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総裁記者会見要旨 2018年7月31日(火)
午後3時半から約60分

2018年8月1日
日本銀行

(問)昨日と今日の決定会合で「量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置の導入を決められたと思いますが、その理由と狙いを総裁からご説明頂けますでしょうか。

(答)本日の決定会合では、わが国において物価上昇に時間を要している背景や、今後、物価上昇率が高まるメカニズムを重点的に点検したうえで、先行きの経済・物価見通しを展望レポートとして取りまとめました。また、これを踏まえ、強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワードガイダンスを導入することにより、「物価安定の目標」の実現に対するコミットメントを強めるとともに、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置を決定しました。

具体的に申し上げますと、まず、フォワードガイダンスについては、「2019年10月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している」ことを示すこととしました。

次に、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性を強化する措置について説明します。長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」に関しては、短期金利・長期金利とも、基本的に、これまでの水準から変更ありません。すなわち、短期金利については、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する方針を維持することを決定しました。長期金利についても、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う方針を維持しました。その際、長期金利については、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得ることを示すとともに、買入れ額については、国債保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施するとの方針を決定しました。なお、長期金利の変動幅については、「イールドカーブ・コントロール」導入後の金利変動幅、概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置いています。もっとも、金利が急速に上昇する場合には、迅速かつ適切に国債買入れを実施する方針であり、金利水準が切り上がっていくことを想定しているものではありません。また、ETFおよびJ-REITの買入れについては、これまでの年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動し得るものとする、との方針を決定しました。

このほか、政策金利残高を現在の水準から見直すこと、ETFについて、TOPIXに連動するETFの買入れ額を拡大することを、合わせて決定しました。

続いて、今回の政策決定の背景となった経済・物価見通し等について、展望レポートに沿って説明します。

わが国の景気については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。先行きについては、2018年度は海外経済が着実な成長を続けるもとで、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、潜在成長率を上回る成長を続けるとみられます。2019年度から2020年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需にも支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれます。

一方、消費者物価の前年比は、プラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると、弱めの動きが続いています。これに伴って、中長期的な予想物価上昇率の高まりも後ずれしています。この背景には、長期にわたる低成長やデフレの経験などから、賃金・物価が上がり難いことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることなどがあります。こうしたもとで、企業の慎重な賃金・価格設定スタンスや家計の値上げに対する慎重な見方が明確に転換するには至っておらず、分野によっては競争激化による価格押し下げ圧力が強いと考えています。企業の生産性向上余地の大きさや近年の技術進歩などが、それらに影響している面もあります。

もっとも、日本銀行としては、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみています。この結果、消費者物価の前年比は、これまでの想定よりは時間が掛かるものの、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。なお、片岡委員は、消費者物価の前年比について、先行き2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、展望レポートに反対されました。

以上の認識のもと、日本銀行は、冒頭申し上げた各種の決定をしたところです。こうした対応は、経済や金融情勢の安定を確保しつつ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することにつながると考えています。

日本銀行は、引き続き、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。更に、本日決定したように、政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

(問)展望レポートで示された物価上昇率の見通しは、2020年度にかけて徐々に上昇していくとのことですが、2020年度でも、政策委員の中央値ですが、1.6%にとどまっています。総裁は前回展望レポートを発表された4月の記者会見で、2019年度頃に2%程度に高まっていくのではないかというお考えを示されましたが、現時点で、2%はいつ頃達成するとお考えでしょうか。

もう1つ物価に関連してですが、物価上昇率の見通しを引き下げたのですから、本来であれば、追加の金融緩和を検討してもよいのではないかと思います。追加の金融緩和をしなかった理由と、どのような状況になれば追加金融緩和を行うお考えか、その2点をお伺いします。

(答)本日の展望レポートで示しましたように、わが国の物価は、経済・雇用情勢の改善に比べて弱めの動きが続いており、中長期的な予想物価上昇率の高まりも後ずれしていることから、前回の展望レポートの政策委員の見通しと若干異なり、今回、政策委員見通しの中央値では、消費者物価の前年比が見通し期間終期の2020年度でも、1%台半ば、1.6%となっています。

