下がっていくということは、デフォルト率も非常に低い数字になっていますので、なかなか考え難いわけです。また、有価証券の売却益も、持っているものがいつまでもたくさんあるわけではないとすれば、かつて買ったときに安い価格だったものが高い価格で売れるということは、なかなか長期的には得られ難いということになり、業務純益の減少がいずれ全体の収益もだんだん減らしていくことになります。そうなったとしても、地域金融機関は潤沢な資本を持っていますし、流動性も十分あるので、直ちに問題が生じることはないとしても、ずっと長い期間を取ると、やはり影響が出てくるおそれがあります。その場合には、信用仲介機能に影響が出て、実体経済に対する融資が十分にできないとか、逆に行き過ぎたリスクテイクが行われるとか、両方のリスクが潜在的にあり得るということです。今何か起こっているということではないのですが、展望レポートの文章にもありますように、「低金利環境や金融機関間の厳しい競争環境が続くもとで、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがある」わけです。現時点ではこれらのリスクは大きくないと判断していますが、先行きの動向には注視していく必要がある、というところだと思います。

既に地域金融機関も、ミドルリスクをとるにあたってはリスク管理を強化していますし、様々な形でコストを削減する努力もされていますので、そうしたこととの引っ張り合いだと思います。一番重要なことは、何といっても、経済の持続的な成長が続き、物価が安定することであり、日本銀行としても最大限の努力をしています。ただ、そうしたもとでも、地域の人口減少とか高齢化、更にもっと大きいのは企業数が減っているということがありますので、地域金融機関がそうしたことに合わせた体制を作ることも重要になってくると思います。

(問)前回の会合や、その後の短観や支店長会議では、夏以降の災害の影響について注視するとか、足許に影響が出ているといった話があったと思いますが、本日の展望をみる限りそうした言及はありません。長い目でこの先をみていくうえでは、一連の災害は、日本経済にとってある程度克服ができそうだとの見通しだということでしょうか。

(答)それはその通りだと思います。7~9月の生産や輸出、あるいは今後出てくるGDPの速報値にも影響は出てくるとは思いますが、関西国際空港を通じて色々輸出されていたものが一時停滞したとか、インバウンド客も関西国際空港が使えない間は来られないなど一時的な影響はありましたが、その後の状況をみると、急速に修復されています。北海道の地震の影響や、色々な地域での長雨の影響が重なったので、7~9月には影響が出ていたと思いますが、それらは基本的には一時的なものであり、影響が長引くとはみていません。加えて、政府も民間企業も、復旧のための投資を行いますので、その部分はむしろ成長率を押し上げるように働くわけです。ですから、今年は色々な災害が重なりましたので、影響は一時的なものとしては出ていますが、長引くものではないと思っています。

(問)先程、確定していないことは盛り込めないという話がありましたが、貿易摩擦の影響は、今回、展望レポートで示された来年度以降の経済の見通しには、まだ盛り込めていないと考えてよろしいでしょうか。また、今後、それが日本経済のメインシナリオに影響を与えてくるとしたら、どういう形で与えてくると懸念されていらっしゃるのかお願いします。

(答)見通しにおいて、それぞれの政策委員の方々が色々なファクターを織り込んでいると思いますが、政府の政策などは、決まっているものは織り込みますが、決まっていないものは普通織り込みません。例えば、消費税率については、来年10月に引き上げること、幼児教育その他について歳出すること、食料品は軽減税率適用になることなどは、それぞれ織り込んでいると思いますが、他方で、政府が最近検討している、駆け込みと反動のショックを均すための色々な措置、税制上の措置その他については、まだ政府が内容を確定していませんので、その部分は織り込めないと思います。それ以外のことは、自主的な判断で織り込んでいるので、貿易摩擦についても、一定の判断で、それぞれの見通しの中に織り込まれていると思います。

(問)国債市場の機能度について先程言及がありましたが、一頃よりは改善されていると。今日の5時にも発表される国債買入れ指針というのは、金融市場局マターではあるのですが、ただ市場の注目も大きいので、総裁のお考えとして、機能度は改善しているけれども、市場局のできる範囲で積極的に手段を使って更に改善する必要があるとお考えなのか、その点をお願いします。

(答)5時に発表することについて、予断を持つようなことを申し上げるのは適切でないと思います。ただ、7月の決定会合でお示ししたように、資産買入れについて弾力的に対応していくということはその通りです。国債市場の機能度も色々な指標で測られますし、専門家のアンケート調査等もあるわけですが、いずれも若干改善しているようにみえます。引き続き注視して、必要な対応はしていくことになると思いますが、今後どういったことが議論になって、どうなっていくかということについては、何とも申し上げられません。

(問)先程も出た、金融システムについて先行きの動向には注視していく必要がある、という新しく盛り込まれた文言について、これを受けて市場の一部には、やはり日銀は政策の調整の必要性を、もちろん足許ではないけれども、この1年、2年とかのタームでみると考え始めているのはないかという見方もあるのですが、その点について如何でしょうか。

(答)どういった調整について言っているのかにもよりますが、今、10年物国債金利のゼロ%程度というのを変えるつもりは全くありません。変動幅についても、拡大するのではないか、など色々な議論があるようですが、そういったことも今考えておりません。状況によっては、色々なことを考えていかなければならないとは思いますが、今の時点で、半年後でも1年後でも2年後でも、特定の市場機能対策のようなものを考えて、そちらの方にいくとか、そういったことではないと思います。金融政策である限りは、あくまでも2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するという目的に向けて、必要かつ十分な対応策をとっていくということです。ただ、その際に金融システムが十分機能しないような問題が起こると、せっかくの金融緩和が実体経済に十分伝わっていかないということにもなりかねませんので、そういうことのないように配慮していくということです。あくまでも金融政策は、「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成するということに向けて行われるということだと思います。

(問)前半の質問のところで、グローバルマーケットの動揺に対して、経済のファンダメンタルズ、企業収益は基本的には良好であるというご認識をお話しされました。特にファンダメンタルズ、企業収益に関して、今、企業の中間決算発表がたけなわというところですが、思いの外に下方修正が多いという感想を漏らす方が多いように思います。背景をみると企業によって様々ですけれども、人件費が上がっている、あるいは物流費など色々な面でコストが上がっていて、なかなかそれを思ったようにコストに転嫁できていない。マーケットの波乱の背景というのは難しいですが、心理的な振れに過ぎないものなのか、あるいはファンダメンタルズに少し変化が出てきているのではないか、この辺りで疑心暗鬼になっていると思います。企業収益の観点も含めて、どのようにお考えか見解をお聞かせください。

(答)日本についてみれば、企業収益や雇用情勢、生産、投資・消費その他の需要項目もしっかりしており、経済のファンダメンタルズがここにきて影響を受けているとは思っていません。ただ、先程も申し上げたように、米国の長期金利が上がって米国の株価がかなり下落したことで、ややリスクセンチメントが強まったことが世界の株式市場に一定の影響を与え、それがある程度収まったようにみえた後に、今度は米中貿易摩擦の問題に焦点が当たってきて、それがまた米国の株価を引き下げ、またリスクセンチメントを強めて、影響したということだと思います。ただ、米国の実体経済自体は極めて強く、米国の一部のハイテク企業等で予想ほど利益が伸びていないところがあったとか、そういうものが多少ありましたけれども、非常に強いということには変わりないと思います。なお、日本については、企業収益や企業の生産・投資などは非常にしっかりしていると思います。

以上