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【挨拶】次なるステップに向けて「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会(第5回)」における開会挨拶

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日本銀行理事 内田 眞一
2023年2月17日

本日は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する連絡協議会にご参加頂き、誠にありがとうございます。

日本銀行では、2020年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表したあと、この方針に沿って、実証実験の最初のステップ、すなわち、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証するための概念実証(Proof of Concept)を進めてまいりました。

概念実証のうち、2021年4月に開始した「フェーズ1」では、CBDCシステムの基盤となる「CBDC台帳」を中心に実験環境を構築し、CBDCの決済手段としての基本的な取引、すなわち、CBDCの発行や払出、移転といった一連の取引において、多頻度小口決済に求められる高い処理性能を実現できることを確認しました。

2022年4月に開始した「フェーズ2」では、フェーズ1で確認したCBDCの「基本機能」に、より複雑な「周辺機能」を付加したうえで、その技術的な実現可能性や処理性能等を検証してきました。実施期間は本年3月までですが、例えば、一人のユーザーが複数の口座を保有しているもとで当該ユーザーの保有額・取引額および取引回数が上限に抵触しないかを判定する機能など、実装の難度が高い周辺機能においても、CBDCシステムの処理性能を維持できることを確認しました。

この間、本協議会においては、概念実証の内容や進捗状況等について情報共有を図るとともに、デジタル社会にふさわしい決済システムのあり方を含め、幅広い観点からの議論を行ってまいりました。

こうした概念実証の結果や、皆様方との議論を踏まえ、日本銀行は、次なるステップとして、本年4月よりパイロット実験を実施することとしました。

パイロット実験の目的は、第1に、現在行っている概念実証では検証しきれない技術的な実現可能性を検証すること、第2に、技術・運用の両面にわたって、民間事業者の技術や知見を活用させて頂きながら、社会的に実装することになった場合の設計に活かしていくことです。

まず、1点目については、CBDCシステムでは、中央銀行からユーザーまでを、仲介機関や仲介機関ネットワークなどのシステムを通じて接続する必要があります。これまでの概念実証の構築対象は基本的に中央システムだけでしたが、パイロット実験では、中央システムから、仲介機関ネットワーク、仲介機関システム、エンドポイントデバイスまでを一体的に実装するものとして実験用システムを構築し、エンドツーエンドでの処理フローの確認や、外部システムとの接続に向けた課題や対応策の整理を行っていく予定です。

次に、2点目については、外部システムとの接続に向けた課題や対応策のほか、代替的なデータモデルやオフライン決済の仕組み、追加サービスを提供するうえでのCBDCシステムのあり方、ユーザーとの接点において必要となり得る課題や技術・機能などについて、民間事業者の皆様とともに検討を行い、より良い設計につなげていきたいと考えています。そのために、「CBDCフォーラム」を設置し、リテール決済やそれに関わる技術に携わっておられる民間事業者の中から参加者を募集します。1点目と2点目は、密接不可分のものとして運営し、両者の検討成果は、それぞれの作業にフィードバックすることを想定しています。

パイロット実験の進め方については、目的を絞り込んだ実験から始め、段階的、計画的に拡張していくことを考えており、現時点で店舗や消費者が関与する実取引を行うことは想定していません。いずれにせよ、パイロット実験に関する内容や進捗状況などについては、透明性の高い形で情報発信を行っていきます。

こうした段階的な枠組みによる検討と透明性の高い民間部門との対話は、将来CBDCを発行する場合、それが社会において受け入れられるために必要なプロセスです。他の先進国においても同様のアプローチが試みられています。決済手段は、誰かがうまい仕組みを設計して、リリースすれば普及するというものではありません。現在、現金の流通にいかに多くの方々が関わっているかを考えれば容易に想像がつくように、CBDCが広く使われるためには、ユーザーまでの各ステークホルダーにおいて、様々な仕組みの変更と準備が必要です。そのことは、金融機関や企業のビジネス、そしてユーザーの生活に影響を与えますので、みんなが納得するような制度設計を行い、それに合わせて準備していくプロセスが必要だということです。これから始まるパイロット実験は、その第一歩です。

皆様とともに進めてきたCBDCと決済システムの将来像を巡る議論も、新しい段階に入ります。決済の主要な担い手である皆様の経験と知見を拝借しながら、社会とユーザーに受け入れられるCBDCを設計していきたいと思っております。どうかよろしく、お付き合い下さい。

ご清聴ありがとうございました。