もっとも、先行き、景気の拡大基調が続く中で、これまでの物価の上昇を遅らせてきた要因の多くは次第に解消していき、実際の価格引上げの動きが進むとともに、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まっていくとみています。従いまして、これまでの想定よりも時間が掛かって見通し期間を超えることにはなりますが、消費者物価の前年比は、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくことが展望できると考えています。

第2点については、賃金・物価が上がり難いことを前提とした考え方や慣行が根強く残るもとでは、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を長く続けて2%に向けたモメンタムを維持することが、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期かつ確実に実現することにつながるのではないかと考えています。この点、現状2%に向けたモメンタムはしっかりと維持されているとみています。まず、その需給ギャップがプラスの状態が続いているもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化するとみられているほか、中長期的な予想物価上昇率も実際の価格引上げの動きが拡がるにつれて、徐々に高まると考えています。こうしたもとで、消費者物価の前年比は、想定よりは時間が掛かるものの、先程申し上げたように、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。

また、現在の「イールドカーブ・コントロール」の枠組みには、名目金利が一定でも、予想物価上昇率が高まれば、実質金利が低下して企業や家計の需要を刺激する効果が強まるというメカニズムも内在しています。従って、現時点では、追加緩和は必要ないと考えています。

(問)今回導入された枠組みについて、いくつか確認させてください。まず、1つ目のフォワードガイダンスですが、当分の間、現在の極めて低い長短金利水準を維持するということは、いわゆる短期金利を-0.1%、長期金利をゼロ%程度という金利水準を、2019年10月に予定されている消費税の影響を見極められるまで続けるという意味でしょうか。

もう1つ、先程、金利が上下に変動することについて、倍程度というお言葉がありましたが、これは要するに、-0.2%から+0.2%までの変動で推移するように操作するということでよろしいでしょうか。

(答)まず、フォワードガイダンスについては、2019年10月の消費税率引上げに伴う影響や、その他の経済・物価の不確実性を考慮して、当分の間、現在の非常に低い長短金利を維持することを決めたわけです。この点は、まさにフォワードガイダンスとして示している通りで、「当分の間」とは、英訳で「for an extended period of time」という言い方をしています。これは外国の中央銀行などがよく使う言い方ですが、当分の間というのはそういった感じであり、様々な不確実性を考慮して、現在の極めて低い長短金利を維持していくということです。

2番目の、長短金利の幅が上下に変動し得ることについては、国債市場の機能度を高めるためにある程度の変動を容認するということであり、従来±0.1%くらいの狭い幅で動いていましたが、その倍くらいの幅を念頭に置いて考えていくということです。ただ、先程も申し上げていますように、金利水準の上昇や引上げを意図しているわけではありませんので、金利が急上昇したような場合には、迅速にオペなどで対応していくということです。金利水準を引き上げようという意図は全くありません。

(問)先程、物価2%の達成時期についての質問があり、徐々に2%には向かっていくということでしたが、具体的な達成時期は分からないということでしょうか。

(答)あくまでも政策委員の見通しの中央値でお示ししているところですが、2019年度で1.5%、2020年度で1.6%ですので、従来、政策委員の中央値が示していた2019年度頃に2%になるという見通しが後ずれしているのは事実です。具体的にいつ2%になるかということは、前回以降、他の中央銀行と同様に具体的なカレンダーを示すことはしていませんが、この展望レポートの記述と政策委員の見通しの中央値で推し測って頂けると思います。

(問)今回政策を修正した理由について伺います。当初は2年で実現するという考えのもと、短期決戦で異次元緩和を始めたわけですが、ここまで物価2%の実現が見通せないとなると、前提が変わってしまって、今までのやり方では間違っていたということなのでしょうか。また、今回の措置により持続性を強化したということですが、具体的にどの部分で持続性が増したのでしょうか。

