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「日銀探訪」第4回:業務局営業業務課長 河村賢士

「最も銀行らしい仕事」手掛ける部署=業務局営業業務課(1)〔日銀探訪〕(2012年9月26日掲載)

業務局営業業務課長の写真

日銀新館の北門を入りしばらく進むと、右手の扉の向こう側に銀行のカウンターが見えてくる。日銀が銀行であることを実感させる光景だが、この部署が今回取り上げる業務局営業業務課だ。国内の金融機関を相手に、日銀当座預金の受け払いや貸し付けを行ったり、金融機関間の資金決済に関する事務を実施したりするほか、海外の中央銀行や国際金融機関との円資金取引も手掛ける。日銀の金融政策は、貸し付けなどの銀行実務を通じて実行されるため、同課は政策の実行部隊としての顔も持つ。河村賢士課長は「中央銀行の銀行実務の第一線。日銀の中で最も銀行らしい仕事をしている部署だ」と話す。

日銀の金融政策が多様化する中、同課が取り組むべき課題も増えてきている。事務によっては、オンライン化による一貫処理が実現しているものも多いが、臨時に導入された政策に対応する場合や、そもそもシステム化が難しい事務については、手作業で取り組むときも少なからずあるという。

河村課長は「政策と業務は車の両輪」と指摘。日銀の職員、特に若手は、金融理論だけでなく、実務もセットで学ぶ必要があると強調する。同課の「探訪」は3日間にわたって配信する。

「営業業務課は業務局の中の五つの課の一つで、営業業務、株式業務、海外業務の3グループがあり、職員は総勢で49人。仕事の内容は、一言で言うと、中央銀行の銀行実務の第一線だ。日銀の中で最も銀行らしい仕事をしている部署と言ってもいいかもしれない。民間の銀行で3大基本業務と言われるのは預金、貸し付け、為替だが、これらすべてを当課は行っている。日銀の金融政策は銀行実務を通じて実施されるので、資金決済システムの最前線にいる営業業務課は、政策の実行部隊でもある。やや特殊な業務としては、金融システムの安定確保を目的に実施した株式買い入れに関する事務や、海外主要国の中央銀行や国際金融機関からの円資金の預かり入れ、資金振り替えなどの事務がある。また、海外中銀が円資金で日本国債を購入する際の決済の代行や、買い入れた国債の保管業務も担当している」

「日銀のオペは、オンライン化が進展しているものとそうでないものがある。(日銀に差し入れられた担保を裏付けとして資金を貸し付ける)共通担保オペや国債オペでは、(日銀と金融機関との間の資金や国債の決済に使われる)日銀ネットを通じ、オペ先との間のオンラインによる一貫処理が実現している。これに対して、システム化が難しいものや、臨時に導入される政策手段については、まだまだ手作業の仕事も残っている。具体例を挙げると、『包括的な金融緩和政策』の一環として2010年10月に創設した基金による社債やCPの買い入れは、基本的には手作業で対応している」

「行政機関の政策だと、法律があり、いろいろな制度があり、それに基づいて許認可権を行使したり、財政資金を投入していく形で政策が遂行される。中央銀行の金融政策は、貸し付けとか国債などの金融資産の買い入れといった銀行実務を通じてお金を供給していく結果として、政策効果が世の中に伝わっていく。日銀内では、政策と業務は車の両輪と言っている。理論と実務をセットで理解することで、より金融政策に対する理解が深まると思う。そういう意味で、若い職員が業務局を経験するのは非常にいいことだと考えている」

特融、手形売りオペ、「その日」に備え訓練=業務局営業業務課(2)〔日銀探訪〕(2012年9月27日掲載)

世界的な景気低迷を受けデフレからの脱却が遅々として進まない中、金利引き下げの余地がほぼなくなり、日銀は新たな政策手段を工夫せざるを得ない状況となっている。オペレーションの多様化が図られた結果、政策の実行部隊である業務局営業業務課も従来とは異なった事務を行っている。臨時的措置と見込まれるオペは手作業で対応していくことが多く、現在のような状況下では事務量も増えがちだ。一方、市場から資金を吸収する手形売り出しオペや、信用不安が起きた金融機関に「最後の貸し手」として特別融資を行う日銀特融など、長期にわたって実施されていない政策手段についても、備えを怠るわけにはいかない。事務のオンライン化が進む中、システム障害などの緊急時に困らないよう実務のノウハウを継承していくことも、必須課題となっている。同課の河村賢士課長は「いろいろな事態への対応力を維持していくことがわれわれの責務」として、日ごろからの訓練や、各職員が問題意識を持って勉強していくことが大切と強調する。

「手作業で対応した例としては、包括的な金融緩和政策の一環として創設した基金による社債の買い入れ事務がある。方針が決まったのが2010年10月だが、オペ実施まで、われわれ実務部署における検討準備期間は1~2カ月しかなかった。(日銀と金融機関との間の資金・国債の決済や国債オペの際に使われる)日銀ネットの対象外の事務なので、原点に戻って手作業で対応した。社債買い入れでは、募入決定結果によっては同じ金融機関、同じ銘柄でも、複数の利回り・条件で買い入れることになる。条件ごとに異なる売買代金を計算し、金融機関との間で間違いがないか確認する作業がある。買い入れた社債には利払い・償還があるので、期日管理をしっかり行って利子と償還金を受け取らなければならない。買い入れた社債は日銀の資産となるため、帳簿に記帳するなどの勘定経理も必要となる。代金計算は簡易なパソコンシステムをつくって対応し、利払い日や償還日は期日管理表をつくって管理した。その後、買い入れ銘柄数が増えて残高も伸び、事務が累積的に増加して、最初の簡易なシステムでは対応できなくなった。そこで、もう少し機能を高めたパソコンシステムをつくることにして、今年3月に完成した。そういう工夫を現場部署では重ねている」