(答)間違っていたとは全く思っていません。2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した頃には、物価上昇率は-0.5%くらいでしたが、1年程度で1.5%程度まで、消費税率引上げの影響を除いても上昇しました。その意味で、かなり物価上昇率が調整されていったことは事実です。ただ、その時、賃金の調整がかなり遅れて、その結果として消費がやや低迷し、更に大きいのは2014年夏頃から原油価格が大幅に下落し、1年半程度で110ドルから30ドルを割るくらいまで下がっていく中で、物価上昇率がどんどん下がっていきました。それが更に予想物価上昇率にも影響したわけです。ただ、この2、3年の状況をみますと、賃金とともに物価も上がるという形できていますので、需給ギャップがプラスの状況を続けていけば、必ずや賃金・物価が上昇し、物価上昇率は2%に向けて徐々に上昇していくと思います。その過程で、予想物価上昇率も上昇していくとみています。そうした経済・物価の状況に合わせて政策を調整してきたわけです。毎回の公表文でも申し上げているように、常に経済・物価・金融情勢に応じて調整するということです。

持続性については、最初に申し上げた通り、色々な要素があります。長期金利についてはゼロ%程度を操作目標にしていますが、実際の変動幅が±0.1%と非常に狭い範囲で動いているため、時々国債の取引が成立しないなど、国債市場の機能がやや低下しているということがあります。そこで、±0.1%の倍くらいを念頭に置いて、少し変動幅を大きくすることで市場の取引も機能も改善し、それによって現在の大幅な金融緩和を粘り強く続けられる、より持続性が増すと考えています。

また、ETFについても、元々約6兆円ということで、リスク・プレミアムに働きかけるということでやっていますが、そうした観点からすれば、必要に応じて6兆円を上回ったり下回ったりすることはあり得るわけです。そうしたことは、ETFの買入れ自体をより効果的にできるという意味でも効果があると思います。それから、買入れの中身について、よりマーケットを広くカバーしているTOPIXの買入れを拡げました。カバレッジの狭いところで買っていますと、いくつかの株について浮動株が薄くなってしまうことも起こりかねませんので、より持続性の高い形で買い入れることで、全体として「量的・質的金融緩和」の枠組みの持続性をより高くし、強化したということです。

(問)なぜこのタイミングで政策変更することになったのでしょうか。

(答)実体経済が極めて順調に拡大している中で、足許の物価上昇率が──一時的な要因もあったとは思いますが──弱まって、2%の達成時期が後ずれする状況でしたので、賃金・物価の上昇、特に物価の上昇がやや弱めであった理由やメカニズムを詳しく展望レポートで解明するとともに、賃金・物価が今後上昇していくメカニズムを分析しました。いずれにせよ、これまで考えられていたよりも、現在の金融緩和を長く続ける必要があるということです。単に長く続けます、というだけでは、金融政策に対する信認を十分確保する観点からは不十分な可能性がありますので、金利に関するフォワードガイダンスの導入と、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の持続性をはっきりと強めるような措置を導入したということです。

(問)日銀、そして黒田総裁は、これまでも市場との対話を重視してこられましたが、今回市場に一番伝えたいメッセージは何でしょうか。例えば、金融緩和の継続性を強調したかったということでしょうか。本日、日経平均の終値も小幅な上昇になりましたし、為替もそこまでの動きではなかったので、市場との対話は、今回は上手くいったとみていらっしゃいますでしょうか。

(答)市場との対話が上手くいったかどうかを私から申し上げるのは適切でないと思いますが、今回の公表文にも示している通り、2%に達する時期が後ずれしている状況のもとで、強力な金融緩和を継続するための枠組みを強化することを決定したことを、市場を含めた関係者にコミュニケートする必要があると思います。今回、展望レポートの基本的な考え方と同時に、賃金・物価の上昇が遅れてきたメカニズムの詳細な分析も公表しており、まさにこのようになった状況と、これから物価が上昇していくメカニズムを明らかにし、枠組みを強化したということをコミュニケートすることが一番重要な点だと思っています。

(問)フォワードガイダンスについてお伺いしたいのですが、今回極めて低い金利水準を維持する、というのは、少なくとも2019年10月までは維持するという理解でよいでしょうか。

(答)まさに公表文にあるように、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持するということが一番重要な点です。2019年10月の消費税率引上げは、不確実性の一つの要素として挙げているわけですが、一番重要な点は、経済・物価の不確実性を踏まえて、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持するということにコミットしたことだと考えています。

(問)今回、フォワードガイダンスと長短金利操作の手法を変えるわけですが、将来的に2%の物価上昇に向かってどのように寄与していくのか、波及経路をもう少し具体的に教えて頂けますでしょうか。

(答)フォワードガイダンスは、欧米の中央銀行でも使われていましたが、日本銀行としては、金利に関するフォワードガイダンスは初めて導入します。極めて大幅な金融緩和を、従来考えられていたよりももう少し長く続けるということを示し、それに対する信認を確保する観点から導入しました。これにより、早期に出口に向かうのではないかとか、金利が引き上げられるのではないか、という一部にあったマーケットの観測を完全に否定できると思いますし、何よりも、経済・物価の不確実性を踏まえて、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持するということは、思い切ったとは自分では言いませんが、かなりしっかりしたフォワードガイダンスだと思います。

(問)フォワードガイダンスについてお伺いします。初めて導入されたということですが、「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」というのは、これまで言ってきたことと、実はあまり変わっていないのではないかという気がします。総裁として、具体的にどのような状況になれば長短金利を引き上げていくことになるのかということについて、お考えをお聞かせください。

(答)従来から申し上げている点は、今回の公表文の最後のところに出ていますように、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続させるために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するということです。それとともに、消費者物価の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するということを申し上げているわけです。ただ、長短金利の水準については、具体的なことは申し上げていませんでした。ここではっきりと、極めて低い長短金利を当分の間維持するとしたことは、今の2つの点に加えて、明確な金融緩和持続、2%の「物価安定の目標」の目標に向けて金融緩和を持続していくことに対する信認を確保するため、コミットメントを強めたということだと考えています。

(問)今回のフォワードガイダンスによって、今回のような長期金利目標の柔軟化といったことも、当分行わないという理解でよろしいでしょうか。

(答)フォワードガイダンスは、現在の極めて低い長短金利の水準を維持するということを明確に約束しています。長短金利操作については、ゼロ%程度で長期金利が推移するように長期国債の買入れを行うということは全く変わっていません。その中で、ゼロ%程度というときに、これまで実際の金利の動きが±0.1%と非常に狭い幅であったことから、国債の取引がかなり減り、売買が成立しないことが何度もあったことを踏まえ、±0.1%の倍くらいを念頭に置いて、若干その変動幅を拡大することが国債市場の機能を改善するうえで望ましいと思い、今回このように変えたわけです。ゼロ%程度という10年物国債金利の操作目標を変えたものでは全くありません。

(問)今回の枠組み強化ですが、現在の超低金利政策が長期化した場合には、副作用についても累積的に積み上がっていくとの問題意識はお持ちだと思います。この点については、今回、金融緩和がより長期化することにあたってどの程度議論されたのでしょうか。また今回の対応は、そうした副作用対策という観点は込められているのでしょうか。

(答)金融仲介機能について、現時点で、全体として大きな問題があるとはもちろん考えていません。これは累次の金融システムレポートでも示されている通りです。ただ、ご指摘のように、低金利環境が長期化するもとで、将来、金融仲介が停滞方向に向かうリスクはあり得ると考えています。特に、国債市場の市場機能については、かなり低いというサーベイ結果もありますし、長期金利の変動幅が非常に縮小して、取引高が減少傾向にあることも指摘されています。今回、若干ですが変動し得るとしたことは、金利形成の柔軟性を高めることを通じて、こうした市場機能への影響を軽減することに資するのではないかと考えています。

(問)市場機能の回復を、ということで、±0.2%程度の変動ということだと思いますが、これを今回、±0.2%程度とお考えになられた理由は何でしょうか。また今後、場合によってはこの幅が市場機能を更に活性化させるためには拡がることもあり得るというお考えでしょうか。