「オンライン化が進むと、システムが安定的に運行しているかぎりは、担当者は端末の操作手順をしっかり覚えれば、内容をあまり意識しなくても日常事務は回る。しかし、何か起こったときに備え、システムで処理しているのは実はどういう内容の取引でどのような権利義務を伴うものなのか、手作業で対応する場合の手順やチェックポイントはどのようなものかをきちっと理解しておく必要がある。特に若い人を中心に、そういうところを意識して勉強してもらうようにしないと、気付いたときにはだれも内容が分からない状態になってしまう。手作業時代を知っているベテランからのノウハウ継承が非常に大きな課題だと思う。課内で勉強会を実施したり、Q&Aや事務参考資料を整備したりするなど、ノウハウ継承を組織的にできるようにいろいろ試みている」

「手形売り出しオペは、以前は頻繁に行われていたが、もう3年以上実施されていない。信用秩序維持のためのいわゆる特融なども、近年は例がない。緊急時の対応として、夜間や休日に発券局と一緒に出勤して銀行券を払い出す業務を想定しているが、これは東日本大震災で実際に行うことになった。こういった事態が起こった際には、スピーディーかつ間違いのないように対応しなければならないので、手引類を整備し、定期的に訓練も行って、スタンバイの態勢を取っている。訓練は、大小各種合わせて年に20~30回くらい実施している。いろいろな事態に備えて対応力を維持しておくことが、われわれの責務だと考えている」

ミス撲滅目指し事務の手引80冊作成=業務局営業業務課(3)〔日銀探訪〕(2012年9月28日掲載)

日銀で銀行実務の第一線を担う業務局営業業務課は、「ミスなく正確に事務を遂行する」ことを最も重要な行動指針として掲げている。ただ、仕事が多様化し、量も増えていく中で、職員には短期間で複数の業務に習熟してもらう必要性も出てきている。そこで、業務内容の周知徹底を図るため、規定を基に実務について解説した手引の整備に力を入れている。営業業務グループと海外業務グループを合わせて約80の手引を作成。このほか、事務の項目をタイムスケジュールに沿って並べ、実施済みのものに印を付けていくチェックリストも50近く用意しているという。

万一ミスが実際に起きた場合には、原因分析と再発防止に重点を置いて対応している。河村賢士課長は「ミスを起こした人の責任を追及するよりは、組織として情報を共有していくことが大切だ」と話す。

「営業業務課では、多数の職員がさまざまな種類の事務に従事しているし、人事異動による転出入も少なくない、複数の仕事を並行的に処理しなければならない場合もある。個々の仕事の手順をごく短期間のうちにしっかり理解して覚えてもらうため、手引類は欠かせない。営業業務グループと海外業務グループを合わせて80冊くらい手引がある。また、処理しなければならない事項をタイムスケジュールに沿って並べ、終わった都度、印を入れていくチェックリストがあるが、これも事務のユニットごとに作成していて、全部で50近く用意している」

「営業業務課のモットーは三つ。一つは銀行実務に従事する部署なので、間違いのないように正確に事務を遂行すること。事務のリスク管理にしっかり取り組むことと言い換えてもいいかもしれない。二つ目は、政策などに対する機動的かつ柔軟な対応力。最後は、現場だからといって受け身になるのではなく、むしろ第一線の立場から企画・提案し、しっかりと情報発信していくことだ」

「事務ミス防止のための取り組みとしては、あらゆる処理におけるダブルチェック、トリプルチェックが基本。例えば窓口で受け入れた証券などを保管する際は、必ず2人以上で、目で見るだけでなく金額などを読み上げて確認するようにしている。万一ミスがあった場合には、しっかりと原因分析を行い、再発防止に結び付けていくなど、組織の教訓とすることが大事。それから、管理・監督に当たる者がミスの発生しやすい状況をつくらないように環境整備することも重要だ」

「高い機動力・柔軟な対応力の確保に向けては、グループミーティングのような機会を数多くつくり、しっかり情報共有を進めるようにしている。また、手引・マニュアル類を整備し、1人の担当者がなるべく複数・多数の仕事ができる状態を目指している。個々の課員が今どういう事務を習得しているかをきめ細かく把握しておけば、いざ新しい政策手段が導入されたときに、担当を決めたり、応援を求めたりすることが弾力的にできる。常に組織的対応力を高めておくことが、何か起こったときの機動的な対応力に結びつく」

「提案力強化については、仕事を通じて担当者それぞれの問題意識を高めてもらうようにしていくのが大事。また、実際に業務企画の仕事に当たっている業務局総務課の職員との日々の密接なコミュニケーションも重要だ」

次回は10月中旬をめどに、業務局国庫業務課を取り上げる。

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