(答)将来のことを色々先取りして申し上げるのは適切ではないと思いますが、その幅をどんどん拡げていく必要が今あるとは考えていません。より長い期間をとってみても、そんなに大きく変動しているわけではないのですが、今のシステムを入れた後でも±0.1%くらいの幅になっていますので、それは少し狭いかということで、国債市場の機能を改善するために、必要な措置かと思います。ただし、これは、金融政策について修正したとか、あるいは、金利の引上げを意図しているものでは全くありません。あくまでも、副作用の一つとして、今の時点で物凄く大変なことになっているとも思わないのですが、少なくとも国債市場については、やや取引が縮小していることが機能を若干低下させているとみられますので、少し変動の余地を与えることによって、取引もより活発化していくだろうということです。

(問)今後の日本経済の不確実性を取り巻く要素は色々考えられる中で、あえて2019年10月の消費増税を挙げられたのはどうしてなのでしょうか。穿った見方をすれば、日銀がここまでやっているのだから、政府もちゃんとやってくれ、というようにもみえるのですが、この点についてお聞かせください。

(答)そのような深読みをしているわけでも何でもないのですが、色々なリスクについては、展望レポートの中でもかなり詳しく述べています。リスクのかなりの部分は海外の話で、これはどうなるか全く分からない点です。消費税については、2019年10月に税率が引き上げられる際に、軽減税率を導入して食料品は増税しないとか、税収の一部を使って教育無償化などに充てるといわれています。一つのイベントであることは事実なのですが、政府も色々な対応をしておられまして、前回や前々回のようなことはないと思います。ただ、経済・物価に対する不確実性の一つの要因であることは事実ですので、よく見極めてやっていくのは当然のことだと思います。その他にも経済・物価の不確実性はまだあり得るわけでして、そういうものを十分考えつつ、当分の間、現在の極めて低い長短金利を維持するということにしました。

(問)今回、3つほどの柔軟化によって、いわば日銀の日々のオペレーションでの裁量が拡がるかと思います。例えば、長期金利でいえば総裁が先程おっしゃった±0.1%の倍程度ということになると、絶対値にして合計0.4%くらいになって、これは通常の金融政策決定会合で決めるような利上げ幅、ワンノッチを超える裁量が金融市場局に与えられます。こういったことで不透明性が高まるといったデメリットはお感じになられないでしょうか。

(答)そのようには全くみていません。これまでも、実はゼロ%程度といっても、程度の見方次第ですが、四捨五入でいえば±0.4%と考えている人もいたかもしれません。結果的には変動幅は非常に小さく、国債市場の機能がやや低下してきており、それを改善することは、長期的な金融緩和をしっかり継続するためにも必要だ、ということでやったわけです。不透明感という点では、むしろ減っていると思っています。

(問)今回を含めて最近の動き、無理して物価を上げるのはなかなか難しいから、長期戦でやっていこう、柔軟にやっていこう、今回も長期金利を上げる方向もあるし、ETFを買うのを下げる方向もある、非常に柔軟な方向ということなのですが、伺っていると、かつて最初に2013年4月にやった時とだいぶ変わってきて、白川前総裁の時代に、こういう柔軟というかじっくりやっていく、それが手ぬるいと言われていたわけですが、そこへ回帰しているかのように外からみると感じてしまうのですが、その辺り総裁はどのようにみていらっしゃいますか。

(答)私も、おそらく政策委員の皆さんもそうだと思うのですが、そういう考えは全く持っていません。あくまでも、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、2013年4月以来やってきていまして、その時々の経済・物価・金融情勢に応じて、最適な金融緩和策を採ってきているということです。足許で一時的な要因もあるかもしれませんが、実体経済の強さあるいは労働需給の引き締まり方に比べて、賃金や物価の上昇がやや弱めになったこともあって、2%の実現時期がやや後ずれする中で、最適な金融政策の枠組みの強化を考えました。以前に回帰しているとか、以前と同じという考え方は、誰も持っていないと思います。

(問)本日も少し修正のありました、ETFに関する政策について、改めてお聞きしたいと思います。かねてから、金融政策の中でETFを購入していることに関しては、リスク・プレミアムに働きかける、という言葉を使っていらっしゃいます。どんなところでその効果を判断されているのでしょうか。ちなみにETFを最初に購入した2010年11月、日経平均ベースのPERは16倍程度でした。これを逆算して益回りを出して国債のリスクフリーレートを引くと、おそらくリスク・プレミアム、一つの試算としてはその当時5%くらいだったかと思います。今現在PERは13倍程度、金利を差し引くとリスク・プレミアムは多分7%台半ば。始めた時と今とを比べると上がっている、あるいは、もうちょっと単純にいってPERは、最近は下がり気味ですが、リスク・プレミアムに働きかけるという効果は、どこで検証できるのでしょうか。

それからもうちょっと踏み込みますと、国債と違うETFならではの難しさがあるような気がします。ある市場関係者に言わせると、この買った ETFはどこかで売却されるのだろう、そのどこかで売却されるリスクを感じているために、投資家がなかなか日本市場を買えなくなってしまう。つまり、残念ながら結果的に、現時点ではETFを買っていること自体がPERを低めているのではないかと。償還がないものの難しさというのがあるのですが、こういった見方についてどのようにお考えになりますか。

(答)リスク・プレミアムについては、ご指摘のような指標だけでなく、様々な指標をみて議論をしています。ETFの買入れを倍増した時は、色々な指標でリスク・プレミアムが高まっていました。その後、リスク・プレミアムは全体としてやや落ち着いてはいますが、いずれにせよ、市場の動向ですので、約6兆円というのは上下に幅があるということです。必要があれば6兆円を超えて買い入れますし、そうでなければ6兆円を下回ることもあり得るという従来からの基本的な考え方を、より明確にしたというだけです。

2番目の点は、将来を無限に考える人はそういったことを言われるかもしれませんが、普通の投資家は、無限の先まで考えてやっているわけではありません。ご指摘のようなことをおっしゃる方はいるかもしれませんが、あまり具体的な意味があるとは私どもは思いません。もちろん、ETFは償還期がありませんので、いつまでも持っていて構わないものではあるのですが、いずれにせよ、無限の将来まで考えて投資をしているという方はあまりおられないのではないかと思います。

(問)2点お伺いします。1点目は、今回の長期金利に関する政策変更ですが、総裁は、以前、金融機関のために金融政策をやっているわけではないという発言もありましたが、今回の措置によって金融機関に対する経営の影響はどのように考えられていますか。

もう1点は、今回、様々な政策で、柔軟に、とか、弾力的というキーワードが思い浮かびますが、長期国債の買入れ額について、既に現在、ここに書いてある80兆円という数字と実態の数字が大きく離れているわけですが、この弾力的な買入れの弾力がどのくらい弾力的なのか、プラス・マイナスでいえば、±40兆円とか、そのくらい弾力的なことを考えているのか、その辺りを教えてください。

(答)前段については、金融機関の収益を改善するために金融政策を行うことは考えておりませんし、今回の措置も、あくまでも長短金利については申し上げた通りであり、特に長期金利については、国債市場の機能をより十全なものにするために、若干ですが変動幅を拡大するというだけです。拡大というのも、従来、ここまでマーケットの変動幅が小さくなったのを、もう少し変動しても差し支えないというようにするだけで、その意味でやっています。ただ、全体として、大幅な金融緩和を従来考えられていたよりも長期に続けること、それにより2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを目指しています。その意味では、将来のことですが、2%が実現されて正常化していく過程では、当然、金利のスプレッドなども変化し、金融機関の収益にもプラスになるとは思いますが、金融機関の収益を増やすために金融政策をどうこうすることは考えていません。ただ、金融仲介機能に大きなマイナスが生ずることのないよう留意していくということは前から申し上げており、現時点ではそうした状況になってはいませんが、金融機関の動向については今後とも十分注視していきたいと思っています。

また、80兆円の話については、「イールドカーブ・コントロール」を入れた時に申し上げた通り、金融調整の目標が量から金利に変わっていますので、国債の買入れ量自体は、ゼロ%程度という長期国債の操作目標の実現に十分なだけ買うということで、80兆円は既に一つのめどになっています。それをどこまで減らしてよいかとか、あるいは増やす必要があるかということは、あくまで80兆円はめどですので、何か特別な意味があるとはあまり考えておりません。あくまでも、10年物長期国債の金利の操作目標「ゼロ%程度」を実現するために、必要なだけ買い入れるということです。

(問)今回、追加緩和ではなくて政策運営を弾力化させて、あえて長期戦を容認するということにしたわけですけれども、これ以上金融緩和を強化しても物価上昇を加速させることができないと日銀が認めた点で、今回の措置は金融政策のある種限界論みたいなものを示したことにはならないでしょうか。

(答)そういう哲学的な考えは持っておりません。今回の公表文にありますように、今後とも様々なリスクを点検したうえで、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う、ということですので、必要があれば追加緩和もあり得るということです。その点は全く変わりありません。そのうえで、今回の展望レポートで示されたように、2%の到達時期が若干後ずれしているわけですが、モメンタムはしっかりと維持されており、そうしたもとで現在のようにマクロ的な需給ギャップがプラスという状況をできるだけしっかりと続けていくということが、2%の「物価安定の目標」に近付けるための最も適切な方策であるという結論に達したということです。先程来申し上げているような、長短金利について、政策金利は-0.1%、長期金利はゼロ%程度という従来の政策を維持しつつ、一方でフォワードガイダンスを新たに導入するとともに、今申し上げた「イールドカーブ・コントロール」の持続性を高めるような措置を採ったということであり、追加緩和限界論に与したということは、全くありません。

(問)今回、フォワードガイダンスを導入されるにあたって、不確実性という表現を使っておられますが、将来の不確実性もさることながら、足許の不確実性というのは、方向として高まるような状況にあるのかどうかのご認識をお伺いしたいと思います。なぜ、そうお伺いするのかといいますと、海外情勢に不確実な要素があり、保護貿易主義的な動きについては展望レポートの中にもご指摘されていると思います。もし、そうだとしますと、今回のような金融政策の枠組み変更を、不確実性が更に高まってしまった時に実施すると、却ってマーケットに織り込みづらくなるというようなご認識を現時点でお持ちだったのかどうかをお伺いします。

(答)不確実性については、今回の展望レポートでもかなり詳しく分析していますが、殆どの不確実性が海外のものという状況ですので、私どもが何かできるという話でもありませんし、あくまでも、その与えられた不確実性が具体的に顕在化するなり、色々な形で現れてきた時に、適切に対応するということになると思います。それに対して、ここで申し上げているのは、あくまでも日本経済に内在する話です。色々な不確実性があるわけでして、ある意味で一番大きい予想物価上昇率がどのように展開していくかということ――理論的にも実証的にもなかなか難しい問題ではあるのですが――も含めて、経済・物価の内在的な不確実性を考えていかなくてはなりませんが、当面、日本経済に内在する不確実性の例として、2019年10月の消費税率引上げの影響を例示的に示すことによって、どういった不確実性を考えているかを示しているわけです。いずれにしましても、一番重要な点は、経済・物価の不確実性を踏まえて、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することにコミットした、ということに尽きると思います。

(問)今回の対応で政策の持続性が本当に十分に高まったかという点ですが、緩和効果とのバランスで、結局、国債市場とか対症的な微修正に終わったと私は受け取っているのですが、展望レポートをみる限り、少なくとも2%は2021年度以降。では本当にその間続けることができるのか、更なるモデルチェンジ、対応というのは必要になってくるのでしょうか。その辺りのお考えをお願いします。

(答)その点は、私どもは十分な持続性があると考えております。特に、国債市場の機能の問題への対応と、カバレッジの広いETFの買入れを増やすことによって、十分持続性を高められると思っていますので、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が持続できない、あるいはある時突然持続できなくなるということは全くありません。むしろ、先程から申し上げているように、従来考えられていたよりもより時間が掛かるということなので、この強力な金融緩和をより長く持続できるようにいくつかの手当てをしたということであり、大幅な金融緩和自体は十分続けられると思っています。

以上